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騙されたあなたも悪い:佐村河内守の嘘

あまり時事的な出来事に影響されずに世界の嘘について書いていきたいと考えているのですが、かなり世間を騒がせているようなので、佐村河内守の作曲詐欺に ついてちょっと書いてみます。

正直に書くと、私はこの事件がメディアで取り沙汰されるまでその作曲家の名前を聞いたことがありませんでした。朝天気予報を見るのにつけるテレビと武田邦 彦さんのブログで知りました。正確にはその少し前大学で同僚が話題にしたのが最初です。NHKスペシャルというドキュメンタリ番組で特集が組まれたという 事実は武田邦彦さんのブログで知りました。武田さんは、NHKは嘘と知っていただろうと論じており私も同感です。ランス・アームストロングの例と同じで、 業界のジャーナリストは彼を詐欺師だと知った上で金になるから持ち上げて提灯記事を書いていたのでしょう。もちろん内実を知らないナイーブな記者もいたで しょうが、NHKスペシャルなどという金がかかったドキュメンタリ番組を作るための取材の過程で嘘を見破れなかったというのは、武田さんが論じているよう にありえないと思います。

あるネット記事によるとそのような捏造報道のおかげでCDが18万枚売れたそうです。現代音楽のCDの売上としては異例です。武満徹のような例外的な現代 作曲家でもそのような売上は期待できないのに、全く異常な事態です。別に交響楽が好きでもなんでもないのに買った人が沢山いたのだと考えるしか説明がつきま せん。

作曲家は世界中に五万といます。大部分が著作権協会に譜面を登録しても殆ど演奏されることがありません。武満徹のような作曲家は例外中の例外です。だから 学校で教えたり、流行歌やCM歌を書いたりアレンジしたりして生計を立てています。演奏家を兼ねることが出来る作曲家はまだちょっとましで上原ひろみのよ うな突出した演奏力を持っておれば、テレビやネットに打って出て注目を集めることができます。ジョン・ケージはずっと昔から、他人が演奏してくれ るのを待っていてもらちが開かないから自分でバンドを作って演奏するのだ、現代作曲家はそれしか方法がないのだと主張していました。しかし、そのようなキャリア の作り方も彼だから成功したのであって、万人に通用するとは言えません。フランク・ザッパは現代音楽の作曲という「趣味」を維持するために、ロックバンド を運営して生計を立てていました。

佐村河内守さんのCDを買った人はどう思っているのでしょうか。騙された、金を返せ、と怒り心頭なのでしょうか。福島原発事故以後またたく 間に有名人になった小出裕章さんは、『原発のウソ』という著作の他に『騙されたあなたにも責任がある 脱原発の真実』という新書を出しています。小出さん のことばを頭を垂れて甘受している私は同じことばを佐村河内守のCDを買った人に繰り返すしかありません。

私は音楽大好き人間で、20代や30代の頃は生活費を除いた支出のすべてをCDと本につぎ込んでいました。その頃はネットビデオなんて便利なものはなかっ たので、2000円出して買ったCDが駄作で一回聞いて終わりという経験も山ほどしました。それでも、金をドブに捨てたという感覚を持たなかったという のが今から考えると不思議です。今では、CDを買うまでにyoutubeなどで試聴します。皆そうしているはずです。佐村河内守さんのCDを買った人は事 前に試聴しなかったのでしょうか。

騙されたあなたも悪い、ということでは、数カ月前に話題になった、高級ホテル食材詐欺事件が思い起こされます。伊勢海老を外国産のロブスターで代用してい たというのは、伊勢海老にしろロブスターにしろ頻繁に食べるものではないので、騙されるのも仕方がないかもしれない、とは思いますが、フレッシュジュース を濃縮還元ジュースで誤魔化していたというのは、ありえんだろうというのが率直な感想でした。高級ホテルに泊まる金持ちというのは、予想に反してろくな物 を食っていなくて、味覚もそれほど発達していないのではないかと訝しく思えるほどでした。

もうすべて嘘なんだから、選挙もウソです、民主主義もウソです、とぶっちゃけた方が気がせいせいするんでないのというのが、最近の偽らざる気持ちです。

最近の日本の大きな選挙については、組織票が思いの外強かったです、では説明できないものを多くの有権者が感じています。勇気のある人々は、出口調査をやった り、開票現場でビデオを撮ったり、ゲリラ行動に出ています。そういう彼らを当局は危険人物視しています。「テロリスト」と見なしています。世界のいわゆる 「テロリスト」と言われて弾圧されている人々の多くは、そのような、勇気ある尊敬に値する人々であることをお忘れなく。

今頃になって佐村河内守を糾弾するテレビは、先の東京都知事選で自分の利益のために世論を誘導したことに自覚的であってほしいものです。ダブルスタンダー ドに気づいてもらわないとメディア産業の浄化は望めません。というか、もう腐敗は修復不能なので、我々はせいぜい騙されないようにするしかないでしょう。 騙された自分が悪いのだ、という気持ちを持続させるのが次に騙されないようにするための最良の防護になるのだと思われます。

(Feb. 2014)


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