実習の内容は、カセサート大学の日本語学科のトリティプ先生及びソムチット先生と電話と電子メールによって相談した。カセサート大学からは指定はなく、全てこちらの要望を受け入れていただくことになった。
学習者の日本語の発音がまだ完全には形成されていない初級の段階で音声を導入すべきであると考えたが、カセサート大学では初級の学習者である1年生はまだ専攻が決まらず、人数が多いという点で、音声の授業には不適当であると考え、当時比較的時間に余裕のある2年生を授業の対象として決めた。また、ある程度独自の発音が形成されていると思われる中級の学習者の発音についても観察し、指導することにした。
7月から9月の間の名古屋大学の夏休みとカセサート大学の8月からの新学期を考慮して、8月の10日から20日までの期間を実習期間と決めた。一週3日、1日に1コマ(50分)のカセサート大学の形式に従った。
著者のカセサート大学での経験及び先生方に確認した情報によると、日本語の音声を全面的に指導する授業はまだないということであったので、今までにない音声の授業を試みたいと考え、音声を中心とする授業にした。
全てこちらで用意した。教材は主に今田滋子の『発音』の教科書(国際交流基金日本語国際センター,1989)の発音練習と大坪一夫(監)の『日本語の音声』の教科書(アルク,1987)を応用した。自作の聞き取り練習のテープの作成に当たって、国際言語文化研究科日本語文化専攻博士課程前期課程2年生の馬場典子さんに録音を依頼した。
場所:国立カセサート大学人文学部外国語学科日本語セクション
時間:50分を1コマとして、1日1コマ。2週間で合計6日間、6コマ。
対象:日本語専攻2年生15名(全員女子)
内容:日本語の音声
実習期間は2週間で、1999年8月10日(火)、12日(木)、13日(金)、17日(火)、19日(木)、20日(金)に授業を行った。
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8/10(火) |
日本語の母音・子音
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発音・聞き取り練習 |
プリント、テープ |
8/12(木) |
特殊拍・リズム
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発音・聞き取り練習 |
プリント、テープ |
8/13(金) |
アクセント |
発音・聞き取り練習 |
プリント、テープ |
8/17(火) |
イントネーション・
プロミネンス |
発話練習 |
プリント、テープ |
8/19(木) |
非言語的要素 |
聴解練習 |
プリント、テープ |
8/20(金) |
コミュニケーション活動
(日本人教師による) |
コミュニケーションの総合力 |
プリント |
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1(8/10) |
日本語の母音・子音
発音練習 聞き取り練習 |
▲タイ人学習者独特の問題点を意識してもらう。
▲発音と聞き取りの2種類の問題があるということを教える。 ▲その発音上の問題点を直す方法を指導する。 ▲聞き取りは難しいので、練習を怠らないこと。 |
学習者はその問題点を既に自覚している。ただ、発音の出来る程度は個人によって違ったことから、本格的に指導されていなかったことが分かる(海外での文法重視教育の一つの現れである)。
一人一人の発音をチェックしたため、時間がかかった。また、聞き取りの問題点については、問題解決の方法としてのヒントは何も与えられなかった。
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2(8/12) |
特殊拍・リズム
発音練習 (聞き取り練習) |
▲特殊拍は一つの拍であるということを意識させる。 ▲従来と違ったリズムの教育(2拍1音節)を導入する。 |
現段階の学習者に2拍1音節などリズムの理論を紹介したのはかえって混乱を起こしてしまったのではないか。その場で(2拍1音節)リズム練習は良く出来ても、他の日にその練習を続けないで、その日だけの練習なら、特殊拍は一つの拍であるだけを強調し練習させたほうがより効果的だっただろう。
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3(8/13) |
アクセント
発音練習 聞き取り練習 |
▲アクセント規則とアクセント型を導入する。
▲アクセント核を聞き取る練習を行う。 ▲日本語の相対的アクセント(例:名古屋大学などの複合 名詞)にタイ語の絶対的アクセント(声調)が転移しない ように注意させる。 |
日本語話者の中でも、東京方言ではないアクセントで発話する人も多く見られるので、学習者にもコミュニケーション上で支障のない限り、無理に教える必要はないと思って、概要だけの紹介と練習で十分と考えた。
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4(8/17) |
イントネーション・
プロミネンス .発話練習 |
▲文末の高低で意味が変わるということに注目させ、練習さ
せる。 ▲伝えたいことを目立たせることを練習する。 |
文末の高低で意味が変わるということは初級の授業で単語ごと(例:でしょう)に教わったようで、それの復習になる。
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5(8/19) |
聴解練習
(ジェスチャーなど) |
▲言い間違い、言いよどみなどのある実際の発話を紹介する。
▲言い間違いなどを排除して、意味を聞き取る練習をさ せる。 |
日本からコピーして用意したテープの音が小さかったため、ネティブスピーカーの発話を聞かせるつもりであったが、結局、教授者がスクリプトを読むことになった。
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6(8/20) |
コミュニケーション活動
(日本人による) |
▲ネティブスピーカーと実際に接する。 |
学習者は思ったほど積極的ではなかった。また、日本語が窒カなかったため、日本人教師がタイ語で話した。お互いが初対魔ネので、最初は会話がスムーズではなかった。
▲日本語の発音(特に子音)のポイントの指導によって学習の発音が良くなるという点では、日本語の音声の教育が必要であるということが実感できた。ただし、実際に導入する際、工夫が重要であるということも今回の実習でわかった。
▲日本語の音声を導入しようとした反磨A学習者のニーズが反映されていないとも言える。学習者との接触と教育実習によって、教育側と学習者との釣り合う日本語教育への課題が与えられた。
<教授者>
▲教授者は日本語母語話者ではないため、いいモデルではなかった。また、準備したこと以上のことを聞かれると、自信を持って答えることが出来なかった。
▲教授者の声の大きさ・話し方には、学習者の興味を引くような力が欠けている。
▲最終チェックを忘れて、5日目のような失敗をおかした。
▲準備不足で、適切なタイ語の説明ができなくて、戸惑ったりした。
▲最終的に、どのくらい学習が学習したことを身についているのか、テストなどで確認しなかった
<授業>
▲1日の授業で、前回の項目と次回の項目の関係を示さなかった。その日の一回きりの授業のように感じられる。
<学習者>
▲学習者の中に、疲れていたり、授業に興味を示さなかったりした学習者もいた。一日のスケジュール、授業内容、教授者のいずれに原因があるのか、確認しなかった。(一部のアンケートでは、教授者の授業の進め方に原因があると指摘された。)