教師が行う<質問>に関する一考察

 

1 はじめに

 

 授業中、教師は学習者に対して様々な<質問>を行っている。教師から学習者への<質問>は、授業を進める上でなくてはならないものである。本稿では、実際に行われた授業の中で教師が学習者に対してどのような<質問>を行っているかを分析する。分析の対象としたのは、筆者が担当した、初級クラスの授業である。合計4コマ(1コマ=50分)の授業を録画したビデオを資料とし、その中で教師が学習者に対して行っている<質問>を取り上げた。

 

 

2 <質問>の分類と利点・欠点・留意点

 

 本稿では、<質問>を「話し手が聞き手に情報を要求する行為」と定義する。授業中、教師は様々な<質問>を学習者に対して行っているが、<質問>の目的、つまり、何のために情報を要求するのかという目的によって、<質問>を分類することができる。そして、それぞれの<質問>の利点・欠点、また、<質問>を行う上での留意点について考える。

 

2. 1 学習者の能力・知識を試すための<質問>

 

 授業の中に現れる<質問>には、教師が<質問>の答えを知っていながら行っているものがある。教師が行った<質問>には正しい答えが存在し、教師はそれを知っている。学習者も教師が正しい答えを知っていることをわかっている。このような<質問>の目的は、学習者の日本語の能力や知識を試すことである。学習者が教師の考えている正解を答えることができれば、能力や知識があるとみなされる。その例として、資料の中には次のようなものがある。

 

例1 わたしの名前はなんですか?

     ええと じゃあ 職業はなんですか?

     じゃあ どこに住んでいますか?

     誰と住んでいますか?

   

 例1では、教師が自己紹介をした後、自分自身について学習者に<質問>をしている。自分自身のことであるので、もちろん、答えはわかっている。この<質問>の目的は学習者が教師の自己紹介を聴き取って理解できているかを試すことである。同じような<質問>には以下のようなものがある。

 

例2 じゃあ 最初に何をいいますか。初めて会った人に自己紹介をするとき はじめに何を 言いますか?

 

例3 日本の中学校は9教科あります。何がありますか。どんな教科がありますか。

 

例4 (絵を見せながら)これ なんでしょう。朝 学校に来ました。なんと言いますか?

 

例5 (絵を見せながら)ごはんを食べていますね。先生は塩が取れません。塩が取れません。なんと言いましょう。

 

 上の例はすべて教師が学習者の知識を試すために行っている<質問>である。このような<質問>には正解が存在する。学習者がそれを知らなかった場合、<質問>に答えることはできず、そのままでは授業が中断してしまう。そのため、教師は<質問>を変えたり、ヒントを出したりして、なんとか学習者が答えられるように誘導する。次はその例である。

 

例6 T:ええと、じゃあ、職業はなんですか?

     S:日本語の

     T:日本語の?

     S:[笑]

     T:[笑] 先生ですか?学生ですか?

 

例7 T:食べる、飲む。これは?

     S:(応答なし)

     T:ごはんを食べる前に何を言いますか?一番はじめの授業でやりましたね。挨拶ことば。ごはんを食べる前に。

 

例6で、教師は自分自身の職業について学習者に<質問>を行っている。しかし、学習者が「日本語の…」と言いかけてやめてしまったため、「先生ですか?学生ですか?」と二者択一の<質問>に切り替え、正解に近づくように誘導している。また、例7で、教師は「食べる、飲む。これは?」という<質問>を行い、「食べる、飲む」の謙譲語をたずねている。しかし、学習者からの応答がなかったため、「ごはんを食べる前に何を言いますか?」と、学習者が正解を出せるようにヒントを出している。

 教師が答えを知っていながら、学習者の能力や知識を試すために行う<質問>は、正解を言わなければいけないというプレッシャーを学習者が感じる恐れがある。学習者がまちがいを恐れて発言をひかえたりすることになれば、授業自体が生彩を欠いたものになってしまう。しかし、このような<質問>は学習者がどの程度の力を持っているかを測るためには欠かせないものである。たとえば、教師自身の自己紹介の後、例1のような<質問>を行うかわりとして「わかりましたか?」といった<質問>を行った場合、学習者は理解できていなくても「はい」と答えてしまう可能性がある。「いいえ」と答えたとしても、何がわからなかったのか、どの部分が聴き取れなかったのかといったことはわからない。また、教師が一方的に説明を行うのを避け、学習者を授業に巻き込むためにも、このような理解や知識を試す<質問>は有効である。したがって、なるべく学習者がプレッシャーを感じないような方法を考える必要がある。ひとりの学習者に対してではなく全体に対して<質問>を行い、答えられる学習者が答えればいいというようなかたちを取るなど、<質問>の仕方を工夫したり、もし学習者がまちがった答えをしてしまっても、それに対する適切なフォローをすることで、学習者に自信を失わせないようにしたりしなければならないと思う。また、学習者が「たとえまちがったとしてもどうということはない」と思えるような雰囲気や信頼関係を築くことも大切であろう。

 

2. 2 授業の枠組みに関わる<質問>

 

 教師が頻繁に行っている<質問>のひとつとして、授業の枠組みに関わる<質問>がある。その例としては、次のようなものがある。

 

例9 いいですか?

 

10 では、何か、ほかに質問。

 

11 では、ほかに何か。

 

12 大丈夫ですか?

 

13 わからないところありますか?

 

14 いいですか?ルール、わかりますか?

 

15 じゃあ、次、(SとS)どっちがやりますか。

 

16 (練習AとB)じゃあ、どちらでもいいです。どっちやりますか。

 

17  じゃあ、終わりましょうか。ちょっと早いですか?いいですか?じゃあ、終わりましょう。

 

 上の<質問>は、学習者がわかっているかどうか、できるかどうか、次の段階に授業を進めてもいいかどうかといった情報を学習者に要求している。このような<質問>は、授業の枠組みを作っていると言える。なぜなら、学習者の答えによって、前に戻って説明しなおすのか、それとも先に進むのか、また、誰が次に発言するのか、どの問題をやるのか、といったことが決まるからである。授業中、教師はこのような<質問>を頻繁に行っている。これによって、教師は授業の進み方を決めることができる。学習者にとっては、次の項目に進む合図になると考えられる。また、あまり理解できていない場合には、それを教師にアピールするきっかけをつかみやすくなる。したがって、授業の中でこのような<質問>をすることで、教師も学習者も授業をしっかりと積み上げていくことが可能になると考えられる。しかし、このような<質問>に頼りすぎてもよくないだろう。「わかりましたか?」「大丈夫ですか?」「いいですか?」と聞かれると、実際はあまりよく理解できていなくてもつい「はい」と答えてしまう場合もあるだろうし、学習者自身も理解したつもりになっていて「はい」と答えたものの実はあまりわかっていなかったということも起こり得るからである。

 

2. 3 授業の流れを作る<質問>

 

 例9から17までは、定型文とも言える<質問>である。これらは、授業中に繰り返し現れ、授業の枠組みを作っている。このような<質問>は、教師が無意識のうちに口癖のように行っているものも含まれている。そのようなものとは異なり、あらかじめその<質問>を行うことを教師が予定しており、それによって授業の流れを作っている<質問>がある。次はその例である。

 

18 T:よく電話をしますか?電話しますか?

      S:はい

      T:誰に電話をしますか?

      S:家族、と友達

      T:友達?国の友達?

 

18では、授業の導入部分で<質問>を使用している。この日は「電話する」という課を学習することになっていた。そのため、授業の始めの部分で例18のような<質問>を行い、その日の学習項目を学習者に印象づけながら授業を開始しようとしている。このような<質問>で授業を開始した場合、たとえば、「今日は電話する練習をしましょう」というような始め方をするよりも、学習者が身構えることなく、リラックスした雰囲気が保てると考えられる。このような<質問>を効果的に使うことで、学習者にその日の活動を提示しながら円滑に授業を開始することができる。

 

2. 4 会話練習のための<質問>

 

 会話の練習として、Q&Aを行うことがある。次はその例である。

 

19 T:趣味は音楽を聴くことですか。どんな音楽を聴きますか?

      S:ダンスの音楽

      T:じゃあ、ダンスをしますか?

      S:はい、ときどき。

 

19では、ある学習者が自己紹介で趣味は音楽を聴くことだと言ったのを受けて、「どんな音楽を聴きますか?」と<質問>を行っている。このような<質問>を行い、会話を展開させることで、実際の会話により近いかたちで授業を進めている。この自己紹介は初日の授業で行われた。学習者に関する情報を少しでも多く集めることや、学習者の日本語レベルをチェックすることも目的として、自己紹介の後にこのようなQ&Aを行うことを教師はあらかじめ計画していた。つまり、会話練習として<質問>を行っている。しかし、この、教師が学習者自身に関する<質問>をし、学習者がそれに答えるという練習は、機械的なQ&Aではない。教師は学習者の答えを知らないため、実際の会話により近いと言える。答える学習者自身も、自分のことについて言うことができたという満足感が得られるのではないだろうか。また、学習者によって答えも異なるため、Q&Aを聞いている他の学習者にも興味が持てる内容となる。

 

2. 5 授業計画外の質問

 

 ある活動中に、それに関連した<質問>を行うことがある。このような<質問>は、練習や授業の流れを作るためにあらかじめ行うことにしていた<質問>とは異なる。ほかの活動中に行われた<質問>であり、計画外のものである。次はその例である。

 

20 いってらっしゃい。いってきます。毎日言いますか。奥さんに言いますか。

 

20は、挨拶ことばの練習をしていたときに行った<質問>である。絵カードを見せ、その状況にふさわしい挨拶を考えるという学習をしていた。「いってらっしゃい」「いってきます」という挨拶がでてきた時に、ある学習者に対して例20のような<質問>を行った。この<質問>に対して、この学習者は、「自分が出かけるとき彼女はまだ寝ているので、いってらっしゃい、いってきます、という挨拶はしない」というような冗談を言ったため、笑いが起き、クラスが和やかな雰囲気になった。この場合の<質問>は授業を進行する上で直接関係がなく、また、例19のように、練習のための<質問>でもないため、少し話がそれているような印象も受ける。しかし、笑いが起こることによって学習者は一瞬リラックスができる。上のように上手に答え、クラスの雰囲気を良くしてくれるムードメーカー的な役割を担ってくれる学習者がいる場合、このような<質問>も効果的に使うべきだろう。

 

2. 6  授業とは直接関係のない<質問>

 

 授業の中では、授業の進行や内容とはまったく無関係な<質問>も行われていた。次はその例である。

 

21 暑いですか。クーラー下げましょうか。

 

 例21は、学習者の一人が暑そうにしている様子を見て、教師が行った<質問>である。授業の中では、このような<質問>も行われている。教師は学習者の様子に気を配り、学習者が快適な状態で授業を受けられるようにする必要がある。また、このような<質問>をしたり、それに答えたりすることは、授業とは直接関係がないとはいえ、日本語で生活していく学習者にとってはいずれ役に立つことでもあるだろう。

 

 

3 おわりに

 

 以上、授業の中で教師が行っている<質問>について見てきた。授業の中では、さまざまな目的で<質問>が行われている。授業を進めていくために必要不可欠な<質問>には、利点と欠点がある。それぞれの利点を生かし、欠点を補いながら、効果的に<質問>を使い、授業を進めていく方法を考えていく必要があるだろう。

 


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