takashi's pictureTakashi Wakui's Home           takashi's picture涌井隆の家

What's new

Profile                 

Classes 授業

Recent Publications

Animation
アニメーション

Bicycling 自転車

Stargazing 星見

Links リンク

Essays 文章 作文




















ソチオリンピックの芸術監督とウクライナ情勢

今までオリンピックの開会式や閉会式などニュースのハイライトでしか見たことがなかったのですが、ソチオリンピックのは見入ってしまいました。たまたまそ うなっただけです。テレビに関してはたまたまが殆どです。コンサートのように日時と場所が決まった催しに自らの意志で赴くというのではなくたまたまスイッ チをつけたら面白いので見入ったというだけです。

北京オリンピックの芸術監督は張芸謀(チャン・イーモウ)で私が尊敬する芸術家です。でも開会式や閉会式は見ませんでした。ロンドンオリンピックは英国の ロックやポップスを前面に押し出した演出をしたと聞きましたが見ていません。自分の中ではビートルズなどは無意識のレベルで大きな影響を受けているはずで すが、知りすぎているメロディーをオリンピックの舞台で聞きたいとは思いませんでした。北京オリンピックで記憶に残っているのはウセイン・ボルト、ロンド ンオリンピックではヴィノクロフの活躍ぐらいです。

ソチオリンピックの開会式と閉会式は、自分がロシアの文化に深く影響を受けているという事実に気づかせてくれました。ストラヴィンスキー、ムソルグス キー、カンディンスキー、ノルシュテインなどは昔から好きで、死ぬまで好きだろうと思うし、シャガール、ラフマニノフ、チャイコフスキーなどはそこまで好 きではないけれど、世界のどこに行っても出くわす圧倒的な知名度を誇っています。いくらビートルズが有名だと言っても、チャイコフスキーには負けます。こ ういう文化的アイコンはオリンピックのような政治的なスペクタクルでその威力を発揮するのだなと改めて納得しました。芸術に罪はありませんが、平和的な形 で国力を誇示したい場合、芸術文化に頼るしかありません。ロシアは芸術大国として圧倒的な国力を見せつけました。

開会式にはニキータ・ミハルコフとかマリア・シャラポワ本人が参加していました。ミハルコフは最近は見てませんが、大好きな映画監督ですし、シャラポワは 福島原発事故の後、彼女の半生を知ることとなり、大昔のウィンブルドンでの勝利とともに印象深い人です。日本人なので日本の国技であるらしい相撲も見たほ うがいいのかもしれませんが、遠藤とシャラポワでは遠藤に勝ち目はありません。

開会式や閉会式の演出には好印象を持ちました。リヨンの「光の祭典」に見られるプロジェクションマッピングの技術はどんどん進化しており、ソチの祭典はそ の最先端の技術と舞台芸術を巧みに融合させていると感じました。シャガールの絵には宙に浮かんでいる人物がよく描かれ、舞台で再現するためにワイヤで宙吊 りという陳腐な方法が取られていましたが、シャガールの再現と見ればそれほどわざとらしくなく見ることが出来ました。それより効果的だったのは、家を逆さ に上から吊り下げるという舞台装置だったかも知れません。アニメーション作品ではそのような演出を見たことがありますが、舞台芸術であれほどの規模で実現 すると迫力があります。シャガールが描く無重力の世界からヒントを得たとは言え、斬新に感じました。

ソチオリンピックの経済規模はオリンピック史上最大だそうです。壮大なカネの無駄遣いであると考える人も多く、私も否定しません。大きな金が動くところに は必ず大きな腐敗があります。以前オーストラリアのシドニーを訪れた時には現地のバスツアーに参加して、オリンピック開催時に建設されたサッカースタジア ムも見て回りました。随行したガイド兼運転手がそのスタジアムが如何に税金の無駄遣いであるか熱弁を振るったのをよく覚えています。ソチの観光事情はよく知りませ んが、もし、数年後に似たようなバスツアーが行われているのであれば、ロシアの言論状況はまともであると言えるでしょう。日本のバツツアーのガイドは長野 オリンピック跡地を巡って税金の無駄遣いについて熱弁を振るうでしょうか。

ただ、開会式と閉会式の芸術的出来栄えを論じることと、オリンピックの開催自体が税金の無駄遣いであるかどうかを論じることは分けて考える必要があるで しょう。金のかかるブルジョア芸術としてオペラがよく例に挙げられますが、オリンピック開会式・閉会式のスペクタルは桁が違います。あの規模の芸術表現は オリンピックなどの国家の威信をかけた最大規模の催し以外では実現不可能です。ピアノの小品と交響曲を同じ物差しで評価できないのと同様に、ソチオリン ピックの開会式・閉会式の芸術的な出来栄えは、他の同規模なスペクタルと比較するしかありません。そういうものとして評価すると、ソチのはかなりの高得点 を得られるのではないかと思います。

という訳で、作品を創りだした芸術監督がどういう人なのか知りたくなり、調べて見ました。Konstantin Ernst という人です。英語で情報がかなりあり、一番まともであると考えられる「ニューヨーカー」の記事について少し書いてみたいと思います。"Putin's master of ceremonies" と題されたものです。「ニューヨーカー」という週刊誌は定期購読したことはありませんが、ニューヨークに住んでいた頃には時々読んでいました。日本に類似 する定期刊行物はありません。ニューヨークの芸術文化活動を紹介し、論評するのが一つの役割ですが、長いノンフィクションレポルタージュを載せたり、詩や 1コマ漫画や短編小説を載せたりという文芸雑誌や社会評論雑誌の側面も持っている週刊誌です。アメリカの出版産業の中心地がニューヨークであり、その良質 な部分を代表しているのがこの週刊誌であると言えます。村上春樹が英語圏で有名になったのは、この雑誌が載せるようになってからだと記憶しています。日本 では評論家の中でそれほど高く評価されていなかった村上春樹が英語圏で重要な作家として認知されるようになったのは「ニューヨーカー」の役割が大きかった と思います。最近では、Seymour Hershのルポルタージュが全世界的な話題になりました。

"Putin's master of ceremonies"という記事は驚きです。ロシアとプーチンに対して始終「上から目線」を保っています。反プーチン反ロシア的トーンが鼻につき、読ん でいるとぶち切れそうになりました。独裁者プーチンに寄り添う芸術家という形容をひとまずしておいて、それでも芸術家としての独立性を保っていると持ち上 げています。アメリカがオリンピックやるならその芸術監督をハリウッドに丸投げするでしょうから、全く同じ事です。ハリウッドなんてお祭り時だけでなく年 がら年中体制に寄り添ってますから、どこが違うのでしょうか。このような態度をAmerican exceptionalism と言うのでしょうか。自分は他の国と違うんだ、偉いんだという不遜な思い込みです。同じ「ニューヨーカー」に記事を書くSeymour Hersch などオバマは嘘つきで独裁者であるなどと主張していましたから、プーチンを腹黒い独裁者に仕立て上げたい筆者の意図は何なのでしょうか?いづれにせよ、この 記事の反ロシア的トーンには驚きました。最近、非既成メディアの政治コメンテータ(大学教授)が、アメリカにおいて、ロシアや中国を敵視する論調が賑やか で、冷戦時以降最高レベルに達していると論じているのを聞いたのですが、なるほどそうなんだと納得しました。英語の大メディアは嘘ばかりなので2009年 辺りからまともに読んでませんから、最近の論調の変化に気が付かずにいました。

そのような既成メディアの報道の傾向に反して、私の中ではロシアに対する好感度がこの数年上がってきています。ふたつほど理由があります。

一つ目は、911事件の報道に典型的に見られる「西側」既成メディアの嘘を暴きだすような番組をRT(Russia Today)がかなり頻繁に制作しているからです。また、ウォール街の腐敗についてもNYTより深く掘り下げた報道がされています。例えば、Keiser Reportは個人的には最近はあまり聞いていませんが、世界の経済に興味がある人全員に薦めたいと思います。ウォールストリートジャーナルやブルーム バーグの二番煎じのような日本語の報道を聴いていても世界のことは何もわかりません。

2つ目は、シリア戦争を巧妙に回避したプーチンさんの功績です。アメリカは常套手段の偽旗工作を使ってアサド政権を潰すために戦争を仕掛けようとしました が、プーチンはNYTに投書をしたり、シリア政権に化学兵器を廃棄処分させたりして、オバマの面目を潰さず戦争を回避することに成功しました。KGB出身 のプーチンさんが謀略に無縁の聖人君子だなんてこれっぽっちも思っていませんが、過去のCIAとの関係を有耶無耶にしているオバマよりましでしょう。いづ れにせよ、政治家としての器の大きさでいうと、オバマはプーチンの足元にも及ばないという印象を残しました。

私はロシアに住んだこともないし旅行もしたことがありません。ソルジェニーツィンを昔沢山読んだことがあるのでソ連がひどい国であったことは知っていま す。ただプーチン政権になって随分住みやすい国になったことは確かなようです。日本を含む「西側」のメディアはロシアを暗くて反民主的な国であると印象操 作していますが、半分以上プロパガンダなので騙されないようにしてください。英語で情報を取るなら、Stephen CohenやDmitry Orlov などを勧めます。Orloffは英語とロシア語の完全なるバイカルチャーです。彼の講演は暗黒のソ連を生き抜いたロシア製ブラックユーモアで米ロ両国をぶっ た切っていて痛快です。彼の短い本もお勧めです。Stephen Cohenはまともな歴史家・ロシア研究家です。彼の歴史観は、レーガンが冷戦に勝って歴史が終わった、という類の公式説からすれば、「修正主義」的なの かもしれませんが、私には真っ当に聞えます。だいたい公式の歴史なんていうのは、たいてい嘘でありプロパガンダです。911事件の公式説をみれば一目瞭然 でしょう。

という訳で最近のウクライナ情勢です。

例によって日本語の報道は全く聞いていません。想像するに、解説タレントや御用政治学者を動員してロシアを目の敵にするプロパガンダをまき散らしているのでしょ う。「ウクライナの主権を脅かすロシアによる侵略」というような分析をやってるのかもしれません。アメリカとNATOはイラク、アフガニスタン、リビア、などな ど、侵略戦争ばかりやっているのによく減らず口を叩けたものです。アメリカが中米南米の諸国の内政に謀略をもって干渉し傀儡政権を作って来たことはよく知 られています。今回、民主的な投票によって選ばれたヤヌコビッチ政権が倒れてしまったのは、純粋に下からの民主主義が革命を起こしたからなのでしょうか。 そんな簡単に革命が起こるなら、頻繁に国会議事堂が反原発運動のデモ参加者によって取り囲まれている日本では、もうとっくの昔に革命が起こっても不思議で はないと思われますが、革命など起こっていません。ヤヌコビッチ政権が倒れたのは、アメリカやNATOによって支援された過激な政治勢力がクーデタを起こ したからです。その事実は西側の主要メディアは正しく伝えないかも知れませんが、もうすでに充分検証されて確認済みです。最初に仕掛けたのは、アメリカと NATOです。ロシアと全面的に戦争するつもりで挑発したならアホすぎます。

巷では、第3次世界大戦の噂さえ聞かれますが、市場(相場)関係者は、クリミアをロシアが併合することで手打ち式が行われるだろうとの観測があり、それを 市場はすでに織り込み始めたという見方もあります。それで大規模な武力衝突が避けられるなら上出来です。もともとクリミアはロシアの一部だったので返還さ れたと考えればいいのです。だいたい、NATOなど何のために存在しているのかわからない軍事同盟など解体してしまった方が世界平和のためです。「集団的 自衛権」などと言っておれば、NATOがウクライナで戦争を始めたら、日本の自衛隊がウクライナに出兵という事になりますが、それでいいのでしょうか。日 本人も平和ボケしてないで自分のこととして考えないと大変なことになりますよ。

重要なのは、Either you are with us or against us. というような状況に押し込まれないように、外交をしっかりすること、そのためには、プロパガンダに騙されないよう自分の頭で考えることです。ソチのオリン ピックを見れば、ロシアがまともな文明国であることが分かるでしょう。ロシアを野蛮な国であるという印象を植えつけたいプロパガンダを発している側のほ うが野蛮であることにもういい加減気づいてください。それから、JFKの暗殺や911事件について本当のことを言えない御用学者の皆さんは退場をお願いし ます。

(March 2014)



copyrights Takashi Wakui