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電力会社のやらせメールについて

最近ロードバイクに関する興味深いブログを見つけました。作者は病院勤めのお医者さんで、仕事と子育ての忙しい合間を縫ってプロ並みの距離を走っていま す。目標は実業団の高いレベルで勝負することです。アマチュアホビーレーサーが参加するレースには興味がなく、私などからすると信じられない高みを目指しています。トレー ニング法やペダリングについて興味深い考察が多く参考になります。

この人はどんな分野でも短時間に高いレベルに到達してしまう文武両道のエリートタイプです。一流大学の医学部を部活に精を出しながら一発合格したのでしょう。のんびり屋の私に は、彼の集中力は逆立ちしても真似はできません。このようなエリートは往々にして自信過剰で威張りちらしている人が多い印象を受けますが、この人はとても謙虚で人格的に とてもバランスがとれており、好感が持てます。医者であっても体の調子が良くない場合、カイロプラクティックの治療師に積極的に見てもらっています。ト レーニング法については教科書の記述を鵜呑みにせず、自分の頭で自分の経験に基づいた解析を行おうとしています。私がHIV/AIDSの嘘についての作文 で述べたRobert GalloやAnthony Faucciとは全く違うタイプの人です。お医者さんにも児玉龍彦さんやこのような人もいるし、医者を十把一絡げに全面否定するのはいけないと感じ入りま した。

この人の原発事故についての反応が興味深いので少し紹介します。

事故が起こった当初は、とても冷静で放射能の危険性を煽るのはいけないという態度です。自分の職場が放射線管理されていることなどを例に出し、一読すれば 御用学者の口ぶりと瓜二つに読めてしまいます。もともとロードバイクトレーニングに焦点を絞ったブログなので、原発や放射能については多言はしていませんが、こ の人は内部被曝のこととか劣化ウラン弾のこととか一体どう考えているのだろうと、興味がそそられます。

驚きは、電力会社のやらせメール問題についてのこの人の感想です。公開説明会にサクラを使った茶番劇を演出するということの倫理性を問題にせず、バルクメールでヤラセを指示したことを問題にしています。地位も名誉もあり、頭のいいはずのエリートの脇の甘さを批判しています。そんなメールを大量に不特定多数に撒き散らせばバレてしまうのは明らかなのに、一体何を考えているのだ、と呆れ顔で、自分も気を付けなければいけないと気を引き締めています。彼のこのような態度がどの程度一般的なのかはわかりませんが、この人に好意を感じていたのにちょっとがっかりです。

考えて見るに彼のこのような態度はある程度社会的地位を獲得したエリートとしては当たり前なのかも知れません。管理職につけば自分の所属する組織の存在意義やその倫理性よりも、まずその組織の存続に考えをめぐらしてしまうのかも知れません。電力会社のやらせメール事件については、けしからんそんなことが行われているとは想像もしなかったという純粋な驚きの声も聞かれました。そのような人達は、一体この世界をどのように理解しているのだろうかと訝しく感じます。様々な産業分野でやらせメールと似たような行為が日々起っているに違いないことは、ちょっと想像力を働かせてみれば自明ではないでしょうか。メディア産業に携わっている人達までが驚いた素振りを見せるのには、呆れるのを通り越して拍子抜けしました。ニュース産業に携わっている人なら、社会の隅々に嘘と腐敗が蔓延していることは承知しているのだろうと考えていましたが、ひょっとしたらそうではないのかもしれません。    

40年近く原発反対運動をしてきた小出裕章さんという人がいます。京大の原子力実験所の先生で最近大メディアにも引っ張りだこになりテレビにも頻繁に出演 しているようです。彼はやらせメール問題が大手メディアに取り上げられた時、ポドキャストインタビューで、またですか、この人達は本当に性懲りのない人達 ですね、というような回答をしていました。彼は40年以上にわたって核産業の嘘と真実の隠蔽に日々対峙して来たので、自分の実体験として、この世界の胡散臭さを知っています。一方、我々運動家でない普通の人間は、ネットで知識を得、想像力を使って情報を咀嚼し理解するしかありません。

しかし、大メディアの嘘で固めた情報に飼い慣らされた一般人と小出裕章さんとでは余りにも世界認識のギャップが大きく、この溝を埋めることの困難さに呆然 としないではありません。このブログの主であるお医者さんは、日本社会の中では一応、成功したエリートです。地位もあり、お金もあります。一軒家に住み、 子育てしながら、ロードバイクの機材にお金を惜しむ必要がないくらいの実入りはあります。ただ、仕事とロードバイクトレーニングで忙殺されており、世界認 識ということで言えば、大メディアが垂れ流すニュースの概要を額面通り受け取り、自分の社会経験と照らし合わせて、自分なりの結論を出しているのだろうと 推測できます。私が直接対話して、その理解はちょっと浅いのでは、と反論しても、なかなか説得できないかも知れません。人間というものは、社会に出てある 程度の地位とお金を手に入れてしまうと、自分が今まで騙されていた、ということを認めるのが困難になるようです。

お医者さんだからといって、放射能について正しい理解を持っているとは限りません。医療科学の分野では高度な専門化が確立しており、外科医の先生は放射線については教科書に書いてあることの概要しか頭に入っていないのでしょう。ICRPのモデルとECRRのモデルの対立については、前者が現時点でのドグマですが、10年後はわかりません。今だって、癌保険を売っている保険会社はかなり厳密にふたつのモデルを比較検討し、自分なりの結論を出しているのかも知れません。計算高い彼らは、いくらドグマだからといって、間違っているモデルと心中して経済的損失を出すわけには行きませんから。

(August 2011)



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