石井由美
1.はじめに
この小論は、日本語教育実習の一環として「連想ゲーム」を実施した経験と反省に基づくものである。ゲームの準備から実施まで、どのように進めていけばよいかがまとめてある。教育実習の仕上げとしてなど、「ゲーム感覚の楽しい雰囲気の中で、学生がリラックスできて、しかも学習した日本語の復習になるようなことがしたい」と考えている人たちのヒントになれば幸いである。
なお、ここではクラス(20〜30人)を4チームに分けて、チーム対抗で行う「連想ゲーム」を想定している。チームの一人が与えられた「単語」を見てヒントを出す。他のメンバーがその「単語」が何であるのかを当てる。ヒントを出す人は1題ずつ交代していく形でゲームは進行していき、制限時間内に何問正解が出るかを競うものである。
2.ゲームの準備
「連想ゲーム」を成功させるためには、しっかりとした準備が必要である。出題する単語を考えておくほか、進行についての打ち合わせも大切である。また、学生のグループ分けの方法を工夫することもゲームを盛り上げる上で有効である。
2.1. 出題する単語を用意する
[どんな単語がよいか?]
学生が全員知っていそうなもので、かつヒントを出しやすい(つまり、説明しやすい)単語を選ぶ。実習の中で学習したり使用された単語を入れておくのも復習になってよいだろう。[表1]は、日本語学習歴1年の韓国の大学生のために準備したものの一部である。
[表1]単語のリスト(例)
場所 (図書館、教室、プール、駅、空港、スーパー、郵便局)
食べ物・飲み物 (にんじん、りんご、キムチ、アイスクリーム、お酒)
人・動物 (先生、医者、赤ちゃん、恋人、犬、ねこ、ぞう、きりん)
その他 (お金、テレビ、カメラ、ドア、雨、川、橋、ボート)
ヒントが出しやすいかどうかは、実際に考えてみればよい。[表1]にあげたものは、コツをつかめば学生にも簡単にヒントが出せるものであるが、教師がすぐにヒントを考えられないような単語は選ばないことが重要である。
[どのくらいの単語の数が必要か?]
<チーム数X20>程度は用意しておきたい。この数は、実際にゲームを行った結果に基づくものである。パスする単語もあることを考えると、この程度の準備が必要となる。
[単語カードはどのように作ったらよいか?]
ヒントを出す学生と、他のチームの学生(観客)に見えるように大きめの紙に太字で書く。スケッチブックだと紙がバラバラにならなくて便利。出題する順番を考えておけば、ゲームを実施する際に1枚ずつめくっていくだけでよいので失敗がない。
2.2. チーム分けに使う「くじ」を用意する
学生をチームに分けるのにも少し工夫したい。「そんなことに時間をかけなくても・・・」という意見もあるだろう。クラスの中で「〜さんから〜さんはAチームです」と言ってチームに分けてもよいだろう。しかし、「くじ」というのは、大した物が当たらなくても、「ひきたいなー」「何が当たるかな?」と好奇心をかきたてるところがある。実際、学生たちはチーム分けの段階ですでに、それまでの授業では決して見せなかった「盛り上がり」を見せていたので、この方法をおすすめしたい。
[1チームの人数は?]
5〜6人が理想的。クラスの人数が20人であれば4チーム、30人であれば5チームか6チームに分ければよいだろう。
[くじの作り方は?]
紙片にチーム名を書いて折るだけの簡単なものでよい。チーム名は、昔のテレビ番組にあった「ぞうさんチーム」「うさぎさんチーム」・・・では動物の名前を出題できなくなってしまうし、どうしよう・・・と迷ってしまったら単純に「Aチーム」「Bチーム」・・・でもかまわない。クラスの担当者以外に協力者がいる場合(教育実習では他の実習生に参加してもらうのもよい)は、その人たちにチームリーダーになってもらい、チーム名にも名前を使わせてもらうという手がある。「佐藤さんチーム」「高橋さんチーム」といったようにすれば、学生たちと「いっしょにがんばろうね!」という気持ちになり連帯感が出る。学生の人数を確認して、チームの人数が偏らないように注意した上で、折りたたんだ紙片を袋に入れておく。
2.3. 事前の打ち合わせ
ゲームをスムーズに進行させるために事前の打ち合わせをしておく。「打ち合わせをする」ということは協力者が必要だということを意味する。協力者は、日本語の母語話者でなくてもよいが、出題される日本語が十分理解できる人が望ましい。どうしても無理な場合は、ゲームを行うクラスの学生の中から数人に手伝ってもらうなどする。「出題係(単語カードを見せる)」「タイムキーパー」「得点係」が必要だが、「タイムキーパー」と「得点係」は兼任してもらってもよい。また、それぞれのチームのケアをするチームリーダーがいるとさらによい。
3.ゲームの実施
次のようにゲームを進行する。以下は、学生が22人(日本語学習歴1年)で、協力者が3人(Aさん、Bさん、Cさん)いると想定したものである。
3.1. チーム分け
22人の学生を4チーム(5人・5人・6人・6人)に分ける。(欠席者にも対応できるように「くじ」を用意しておいて、学生の数を確かめながら「くじ」を調整する。)チーム分けを行う旨を説明してから、「くじ袋」を持って学生一人一人を回り、くじをひかせる。チームリーダーが「Aチームの人はここに来てください」などと声を出して、チームごとに集るように指示する。
3.2. 教室の配置がえ
ゲームが行いやすいように、いすを移動させるなど、必要に応じて教室の配置がえをする。配置図を黒板などに描いて、学生を一緒にゲーム会場をつくる。
[注意点]
*得点係とタイムキーパーは黒板のところへ。
*黒板がない教室では、「得点」と「残り時間」を書いて見せる紙などを用意してお く。スケッチブックが便利。
*出題係は姿勢を低くする。
*チームリーダーは、ヒントを出す学生のとなりでケアにあたる。
3.3. ゲームの説明・練習
実際にゲームを始める前に、説明をしながらクラス全体で練習をする。以下のように、説明・練習を進めていけばよいだろう。
a)「連想ゲーム」とは何かを説明する。まずは、事前に打ち合わせを行っている協力 者たち(Aさん、Bさん、Cさん)と一緒に見本を示す。学生たちに1枚の「単語 カード」(例えば「図書館」)を見せて、「それは場所です。本がたくさんありま す。大学の中にもあります。」のように次々とヒントを出していく。協力者の一人 が「図書館!」と答えれば何をしているのか学生は理解できる。同様に、「アイス クリーム」のカードを見せ、「それは食べ物です。冷たいです。甘いです。」とヒ ントを出し、Aさんたちに「アイスクリーム」と答えてもらう。
b) 学生たちがゲームの趣旨を理解できているのを確認してから、ルールなどをもう少 し具体的に示していく。すでに「くじ引き」で決まっているチームから1チーム代 表で前に出てもらう。向かって一番左の人が最初にヒントを出すことを説明する。 ヒントを出す人は他のメンバーと向かい合わせになる位置に移動し、単語カードを 見てヒントを出す。(実際にやってもらう。必要があればヒントを出すのを手伝 う。)正解が出たら、ヒントを出した人は向かって一番右の位置に移動し、次の人 がヒントを出すことを説明する。学生がルールを理解できるまで練習を続ける。
c) ゲームは1チーム2分間の持ち時間で何問正解が出るかを競うものであること、ヒ ントが出せない場合には「パス」と言って次の単語カードに替えることができるこ とを説明する。他にゲームについての質問がないか確かめる。
3.4. チーム対抗でゲームを行う
チームリーダーがジャンケンをするなどでゲームを行う順番を決める。ゲームを行うチーム以外の学生は観客となる。学生がゲームをする間、どの係をだれがつとめるのか、事前に打ち合わせをしておく。チームリーダーを兼任するので、自分のチームがゲームをするときはヒントを出すのを手伝うなどチームのケアに当たる。そのことも考慮に入れ、係の割り振りをしておき、ゲーム中にモタモタしないようにする。
[チームリーダーの役割]
自分のチームがゲームを行うとき、学生のケアをする。一応、ゲームのしかたが理解できるまで練習してからゲームに入るものの、中には飲み込みの悪い学生もいるし、「分かった」といって実際には分かっていない学生、張り切りすぎてヒントを出す順番を忘れてしまう学生だっている(かもしれない)。あせってヒントが思いつかない学生も当然いる。そんな学生をケアしてくれるリーダーがいれば学生も安心だ。そして、チームを盛り上げるのもチームリーダーの大切な役割である。
[出題係の役割]
出題係は、ヒントを出す学生と観客に単語カードを見せる。学生の答えをよく聞いて、正解が出たら、得点係が記録しやすいように「当たり!」と大きな声で言う。(得点係の位置からは単語カードは見えない。)そして、すばやく次のカードを見せる。なお、答えが正解に限りなく近くて「まあこれでもよしとしよう」という判断や、ヒントに答えが含まれているなど不正な行為の取り締まり(?)も出題係に一任される。
[タイムキーパーの役割]
タイムキーパーの「スタート!」(「よういドン!」でもよい。)の掛け声とともにゲームが始まる。ザワザワしていて始めにくいときに、静かにするよう促すのもタイムキーパーの役目だ。黒板などに「残りXX秒」(30秒、20秒、10秒ぐらいでよい)と書いて残り時間を知らせると緊迫感が出る。2分経ったら「終わり!」と言う。
[得点係の役割]
黒板などに各チームの得点を記録していく。出題係の「当たり!」の声をよく聞いて、間違えないようにする。(ボーッとしていて記録を忘れると学生からクレームがつく。みんな真剣だからコワイ。)
全チームがゲームを行ったあとで、順位を発表して「連想ゲーム」は終了する。
4.注意点など
[ゲームにかける時間]
クラスの人数にもよるが、チーム数が4〜5であれば、練習時間を入れて20分程度だろう。第2ラウンドまで行うのであれば、さらに10分ぐらいかかる。ただし、その場合は単語カードの準備が大変になることを覚悟しなければならない。特に、初級クラスでは出題できる単語は限られるので注意!(2分間のゲームで7〜10の正解が出る。パスするものや練習に使うものも計算に入れると、かなりの数の単語カードが必要になる。)飽きるまでダラダラと続けないで、「もう1回やりたいな」と思うぐらいで終わらせるのが成功の秘訣ともいえる。
[対象とする学生のレベル]
出題する単語によって初級から上級まで対象になる。また、クラスのレベルは中・上級であっても日本語で説明する訓練をしていない場合は、かなり易しい単語でもゲームとして成り立つ。「連想ゲーム」は難しい単語を知っているかどうかを競うものではないので、上級者だからといって難しいものばかりを出題しないように気をつけたい。教師自身、ヒントを即座に出せないような単語は選ばないように注意する。
5.おわりに
日本語教育の場に「連想ゲーム」を取り入れることをすすめたい。「そんな子供っぽいことはやってられないよ」といやがる頭のかたい学習者も中にはいるだろう。しかし、みんなで楽しく盛り上がって雰囲気がよくなることが十分に期待できる。ややこしい文法や複雑な漢字にうんざりし始めた学習者には気分転換が必要だ。そんなとき、ゲームに夢中で日本語を使っていることさえ忘れ、体を動かして眠気も吹っ飛ぶ「連想ゲーム」はいかかでしょうか。とはいえ、思いついたらその場ですぐに始められるものではない。準備が必要である。準備には時間がかかるし、単語を選んだり打ち合わせをするのに頭も使う。それを「大変そうだなあ。めんどくさいからやめた!」としないで、日本語の授業を提供する側にも勉強になると前向きに捉えたいものだ。しっかりとした準備があれば、思った以上にうまくいって、学習者も教師も満足できるのだから。