大学院日本語教育実習における

ティーチングアシスタントの役割

―日本言語文化専攻春季実習を例として―


                                          鈴 木 智 美

キーワード:日本語教育実習、実習生、ティーチングアシスタント、実習生中心、長期的視点

要 旨

 
 大学院における日本語教育実習とは、日本語教育を学ぶ大学院生がその教育経験の有無によらず、等しく日本語教育の訓練経験を積むことのできる貴重な場として位置付けることのできるものである。本稿では、名古屋大学大学院日本言語文化専攻における1999年度春季日本語教育実習において、ティーチングアシスタントとして後輩大学院生の実習指導に携わった経験をまとめ、このような実習を実りあるものとするためにティーチングアシスタントが果たすことのできる役割について考察を行った。
 その結果、ティーチングアシスタントはその実習指導にあたり、実習生がその実習において学びたいとすることは何かをまず第一に考え、それをサポートする立場に立つという実習生中心の視点、および実習が実習生の自己開発の姿勢を育成する一つの場となるものであるとする、いわば長期的な視点を持つことがそれぞれに重要ではないかとの考察結果を得た。

1 はじめに

 名古屋大学大学院国際言語文化研究科日本言語文化専攻においては、博士課程前期課程2年次の授業科目の一つとして、「日本語教授法及び実習」が開講されている(1) 。大学院における日本語教育実習とは、日本語学、日本語教育学、あるいは日本文化学などを学ぶ大学院生が、日本語教育のあり方をその実践面から追究していくことのできる貴重な場として位置付けることのできるものである。
 同専攻においては、既に何らかの日本語教育経験を持つ学生も、また持たない学生も、それぞれに春季および夏季の2回の実習に臨み、そこで新たに日本語教育の訓練経験を積むことができる。また学生はこのような実践の経験を踏まえた上で、さらに日本語教育の様々な面に関わる理論的な研究へとその視野を拡げていくことも可能である(2)
 1999年度は13名の学生がまず春季の日本語教育実習に参加した。またこの13名の実習生の他に、同大学院博士課程後期課程の学生等4名(3) がティーチングアシスタントとしてこの春季実習に参加した。そして「日本語教授法及び実習」担当教官の大曽美恵子教授を加え、全員が一つの実習チームを組む。春季実習は、この実習チームが、名古屋大学留学生センターにおける春季集中日本語講座のうち、その一つのクラスを受け持つ形で行われた(4)
 本稿では、ティーチングアシスタントの一人としてこの1999年度の春季日本語教育実習に参加した経験およびその活動内容を、実習生に対する指導・助言という観点からまとめ報告する(5) 。そして、大学院における日本語教育実習を実りあるものとするためにティーチングアシスタントとしてできることは何か、その役割について考察することを目的とするものである。

2 春季日本語教育実習 

 1999年度の春季日本語教育実習において、日本言語文化専攻の実習チームは、前年度と同じく名古屋大学留学生センター春季集中日本語講座の初級後半の1クラスを担当させていただくことになった。同講座の対象者は、名古屋大学に在籍する外国人留学生、客員研究員、外国人教師などである。担当することになったクラスの学習者数は14名、出身国はインド、インドネシア、スリランカ、中国、パラグアイ、フィリピン、ベトナム、ペルー、ミャンマーである。
 講座の開講期間は1999年2月15日(月)から3月11日(木)までの約4週間である。コースのカリキュラムは、同講座における他のクラスと共に名古屋大学留学生センターによって組まれており、実習チームも基本的にそれに従うことになる。
 教材としては、名古屋大学編の A Course in Modern Japanese. vol.2 の他、名古屋大学留学生センター作成による会話・コミュニケーション活動のための教材、同じくセンター作成の聴解そして漢字学習のための教材を主として使用する。ただし、文法項目のドリルあるいは会話・コミュニケーション活動の実施などにあたり、その教室活動の詳細までは指定されていない。それぞれの担当者が学習項目に合わせ、教室活動を工夫して授業を行うことになる。
 実習生は基本的に2名ずつがペアを組み、1名のティーチングアシスタントがそれぞれ2組のペアの実習指導を担当した。ペアを組んだ実習生は、1組につき2コマの授業を任される。従って実習生は、1コマ90分の授業を45分ずつ前半と後半に分けてそれぞれに担当し、それを2回繰り返すことになる。文法項目の練習を担当することになるか、会話・コミュニケーション活動を担当することになるか、あるいは漢字および読解練習や聴解練習を担当することになるかはわからず、コースの時間割に従ってそれぞれのコマに割り当てられた項目を担当することになる。
 ティーチングアシスタントは、2組の実習生の計4コマ分の実習についての指導を担当するとともに、それぞれがまたこの春季講座における講師として、1コマ90分の授業を4コマ担当する。ティーチングアシスタント1名とその指導する実習生4名を一つのグループとすると、およそ1グループごとに1週間授業を担当する形でコースは進められていくことになる。また、大曽教授にも主にコースの始まりと終わりに授業を5コマ受け持っていただき、また実習生の授業も要所において見学していただくことにより、実習チームのコース全体を引き締めていただいた。
 実習生はこの春季実習の様子をビデオに収録し、実習終了後の反省・検討の材料とする。実習終了後からは実習生全員でそれぞれのビデオを見ながら討議を重ねていき、夏季の実習に備えることになる(6)

3 ティーチングアシスタントの活動内容 

 第3節では、1999年度の春季日本語教育実習においてティーチングアシスタントとして行った活動内容を、事前準備、実習当日、実習終了後の3段階に分け、主に実習生への指導・助言という観点からまとめ報告する。なおそれぞれの段階における活動の反省点については第4節にて述べる。

3.1 事前準備

 まず、実習の事前準備の段階においては、以下のような形で実習生の指導に携わった。

  (1) 初回打ち合わせ 
     ・実習生と顔を合わせ、教育経験の有無などについて確認。
     ・担当日、担当課の確認。使用する教材の確認。
     ・他の担当者との連携が特に必要となる部分の確認。他の担当者との
      連絡を取るよう実習生に促す。
     ・ティーチングアシスタントの役割(実習生の教案に対するアドバイス、
      実習のビデオ撮影、実習生の授業観察と終了後のフィードバック)を
      実習生に説明する。
     ・教案へのアドバイスを行う日時を設定する。
     など。

 初回の打ち合わせ(7) においては、まず実習生とティーチングアシスタント全員が顔を合わせ、実習の概要を確認する。実習生のリーダーを決め、連絡ノートの作成や留学生センターで指定された教材のコピーなど、コース全体に関わる準備事項についての担当および手順を確認する。その後、ティーチングアシスタント1名と、その指導を担当する実習生2組4名のグループにそれぞれ分かれ、簡単な打ち合わせを行う。ここでは簡単に自己紹介を行い、実習の流れを互いに確認することになる。
 次に、この初回打ち合わせ時に設定した日時に、それぞれのティーチングアシスタントと実習生は改めて担当する個々の授業についての打ち合わせを行うことになる。

  (2) 教案の確認およびアドバイス
     ―実習生が作成した教案を確認し必要に応じてアドバイスを行う。
     ・授業の目標は何か。
     ・文法項目の導入はわかりやすいか。
     ・挙げられている例文は適切か。 
     ・適切な教室活動が準備されているか。
     ・学生の反応を具体的に予測して教室活動を組み立てているか。
     ・教師の行動(指示の与え方など)も具体的に考えられ計画されているか。
     ・時間配分は適切か。
     など。
       
 ここでは、上記の(2)のような点に注意しながら、実習生が作成した教案を確認する。特に教壇に立つのが初めてである実習生の場合には、教室での具体的な場面を想定して教案が組み立てられているかどうかに注意する。必要であると考えられた場合には、教案の補足修正を促したり、他の教室活動のヒントを与えたりする。 
 この打ち合わせは実習生一人につき30分〜1時間半ぐらいの時間をかけて行われた。打ち合わせに要する時間およびその内容は、実習生に既に日本語教育の経験があるかどうか、あるいは担当する授業の学習項目がどのようなものであるかなどに従い、様々に異なってくる。実習期間中、ティーチングアシスタントと実習生とは、設定した打ち合わせの時間以外にも、顔を合わせた時などを利用して連絡を取り合い、授業内容について相談を続けていった。また学習項目上、他のグループの実習生あるいは他のティーチングアシスタントとの連携が必要となる場合には、別途打ち合わせの時間を設けることもあった。

3.2 実習当日

 実習当日、ティーチングアシスタントは以下のような形で実習に関わった。 
 
  (3) 実習時間
     ・実習生の実習内容を記録するため、ビデオ機器の設置および撮影を
      行う。
     ・修正を経た最終教案を実習生より受け取り、実習の様子を観察する。
     ・教室活動の必要に応じアシスタントとして授業に参加する。
     など。

 実習内容の記録のため、ティーチングアシスタントはビデオ機器を設置し、実習生の実習の様子を撮影する。撮影中は基本的に実習生を中心としてカメラを固定しておき、実習の様子を全て通して撮影する。教室活動等により学習者側の様子に焦点を合わせて記録した方がよいと思われる場合には、その都度カメラを調節し、距離や視点を変えて撮影を行う。
 よく慣れていない場合には、ティーチングアシスタントは、このビデオ機器の設置・撮影準備に思わぬ時間をとられる可能性がある。事前に機器の設置方法や撮影手順の確認をしておくことが必要であろう。今回ティーチングアシスタントは、事前にビデオ機器の扱いを全員で確認し、実習に臨んだ。
 また、必要があればティーチングアシスタントも教室活動に参加する。しかし、実際にはペアを組んだもう1名の実習生および授業見学に訪れた他の実習生により、教室活動へのアシスタントとしての参加は十分にまかなわれることが多い。
 また1回目の実習終了後、その実習当日すぐに実習内容についてのフィードバックを行い、2回目の実習に備えるよう助言することになる。

  (4) 1回目の実習終了後 
     ―実習授業の観察により気付いたことをフィードバックする。
     ・文法項目の導入はわかりやすかったか。
     ・文法項目の練習は十分にできたか。
     ・挙げられている例文は適切であったか。 
     ・教室活動は工夫されていたか。
     ・コミュニケーション活動の目的は達成されたか。
     ・学習者に発話の機会が十分に与えられたか。
     ・授業の流れを具体的に予測した準備ができていたか。
     ・教師の話し方や態度、学生との応対はどうであったか。
     ・時間配分はどうであったか。など。
     ―それらのフィードバックも参考にした上で、2回目の授業の教案
      作成あるいはその補足修正を促す。
    など。

 1回目および2回目の実習の間に時間的な余裕があれば、1回目の実習結果を2回目の実習の準備に直接生かすことも可能である。しかし、スケジュールの都合上、間を置かず翌日すぐに2回目の実習が入っている場合がほとんどであり、1回目の実習の結果得られたことをすぐに2回目の実習の教案に反映させるには、時間的な余裕はあまりない。また、例えば文法項目の練習と漢字・読解練習というように、1回目と2回目の実習でそれぞれに異なった内容を担当する場合も多い。
 従ってここでは、簡単に試みることのできる項目以外には、1回目の実習で得られたことを2回目の実習にすぐに生かすことを必要以上に目指すことはしなかった。この2回の実習授業をそれぞれに独立した実習体験としてとらえ、その2回の体験をまとめた上での反省・検討は春季実習を全て終了した後に行い、夏季の実習に備えることとして位置付けた。

3.3 実習終了後

 計2回の実習を終了後、ティーチングアシスタントは以下のような形で実習生の指導に関わった。

  (5) 実習終了後のフィードバック
     ・2回目の実習終了後に、1回目と同様、実習授業の観察を通じて
      気付いことをフィードバックする。
     ・1回目と2回目の実習を総合的に振り返り、フィードバックを行う。
     ・夏季実習の課題、それぞれの目標の設定を促す。そのヒントを与える。
     など。

 2回目の実習終了後には、まず1回目の実習終了後と同様、その実習授業についてのフィードバックを行う。さらに、1回目と2回目の実習結果を総合し、夏季実習も視野に入れアドバイスを行う。
 大学院博士課程前期課程に在籍する実習生にとって、この実習期間は、他の授業科目の課題レポートなどとその締切の時期などが重なることが多い。また博士課程後期課程に在籍するティーチングアシスタントの大学院生にとっても、この実習期間は、それぞれの1年間の日本語学あるいは日本語教育学などに関わる研究成果をまとめ報告する時期と重なる。
 このような事情により、ティーチングアシスタントとそのグループの実習生とが新たに日時を設定し全員で顔を合わせることは難しいと考えられ、筆者が担当した実習グループにおいては、実習後のフィードバックおよび反省については、全てその実習終了当日に行うことにした。また実習内容についてのフィードバックやアドバイスについては、要点を絞って簡潔に行うよう心がけた。

4 反省点

 第3節で報告したティーチングアシスタントの活動内容に関しては、それぞれの段階について以下のような反省点がある。

  (6) 事前準備に関して
     ・ティーチングアシスタントとその担当する実習生を加えた個々の
      グループでの打ち合わせ・準備はよくなされていたが、それに比較
      するとティーチングアシスタント同士の横の連携が密ではなかった。
     ・ティーチングアシスタントが実習生の教案に対し行ったアドバイスは、
      その視点および内容が的確であったか。
     など。

 まず、実習をより実りのあるものへとするためにも、ティーチングアシスタントの役割について、ティーチングアシスタント同士の議論をもっと行った方がよかったのではないかという反省点がある。ティーチングアシスタントの役割に関してそれぞれが意見を出し合い、それを互いに取り入れることにより、その活動内容をより充実したものとしていくことができたのではないかと思われる。
 実習期間中にティーチングアシスタント一同が顔を合わせる機会を設けることは難しいであろうが、実習前や実習終了後などにインフォーマルな形ででも話し合う機会を作ることができれば、前年度の反省点を生かし、またその年の成果を次年度につなげていくこともできるのではないかと思われる。この点に関してはティーチングアシスタントが自主的にそのような機会を設けるべきであったと思う。
 また、実習生の教案に対してどのような視点からアドバイスを行うか、またその内容の的確さに関しては、ティーチングアシスタント自身もいまだ勉強を重ねている途上にあると言わなければならない。今年度筆者は、実習生の教案を確認する際に授業内容と授業全体の流れをチェックすることに主に目が行き、実習生自身がその実習の時間に教授技術等に関して何を試み、何を習得しようとしているのか、実習生自身の目標設定を確認することが足りなかった。実習終了後、夏季実習に臨むにあたってはそれぞれ何らかの具体的な目標を設定するようアドバイスしたが、春季実習においてもそのような視点が必要であったと思う。
 また、実習生が立てた教案の内容にティーチングアシスタントがどこまで踏み込むべきかについては、前年度の1998年度の実習終了後に、その年のティーチングアシスタントから共通の疑問が提出されていた。1999年度はその時の反省と意見も踏まえ、教案の確認を行う際には基本的な部分のみを押さえることとし、実習生それぞれの個性を生かしたプランが実習において実施されるよう、その自主性の部分を最大限に尊重することとした。この点に関しては、今年度のティーチングアシスタント間で、事前に見解が一致していたと思われる。

  (7) 実習当日に関して
     ・ティーチングアシスタントは、実習生の授業を偏りなく的確に観察
      できたか。
     ・授業観察後のフィードバックは適切になされたか。
     など。

 実習生の授業に関しては、なるべく見方が偏らないよう様々な点に気を配って観察し、気付いたことをフィードバックできるよう心がけた。その中には、実習生自身も気付かなかった新しい視点を与えることのできたものもいくつかあると思われる。
 また同時に、いくつかの点に関しては特にポイントを絞ってフィードバックするように心がけた。しかしそのようにティーチングアシスタントの側から授業観察のポイントを絞ってフィードバックを行った場合に、それが、その実習生がその実習授業に関して特にフィードバックを得たいと思う事項と、果たして一致していたのかどうかという非常に大きな反省点がある。
 これは、事前準備の段階で、その授業における実習生自身の達成目標の確認を十分に行わなかったという反省にもつながるものであり、今後考えなければならない重要な点である。授業を観察する視点は様々にあると思われるが、ティーチングアシスタントが、実習生がその実習において特に向上させようと目指している教授技術等の目標を十分に把握していれば、より有益なフィードバックを行うことができたのではないかと思われる。
 またこのような授業観察やフィードバックのし方についても、ティーチングアシスタント同士で事前に意見を出し合った方が、より視点を豊富にし、実りのあるものとすることができたのではないかと思われる。
 また実習の様子のビデオ撮影については、今回特に問題は生じなかったが、日本語講座を受講する留学生達にはビデオ撮影の目的をコース始めに一言説明をしておく方がよいかもしれない。堀口(1992:163)には、日本語教育実習に関わる研究のために行ったビデオ撮影について、その授業を受けていた留学生側より「文部省はこのビデオを見るか」との予期しない質問が出されたとの指摘がある。講座の受講生には、ビデオ撮影は日本語教育実習生の勉強のためのものであり、講座受講生の受講態度をチェックする目的のものではないということを、一言説明しておいた方がよいかと思われる。

  (8) 実習終了後に関して
     ・実習終了後のフィードバックは、簡潔かつ十分に、しかも実習生の
      主体性を十分に生かし行うことができたか。
     ・ティーチングアシスタント同士で反省会を行うなど、その年の
      活動内容を次年度へつなげるよう配慮した方がよかったのではないか。
     など。

 まず、実習終了後に実習生の実習内容に関してフィードバックを行う場合には、授業の流れ、教室活動、扱うトピック、導入のし方、取り上げる例文、指示の出し方、指名のし方、板書のし方、時間配分等で気付いた点があれば、それを単に指摘するだけでなく、具体的に別のやり方の可能性や部分的な代替教案を示すように心がけた。実習前にはティーチングアシスタント側から実習生のプランを不必要に変えさせてしまうことのないように心がけたが、逆に実習終了後には、授業の流れや教室活動等について別の可能性も考えられる場合にはそれを提示するようにした。
 しかし、実習終了後の限られた時間の中で、このようにティーチングアシスタントの側からフィードバックを行うことの方にのみ重点が置かれてしまい、実習生の反省や感想にまずじっくりと耳を傾けるということが十分になされなかったのではないかとの反省がある。
 実習生はこの後、実習の様子をビデオで確認しながらその反省・検討を重ね、夏季実習の準備を進めていくことになる。よって、この実習終了直後にティーチングアシスタントとの話し合いを行う時間は、実習生が実習に対し抱いたいわば生のままの感想を、たとえまとまらないままであってもあれこれとぶつけ、主体的にその問題点を探っていくスタート点として位置付けることもできるのではないかと思われる。
 実習生が実習終了後にティーチングアシスタントからのフィードバックをメ受けるモ という立場に立つのではなく、それはむしろ二次的なものと考え、この実習終了後の時間を実習生を主体としてより有効に生かす方法を考えることもできたのではないかと思われる。
 ティーチングアシスタントは、その活動を通じて常に、実習があくまで実習生を主体として行われるものであることを忘れず、実習生自身が実習を通じて行いたいこと、得たいこと、考えたいことをまず第一に優先させ、それが十分に達成されるようサポートしていく メ実習生中心モ の視点を確実に持つ必要があると考えられる。
 また終了後にもできればティーチングアシスタント同士で反省会を行うなどし、その経験の良かった点、悪かった点が次年度に生かされるよう配慮した方がよかったのではないかと思われる。

5 ティーチングアシスタントのさらなる役割―長期的視点から

 斎藤他(1992)は、大学院で行われる日本語教育実習を、短期的視点および長期的視点の双方からとらえることの必要性を提言している。短期的視点とは、実習においていかに効率的に教育現場において必要とされる技術を習得するかという視点であり、長期的視点とは、教師である限り常に求められてくる自己開発・自己研鑽に対する姿勢とその能力をいかに育てていくかという視点である。
 短期的な視点に立って実習をとらえた時、ティーチングアシスタントが実習期間においてできることは、おそらく実習生がその実習時間に特に習得したいとする教授技術等について、その様子を観察し、フィードバックを与えることではないかと思われる。しかしながらこれはティーチングアシスタント固有の役割であるとは言えず、実習生自身が実習終了後に、実習の様子を撮影したビデオを見ながらでも主体的に自己反省を行うことのできる課題であると言ってもよい。
 一方、長期的な視点に立った時、ティーチングアシスタントにできることがあるとすれば、それはこの春季実習を実習生の自己開発・自己研鑽の出発点あるいはその一段階としてとらえ、その自己開発能力の育成・発展に少しでも力を貸すよう努めることではないだろうか。
 実際の授業を通じて自己開発を進めていく方法としては、教師一人によるものも、また何人かの教師の協同のもとに行われるものもあると考えられる。才田(1992)は、教師が自身の授業を観察・分析することによる自己研修の方法を提案しており、また寺谷(1999)は、教師の自己研修の一つの形として、複数の教師が対等な立場で互いに授業を観察し合い、フィードバックを与え合うという Peer Coaching の実践報告を行っている。
 ティーチングアシスタントが介在する形での実習とは、一人の教師が自分自身の授業を自己観察・自己分析するだけのものとも異なり、また複数の教師が対等な立場で互いの授業の観察・分析を行うものともまた異なるものである。しかし、そのどちらの方法にもつなげていくことのできるものなのではないかと思われる。
 実習生は、春季実習終了後、実習の様子を記録したビデオを自己観察・自己分析し、他の実習生と共に様々な観点からの討議を重ね、夏季の実習に備えることになる。実習終了直後にティーチングアシスタントから得られたフィードバックは、このような自己分析の過程に向けて、その一つの相対化・複眼化の視点を与えるヒントとなるものであろう。ティーチングアシスタントの視点は、あくまで数多くある分析の視点の一つを表すものに過ぎないが、それを上手に取り入れることにより、客観化して行うことの難しい自己分析をより実りあるものへとつなげていくことができるのではないかと思われる。
 また、夏季実習の場にはティーチングアシスタントは参加せず、そこでは実習生同士が互いの授業を対等の立場で観察し合いフィードバックを与え合う、いわば Peer Coaching の形での自己研修が進められていくことになる。夏季実習においては、今度は実習生の一人一人が、他の実習生に対しいわばティーチングアシスタントの役割を果たすことになるわけである。ティーチングアシスタントを交えた形での春季実習とは、そのような協同作業による自己研修のいわば先例を示すものとして位置付けられることにもなるだろう。
 ティーチングアシスタントは、春季実習という短期間における活動ではあるが、何らかの教授技術の習得という短期的な視点のみならず、このように実習生がその自己開発の姿勢を育てていく過程にあることを長期的な視点からとらえ、それに協力する心構えを持つ必要があると思われる。ティーチングアシスタント自身も、そのような役割を理解することを通じて、また自身の自己開発の姿勢を養っていくこともできるのではないかと思われる。

6 おわりに

 本稿では、名古屋大学大学院日本言語文化専攻における1999年度春季日本語教育実習において、ティーチングアシスタントとして後輩大学院生の日本語教育実習指導に携わった経験をまとめ、このような実習を実りあるものとするためにティーチングアシスタントが果たすことのできる役割について考察を行った。
 実習における様々な反省を通じ得られた第一の点は、「実習生中心」の視点の重要さである。ティーチングアシスタントはその活動にあたり、実習生がその実習において得ようとしていることは何であるかをまず第一に考え、それをサポートしていくという姿勢を持つことが必要である。このことを常に念頭に置いておくことができれば、ティーチングアシスタントがどのような形で実習生の実習に関わっていくべきか、その活動の方向性も得られてくるのではないかと思われる。
 また、実習の反省を通じ得ることのできた第二の点は、長期的な視点を持つことの重要さである。実習生もティーチングアシスタントも、このような実習が教師としての自己開発の姿勢を育成する一つの場となるものであることを認識し、それを互いにその後の自己研鑽へとつなげていく姿勢を持つことが必要であると思われる。
 最後に、春季実習に参加した実習生はいずれも熱心に実習に取り組み、教材の準備や授業見学者の調整、また e-mail 等での連絡も密に行い、実習チームの受け持ったコースが滞りなく進められていくことに力を尽くしてくれた。実習はまさに実習生が主体となって行うものであることを身をもって示し、ティーチングアシスタントの負担を非常に軽くしてくれたと思う。感謝すると共に、この小論における反省が、今後ティーチングアシスタントを経験する方達のために少しでも役に立つことがあるよう願う。



(1) この科目を受講し日本語教育の実習を行おうとする学生は、前期課程1年次には、同大学院設置授業科目の「日本語教育学原論」「現代日本語学概論」「日本語音声学」「日本語教育評価論」の各科目を受講し、実習を行うにあたっての基礎となる知識を習得しておかなければならない。特に「日本語教育学原論」においては、授業観察や教材分析など、実習を行うにあたっての実践的な基礎作業も組み込まれている。
(2) 同専攻におけるこれまでの実習については、『日本語教育実習報告』(1989年度〜1998年度)としてまとめられ毎年報告されている。また1995年度からは実習内容の報告に加え、実習生各自による実習に関連したテーマの研究報告も合わせてなされるようになっている。
(3) 1999年度の春季実習には、同大学院後期課程の学生3名と同専攻の助手が1名、計4名がティーチングアシスタントとして加わった。なお前年度の1998年度の春季実習には、同大学院後期課程の学生4名がティーチングアシスタントとして参加した。筆者を含め2名の学生が、2年度にわたりティーチングアシスタントとして重複参加している。
(4) このように、名古屋大学留学生センター春季集中日本語講座のうち、その一つのクラスの授業を講座期間を通して全て受け持ち、大学院の春季日本語教育実習を行わせていただくという形式は、前年度の1998年度の春季実習より始められたものである。1999年度の春季実習はその2回目の試みとなる。
(5) 本稿において報告・考察するのは、1999年度の春季実習におけるティーチングアシスタントの活動内容である。しかしその活動には、前年度の1998年度の春季実習における経験と反省、また1998年度の春季実習における他のティーチングアシスタントのメンバーとのディスカッションの成果なども生かされていることは言うまでもない。
(6) 春季実習終了後、実習生はその体験を振り返り、様々な角度からの検討・討議を重ねた上で、夏季実習の準備を進めていくことになる。夏季実習は、名古屋市が受け入れる外国人英語指導助手(AET, Assistant English Teachers)を対象とした日本語研修を中心として行われる。ここでは、研修の計画から実施に至るまで、実習生が主体的にそのコースの運営を担当することになる。また他にも必要に応じ日本国外などの他機関にて夏季実習を行うことになる学生もいる。
(7) 1999年度の春季実習では、コース開始のほぼ1週間前の2月9日(火)に、実習生およびティーチングアシスタント一同による初回の打ち合わせが行われた。

引用文献

才田いずみ(1992) 「自己研修のための授業分析法試案」
   『日本語教育論集 世界の日本語教育』第2号 国際交流基金日本語国際センター pp.107-114
斎藤令子・今尾ゆき子・稲葉みどり・田中京子・出口 香(1992) 
   「日本語教育実習への提言―実習経験を踏まえて―」『日本語教育』76号 pp.55-66
寺谷貴美子(1999) 「教師の自己研修における Peer Coaching」
   『世界の日本語教育〈日本語教育事業報告編〉』第5号 国際交流基金日本語国際センター
   pp.187-201
名古屋大学大学院文学研究科日本言語文化専攻(1990-1999) 
   『日本語教育実習報告』(1989年度〜1998年度)
   (1998年度の実習報告はhttp://www.lang.nagoya-u.ac.jp/~mohso/jisshu98/ にて公開)
堀口純子(1992) 「日本語教育実習指導のための基礎的研究」
   『日本語教育』78号pp.154-166 
                  


Back