takashi's pictureTakashi Wakui's Home           takashi's picture涌井隆の家

What's new

Profile                 

Classes 授業

Recent Publications

Animation
アニメーション

Bicycling 自転車

Stargazing 星見

Links リンク

Essays 文章 作文




















ニューヨーク自転車事情、ちょっとだけ911事件について

3月末用事があってマンハッタンに滞在しました。まだ冬の真っ最中で夜中には華氏20度台に下がり風が吹くとズボン下がないとやっていられない寒さでし た。

そんな中でも、自転車に乗っている人が多くて、嬉しくなりました。自転車レーンの設置についてはメディアを通して知っていましたが、実際歩きまわってみる とマンハッタンのあちこちに自転車専用レーンが設けられ、有効利用されているようでした。車道を削るわけですから強い政治意志があったのでしょう。フラン スのVelibに似たレンタル自転車制度もシティバンクのスポンサー付きで行われていて、使っている人にかなり頻繁に遭遇しました。クレジットカードがあ れば外国からの旅行者でも簡単にレンタルできそうでしたが、事故で壊したりすると1000ドル賠償させられるのでやめにしました。支払いのシステムに関し てはリヨンのレンタル自転車制度より使いやすそうでした。自転車の物自体も、ニューヨークの方が良く出来ている印象でした。実際のところは、両方を乗り比 べてみないことにはわかりませんが、外から観察する分には、ニューヨークの方がより洗練されているようでした。

citibike

ニューヨークの自転車熱と軌を一にしているのが、自然食志向の高まりです。食料品店を覗くと、地産地消や有機農法を謳っている食材の多さに驚きます。近辺 の農家直販のファーマーズマーケットはずっと昔からユニオンスクエアなどで開かれていましたが、最近は規模が拡大され、開店している時間も長く、消費者が 使いやすいようになっています。特に驚いたのは、週末コロンビア大学近くの路上でファーマーズマーケットが一日中開かれていることでした。学生は不規則な 生活になりがちで健康的な食事を取っていないのが普通ですから、近くで新鮮な野菜など質の高い食材を手に入れることが出来る環境が整うようになったのは喜 ぶべきことだと思います。近所の食料品店の反対が容易に想像できるので、実現には政治が正しく作動したのでしょう。マクドナルドやバーガーキングの類の店 は明らかに少なくなっています。

考えるに、アメリカはファストフードとソーダとポテチとピザで不健康な肥満ばかり作り、行き着くところまで行き着いてしまったため、教育水準の高い大都会 では、大きな反動が起きているのだと考えられます。日本もよく似たものですが、アメリカの加工食品産業は儲け第一主義なので、当然、品質が犠牲になりま す。それに加えて、健康保険制度がダメダメなので、国民の健康状態は先進国で最悪のレベルです。オバマが国民皆保険を達成したと喧伝されていますが、アメ リカで自国の健康保険制度に満足している人は、金持ちだけでしょう。多種多様な保険会社と制度が乱立しているので、医者に聞いても治療に幾らかかるのか教 えてもらえないという状態になっています。健康保険会社の利権が強く政治はほとんど何もできない状況です。日本のような制度を導入しようものなら、厚生省 による統制経済であり社会主義だ、という紋切り型の批判が飛んできて、潰されます。多くのアメリカ人はインターネット時代になっても自分で調べないため、 健康保険会社によって買収されたメディアのプロパガンダに騙されてしまっています。外国の健康保険制度をちょっとでも調べれば、アメリカの制度がダメダメ なのはすぐわかるのですが、殆どの人が、民主党と共和党の幅の狭い対立の中でしか物事を考えられなくなってしまっています。

外食産業の質は以前より良くなっていると思います。不動産がバカ高いので、物価が高いのは仕方ありませんが、まともなファーストフードの店が増えたので、 探せばそこそこの値段でまともな食事が出来るようになりました。ただ、美味いものは高くつきます。メトロポリタン美術館で面白い展示をやっていたので見に 行き、そのあとそこのカフェテリアで食事をして、ニューヨーク人の舌を理解しました。ローマの美術館のカフェテリアと段違いです。値段はあまり変わらない のにどうしてローマの美術館のご飯は格段に美味いのでしょうか。若い頃は、食事の質をそれほど気にせず、ニューヨークの芸術文化に惹かれていましたが、年 を取ると、食文化の重要性に目覚めてきました。金に物を言わせて外国から宝物を手に入れきれいに陳列しても、カフェテリアのご飯が不味ければ、貴重な芸術 体験もその価値が半減です。人生美しいものに囲まれているのと、美味いものに囲まれているのとどちらかを選べと言われると、私の場合、最近では後者を取り ます。ただ、今も昔もチャイナタウンに行けば安く美味いものを食べることができます。

滞在中は主に図書館で調べ物をしていましたが、結構歩きまわりデジカメとマミヤ645で街の写真を沢山撮りました。80年代と90年代に長い間過ごした街 でとても愛着があるのに写真はほとんど残っていないので、今回は貪欲に撮りまくりました。写真撮影といえば、面白い経験をしました。コロンビア大学の構内 でマミヤ645を構えていたら、若い男子学生が話しかけてきたのです。マミヤプレスとゼンザブロニカを所有し白黒フィルムで撮り、大学の現像室で自分で現像 引き伸ばしをするそうです。私も高校時代には現像・引き伸ばしの経験があるので、話が弾みました。最後に私のマミヤを覗きたそうにしていたので、覗かせて あげました。街を歩いていると、他にも135フィルム一眼レフを肩にぶら下げている女性を2人見かけました。若い人の中にはデジカメに飽きてフィルム カメラを見なおしている人が一定数いるようです。今回、空港からマンハッタンに入ったのはバスの上で、かつ、快晴の黄昏時という最高の条件でした。ミッド タウンにバスが入って行く時、車上から見える建物の色合いがあまりにも美しく涙が出そうになりました。デジカメのシャッターを切り続けましたが、ガラス越 しだったので満足にとれたコマはありません。私が知っている大都市の中で一番美しいのがニューヨークだという考えはたぶん死ぬまで変わらないだろうと思い ます。

マンハッタンについては、高層ビルの谷間にいると圧迫感を感じる人もいるようですが、私は、ミッドタウンの巨大建築物がこの街のエネルギーを感じさせて好 きです。考えてみると、この街は世界を実質的に支配する超エリートを濃い密度で集めている街です。平民である私は彼らが眺める上からの眺望を知りません。 地面を這いまわる平民の視点でしか、この街を見ることが出来ません。でも、そのような冷酷な世界体制を理解した上で、それでも、この街の美しさを否定でき ません。ニューヨークのような街は他に知りません。

5年ほど前から、ハドソン川沿いの鉄道跡が散歩道として再開発されHigh Lineと呼ばれています。ニューヨークの新たな観光名所になっていて、確かにお勧めです。現代美術と植栽が都市の建築空間に溶け込んで目を楽しませてくれます。実は私は自分が滞在している場所からここに行こうとして、西に どんどん歩いて行ったら、意図せず911同時多発テロ現場にたどり着いてしまいました。これには苦笑してしまいます。私はこのホームページの一連の作文 で911事件を繰り返し、取り上げているので全く偶然だとは思えません。その跡地では、NYPD(ニューヨーク警察)の警官が911同時多発テロ事件記念 冊子を路上のテーブルに広げて売っており、ホントのところは3冊30ドルなんだが、お前には20ドルにまけてやるよ、という類のあくどい商売をしていまし た。911事件真相解明運動家が何度もFOIA(情報公開法)請求してしぶしぶNISTが出してきた画像を、その冊子を買わないと他では見られないなどと 嘘の説明をして売りつけようとしていました。その画像群はネットで探せば山ほど見つかるはずです。そんな冊子を買うまでもありません。911同時多発テロ事件の真相について、そ の人に議論をふっかけてもよかったのですが、相手はなんと言っても警官なので、やばい騒動に巻き込まれないとも限らず危ない橋は渡らないでおきまし た。ただ、後から考えると、「あんた、これNISTがしぶしぶ公開した画像だよね。NISTのシミュレーションってどう思う?飛行機がぶつかっただけで、 こんな破壊が生じると思う?」とやんわり皮肉を交えて対応してやればよかったと後悔しています。

highline

911事件といえば、滞在中にあるニューヨーカーと議論する機会がありました。英語ともうひとつの欧州語の完璧なバイリンガルで、通訳翻訳を職業とし世界 中を飛び回っている人です。文学作品を英語に翻訳するだけでなく、自作品も英語で出版している人なのでこれ以上書くと身元がばれるので書きま せん。彼は、いわゆる「陰謀論」を聞いたことがあるようでした。モサドが関わっているとか、ユダヤ系の 会社が事件直前にツインタワーから退去したとか、そのような噂は、彼に限らず、そこそこ教養のある人は皆知っていることなんだろうという印象を持ちました。ただ、私の説明には全く耳を傾けようとはしませんでした。飛行機がぶち当 たって燃料が燃えただけで、鉄筋が溶け、コンクリートがこなごなになるのかね、という私の質問には答えず、飛行機が絶妙な場所を狙い撃ちしたので重力崩壊 したのだというハーバード大学の教授がNYTに載せたパンケーキ重力崩壊説を繰り返すのみでした。私が日本人であることを知って、あのタワーは日本人の建築家 による設計だったよね、とご丁寧にも付け加えてくれました。これが「文系人」の限界なんでしょうか。詩とか文学とかそういう話をしている時は、知識も豊富 でなかなかの教養人でしたが、巨大な建築物を粉々にするエネルギー量というような話になると全く常識的な判断が出来なくなってしまうというこの珍現象は、 教育者全員が考えるべき大問題だと思います。昔、C.P.Snowが投げかけた大きな問ですが、今だに答えが出ていません。というか、Nature とか Scientific American のような権威ある総合自然科学雑誌自らが、あの事件の真相について科学的究明を行なわず口を閉ざしていますから、何をかいわんやでしょう。科学的思考を広 める使命を帯びている科学メディアが科学から目を逸らしているのですから。

他には、ニューヨークは6年ぶりなので、スマホの普及に圧倒されました。携帯を使っている人のほぼ全員がスマホだという印象でした。無料のwifi環境は 主要美術館、図書館、コロンビア大学周辺(NYU周辺はだめの印象)など、他にも探せばありました。地下鉄の路線図は以前は駅で無料配布していましたが、今ではスマホに pdfファイルをダウンロードすればそれですみます。私が使っているスマホは海外から安く買ったアンドロイドですが、持って行って正解でした。様々な状況 で役に立ちました。以前は、NYTやNew YorkerやVillage Voiceで娯楽芸術情報を手に入れたものでしたが、今回の滞在ではNYTは図書館で手に取っただけです。紙面もタブロイド紙のように小さくなり読んでい る人も格段に減りました。NYTの日曜版をブランチを食べながら読むなんて言う儀式はもう過去のものとなってしまいました。新聞の定期購読者の低下は日本より激しいのではないかと推測できます。もう皆スマホで情報を取っているようです。この街にはスマホが似合ってい ます。

もうひとつ。ユニオンスクエアで台湾人学生のデモに遭遇。またタイムズスクエアでエジプト人の暫定政権に反対するデモに遭遇しました。まあ、あのくらいの 規模のデモは体制にとってどうでもよく旅行者の被写体になるだけです。オキュパイウォール街になると徹底的に弾圧され、指導者は監視されます。テロリスト 扱いです。

この街は旅行者が見ると一見栄えているように見えます。ウォール街は量的緩和で潤っているし、外国からこの街を訪れる人々はもともと金を持っています。し かし、ここに住んでいる人の話を聞くと楽観的にはなれません。リーマンショック並みの大きな下げが近い内にまた来るという予感は多くの人が共有していると いう印象を受けました。

(April, 2014)


copyrights Takashi Wakui