「中級クラス運営上の問題点」    蓮池いずみ

 

1.はじめに

 今年度の夏期AET教育実習では、学習者14名のうち5名を中級レベルと判定し、初級クラスとは異なるカリキュラムで授業を行った。過去の実習記録や、教材を参考に事前にカリキュラム・デザインができる初級クラスと異なり、今回の中級クラスでは、事前の準備が十分に行えず、コース開始後にさまざまな問題が生まれ、実習生自身にとっても、多くの課題が残るクラスとなった。ここでは、実習生による授業記録と、学習者からのフィードバックをもとに、中級クラス運営上の問題点を明らかにし、問題解決にはどのような方法があるかを考える。

 

 

2.中級クラスの概要

2.1 実習生

 実習生のコマ数の負担を減らすため、5名の実習生が、交代で授業を担当した。

 

2.2 学習者

 コース開始時は3名だったが、1日目の後半から2名(学習者D,E)が加わった。5人の学習者のプロフィールは以下のとおりである。

 

学習者

国籍

性別

学習歴

日本滞在経験

アメリカ(中国系)

3年

1ヶ月

アメリカ

2年

9ヶ月

イギリス

ニュージーランド

4年

2回

オーストラリア

6年

1ヶ月

 

 

 

 

 

 

 

2.3 シラバス

 

 事前の調査では、学習者の希望する授業内容が、「会話」、「文法」、「日本文化について」など様々であり、また、ひとりひとりのレベルもよくわからなかったため、基本的には、学習者の意見や希望をきき、それにもとづいて授業を行う後行シラバスの形をとった。コース前半は、日本文化紹介を兼ねた読解教材を用意し、それを題材にディスカッションを行う授業や、「頼む」、「誘う」など、機能別の会話練習などを行った。コース後半は、読解や会話に加え、学習者の希望に合わせた文法の授業を行ったが、日本文化紹介のひとつとして、「手紙の書き方/暑中見舞いを書く」を授業にとりいれた。

 

 

3.中級クラスの問題点

 以下に、授業を担当した実習生による8日間の授業記録と、各授業内容に対する学習者のフィードバック(アンケートの回答)を示す。授業記録の内容と、学習者の評価を照らし合わせ、各授業における問題点について考えていく。

 

*授業記録は、内容をわかりやすくするために、一部筆者が修正、加筆を行った。

*フィードバックの結果は、各授業が「役に立ったか」、「理解できたか」という2つの

 質問項目に対する学習者の回答(A〜Eの5段階)を、点数化(A:4点、B:3点、C:2点、D:1点、E:0点)し、学習者全員の点数を合計したものを示してある。

 20点満点で、点数が高いほうが評価が高い。

 

3.1 1日目

内容: 自己紹介、読解「敬語」 出席者: 1時間目…A、B、C/2時間目…全員

学習者からのフィードバック: 「役に立ったか」−14点 「理解できたか」−17

担当者のコメント:

・A〜Cは3人ともよく話し、よく質問する。

・Aは、読むのが速い。

・Bは、「受身形」、「使役形」、「使役受身」が苦手らしい。

・Cは、漢字の読み方に苦労している。

・Aなどから、「と、ば、たら、なら」の違いを詳しく教えてほしいという意見が出た。

・B、Eは、2級の問題を宿題にしてほしいと言っている。

・2時間目に「会話」の授業をする予定だったが、時間がなくなり、できなかった。

・A〜Cの会話力、聴解力はあまり変らない。

・学習者の得意分野、不得意な分野が明らかになった。Aは漢字や読解に強く、基本的な文型は押さえている。「と、ば、たら、なら」のように、使い分けの難しい文法事項や、難しい語彙について質問してくる。B、Cは読解は苦手。基本的な文型は理解しているものの、「受身、使役」などの文型に混乱がみられる。Aに比べ、語彙も少ない。

・よく質問が出るので、計画どおりに授業が進まない。

・この時点では、D、Eの日本語力のチェックが十分にできていない。

・「理解できた」が、「役に立たなかった」と思っている人が多く、読解の内容は簡単だったが得るものの少ない授業となってしまったようだ。

 

3.2 2日目

内容: 読解「日本の子供たち」/発表    出席者: 全員

学習者からのフィードバック: 「役に立ったか」−12点 「理解できたか」−12

担当者のコメント:

・読む作業に慣れていない人が多く、半分位しか読むことが出来なかった。

・レベル差があり、自力で読めない人もいる。

・レベル差があるため、他の学習者の発言があまり理解できていない人もいる。

・人が話している間、あまり集中して聞いていない。

・1日目と同様、読解力にレベル差があり、D、Eが加わったことによって、レベル差が広がってしまった。

・緊張が緩んだのか、私語などが目立つようになる。

・今回は、1日目とは逆に、内容が難しすぎて、「役に立たなかった」と思う人が多かったようである。

 

3.3 3日目

〈1時間目〉

内容: 会話「頼む、許可をもらう」     出席者: 全員

学習者からのフィードバック: 「役に立ったか」−18点 「理解できたか」−15

担当者のコメント:

・BとEが、「使役形」や「受身形」の使い方がわからないので、詳しく説明してほしいと言っている。

・使役形(「〜させていただけないでしょうか」)以外の表現は、皆スラスラと言える。

・時間が足りず、最後のタスクができなかった。

 

〈2時間目〉

内容: 会話「誘いと断り」     出席者: 全員

学習者からのフィードバック: 「役に立ったか」−17点 「理解できたか」−16

担当者のコメント:

・皆好き好きに話し出してしまうので、注意すると、つまらなそうにする。その辺の兼ね合いが難しい。

・皆の質問にあまり答えられなかった。

・AとB以外の学習者は、フレーズレベルの発音が少しおかしい。

・Dは、「普通体」にあまり慣れていないようだ。

・時間が足りず、後半の会話が十分にできなかった。

・「使役形」は、1日目にも「使い方がわからない」と言っている人がいたが、今回の会話に登場したことによって、「受身」、「可能」などとの混乱が多くの学習者に共通するものであることがわかった。

・会話力にも多少差があることがわかった。

・質問が多いため、時間が足りなくなる。

・私語や質問が多く、クラスコントロールが難しい。

・読解に比べ、「役に立った」とする学習者が多く、学習者が会話の授業を必要としていることがわかる。

 

3.4 4日目

内容: 文法「ば、たら、なら、と」   出席者: 全員(AとEは1時間目遅刻)

学習者からのフィードバック: 「役に立ったか」−17点 「理解できたか」−18

担当者のコメント:

・プリントは宿題だったが、Cだけがやってこなかった。

・問題文に未習の表現があると、皆質問してくる。

・時間が足りず、2時間目の会話をやめて、文法の続きをすることにした。

・Cは、使い分けがあまり理解できず、問題の選択を間違えるといらいらしているようすだった。

・Bは、途中で「わかった」と言って、満足げなようすだった。

・AとDは、細かいところまで注意して問題を解いていた。

・学習者の性格の違いや、学習意欲の差が現れてきている。Cは宿題をやってこない、難しい問題に取り組みたがらない、などの様子から、ほかの学習者に比べ、学習意欲が低いと考えられる。AやDは終始こつこつと真面目に取り組み、Bは特に積極的に学習し、他の学習者のリーダー的存在である。

・やはり時間が足りない。

・学習者のリクエストに応えて実施した授業であったため、「役に立った」とする学習者が多かった。「理解できた」とする学習者も多く、比較的満足度の高い授業となった。

 

3.5 5日目

内容: 文法「可能、受身、使役」    出席者: 全員

学習者からのフィードバック: 「役に立ったか」−19点 「理解できたか」−15

担当者のコメント:

・Eが少し遅いか。

・一度に全部復習したので多少混乱も見られる。

・Eの日本語力の低さが目立っている。

・これも学習者の希望に合わせて行った授業であったため、ほとんどの学習者が「大変役

 に立った」と答えている。学習項目が多かったため、理解度が少し低くなっている。

 

3.6 6日目

〈1時間目〉

内容: 読解「ブックカバー」    出席者: 全員

学習者からのフィードバック: 「役に立ったか」−15点 「理解できたか」−18

担当者のコメント:

・Aが、細かいところまで質問してくる。

・今日の読解は簡単だったようで、練習問題もすぐ解けた。

・Bの、「宿題がほしい」という希望に応えて、日本語能力試験2級対策問題集の一部をコピーして全員に渡した。Cは、2級が難しいと言うので、3級の問題も渡した。

 

〈2時間目〉

内容: 会話「ことづける」     出席者: 全員

学習者からのフィードバック: 「役に立ったか」−17点 「理解できたか」−19

担当者のコメント:

・授業のはじめに、能力試験についていろいろ質問されたため、最後に時間が足りなくなった。

・皆、「〜とお伝えいただきたいんですが」がうまく言えなかった。もう少し練習した方がよかった。

・A、B、Eは日本語能力試験に興味を示している。

・やはり質問に答える時間が多くなってしまう。クラスコントロールの必要がある。

・読解は少し簡単だったためか、理解度が高いわりに「役に立った」と思う学習者が少なかった。1日目の反省が生かされていない。

 

3.7 7日目

内容: 手紙の書き方/残暑見舞いを書く    出席者: 全員

学習者からのフィードバック: 「役に立ったか」−16点 「理解できたか」−10

担当者のコメント:

・Aは、細かいところまで理解しないと満足しない。

・内容より型の理解を目標にしていたが、内容について質問が集中した。

・Eは、全くお手上げの状態だった。

・Eはあまり文を書けないが、和紙を使っての暑中見舞い作成は喜んでやっていた。

・Bも、手紙の書き方は知らなかったのでよかったと言っていた。

・Eの日本語力の低さが、はっきりとわかるようになった。

・手紙の書き方や、暑中見舞い作成には文化的要素が多分に含まれるため、学習者にとって興味深い内容であったようだ。

・理解度が低いのは、実習生が「手紙の書き方」の説明に使用した日本語が、難しすぎたことが原因のようだ。Aはわからないことは全て質問するため、結果的に実習生の計画どおりに授業が進まず、学習者に「難しい」という印象が残ってしまったと思われる。

 

3.8 8日目

〈1時間目〉

内容: 文法「他動詞、自動詞」    出席者: 全員

学習者からのフィードバック: 「役に立ったか」−19点 「理解できたか」−18

担当者のコメント:

・難しすぎず、簡単すぎずという感じで、レベル的にちょうどよかった。

・Aはほとんど間違えなかった。

・Eは少し大変そうだった。

 

〈2時間目〉

内容: 会話「考えを言う」    出席者: 全員

学習者からのフィードバック: 「役に立ったか」−19点 「理解できたか」−19

担当者のコメント:

・今までより量が少なかったが、余裕があってよかった。

・Eは、早速習った表現を活用していた。

・1時間目、2時間目ともに「役に立った」、「理解できた」とする学習者が多く、比較的満足度が高くなっている。実習生自身が指摘するように、学習内容、難易度、量が学習者に合ったものであったことが、満足度の高さにつながったと考えられる。

 

 

4.問題点のまとめ

 3.13.8であげられた問題点は、次の1〜3にまとめることができる。

 

1)授業内容

@実用性

 今回のクラスでは、「会話」や「文法」が「役にたった」と考える学習者が多かった。一方、「読解」は、あまり役に立たなかったと思っている学習者が多く、文化的な要素をとりいれようという実習生側の意図はうまく伝わらなかったようだ。今回の学習者は、実生活ですぐに役立つ会話表現や、使い分けの難しい文法項目などの授業を望んでいたということが、実習終了後に明らかになったが、こうした学習者のニーズを早い時期に把握する必要があったと思われる。

 

A難易度

 教材の難易度は、高すぎても低すぎても学習者にとって不満が残る授業になってしまう。「読解」の授業に対する満足度が低かったのは、実用性の低さに加え、内容が簡単すぎたこと、難しすぎたことが原因となっているようだ。

 また、「手紙の書き方」の授業のように、実用的な内容であっても、説明に使われる日本語の難易度が高すぎると、結果的に満足度が低い授業となってしまう。学習者にとっては、実用性の有無と同様に、難易度の高低が満足度を測る上で重要なポイントとなっているということが、今回の学習者のフィードバックからは明らかになった。最終日(8日目)の授業では、それまでの授業の反省を生かし、学習者にとってちょうどよい難易度の教材を用意することができたが、今回のような短期間のコースでは、これをより早い時期に実現する必要があったと思われる。

 

B量

 実習生の授業記録を振り返ると、「時間が足りなかった」という反省が非常に多い。練習の一部を省略するだけならよいが、前半「読解」、後半「会話」という予定を、前、後半とも「読解」にしてしまうなど、全体のスケジュールに関わってくる変更も何度かあった。

 時間が足りなくなる原因としては、今回の場合、学習者からの質問の量が多かったということがあげられる。しかし、質問量が多いことは1日目の記録にも書かれており、初期の段階からわかっていたことであった。それでもなお、時間の足りない授業が続いたのは、実習生側の用意した学習項目や練習項目の量が適切でなかったということであろう。限られた時間の中で多くを学習させようとするがゆえに、教材量が増えてしまい、結果的に消化不良の状態で終わってしまったということが多かったのではないかと思う。8日目の授業では、思い切って学習量をこれまでの半分ぐらいに減らしたが、結果は好評だった。これも、もっと早い時期に対策を考えるべきことであったように思う。

 

2)学習者間のレベル差

 第1日目に、すでに、学習者Aとそれ以外の学習者の間に、読解力の差があることがわかった。2日目には、学習者D、Eが加わったため、レベル差が広がったことが報告されている。3日目には会話力の差が、5日目には文法力の差が指摘されている。特に学習者Eの遅れが目立ち、7日目には、「Eはお手上げ状態」であると報告されている。学習者のフィードバックでも、「レベルの違いがあった」というコメントがあった。

 実習生から学習の遅れが指摘されているEは、初級から自主的にあがってきた学習者であるが、事前の調査で、実習生が初級終了レベルと判断していたことや、途中、自分から「難しいからクラスを変えてほしい」などと言い出すことは一切なかったことなどから、そのまま中級クラスを受講させていた。しかし、レベル差が大きくなると、実習生の負担が増えるばかりでなく、ほかの学習者の不満をも招くことになる。これも初期の段階で、何らかの対策が必要な問題であったと考えられる。

 

3)クラスコントロール

 今回の中級クラスを振り返って、担当した実習生は一様に「クラスコントロールが難しかった」ことを反省点にあげている。実習記録には、「質問が多かった」、「あまり集中して聞かない」、「私語が多い」などの指摘があり、実習生がそのような場合にどのように対応すべきかが課題として残った。

 初級クラスと異なり、中級クラスでは、実習生が予測できないさまざまな質問が出る。特に、学習意欲の高い学習者には、積極的に、理解できるまで説明を求める者もいる。しかし、全ての質問に答えようとすると、授業時間が足りなくなってしまう。質問にどのように、どの程度まで答えるかが問題となる。

 また、議論が過熱して学習者同士が母語で勝手に話し始めてしまう場合、あるいは意欲の低い学習者が集中できず、私語を始めてしまう場合などに、どのように注意するかも難しい問題である。教育経験の少ない実習生にとっては、いずれも8日間の短期コースでは解決できない難しい課題であるかもしれないが、事前に何らかの対策が立てられなかっただろうか。

 

 

5.問題解決の方法

 3であげられた問題の解決の方法として、次の1)〜4)が考えられる。

 

1)レディネス・ニーズ分析項目の詳細化

 今回の学習者に対するレディネス及びニーズ分析は、コース開始前のアンケートと、インタビューをもとに行った。

 まず、学習者の日本語学習歴や日本語レベルを知るため、過去の日本語学習経験の有無、学習時期、機関、期間、頻度、教科書、教師などについて答えてもらった。さらにインタビューテストを行うことによって、学習者の日本語能力に関しては、多くの情報を得ることができた。また、学習者のニーズを知るため、各学習者に「日本語のクラスで何を勉強したいか」という質問をした結果、中級クラスの5人の学習者に関しては、次のような回答を得ていた。

 

学習者A: 会話が下手なので上手に話せるようになりたい。日本人が読むような本を読みたい。

学習者B: 能力試験1級を受験する予定なので、文法を勉強したい。

学習者C: 日本の宗教や文明についてもっと知りたい。

学習者D: 文法、会話などをやりたい。

学習者E: 日本の文化について知りたい。

 

 しかし、以上の情報だけでは、学習者の興味や関心についてある程度のことはわかっても、学習者が本当に必要としている学習項目ははっきり見えてこない。学習者の日本語能力を正確に把握し、真のニーズを引き出すためには、次のような調査項目を新たに加える必要があるだろう。

 

・「話す」、「読む」、「聞く」、「書く」能力についての詳しい情報を得るために、学習者自身に、4技能のうち、自信があるもの、ないもの、現在必要としているもの、必要としていないものをあげさせる。

・どんな話題に興味があるか、また、どんな話題について話す機会が多いかを聞く。

・授業内容の具体例を出し(「ディスカッション」、「手紙の書き方」など)、どの授業を受けたいか、選ばせる。

・自宅で勉強する時間をどれぐらいとれるか、宿題がほしいか、ほしいとすればどのぐらいの量の、どのような内容のものがほしいのかを尋ねる。

 

 以上のような質問項目を加えることにより、事前に学習者がどのような授業を求めているかがより正確に把握できるであろう。また、学習者の学習意欲についてもある程度のことが明らかになり、クラスの雰囲気に関してもだいたいの予想を立てることができると考えられる。今回の事前調査では、初級レベルの学習者が大半であることを想定していたため、全ての学習者に共通の調査項目を用意したが、今後は、インタビューの時点で、初級終了以上のレベルであるとみなされた学習者に関してのみ、上で述べたような詳細なレディネス・ニーズ分析を行うべきであろう。そうすることによって、中級クラスのシラバス設定がより行いやすくなり、授業内容がより満足度の高いものとなるであろうと思われる。

 

2)中級用プレイスメントテストの実施

 今回、中級クラスを受講した学習者は、全員が事前のアンケート調査及びインタビューの結果で初級終了以上のレベルであると判断されていたが、実際に同じクラスで授業を行ってみると、学習者間に大きなレベル差が見られた。一口に中級レベルといってもその段階はさまざまであり、今回のようにレベルが高い学習者が多い場合、初級と同じ内容のアンケートやインタビューで中級以上のレベルを測るのには無理があるようだ。初級終了以上の学習者が何人か集まった場合、全体向けのテストとは別に、中級レベル用のプレイスメントテストを実施する必要があると思われる。

 具体的には、日本語能力試験3級から2級程度の語彙や文法項目を含む問題に対し、どの程度答えられるかを筆記及び口頭でテストし、学習者同士のレベル差が大きければ、中級をさらに二つのクラスに分ける、あるいは同じクラスでも学習者のレベルや希望に合わせて異なる教材を用いる等の処置をとるのが理想的であると考える。コース開始前にプレイスメントテストを行う時間がとれなければ、授業開始1日目に行い、2日目からそれぞれのクラスに分かれるというのも一つの手段である。今回の中級クラスのように、レベル差による問題が起こることを防ぐためにも、事前にきちんとした形でプレイスメントを行うことが何より必要だと思われる。

 

3)授業時間の見直し

 今回の中級クラスでは、学習者からの質問が多いため時間が足りなくなり、授業内容がすべてこなせないまま終わってしまうという問題があった。学習者からのフィードバックには、「授業時間が短すぎた」、「授業が1日3〜4時間ぐらいだとよかった」「学習量が少なかった」などの意見があり、実習生からも、「初級クラスに比べ、中級クラスは時間が短く感じた」などという感想が出た。

 比較的教師主導型になりがちな初級クラスに比べ、日本語能力の高い中級クラスでは、(学習者の性格やクラスの雰囲気にもよるだろうが)学習者とのやりとりの中で、授業が中断したり、別の方向へ行ったりすることが多々ある。学習者の人数が多ければなおさらである。学習者の方も、初級のように常に集中して練習にとりくんでいるわけではなく、他の学習者の話を聞いたり、考えたりする余裕がある場合がほとんどである。

 従って、中級クラスは、初級クラスより授業時間を長くとっても、学習者への負担はあまりないはずであり、むしろ時間をかけてひとつのことを行った方が学習の効果があるのではないかと考えられる。今年度は、初、中級ともに1日当たり50分授業を2コマ実施したが、今後は授業時間や、コマ数の見直しを行い、学習者の人数やレベルを考慮して、学習者、実習生の双方にとって満足のいく授業時間を確保することを勧めたい。

 

4)実習生同士の協力

 今回の実習では、実習生が5人と少なく、初級の2クラスを2人ずつで担当し、中級クラスは残りの1名と、ほかの4名が交代で入る形式をとった。実習生全員が中級クラスに関われた点、学習者がいろいろな実習生の日本語に触れられた点では良かったが、一クラスに関わる実習生の人数が増えると、実習生自身がクラスの状況を把握しにくいという問題が生じてくる。今回のような短期集中コースでは、実習生ができるだけ早く学習者の状況を把握し、適切な処置を行う必要があるが、実習生ひとりひとりがクラスに入る時間数が少なくなると、それだけ問題の発見も遅くなり、対処も遅れてしまうということになりがちである。3.4であげた、今回の中級クラスにおける問題点の多くは、クラスに関わる実習生の人数の多さがマイナスに働いたことが原因であると思われる。

 では、今回のような短期コースにおける中級クラスを担当するにあたって、実習生同士でどのような協力が必要となるであろうか。まず、実習生同士はクラスの様子をまめに報告し合うこと。特に問題点に関しては、その日のうちに話し合い、解決策を考えることが必要である。学習者の興味の問題、レベル差の問題、難易度の問題などは、こうした話し合いをもつことによって解決できる問題であると思われる。次に、お互いの授業計画をチェックし合うこと。できれば、模擬授業のような形をとって、どのような質問が出るか、どのような対応が適切かを考えておく。特に教育経験の少ない実習生の場合、レベルに適した教材を選択する作業や、学習者の質問に的確に答えることには困難が伴うため、実習生同士の協力が欠かせない。また、お互いの授業に参加し、クラスの様子をチェックすると同時に、お互いが授業で対応できなかった問題について共に考える機会を持つことも大切であると思われる。学習者からの予期せぬ質問にどう答えるか、集中していない学習者や私語の多い学習者にどう対応するかなど、クラスコントロールの問題も、実習生がお互いを客観的に批評し合い、助言を与え合うことによって解決が可能になると考える。こうした実習生同士の協力体制を強化するためには、初級クラスとは別に、少人数の実習生が中級クラス専任となって担当するのが理想的であろう。

 

 

6.まとめ

 本稿では、今年度の夏期AET実習における中級クラス運営上の問題点と、その解決方法について述べた。今年度は、事前準備の段階で、中級クラスを想定していなかったため、コース開始までに適切な対応ができなかったことが、結果的に多くの反省点を生んでしまった。今後も、中級クラスを設置する必要性が出てくることを想定し、事前準備の段階で、初級とは別の対応策を練っておく必要があるだろう。十分な事前準備と実習生同士の協力が実現すれば、学習者だけでなく、実習生にとっても満足度の高い実習となると思われる。さらに、AET教育実習の質の向上のためにも、今後も、初、中級クラスの運営方法についてあらゆる面から見直し、改善を続けていくことが必要であると考える。

 

 

 

〈参考文献〉

田中望(1988) 『日本語教育の方法』大修館書店

宮地裕、田中望(1988)『日本語教授法』日本放送出版協会

名古屋大学大学院文学研究科日本言語文化専攻(1995)1994年度日本語教育実習報告』

名古屋大学大学院文学研究科日本言語文化専攻(1996)1995年度日本語教育実習報告』

名古屋大学大学院文学研究科日本言語文化専攻(1999)1996年度日本語教育実習報告』

名古屋大学大学院文学研究科日本言語文化専攻(1998)1997年度日本語教育実習報告』

名古屋大学大学院文学研究科日本言語文化専攻(1999)1998年度日本語教育実習報告』

 

 

 

 


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