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真実があなたを自由にする The truth will set you free.

表題にある一節は『ヨハネによる福音書』の第8章32節からとったものです。翻訳によって「真実」が「真理」になったり「あなた」が「あなたがた」になっ たりします。国会図書館の目録ホールに掲げてある「真理はわれらを自由にする」ということばは、聖書のこの一節に由来するのだそうです。

この一節は、イエスがパリサイ人に語りかける場面に出てきます。パリサイ人が姦淫を犯した女に石を打てと挑発するのをイエスがうつむいて黙って聞き、最後 に、「あなたがたのうちで罪のない者が、まず彼女に石を投げなさい」と言うと、まわりに集まった人達が、ひとりひとり去って行ってしまい、誰もいなくな る、という有名なシーンのすぐ後です。この名場面はキリスト教徒でなくても知っている人が多いと思います。最後に残されたパリサイ人にイエスは、自分は父 なる神に遣わされた、神は真実を知っている、私はあなたにそれを伝える、それを受け取るあなたは自由になる、と語ります。ネットで読んだ日本語訳では、こ の部分だけが、どういう訳か「真理」になっていますが、その前は、ずっと「真実」ということばが使われています。この使い分けに何か意味があるのかはわか りません。私が今回参照した英訳では、truth ということばが一貫して使われています。原文のギリシア語でどうなっているのかは知りません。

さて、私がこの一節をめぐって作文しているのは、前に話題にした、ランス・アームストロングとオプラ・ウィンフリーの対談の中でウィンフリーが引用してい るのを聞いたからです。実は、前にも書いたように、私は、二回目の対談の殆どをライブで聞いていません。ライブで聞き逃したら、このたぐいのビデオクリッ プはネットビデオで無料で見ることはもう多分できないだろうと諦めていたのですが、大学の同僚の英語母語話者がyoutubeに置いてあると教えてくれま した。彼はべつに自転車ロードレースファンでも何でもないのですが、日本に住んでいても英語で情報を取っているのでメディアで大きく取り上げれられたラン スの告白に興味を持ちネットで探したら見つかったという事でした(なにしろ、全世界で300万人の人がライブで見た対談です。私の知り合いの英語母語話者 でこの対談を知らない人はいません。)たぶん今でも消されずに置いてあると思います。すこし解像度が低いスペイン語の字幕付きのクリップなので、オプラが 削除を要求しなかったのだろうと想像します。

オプラが The truth will set you free. という表現を使うのは、一時間半におよぶ対談の締めくくりにおいてです。オプラは、ランスに向かって、この経験を通じて何か教訓を得たか?と問います。ラ ンスの答えは、忘れましたが、オプラはランスに代わって、「真実はあなたを自由にする」ということではないのか、と再度問いかけます。それに対するランス の回答は、煮え切らないものでした。ひょっとしたら、この告白の場においてもまだ嘘をついているということを自覚しているからではないのか、と勘ぐられて も仕方が無いような受け答えでした。

"The truth will set you free." ということばが印象に残っているもうひとつのビデオクリップがあります。それは、シベル・エドモンズ(Sibel Edmonds)を追った Kill the messenger というドキュメンタリビデオです。youtubeで全編見ることができます。以前紹介したようにシベル・エドモンズは数多い911事件をめぐる内部告発者 の中で最もよく知られた人物で、ダニエル・エルズバーグ(Daniel Ellsberg)と共にNational Security Whislteblowers Coalition (NSWBC)を立ち上げた人です。ダニエル・エルスバーグはペンタゴンペーパーズをNYTなどに提供した人としてよく知られています。Kill the messenger というドキュメンタリは、内容が興味深いだけでなく、編集と音楽が光っています。強権の腐敗をすっぱ抜く硬派ドキュメンタリは、往々にして、内容は面白い が映像作品としては月並みなものが多いものですが、これは違います。超お勧めです。

このドキュメンタリの後半の1/3ほどのところでエドモンズがThe truth is going to set me free. というところがあります。その部分を引用します。

Put out the tapes. Put out the wiretaps. Put out those documents. Put out the truth. The truth is going to hurt them. The truth is going to set me free.

tapes とか wiretapsというのは、FBIが911事件につながるアメリカ国内の不審な動きを追って盗聴していたのですが、その会話を録音したテープのことで す。やつら(them) というのは、腐敗しきった国家権力です。彼女がFBIの翻訳家として見聞きした腐敗には、麻薬輸出、核技術を含む軍事技術の輸出、テロリスト支援が含まれ ます。その内実が明るみに出ればやつらは困るだろうが、自分は自由になれる、と言っています。国家権力から緘口令を敷かれ、言いたいことが言えないもどか しさが彼女の表情から伺えます。

私がこのドキュメンタリを最初に見たのは3年前ですが、それ以来、ずっと彼女が隠してきた情報の中身を詳しく知りたいと思って来ました。彼女の手記である Classified Woman がアマゾンのキンドル版で出版されたので飛びついたのはそのためです。しかし、それを読了しても、彼女とFBIや司法省との法廷闘争や、FBI内の腐敗の 実態については詳細がわかっても、国家権力の超腐敗についてはそれほどつっこんだ情報がなく物足りなく感じたのは確かです。

ただ、その不満は最近一部解消されました。彼女がCorbettreport.comのJames Corbettの求めに応じて、3回にわたってインタビューを行い、かなり詳細に内実を暴露したからです。その内容は私にとっては想定内ですし、彼女の話 によれば、彼女が読み書きできるトルコ語やペルシャ語ではメディアに流布しており、別に全く目新しい情報という訳ではなさそうです。しかし、その情報は、 NYTなどの西側の既成メディアには絶対出て来ません。したがって、朝日新聞やNHKにも絶対に出て来ません。

この類の情報は、未だに、聞く耳を持たない人は、「陰謀論」として条件反射的に警戒して耳を塞いでしまう類の情報なのかも知れません。俺はトルコ語なんて 読めないし、そんな俺は、あんたエドモンズとNYTやエコノミストのどちらを信頼するのかと聞かれたら、後者を信頼するとしか言えないじゃないか、という ような人が今だに存在するのかも知れません。そのような人は、福島事故以降の既成メディアのデタラメぶりを経験しても、まだ気づいていないのであれば、も うかなり救いようのない重症ですね、と憐れむしかありません。最終的には誰を信頼するかは自分の論理的思考力と想像力に頼るしかありません。

私としてはまず彼女の話を聞いてくれ、というしかありません。ただ、突き放して終わりではよくないので少し要約します。

Operation Gladio というアメリカ軍、NATO、CIAが参画実行してきた一連の作戦があります。戦後初期には「冷戦」下における対ソ連の秘密作戦としてイタリアなど欧州を中心 に実行されましたが、「テロとの戦争」以降は中東、中央アジアに舞台が移っています。その変化に対応して、NATOの役割と行動の場も変わってきていま す。その中身は、簡単に言うと、「西側諸国」の「国益」のために、諸外国の犯罪組織(組織暴力、麻薬密売、武器密売、イスラム原理主義組織などなど)と手 を組み、政情を撹乱して、「敵」と見做し「覇権」を争っているロシアや中国と対峙するという作戦です。例えば、中国が石油や天然ガスをカスピ海領域からパ イプを引いて輸入しようとする動きがあると、それを邪魔するために、中国と交渉しているパキスタン政府と対抗する部族や政治勢力や犯罪組織と手を組んだ り、あるいは自ら作り上げたり(アルカイダ)して、妨害するという作戦です。端的に言えば、大英帝国が昔からアホの一つ覚えで繰り返している、「分断して 統治しろ」というマニュアルです。その内実は、冷酷なマキャベリズムであり、孫子であるのですが、大英帝国やそれを引き継ぐ大米帝国は、「自由と民主主義 を広め女性を解放する」という詭弁で多くの人を騙してしまう狡猾さを洗練させています。NHKがやってるサンデル先生などもそういうイデオローグと考えれ ばよくわかります。(実は私はサンデル先生をまだ聞いていないので、想像で書いています。彼が911事件についてまじめに語るなら聞いてあげてもいいかな と思っています。)

まあ、最近は、狡猾と言うより、露骨に侵略して終わりなので、多くの人が腐敗とでたらめさに気づくようになったでしょう。アフガニスタン、イラク、リビ ア、シリア、などなど。アメリカ国内では何千万という子供たちが飢えているというのに世界の軍備の大半はアメリカ製です。米軍の予算はアメリカ以外の世界 全体の軍事費の合計を超えるだけではなく、アメリカ以外の国の軍備の大半もアメリカ製です。かの国の軍産複合体の暴走は大統領ですら止められず、日本もそ の中に組み込まれています。日本の経済が意味のない土木工事に大きく依存しているように、アメリカの経済は戦争を世界中で続けていることで成り立っていま す。戦争はビジネスです。

Operation Gladio はイタリアでは広く知られていますが、類似の秘密作戦が、東アジアでも遂行されたのは想像にかたくありません。日本の戦後史を真面目に書こうとすれば、そ の辺を明るみに出さないとだめでしょう。そのさきがけが孫崎享さんあたりなのかもしれません。御用歴史研究学者ではなく勇気ある知識人の仕事です。

エドモンズとJames Corbettとのやり取りは、真摯で信頼できるものです。視聴者からの疑問に真正面から答えています。例えば、「どうしてあなたの一方的な話を私が信頼 しなければならないのか?」とか「どうしてあなたはまだ闇の権力によって消されず生きているのか?」などの素朴な質問にも答えています。

どうしてあなたは消されずに生きているのか、という質問に対する彼女の答えが、興味深いので紹介します。確かに、2004年ごろは自分は腐敗した国家権力 にとって大きな脅威だった。しかし、今では大統領が自分が気に入らない人間をドローンで殺しても全く罪に問われない法律体系を確立してしまった。それに対 して世論の怒りは聞こえない。憲法が蹂躙されても国民は黙ったままだ。国民を完全に骨抜きにしてしまったので、自分を殺す必要もない。腐敗した国家権力は 国民を徹底的に舐めきっている。

なるほど、その通りです。というか、大多数の人は、生活していくだけで大変なので、テレビのニュース解説の裏を探る時間がないのだと思われます。エドモン ズが語る真実より、NHKがばらまく嘘を信じてしまうのでしょう。ここまで家畜化してしまえば、あからさまな弾圧は必要ありません。

しかし、最後まで彼女は楽観的です。世界はirate minority (怒れる少数派)が変えていくしかないのだと締めくくります。

(March 2007)

追記:

遅まきながらTyler Hamiltonが Daniel Coyle の協力を得て書いた The Secret Raceを読みました。ハミルトンはそれを The truth really will set you free. ということばで締めくくっています。オプラが The truth will set you free. とランスに言ったのは、このハミルトンの手記を読んでインタビューに臨んだからでしょう。アメリカ連邦政府(FDA、司法省)がランスのドーピング疑惑の 本格的な調査を始め、ハミルトンを含む多数のレーサーが証人喚問され偽証すると牢屋行きという条件の下仕方なしに白状したのですが、その経験を振り返って ハミルトンは嘘をつき続けることの重圧から解放されて、今までにない幸せを感じたと述懐しています。彼は、手記を執筆後、メディアに出てランスに、お前も 告白しろと呼びかけています。ランスがオプラとの対談を決意したのは、直接的にはナイキなどのスポンサーを全部失ったからですが、ハミルトンの手記が、ア メリカ内に反ランスの機運を作ったことは否定できません。

私がツールをリアルタイムで観戦するようになったのは2006年からなのでランスのドーピング疑惑に関してはランディスが常に頭の中にあります。ランディ スが2010年の夏、ランスを名指しで批判しはじめてはじめてドーピングの内実が見えてきました。しかし、この書物から教えられたことも沢山あります。オ プラとの対談でランスがドーピングの事実を認めても、ネットにはランス信者が多くいて、彼を擁護する輩が絶えることはありません。よく聞く意見は、エリー トレーサーがほぼ全員ドーピングしていた中でランスが圧倒的に強かったんだから、ランスが最強なんだろ、という意見です。こういう意見については、沢山書 きたいことがありますが、詳しい議論は別の作文に譲るとして、ここでは、ランディスもハミルトンもランス級であり、ランスを敵にしてツールに勝つ可能性が 十分にあったレーサーであると書くにとどめます。とにかくハミルトンのこの手記は必読です。いくら有能なジャーナリストが腐敗しきった業界を外から眺めて 出典豊富で文章巧みな書物を出しても限界があります。内側にいるものは、外部には決して漏らさない情報を持っているので、内部告発者の手記を待つしかあり ません。




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