takashi's pictureTakashi Wakui's Home           takashi's picture涌井隆の家

What's new

Profile                 

Classes 授業

Recent Publications

Animation
アニメーション

Bicycling 自転車

Stargazing 星見

Links リンク

Essays 文章 作文






















フランスの原発事情

12月に用事があってフランスのリヨンに数日滞在しました。長い長い空の旅を終えて、スーツケースが航空会社の手違いで手元に届かないというトラブルを抱 えたままホテルにチェックイン。wifiはあるものの繋がらない、シャワーの水漏れ、エアコンのスイッチがどこにあるかわからなくて暖房がないと思い込ん だ、などなどいろいろイライラを抱え込んでテレビをつけると、国営放送が原発問題の討論番組をやっていました。私のフランス語は大したことはありません が、昔集中的に勉強したことがあり、このような番組は7割ほど理解できます。しばらくつきあいましたが、レベルが低すぎでチャンネルをパラパラ変えまし た。フランスも多チャンネルです。これだけチャンネルがあってもテレビの時代は世界的に終わっているので見るべきものは多くありません。大部分が見るだけ 時間の無駄です。すべて理解できるのは英語のCNNでしたが、こんなものは初めから見る気がありません。BBCもあったのかもしれませんが、そこまでリモ コンのボタンを押しつづけるのは面倒です。どうせ見たって、フランスとドイツのごたごたをシティーの視点から偏向報道やってるだろうことは容易に想像でき ます。今のヨーロッパは金融戦争の只中にあり、本当のことを知りたければネットに行くしかありません。既成メディアが本当のことを伝えるなんてことは絶対 にありえません。それは、2008年の金融危機や福島の事故を通じてすでに経験済です。テレビ番組の中で一番理解できなくて残念だったのは、速いことばで まくし立てるスタンドアップコメディアンのショーでした。せいぜい2割ほどしか分かりませんでした。昔かなり集中的に勉強したフランス語は情けないレベル です。

リヨンはローヌ河の中流にあります。上流に2機、下流に4機の原発があり、事故ると大変なことになります。だからリヨンの人たちが知りたいのはその時どうなるかなの です。専門家を呼んで最低でも3時間ぐらい自由に議論をさせないと、リヨンの人たちが本当に知りたい情報は出てきません。それなのにリヨン人がテレビで見 るのは、パリ経由のプロパガンダです。普通の素人を賛成派と反対派の両陣揃えて議論させると表面的には公平な番組作りである印象をあたえます。制作者は専 門家を出して複雑な議論をさせてもどうせ視聴者は理解できないんだから、という言い訳を用意しているのでしょうか。

私が討論番組の制作者ならリヨン沿いに建っている原発の1機あるいは全部が事故ったときにどのようになるか原発の推進派と反対派を呼んで詳細な議論をさせ ます。干ばつでローヌ河の水位が下がって冷却に失敗する。洪水で原発が水浸しになる。あるいはこれはNASAが警告を発しているのですが、来年に太陽の活 動の活発化のピークが来ることが予測されており、万が一巨大フレアが地球の方向に向かうとGPSシステムや銀行のシステムが破壊されるだけでなく、送電網 もやられて原発の総電源喪失事故を誘発しかねません。これは絵空事ではなくて、その可能性は無視できないので、NASAはホームページで非常事態に備えて 現金、水、食料の備蓄を奨励しています。私が討論番組の制作者なら、甚大事故のシミュレーションを徹底的にやってもらいます。軍隊がどう行動するのか、ヨ ウ素剤をどのようにどの範囲まで誰が配布するのか、住民の避難はどうするのか、水源の確保、風向きの予測、ローヌ河の水の汚染のシミュレーション、などな ど。一般人素人にも理解できるよう数字を出してもらい、チェルノブイリや福島の事故と直接比較できるよう具体的に語ってもらいます。

私が見たパリの国営プロパガンダ放送局の番組は具体性に欠けます。福島事故以降原発がこわいこわいと感じている人に「こわいし危険、だから原発を止めよ う」と言わせ、その「感情的」な意見に懐疑的な素人に、「でもドイツの電気って未だに石炭だよ、温暖化にもよくないし、フランスが原発止めたら石炭になる の?」と反論させる。こんな幼稚なレベルの議論を何時間続けても意味がありません。飯田哲也さんのような専門家が出てくれば、原発という機械が持っている 脆弱性を石炭発電との比較で技術的な話をやってもらえるし、2010年の一年間にドイツはフランスからフランスはドイツから何キロワットの電気を買ってい るのか具体的な数字を出してもらえます。そうなれば視聴者は本当に真剣に考え始めるでしょう。幼稚なレベルの討論番組でお茶を濁すのは本当のところを知っ てもらいたくないという原発・核産業の意向を国営放送局が汲み取ってプロパガンダを意図的に作っているからです。意図的でなければ騙されていることに気づ いていないただのアホです。

たまたま夜の祭り(Fête des lumières)真っ只中の訪問で、夜はかなり歩き回りました。カトリックの宣教師が街頭で演説をしていて、まわりに大きな人だかりが出来ていたの で、しばらく聞いていたらその仲間が私に話しかけて来ました。初めはその人と下手なフランス語で喋っていたのですが、英語に切り替えて長話になり、そうす ると別のイギリス英語の流暢な人がやってきてこの人とも話し込みました。神とか原罪とかキリスト教の話です。こういう議論は今まで何度したかわかりませ ん。アメリカではバイブルベルトに位置するインディアナ州にいたことがあるので神を知らない異教徒に対する啓蒙話は延々と聞いたし、長い反論も何度となく しました。私が質問し続けると最後には私たちは別にあなたを改宗しようとはしていない、と相手は言い始めます。何だか今まで何度も通ってきた道だなとむな しくなり、どちからからとなく話はうちやめにしようという雰囲気になった時、私は妙なことを口走っていました。

「僕もキリスト者を無神論者に改宗させようと思ったことはない。でも今僕は生まれて始めて他人を改宗したいという欲望にかられている。僕は今フランスにい る。似たような原発大国の日本の住民として、フランス人に原発の怖さについて認識してもらいたいんだ。」

と口火を切り、次の質問を相手に発していました。

「お前はどうしてドイツ人が脱原発をさっさと決めたのにフランス人はまだ原発にしがみついているのだと思うか?」

この質問に対しては、予想通りの模範解答が帰って来ました。曰く、フランスは原発大国なので原発ロビーが強いんだ。アホらしいトートロジーです。私も福島 の前なら、この程度の答えでなんとなく物事を理解したと考えていたかもしれません。しかし、今は福島の後なのでかなり理論武装して本当のことを知っていま す。フランス人とドイツ人の原発に対する考え方の違いは、チェルノブイリの事故後、ドイツの方がフランスより汚染されたのでドイツ人の方が放射能汚染につ いて本当のことを知っている人が絶対的に多いからなのです。ヤブロコフさんの本によれば、フランス政府はチェルノブイリ事故の後放射能雲がフランスの上空 を通過しているのを知っていたのに国民に知らせなかったし、CRIIRAD(フランスのNGO)によると今でもチェルノブイリによる汚染の事実を隠してい ます。このようなフランス政府の隠蔽とは対照的にドイツではチェルノブイリ事故の後、スーパーマーケットによっては食料品のベクレル表示を行うところもあ りました。ですから、上に紹介したフランス国営テレビ局によるプロパガンダはドイツ人には通用しないでしょう。一般市民の知識量が絶対的に違っているから です。

ただ、フランス人も脱原発の意識を高めているようです。聞くところによると、次の大統領選ではフランスにおいても緑の党の躍進が予想されており、野党連立 政権が反原発にまわる可能性もあるそうです。そうなると日本は本当に孤立無援になります。米国英国は資本の論理が強いので、スリーマイル島以降コストが高 くて危険な原発発電は頭落ちですし、セラフィールドも日本のために再処理してくれなくなりそうです。ベトナムなどに原発輸出しようとしていますが、将来事 故ったら日本は恨まれます。一時的に東芝などが潤っても長期的な商売としてはどうなのか疑問符がつきます。

短い時間でしたが、リヨン滞在は光の祭りもあって興味深いものでした。最初に泊まったホテルの悪口を書きましたが、水漏れはボルトを締めることにより解 決、wifiはつなぐことが出来なかったものの、別の無料のサービスを見つけて解決、エアコンの温度調節もコントローラを見つけて解決、と問題はありませ んでした。家族経営のこじんまりしたホテルで、気配りも行き届いていて誰にも安心して勧められます。下手なフランス語にも付き合ってくれる人が多かった し、フランス語がダメなら英語も出来る人が多くて、旅行者がフランスを避ける理由はありません。光の祭りは欧州全域から旅行者が集まっていて、英語で話し かけてくる人も少なからずいました。フランスは外国の旅行者に対して冷たいというのは少なくともリヨンに関しては当てはまりません。パリはどうなのか最近 訪れていないのでわかりません。
(Dec. 2011)

(追記): Fête des lumièresのHD動画はネットに沢山転がっています。生で見るとかなりの迫力です。


copyrights Takashi Wakui