会話教育における聞き手行動の指導試案

−学習者の実態と相づち指導の実践より−

木暮 律子

1. はじめに

 

 近年、コミュニケーション能力を高める為の外国語教育という考え方が広く注目され、これに伴い、会話教育の重要性が指摘されている。会話教育のあり方に関しては、会話技術の項目リストが提示されたり、シラバスの作成が行われている(注1)ものの、ここで提示されている項目を具体的にどのように授業で取り上げ、指導していったらよいのか、その指導方法についての実践的な研究は少なく、いまだ不十分であるといえる。(注2)

 効果的な会話教育を行うためには、学習者の会話を分析することにより、その実態を把握したうえで、自然に身につき、指導の必要がない項目、指導することが有効である項目、指導してもなかなか使えるようにならない項目などを明らかにし、そこからシラバスの難易度付けを行い、それに基づいた提出順序で指導していくことが重要である。

本稿では、会話技術のリストとして提示されている項目のなかから、聞き手の言語行動について取り上げ、その指導方法について考察する。まず、これまでの聞き手行動に関する研究を概観し、学習者の問題点について探る。次に、学習者の会話の分析結果について述べ、筆者が教育実習で行った相づち指導の具体例を報告する。最後に、会話教育における聞き手行動の指導方法について検討する。

2. 先行研究

 日本語の会話の特徴は、話し手が話している間、聞き手が盛んに相づちを打つことであると言われ、聞き手の言語行動の指導は、会話教育のなかでも特に重視され、これまで数多くの研究がなされてきた。その研究の中心は、主に「相づち」であったが、最近では、相づちよりも長く、これをさらに発展させた形式である「バックチャネル+α」(注3)などと呼ばれる表現にも関心が寄せられている。

 本稿では、聞き手と聞き手が行う言語行動について次のように定義し、以下で、これらの表現と学習者の使用実態、その指導のあり方に関する研究について、順に見ていくことにする。

<会話参加者の役割>

 話し手:話者交替ルールにより、発話権をもつと認められた会話参加者。話題に関する内容を話したり、話を展開させていく行動を行う。

 聞き手:相手が発話権を行使している最中に、その発話権を取るためではなく、その発話を理解するために行う、聞く作業を中心とする行動をとる会話参加者。

<聞き手が行う言語行動>

 相づち:話し手の発話に対する理解のみを示す、表現形式が定まっている発話。

 聞き手ターン:話し手への反応を示す、表現形式が不定の発話。先行する話し手の発話に対する理解だけではなく、話し手発話に直接関与する内容を示すが、話の展開に寄与するようなものではなく、話し手発話に従属する。

2.1. 聞き手行動に関わる研究 

2.1.1. 相づちについて

 相づち研究は、宮地(1959)、小宮(1986)、黒崎(1987)、水谷(1984、1988)、水野(1988)、杉戸(1989)、メイナード(1987)、ザトラウスキー(1986、1991)など数多くあるが、堀口(1991)は、これらの研究を相づちの定義、機能、タイミング、表現形式、頻度、変化の要因という観点から比較し、これまでに明らかにされたことをまとめるとともに、相づち研究の課題について述べている。

 これによると、相づちの定義は、機能によるものと表現形式によるものとがあり、機能としては、相手の話を「聞いているということを示す」「わかったということを示す」の二つが共通の認識になっているようである。また、相づちを打つタイミングは、音声的な弱まり、ポーズ、間投詞、頷きなどが話し手側にあったときとされ、相づちの表現形式は、相づち詞のほかに、繰り返し、補強、完結などの短い表現や非言語行動を相づちに含めるかどうかという点で相違が見られている。さらに、相づちを打つ頻度は、それぞれの研究で尺度が異なるため、一概に比較することはできないが、個人や性別、年代、談話における立場、参加者の人間関係、話題、談話の目的、対面か電話か、談話の流れなどによってかなりの違いが見られることが指摘されている。そして、このような要因により、表現形式、改まりの度合い、タイミングにも変化が見られることが明らかにされている。

2.1.2. 聞き手ターンについて

 前述したように、聞き手の言語行動には、相づちのほかにも、文を完結する表現や説明要求、繰り返しなどがある。堀口(1987)は、相づち以外に、先取り、確認、応答、助け、質問、展開、転換を行う表現などを聞き手の言語行動として挙げている。伊藤(1993)は、バックチャネルと呼ぶ相づちに簡単なコメントや短い発話を加えた形式を「バックチャネル+α」と呼び、野畑(1996)は、実質的な内容を含む聞き手の相づち的な発話を「相づち発話」とし、繰り返し、先取り、言い換え、補足、感想・コメントなどがこれに含まれるとしている。

2.2. 日本語学習者の聞き手行動に関する研究

 2.1.では、日本語会話における聞き手行動の研究について見てきた。ここでは、日本語学習者への指導という観点から、学習者の母語との対照研究、習得研究について取り上げ、学習者の問題点を明らかにし、指導上の留意点について探る。

2.2.1. 相づちの対照研究 

 相づちの対象研究には、英語と比較したメイナード(1987)、大曽(1988)、中国語と比較した劉(1987)、韓国語と比較した金(1994)がある。これにより、英語の相づちは、ほとんどが文単位の終わりで、ポーズ付近で送られること、非言語行動による相づちの割合が多いこと、中国語の相づち頻度は、日本語よりも低く、日本語の方が、文末で相づちを打つ確率が高いこと、韓国語と日本語の相づち頻度の差はほとんどないが、談話の内容による段階的な違いが見られ、本題に入ると、韓国人は相づちで相手の発話を遮ることを避けているという傾向が見られることなどが明らかになっている。

2.2.2. 習得研究

2.2.2.1. 相づちについて

 学習者の会話における相づちの使用実態や習得研究には、山本(1992)、登里(1994)、楊(1997)、窪田(1999a、b)などがある。そして、これらの研究により、学習段階が進むにつれ、相づちの出現頻度が高くなり、その種類も増えていき、相手に応じた使い分けができるようになっていくこと、初級学習者においては繰り返しの使用が多く、エ系の相づち詞の使用率が低いこと、話し手の発話中に相づちを入れることが困難なこと、形態、頻度、タイミングの点で、母語の影響を受けていることなどが明らかになった。

 相づちの指導にあたっては、相づちを打つタイミングとして、まず、相づちを求めるイントネーションに気づかせ、相手の発話中や終助詞、間投助詞の後に相づちを打つべきことを指導すること、「そうですか」「そうですね」などの形態の違いによる意味を理解させ、相手の発話内容と相手との関係に応じた使い分けの練習が必要であることがわかった。

2.2.2.2. 聞き手ターンについて

 学習者の聞き手ターンの使用状況について分析した研究は、まだ少ない。野畑(1996)は、中・上級学習者を対象とした調査を行い、学習者の場合、相づち発話が少なく、そのため、相づちのみの反応を続けることにより、フィードバックが不十分に感じられ、話の展開につながらないという問題があることを指摘している。そして、このような相づち発話を利用することで、話し手に展開のきっかけを与えたり、話の方向付けをするなど、話し手が談話を構成していく作業を支えることができるので、今後は話を引き出す技術という点から聞き手の言語行動として、特に相づち発話を指導していくことが必要であると述べている。

2.3. 聞き手行動の指導について

 

 岡崎(1987)は、日本型の談話指導として「聞き手中心の談話指導」を行う重要性を説き、(1)他の話者に対する同意を強調したり相づちを打つこと、(2)相づちを打つ訓練の延長線上に自分の話順をとる訓練を導入することに重点を置いたカリキュラムとシラバスについて提示している。以下に、初級〜中級のカリキュラムとして示されているシラバスを、相づちの指導に限って取り上げる。

第1週:相づち指導なし

第2週:「あそうですか」の定着。頷きと合わせて練習し、更に「ええ」と交互の練習へ。

第3週:「そうですね」の定着。リズムの体得。

第4週:「あそうですか」の連用による受け答えの間に短い質問を挿入し、相づちのみの聞き

手から質問という形で会話に参加する聞き手へと移行する訓練の基礎指導をなす。

第5週:質問−答え−「あそうですか」の形式にそっての訓練の継続。気持ちをこめた相づち。

第6週:同情、共感を示す相づち「あそうですか。それは・・・ね。」更に「私も・・・」を使っての話順取 り。

第7週:第6週の練習の続行。相手への賛意表示を契機に話順を取る。

第8週:第2週〜7週までの練習全てを統合的に使用し、トピックのなかで話す。

 また、伊藤(1993)は、聞き手ターンにあたる「バックチャネル+α」と呼ばれる形式の発話は、談話一文の平均程度の長さにもなり得るもので、発話の量を増やし、話順を取って話し手側に回り得る可能性のある発話であると捉えている。そして、このような発話の例として、(1)相づち詞の繰り返し、(2)「ええ、そうです」の変種、(3)話し手の言葉の繰り返し、(4)バックチャネルの後に短い発話が続く形式、(5)繰り返しに短い発話、あるいは聞き返しを付け加えた形、(6)先取りの6つを挙げ、それぞれの発話指導について、次のような方法を提示している。

(1)相づち指導の中で「今週のテーマ」という形でクラス全体の課題として取り組む。「はい はい」と「うんうん」などは、使うべき相手と場に関しても説明する。

(2) 数が多いので、相づち詞に続く部分を5つぐらいに絞り、例を用意して練習する。終助詞の「ね」「よ」「よね」の用法の説明、イントネーションの差による意味内容の違いにもふれる。

(3)「オーム返し」の練習から入り、徐々に文末表現を加えて「〜ですか」「〜なんですか」「〜っておっしゃったんですか/よね」に発展させて練習する。

(4)(5)一番実質的な発話に近づく可能性のある形式なので時間をかけて指導する。表現形式が定まっているものから始め、徐々に自分の意見を簡単に述べたり、話し手の使った表現を再利用して繰り返す形などへと発展させる。

(6)話し手の意図を理解し、ある程度先を予測して発話を準備しなければいけないため、学習者にとって難しいものであろうが、初級後半ぐらいから、文法的知識から次を予測し、話題と文脈の中で再検討してその予測が成り立つかどうか判断し、話し手の発話を聞いて確認する練習の機会を設ける。これは、予測が違っていた場合の修復、訂正の仕方と伴わせて練習する。

3.聞き手ターンの発達に関する学習者の実態

 2.2.2.2.では、学習者の聞き手ターン使用に関する研究が少ないことを述べたが、聞き手行動を体系的に指導していくためには、聞き手ターンについても、発達的な観点から分析し、学習者の実態を把握する必要がある。 そこで、筆者は、OPIの初級〜上級に当たる学習者、各レベル3名ずつ、計9名を対象に、聞き手ターンの使用状況についての調査を行った。下の表は、話し手・聞き手ターンの出現数と、それぞれの総ターン数に占める割合を、レベルごとの平均値で示したものである。(注4)

  話し手ターン数   聞き手ターン数    総ターン数
初級学習者  124.33(98.67%)   1.67(1.32%) 126.00(100.0%)
中級学習者  96.67(92.35%)   8.00(7.64%) 104.67(100.0%)
上級学習者  81.33(85.31%)  14.00(14.68%) 95.33(100.0%)
母語話者  97.67(87.73%)  13.67(12.27%) 111.33(100.0%)

                 

 この表から、学習者の話し手ターン数は徐々に減少し、聞き手ターン数が増加していることがわかる。初級学習者の聞き手ターン数は、1.67と非常に少なく、聞き手ターンによる会話の参加は非常に難しいことが伺えるが、その割合は、上級で母語話者に匹敵するものとなっていることから、日本語力の向上に伴い、自然に表出されるものであると推測される。伊藤(1993)や岡崎(1987)は、聞き手ターンを「話順を取って話し手に交替し、実質的な発話に移行させていくための発話」と捉え、発話権を取得できるようになるためには、まず、聞き手として相づち以外の形式で会話に参加できるようになることが必要であると述べているが、実際には、日本語力の低い学習者の会話では、会話相手である日本語母語話者が、質問などによる情報要求文によって、発話権を渡しているため、話し手ターンは非常に多く、問題は生じていない。したがって、聞き手としての発話順番の取得が、話し手として発話順番を取得するきっかけになっているとは言えない。このような形式の発話はむしろ、相手が情報提供を終えたときに、自主的に話し手となるきっかけとして重要であろう。ただ、これについても日本語力の向上に従い、受動的な話し手から自主的な話し手へと自然に変化していることから(注5)、聞き手ターンの指導は、それほど力を入れて行う必要はないのではないかと思われる。また、行うとすれば、もう少し上の段階で、表現形式の種類のバリエーションを豊かにさせるなどの観点から考えていけばよいだろう。(注6)

4.教室活動の実践 

 筆者は、1999年度の実習において、名古屋大学と姉妹校である韓国木浦大学での3年生の会話授業を担当する機会を得た。ここでは、その際に実施した相づち指導の具体例を報告することにより、中級レベルの会話教育における聞き手としての言語行動指導の一方法を提案する。

4.1. 授業前の準備

 学習者は、韓国木浦大学の3年生で、男1名、女19名の計20名である。木浦大学では、1年次に基本的な文法項目の学習をひととおり終え、筆者が担当した3年生の日本語レベルは、おおよそ中級と判断される。なお、与えられた授業時間数は、1コマ50分で、計3時間であった。

 今回の実習では、中級レベルの学習者に対する聞き手行動の指導として、相手に応じた相づちの使い分けができるようになることを目標としてカリキュラムを組んだ。しかし、海外で日本語を学ぶ学習者が対象であるため、その前段階として、特に、日本語の自然な会話における聞き手行動に注目させ、相づちを意識化させたうえで日本語の相づちの種類とタイミングを習得できるような導入と練習方法をとった。以下、授業前の準備として行ったモデル会話の作成と授業を行うにあたって留意した点について述べる。

 まず、授業で扱ったモデル会話は、相づちの重要性がより認識できると考え、電話によるやりとりにした。その内容は、できる限り自然なものとなるよう、大学生が普段経験すると思われる場面を想定し、授業の目標である、待遇レベルによる相づちの違いが理解しやすいよう、提示する2つのモデル会話の内容は変えずに、表現形式だけが変わるような配慮をした。そして、指導項目である、聞き手行動にあたる発話は、話し手発話の右側に寄せて示し、相づちを入れるタイミングがわかりやすいよう、打たれる位置に示した。また、相づち部分には下線を引いた。(ここでは、下線ではなく、斜体で表記した。)

 さらに、導入時に、携帯電話を用いた実演をして見せることを計画したり、日本人の大学生の雑談を録音したテープとその文字化資料などを持参し、海外の学習者が普段体験することができない、生の日本語に接する機会や日本人と日本語で話す機会を授業内において多く持てるよう努力した。このほか、頷く、笑う、驚きの表情をするなど、相づちに伴う非言語行動も重視し、問題がある場合には注意や正しいモデルを示すなどのきめ細かい指導ができるよう、他の実習生に学習者を観察してもらうことにした。

4.2. 授業の概要

 授業では、会話の流れに適した相づちを、相手に応じて使い分けられるようにすることを目標とし、3回に分けて段階を踏んだ実践的な練習を行った。

 まず、第一回目の授業では、相づちの重要性を理解し、友達との会話でタイミングよく打てるようになることを目指し、説明→導入→口頭練習→説明→口頭練習→説明→グループ練習→発表の手順で進めた。ここでは、次のような表を板書し、相づちの種類と意味、使い分け、打つ位置やタイミング、イントネーションについての説明を行った。

友だち

先生

うん

そうそう/そうだね

そっかー/そうか

へえ

ほんと

はい/ええ

そうですね 

   そうですか    

(ええ?)

ほんとうですか

                             

使用したモデル会話は、次のようなものである。

〔友だちとの会話〕

A:はい、(田口)です。

B:あ、もしもし(田口)さん?  (木暮)ですけど、元気?

A:             うん。          うん、元気。

B:あのね、  明日山田先生の授業あるでしょ。

A:   うん。              うん

B:お休みなんだって。

A:         え、うそー。なんでー?

B:ほら、前からおなかが痛いって言ってたでしょ?

A:                      うん、そうそう言ってた。

B:それがね、  盲腸だったんだって。

A:     うん。         へーえそっかー。大変だね。

B:それでね、  明日から入院することになったみたい。

A:     うん。                 へーえほんとう

B:うん、だからさ、  みんなでお見舞いに行かない?

A:       うん。              うん、そうだねー

B:じゃ、明日みんなで相談しよ。

A:うん、わかった。

B:じゃ、明日学校でね。

A:うん。

B:じゃね、  バイバイ。

A:    うん。    バイバーイ。

 

 次に、第二回目の授業では、先生との会話に適した相づちが使えるようになること、会話全体の流れのなかで、話し手の発話内容による使い分けができるようになることを目指し、復習→導入→説明→口頭練習→聴解練習→発展練習の導入の手順で進めた。ここでは、先生や、初めて会った人、あまり親しくない人などに対する相づちを、前回の友だちが相手である場合と比較しながら説明した。使用したモデル会話を下に示す。

〔先生との会話〕

A:はい、(木暮)です。

B:あ、もしもし(木暮)さんですか?  (石井)ですけど。

A:                はい。   あ、どーも。こんにちは。

B:あのですね、  明日山田先生の授業がありますよね。

A:      はい。                ええ

B:休講になります。

A:        え?本当ですか

B:はい。前からおなかが痛いって言ってたでしょう?

A:                    はい、そうですね。言ってました。

B:それがね、  盲腸だったんですよ。

A:     はい。         ええ

B:それでね、  明日から入院することになったそうです。

A:     ええ。                  そうですかー

B:はい、だからみんなでお見舞いへ行きませんか?

A:                      ああ、そうですね

B:じゃあ、明日みんなで相談しましょう。

A:はい、わかりました。

B:それじゃ、明日学校で。

A:はい、失礼します。

 日本人の雑談を聴かせ、自然な会話に接する機会を持たせるとともに、実際の会話のなかで、いろいろな種類の相づちがどのように使い分けられているかを理解させるため、相づちのディクテーションも行った。答えあわせの際、話し手が、聞き手の発話にどう対処しているかについても注意して見ていった。

 最後の第三回目の授業では、これまでの学習のまとめとして、実際の会話を想定し、場面や相手に応じた相づちの使い分けにより、自然な日本語が話せるようになることを目指し、導入→口頭練習→説明→グループ分け→説明→タスクシートの作成→練習→発表の順番決め→発表→講評の手順で進めた。ここでは、電話帳からグループで一つ、電話をかける場所を決め、最低2種類の相づちを入れた会話を作ってもらい、その発表を行った。モデル会話として示し、口頭練習を行った会話は、次のようなものである。

〔電話をかけよう!〕

A:はい、市川病院です。

B:あ、すみません、ちょっとお尋ねしたいんですが、明日の朝は、やってますか?

A:       はい。            はい。  

A:ええと、明日の朝ですか?

B:はい。

A:あのー、朝は9時からになりますが…。

B:                 あ、そうですか。困ったなあ。

A:あのー、午後でしたら6時から8時までやっておりますが。

B:ええ?夜もやってるんですか?

A:はい。

B:そうですか。それじゃ、明日の夜7時にお願いします。

A:わかりました。ええと、お名前は。

B:(木暮)です。

A:(木暮)さんですね。

B:はい。

A:それじゃ、7時に来てください。

B:はい。

A:お大事に。

4.3. 実施後の考察

 まず、今回実施した授業の反省点として、限られた時間数だったため、内容を盛り込みすぎてしまったことが挙げられる。特に、今回は、発話中に打つ相づちと、相手による相づちの使い分けを、会話全体の流れの中で提示することに重点を置いたため、一発話や、やり取りの長いモデル会話を作ったが、最初は、A、B、Aの3発話程度のやり取りからなる短い会話文から始めればよかったのではないかと思う。また、モデル会話には、縮約形などの口語的な表現も多く含まれており、このような言い方に慣れていない学習者にとっては、モデル会話の内容や最終日の三回目の授業で行った会話作りが難しすぎたかもしれない。会話作りは、聞き手行動の指導を会話教育の中に位置付け、会話能力の総合的な向上も考えて行ったものであるが、今回の授業で掲げた目標が達成できたかどうか、3回にわたる授業の効果を評価する対象にはなり得なかった。相づちの使用と使い分け練習に、より時間を割き、完全に定着したあとでこのような活動を行えば、さらに効果的なものになったであろう。

 授業中に感じた学習者の問題点としては、イントネーションによる意味の違いを説明したあとでも、不自然なイントネーションによる発話が多く見られたことが挙げられ、相手の発話中に打つ相づちの、タイミングの遅れも目立った。これらについては、他の実習生の協力により、口頭練習中に個別指導も行ったが、なかなか改善されなかった。

 また、今回、中級学習者を対象として、待遇レベルによる相づちの使い分け指導を行った結果、相手による相づちの使い分けは頭では十分理解しており、導入が可能であるものの、実際の会話での自発的な使用となるともう少し時間がかかり、今後さらに徹底的な練習を積むことが必要なのではないかとの見解を得た。

 授業後、学習者からの感想として、「とても楽しかった」、「これから日本人と会話するときに役に立つと思う」「日本人と会話するときに実際に使ってみたい」、「今までは「はい」だけしか使えなかったが、相づちのバリエーションが広がってよかった」などの声を聞いた。電話帳や携帯電話などの生教材を使ったことで、授業内容に興味をもってもらえ、実習生を相手に実際使用の機会を得たことが、学習者の自信や学習意欲を高揚させることにつながったのではないだろうか。海外で学ぶ学習者にとって、日本語会話における協調性や円滑さなどを日本人同士の会話や接触場面のなかから学ぶことは、非常に重要であり、その意味で、今回の実習は、有益であったと言える。

5.おわりに

5.1. まとめ

 本稿では、会話技術の教育のひとつとして、聞き手の言語行動を取り上げ、先行研究を整理した上で、学習者の実態の分析を行い、その結果を反映させた指導として、中級レベル授業の実践について報告した。

 その結果、学習者に聞き手としての言語行動を教えるには、聞き手行動の意識化→定式化した表現によるいくつかの代表的な相づちの導入と相づちを打つタイミング→相づちのイントネーションによる意味の違いからの使い分け→いろいろな表現形式による相づちの提示→相手に応じた相づちの使い分け→聞き手ターンの順で指導していくことを提案する。また、相づちを打つタイミングやイントネーションによる使い分けは、説明だけで習得できるものではないことから、これらにより重点を置いた指導を行う必要があることを指摘する。これには、授業内で学習者が発言する際に、教師が相づちを打ち、自然な形で普段から提示してみせることや、日本人と接する機会を増やし、会話の中の聞き手行動に注意を向けさせ、その表現の音声的な特徴を聞き取ることなどが有効であろう。

 また、特に海外で学ぶ学習者においては、学習と実際使用の有機的な結び付きをつくることが重要であり、会話能力の向上には、自然な日本語会話の提示と日本人との接触場面を含んだ練習が不可欠である。そして、そのような授業を行うことが学習者の学習意欲を高め、会話技術の習得につながるものと思われる。 

5.2. 今後の課題

 今回は、中級レベルの学習者を対象とし、聞き手ターンの指導方法については触れなかったが、今後はさらに上のレベルの学習者を対象とした聞き手の言語行動の指導方法について検討していく必要がある。またさらに、相づちの使い分けのための効果的な練習方法、使用の定着を図るような活動及び定着したかどうかの評価ができるような教室活動も考えていかなければならないだろう。

 語学教師特有の話し方は、ティーチャートークと呼ばれ、日常会話に見られるような自然な日本語の話し方とは異なるものであることが指摘されているが、授業中に、学習者の発話に対して相づちを打つことにより、自然なかたちで提示し、インプットを促すために、教師が聞き手に徹する姿勢や意識をもつことも重要である。

 このように、残された課題や会話教育を進める上での問題点は多く、今後さらに、学習者の会話の分析を進めたうえで、その結果を反映させた指導方法について考えていく必要がある。本稿が、より効果的な会話教育を行うための一試案となれば幸いである。

【注】

注1 会話教育のシラバス及び会話技術のリストに関する研究には畠(1988)、谷口(1989)、尾崎(1996)、岡崎(1987)などがある。

注2 会話技術の具体的な指導に関する研究は、岡崎(1987)、伊藤(1993)、椿(1997)などがあるが、学習者の発達段階に応じた指導方法の実践とその効果についての研究は少なく、これからの研究の課題であるといえる。

注3  この用語は、伊藤(1993)による。

注4  「ターン」とは「会話における話者交替の単位で、一人の会話参加者が話し始めてから次の参加者が話し始めるまでの発話」である。このうち、「参加者間で発話権を認められた話し手が行う発話」を「話し手ターン」とした。聞き手ターンの定義は2.で述べたので、そちらを参照されたい。

注5  話し手ターン取得のきっかけと、自己選択、他者選択による割合の変化の具体的な結果については、木暮(1999)を参照されたい。

注6 聞き手ターンの種類が、どのように変化していくかについての分析は、今後の課題としたい。

【参考文献】

伊藤博子(1993)「談話の指導−バックチャネルからの展開−」『日本語学』第12巻8号 明治書院 pp.78−91

大曽美恵子(1988)「英語のあいづち」『日本語学』第7巻13号 pp.46−51

岡崎敏夫(1987)「談話の指導−初〜中級を中心に−」『日本語教育』62号 pp.165−177

尾崎明人(1996)「会話教育のシラバス再考−会話の展開と問題処理の技術を中心として−」『日本語・日本文化論集』第4号 名古屋大学留学生センター pp.119−135

金秀芝(1994)「日・韓両語における「あいづち」の対照研究−電話の会話を中心に−」『平成6年度日本語教育学会春季大会予稿集』pp.85−90

窪田彩子(1999a)「初級・上級日本語学習者の初対面時に使用する相づちについての一考察」『平成11年度日本語教育学会春季大会予稿集』pp.179−184

窪田彩子(1999b) 「初級・上級日本語学習者の相づち詞の形態−日本人対話者の年齢が及ぼす影響−」『日本語教育学会秋季大会予稿集』pp.141−146

黒崎良昭(1987)「談話進行上の相づちの運用と機能−兵庫県滝野方言について−」『国語学』150 国語学会 pp.15−28

木暮律子(1999)「日本語学習者の相互作用能力の発達について」『第10回第二言語習得研究会全国大会予稿集』

小宮千鶴子(1986)「相づち使用の実態−出現傾向とその周辺−」『語学教育研究論叢』大東文化大学語学教育研究所 pp.43−62

杉戸清樹(1989)「ことばのあいづちと身ぶりのあいづち」『日本語教育』67号 pp.48−59

谷口すみ子(1989)「会話教育のシラバス作りに向けて−会話の技術のリスト試案−」『日本語教育』68号  pp.259−266

椿由紀子(1997)「初級の会話教育−会話の技術の教育実践−」『日本語・日本文化論集』第5号 名古屋大学留学生センター pp.85−99

椿由紀子(1998)「コミュニケーション活動中心の会話教育−会話の技術の教育−」『日本語・日本文化論 集』第6号 名古屋大学留学生センター pp.101−114

野畑理佳(1996)「対話における聞き手の言語行動−相づち的な発話による聞き手の参加−」『平成8年度日本語教育学会春季大会予稿集』

畠弘巳(1988)「外国人のための日本語会話ストラテジーとその教育」『日本語学』第7巻3号 明治書院  pp.100−117

ポリー・ザトラウスキー(1986)(1987)「談話の分析と教授法(1)(2)(3)−勧誘表現を中心に−」『日本語学』明治書院 第5巻11号pp.27−41、第5巻12号pp.99−108、第6巻第1号pp.78−85

ポリー・ザトラウスキー(1993)『日本語の談話の構造分析−勧誘ストラテジーの考察−』くろしお出版

堀口純子(1988)「コミュニケーションにおける聞き手の言語行動」『日本語教育』64号 pp.13−25

堀口純子(1991)「あいづち研究の現段階と課題」『日本語学』第10巻10号 明治書院 pp.31−41

松田陽子(1988)「対話の日本語教育学−あいづちに関連して−」『日本語学』第7巻12号 明治書院 pp.59−66

水谷信子(1984)「日本語教育と話しことばの実態−あいづちの分析−」『金田一春彦博士古稀記念論文集』第2巻言語学編 三省堂 pp.261−279

水谷信子(1988)「あいづち論」『日本語学』第7巻12号 明治書院 pp.4−11

水野義道(1988)「中国語のあいづち」『日本語学』第7巻12号 明治書院

宮地敦子(1959)「うけこたへ」『国語学』39 国語学会

メイナード・K・泉子(1987)「日米会話におけるあいづち表現」『月刊言語』第16巻12号 pp.88−92

山本恵美子(1992)「日本語学習者のあいづち使用実態の分析−頻度および種類−」『言語文化と日本語教育』第4号 お茶の水女子大学日本言語文化研究会 pp.22−34

登里民子(1994)「日本語の相づち詞の発達過程」『Proceedings of the 5 th Conference on Second   Languages Research in Japan』 Language Programs,International university of Japan pp. 10-24

楊晶(1997)「中国人学習者の日本語の相づち使用に見られる母語からの影響−形態、頻度、タイミングを中心に−」『言語文化と日本語教育』第13号 平田悦郎先生退官記念号 お茶の水大学日本言語文化学研究会 pp.117−128

劉建華(1987)「電話でのアイヅチ頻度の中日比較」『月刊言語』第16巻12号 pp.93−97


BACK