takashi's pictureTakashi Wakui's Home           takashi's picture涌井隆の家

What's new

Profile                 

Classes 授業

Recent Publications

Animation
アニメーション

Bicycling 自転車

Stargazing 星見

Links リンク

Essays 文章 作文






















ニューヨークタイムズという新聞

上杉隆さんの『ジャーナリズム崩壊』という本を読みました。メディア産業に就職を希望している学生全員に読んでも貰いたい必読書です。実は私は衛星テレビ を見ていないし、日本の政局も追いかけていないので上杉隆という人の存在を知ったのは今回の福島事故があって色々ネットから情報を取るようになってからで す。彼や岩上安身さんは、日本の原発報道においてとても大きな貢献をしていると考えます。彼らがいなくて、既成の大手メディアだけだったなら、もっと多く の日本人が東電や政府の嘘に騙されてしまっていたでしょう。計画停電という時代錯誤的脅しのからくりを当初から指摘していたのは上杉隆さんです。という訳 で私はジャーナリストとしての上杉隆さんを高く評価しています。

しかし、『ジャーナリズム崩壊』に違和感を感じたのも事実です。それは上杉さんが、NYタイムズと日本のジャーナリズムを比較し、前者を持ち上げ、後者を 批判しているという点にあります。実は私はNYタイムズという日刊紙をそれほど高く評価していません。

私はアメリカに住み始めた80年代初頭からNYタイムズを読み始めています。インディアナ州ブルーミントンにいた時は図書館でたまに読むだけでした。たま たまそこでフランスの有力日刊紙のリベラションの特派員に出会い彼の影響もあり、パリにしばらくいた時はよくリベラションを読んでいました。その後、80 年代半ばにニュヨークに移り、ほぼ毎日NYタイムズを読むという毎日が始まりました。月曜はスポーツ関係のニュースのまとめが充実、火曜は自然科学関係の 記事が多く、金曜は週末の芸術娯楽情報が豊富という訳で月火金は買っていたし、日曜版はあの分厚いのを買って数時間かけて隅から隅まで目を通すというのが 日曜の儀式でした。随分後になって、村上春樹さんがプリンストンのリベラル教授連中が新聞はNYタイムズに決めていることを揶揄したエッセイを読みまし た。(『やがて 哀しき外国語』)そこで彼は自分はタイムズではなくプリンストンのホームタウンペーパーを購読していると自慢しています。そんな彼もタイムズの日曜版は 欠かさず買っていたようです。私がタイムズを読んでいたのは、別に村上さんが考えるようなリベラル主義の表明でも大学人としての自己顕示でも何でもなく、 テレビがなかったので世の中の動きを追うために新聞を読む必要があったからだと思います。ラジオのNPRも毎日聞いていましたが、新聞も読む必要を感じて いました。新聞ならタイムズ以外選択肢はありませんでした。貧乏学生にはウォールストリート・ジャーナルは高すぎ、かつ中身が経済ニュースに偏っているの で却下、他はタブロイド紙なので眼中になく、もうひとつのまともな日刊紙(名前を失念、New York Newsdayか)はそれほど安くなく、買えないニューズスタンドも多かったので、どこでも買えるタイムズとなりました。私のような理由でタイムズを読ん でいたニューヨーク人は多かったと思います。インディアナ州ブルーミントンにいた時には、毎日目を通していたのはただで手に入る学生新聞でした。ブルーミ ングトンにもホームタウンペイパーはありましたが、購読して毎日読むということはありませんでした。そういう意味では、ニューヨークという街は、世界的に も奇妙な街です。ホームタウンペーパーがたまたま世界的に有名な新聞なのですから。ニューヨーカーでない人にはちょっと理解しにくいかも知れませんが、 NYタイムズは世界向けの新聞ではありません。あくまでもニューヨーク市民のためのローカルペーパーです。その証拠に記事の大半がローカルニューズです。 しかし、たまたまニューヨークという街が超国際都市なので結果的に世界に向けて開かれた新聞になっているということなのです。

上杉さんが『ジャーナリズム崩壊』で指摘している諸問題は、80年代にNYタイムズをニューヨークで読んでいた自分も気づいていました。無署名記事の問題 は上杉さんが指摘する通りです。イギリスの権威ある「エコノミスト」も無署名だからどちらでもいいのではという議論も可能ですが、日本の日刊紙の無署名は 臆病過ぎおまけにせこいので哀しみが漂います。私はニューヨークにいた時、アルバイトで、日本の雑誌ジャーナリズムの仕事もしていました。日本の日刊紙の 不甲斐なさと比べ、日本の週刊誌や月刊誌は頑張っているなと評価していました。その時点では日本の出版社に正規雇用された経験などなかったので、日本の事 情など知らず、問題の根源が「記者クラブ」にあるということには気づいていませんでした。ただ、そのような日本の「記者クラブ」の外で活躍する記者のため にインタビューしたり元原稿を書いたりする仕事をしていると、無署名という制度がもたらす弊害に気付かされることがありました。さらに、上杉さんが 指摘している、日本語という隠れ蓑の後ろに隠れて行う卑しい行為にも遭遇しました。という訳で、記者の能力と仕事には一種の尊敬の念を持ちながらも、自分 の仕事ではないなとその道に進むことはありませんでした。付け加えるなら、記者の激務も自分に向いていないと決心させる要因でした。私は原稿を日本へ ファックスしていたのですが、何時送っても24時間本社の編集部と連絡が取れるということに驚きました。毎週の締切を守るために家族との生活を犠牲にして いるのは明らかでした。そこまで犠牲にして作るものが、毎回すばらしければいいのですが、それは無理なので、価値観がおかしいと直感で察しました。 時代はバブル全盛期。私はニューヨークで貧乏学生をやっていました。

若い時期をニューヨークという街でNYタイムズという新聞を読んで過ごしたという経験が自分の教養の重要な部分を作ったという事実は否定しません。ニュー ヨークには国連があります。世界から外交官が集まって、交渉と策謀を繰り広げています。スパイ行為も日常茶飯事です。以前タイムズは、盗聴技術を詳細に暴 露する記事を載せました。詳しくは書きませんが、重要な情報は相手の耳にひそひそするか、飲み込めば溶けてしまう紙に書いて直接渡すしかないと思われま す。それだけ盗聴技術は進んでいます。最近日本ではウィキリークスが話題になって外交の裏側が暴露されましたが、何をいまさらという感じです。ニューヨー クでタイムズを読んでおれば、そのような権謀術数の現実は高校生でも知っています。日本にいると、政治が専門の大学の先生でもそのような現実について無知 なのではないか、といぶかしく思えることがあります。かつて日本のリベラル派が抱いていたような国連に対する絶対的な信頼は少なくともニューヨークでNY タイムズを読んでおれば持てなくなります。

という訳で、日本に戻ってくる90年代の初頭あたりまではNYタイムズやNPRに一応の信頼を置いていました。しかし、その後ニューヨークを定期的に訪れ るうちに徐々に質が落ちてきているなと実感するようになりました。それはFCCによるメディア業界のビジネス化や再統合の流れと軌を一にしていました。友 人に生粋のニューヨーカーがおり、身内がタイムズの記者だったり、大学の同級生が今ではタイムズの編集部の中心人物である人だったりするする人なのです が、彼も同じようにタイムズの質が落ちていると感じていました。上杉さんが指摘している Judith Miller 問題やJayson Blairスキャンダルが起こるずっと前からです。だから、そのようなスキャンダルが起こっても、別に驚きなどしませんでした。

今ではどうかというと、NYタイムズという新聞は、ニューヨークという街の主産業であるウォール街の利益を代弁する業界紙にすぎないと割りきって付き合っ ています。本当のことを知りたければネットに自分で情報を取りに行きます。NYタイムズという「権威」を一方的に信頼する時代は終わっています。報道 ジャーナリズムの世界で気骨ある少数派がプロ意識を持ってすぐれた仕事をしており、彼らの存在が重要であるのは理解していますが、今はネットがあるので、 真実を知りたければ、情報元がプロだろうがアマだろうが関係ありません。情報が重要なので、情報源が有名新聞の有名記者だろうが、有名大学の偉い先生だろ うが、街のゴロツキだろうが関係ありません。プロがしゃーしゃーと嘘をついてしまう時代なので、アマの方がましかも知れません。似たような事態は、パソコ ンの世界でも起こってい ます。私は、ウィンドウズではなくて無料のLinuxを使っています。WinXPに問題が生じたので乗り換えたのですが、これが無料?と信じられない出来 です。ゲイツさんなどLinuxに対して共産主義呼ばわりしてますが、独占禁止法破りばっかりやっていてよく言うよと呆れます。ニューズビジネスはプロに よるビジネスである必要はありません。真実を希求するアマが空いている時間にやればいいのです。

NYタイムズに対してこのような態度を持つようになったのは、911同時多発テロとHIV/AIDSの嘘に気づいてからです。911事件の首謀者が誰なの かについては、有力な説がネットで読めるし、本も出ていますが、タイムズを含む既成大メディアは絶対に伝えません。911事件についての米国の公式説は 2004年に出ましたが、9割のドイツ人が信じていないという統計もあります。あの事件が起こった時私は、NYタイムズに情報を取りに行きました。ツイン タワーの崩壊やペンタゴンの一角の破壊についての説明は、何だかおかしいな、と感じながらもタイムズがそう言っているのだから、と米国政府の公式説を信じ てしまいました。今では後悔しています。HIV/AIDSについては、タイムズは南アフリカの Mbeki大統領に対して誹謗中傷に近いキャンペーンを繰り広げました。今では、Mbekiさん、疑ってごめんなさい、と謝りたい気持ちです。

このように地位も名誉もあるプロがしゃーしゃーと嘘をつく場合、そのようなプロが拠り所にしているものは何なのでしょうか。タイムズの記者の場合、それ は、文章力だと思います。国際語である英語で流麗な散文を書く力が俺達にはあるんだ、というのが、彼らの最後の拠り所なんだと思います。確かに、きつい締 切に合わせてきっちりしまった文章を書けるのは一種の才能です。私には、英語でどころか日本語でも不可能かも知れません。しかし、嘘か真実かが問題の時、 そんな才能なんて意味があるでしょうか。NYタイムズの英語は癖があって嫌いだという人も多いと思うので、「エコノミスト」の文章ならどうでしょうか。あ のしまった文章をあの分量毎週の締切に合わせて生産する能力は誰もが感服せざるを得ないものがあります。嘘か真実かは別にして。

Janine Roberts や Sibel Edmondsという独立系ジャーナリストがいます。前者は何冊か本を出しており、後者はブログが広く知られています。私は「リンク」のところで紹介しま した。彼らが、NYタイムズの空きに応募したらどうなるでしょうか。彼らの政治信条上そんなことはありえないと思いますが、仮に応募した場合、タイムズは 彼らの信条を問題にせず、文体で落とすだろうと思うのです。君たちの文章はアマチュアっぽいから文章の鍛錬を積んでもらわないといけないなどと言うかも しれません。

今、かつての「プロ意識」がどんどん意味を失っています。江戸時代と明治時代の境目のころ、俺は武士なんだという意識は新しい時代を生きていくにおいて邪 魔にしかなりませんでした。我々が生きている今はそのような時代なのだと思います。
(August 2011)

追記:リビア戦争についてネットで情報を取っていると、大メディアによる記事のでっち上げが少なくないのではないかと推測しています(ブレア事件で経験済 み)。ですから、リビア情勢についてのタイムズの記事は読む気はしないし、ニュース自体を追っていません。朝日新聞にしろ、毎日新聞にしろ、NYタイムズ を出しぬいてスクープなんてことはありえないので、タイムズが嘘を書けば、日本の新聞も習って嘘を書くという状況になっているのかもしれません。残念なが ら大メディアは終わっています。今年は、911の10周年記念の年なので、トロントで大きな会議が予定されています (torontohearings.org) この会議をタイムズが詳細に報道すれば見直してあげてもいいかなとは思います。


copyrights Takashi Wakui