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小林正樹の『切腹』(1962)

ウン十年前に見たこの映画を最近見返す機会がありました。youtube に置いてあります。最初に見た時の感動を新たにしました。映画史に残る名作であるのは間違いありません。台本がすばらしいのですが、演技も編集も音楽も寸分狂いのない緻密 さで作られていて完璧です。そのような印象を与える映画作品は多くありません。

今回、この映画について作文を書きたいと考えたのは、今生きている我々に大きな教訓を残していると考えられることがひとつ、もうひとつは、 youtube に残されたあるコメントに心を動かされたからです。書いたのはおそらくアメリカ人でそのまま下に引用します。

22 veterans commit suicide every day. Nothing has changed.

毎日22人の帰還兵が自殺する。世界は何も変わっていない。

日本映画なのに日本語のコメントは殆どありません。あってもHDで解像度が高いとかそんなコメントばかりです。内容に触れたコメントもありました が、的を外しています。中身がすぐれたものは容易く国境と言葉と時代の壁を超えます。古典というのはそういうものなのでしょう。字幕なしで文字づ らを理解できる日本人が内容を理解できず、本質を把握しているのは外国人ばかりです。この名作は日本人の中で死に、外国人の中で生きていくので しょう。それが古典の宿命です。「美しい日本」とかなんとか愛国心をあおっている国粋主義者の安倍さんなどが、日本の若者にこのような珠玉の日本 文化を宣伝すればいいと思うのですが、彼はしないでしょう。なぜなら、彼はこの映画の中に出てくる井伊家の家老の立場にいるからです。なるほど、 世界は何も変わっていません。

イラクの戦闘を経験したアメリカ人兵士は自国に帰ってきても殆どの人が適応できません。PTSD などと診断される人が多いのですが、実際は、生物兵器に備えるためと称してワクチンのモルモットになったり、現地で劣化ウランの被曝をしたりして、体がぼろぼろになって 帰ってきます。精神障害があると診断されれば、精神病薬を処方され、最悪です。何度かすでに書きましたが、アメリカの銃乱射事件の殆どが精神病薬 による錯乱状態が引き金を引いているという事実は既成メディアでは報道されません。スポンサーが製薬会社だからです。多くの帰還兵は災難が自分に 降りかかってきて始めて国家に騙されたと気づきます。国家の側は、劣化ウラン弾による被曝を認めていません。福島に住んでも大丈夫という日本政府 と同じです。社会に復帰できない帰還兵などは早く死んでくれというのが国家の本音です。

この映画のあらすじをここで書くのは控えます。巧妙に伏線とサスペンスを用意している周到な台本なのであらすじを書いてしまうと、実際鑑賞する際 の楽しみを半減させてしまうからです。見ていない人は、この作文を読むことを止めて、まずパソコンで見てください。HD のも置いてあるので、テレビの大画面で見ることを勧めます。歴史に残る古典的名作なので見て損はありません。というか、日本人なら教養として知っておくべきものかもしれま せん。私が文部大臣なら、文部省検定の歴史の教科書など嘘ばかりであると生徒に教えるためにこの映画を必修にしたいと思うくらいです。

この映画が描く徳川時代の初期には多くの浪人がアユタヤ王朝に渡り傭兵になりました。今ではブラックウォーターとかダインコープとか警備会社と称 する傭兵派遣会社が米正規軍の代わりを果たしています。オバマがイラクから撤退したなどと新聞に書いてあったからと真に受けてはいけません。その ような傭兵派遣会社は裏でアルカイダやイスラム国と繋がっているはずです。この映画の主人公である津雲半四郎(仲代達也)は戦闘経験が豊富です が、浪人になっても新たな仕官の道を捨ててはいません。彼の義理の息子である千々岩求女の世代になると戦国時代は遠い昔の話で実戦の経験はあ りません。両者とも海外に傭兵に出たいと考えるほど、死の淵を歩くことに生きがいを感じてはいません。武士であることに誇りを持ってはいても、妻 子を持ち、内職をしながらあわよくば仕官にありつければと日々を過ごしています。二人とも、武士としての名誉を守るために自害することに積極的な 意味を見出してはいません。人並みに生きたいと思い、家族を愛し、命を繋いでいくことに生きがいを求めています。その願いは、時代を超え、言語を 超え、人類共通のものです。武士といえども死を恐れています。

「武士の面目」という倒錯した思想でそのささやかな生きがいを踏み潰すのが井伊家というバケモノです。三國連太郎扮する井伊家家老である斎藤勘解 由の言明を聞いていると表面的には筋が通っているようにも聞こえますが、千々岩求女をあのような自害に追いやるのは、組織の腐敗がもたらす精神倒 錯以外の何でもありません。そのバケモノに対して、半四郎は笑い嘲るしか対抗する術はありません。斎藤勘解由がこだわるのはただひとつ、老中の覚 えを良くして徳川家を頂点とする幕藩体制の中で井伊家の地位を守ることだけです。そのためには、どんな嘘でもつきます。井伊家の嘘は、組織と体制 を守るために世界中で権力者が日々ついている嘘の一つの例に過ぎません。冷温停止、放射能はアンダー・コントロール、911はアルカイダの仕業な どなど、権力者の嘘は枚挙に暇がありません。

絶対権力は絶対的に腐敗します。イラク戦争ではハリバートンという政商が入札なしで受注した兵士運搬車(humvee) が現地で頻繁に壊れるので修理せずにロケット弾ぶちこんでぶっこわし、新品を発注するということをやっていました。迎撃ミサイルだろうが、スパイ衛星システムだろうが、ハ ムビーだろうが、オスプレーだろうが、軍事品はカタログ通り動作する保証などどこにもありません。民生品と違ってコストが高ければ高いほど儲けら れ(総括原価方式)かつ政商が癒着して入札なしの受注ですから、粗悪品がはびこる土壌が始めから存在します。底なしの腐敗ですが、世界に民主主義 を広めるだの、世界の警察だの、テロに対する戦争だの、「武士の面目」的な建前を垂れ流せば、いくらでも誤魔化せます。そういう議論が巧い連中を 育てるのが教育の目的であるとまで言ってしまえば元も子もありませんが、真理の一端を突いています。

三國連太郎扮する斎藤勘解由を見ると、自民党の石破茂さんを連想してしまいます。苦虫を噛み潰したようなあの顔つきは、自分が嘘をついているとい うことを腹の底で理解しているからなのかもしれません。へらへらした笑い顔で「放射能はアンダー・コントロール」などとしゃーしゃーと世界に公言 できる安倍さんなど頭が空っぽだから可能なのかも知れません。
(Aug.2015)


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