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ベルビア礼賛

ベルビアというのは富士フイルムが製造しているリバーサルフィルムのことです。リバーサルフィルムというのはネガフィルムのようにプリントするのではなく 透過スライドとして鑑賞するフィルムです。デジカメが普及する前はカラー印刷用にも使われていましたが、今日ではもっぱらルーペで拡大してみたり、映写機 で投影したりして鑑賞します。

1ヶ月前には想像もしなかったのですが、今、私は中判カメラを使ってリバーサルで写真を撮る楽しさに目覚めてはまっています。その経緯について書くと偶然 に偶然が重なっていることに気づきます。

1. 実は大昔高校と大学の頃、35ミリ判一眼レフを使い、カラーはリバーサルで撮っていた。実家からその頃のスライドを沢山持ち帰っていたが長い間ほったらか しにしていた。
2. 最近思い立って、ルーペで鑑賞しようとしたが、保管していた場所が結露の繰り返しでレンズが曇ってしまっていた。
3. オンラインの店でルーペについて調べると、ピント確認用の小さくて高倍率のものより、比較的倍率の低い大型のもののほうが迫力があると知り、購入。
4. そのルーペで数十年前のスライドを見たら色の鮮やかさに感激。コダクロームが秀、エクタクロームが優、フジクロームが良であるという印象。その頃は、富士 フィルムはコダックに完敗でした。小さなルーペで見れば、感激はなかったでしょう。
5.中判カメラで撮影したらもっとすごいだろうと想像し、ネットオークションで安くカメラを購入。レンズも安い。とっくの昔に製造中止になっている Mamiya 645です。
6. ベルビアで名古屋近辺の田園風景を撮って、その美しさに圧倒される。

何がすごいかというと、立体感のある像と、ファインダを覗いていると錯覚させる臨場感です。片目で覗いているのにも関わらず、奥行き感もビンビン感じられ ます。何故誰もこのすばらしさについて教えてくれなかったのか。人生やり直したい気分です。今まで世界のいろんな所に行ったけど、リバーサルフィルムで記 録しなかったことが悔まれます。年をとるにつれて感動する機会が減りますが、リバーサルフィルムとの今回の遭遇は、数年に一回あるかないかの感動でした。

私が一般人より写真やカメラについて興味があるのは確かです。デジカメ一眼も持っているし、天体写真を撮るべくフィルム用一眼レフも何台か買いました。た だ、天体写真では長時間追尾するためのシステム構築に金と手間がかかり、天体用冷却デジカメを使い始めると、銀塩カメラは使わなくなりました(ここで は触れませんが光害の影響もあります。)通常の写真撮影はコンパクトデジカメだけになり、プリントもしなくなりました。一応、デジカメ一眼も買いました が、JPEGでしか撮らず、まるで「写ルンです」のような使い方をしてきました。

つい最近コダックがリバーサルフィルムの製造販売の中止を発表しました。リバーサルフィルムは、言わば、絶滅危惧種です。ベルビアは比較的人気があるので近年中に製 造中止ということにはならないと思いますが、プロが印刷用に使わなくなったので、ほぼ全面的にアマチュアの趣味的な用途にかぎられ、市場規模は縮小の一途をたどるで しょう。大きな時代の流れに個人は無力なのでどうしようもありませんが、リバーサルフィルムの黄昏の時代を微力ながら最後まで支えて行きたいと思っていま す。

リバーサルフィルムをルーペで鑑賞することのすばらしさを言葉で表現するのは容易ではありません。私がすごいすごいと書いても実際に覗いてもらわないと伝 わらないし、覗いてもらっても100人に一人感激する人が出れば上出来でしょう。ですから、別の方法で説得を試みます。

銀塩フィルムを使って撮影して、通常のラボにプリントを依頼すると、その過程の中にデジタル化が入り込みます。最近のDPEの店のプリンターはフィル ムをスキャンしてプリンターに出力するようです。そうであるならデジカメで撮影してJPEGのファイルをプリントしてもらうのとどこが違うのか疑問です(厳密に言うと、超高解像でフィルムをスキャンして専用のソフトで処理すると銀塩の味をプリントアウトできるそうですが)。 個人的には、プリントして鑑賞するのが最終目的ならデジカメ一眼を使ってRAWで撮り、パソコンでデジタル現像する方を選びます。実際、今回リバーサル フィルムによって写真を再発見してからは、天体写真ではない通常の写真もJPEGで撮っておしまい、ではなく、ときどきRAWで撮ってデジタル現像をするようにな りました。天体用の冷却デジカメを使う場合、モノクロで撮ってRGBの三色合成をするという厄介な作業があるので、地上写真のRAW現像はそれほど面 倒な作業であるとは感じません。むしろ自分で出来栄えをコントロール出来る領域が増えるので、銀塩ネガフィルムで撮って後はラボにお任せよりましです。

リバーサルで撮ってラボに現像を任せると、自分でコントロール出来る領域は撮影時のコントロールに限定されます。しかし、撮影から現像、鑑賞に至る過程に デジタル化は入り込みません。すべてアナログです。レンズを通ってフィルムに到達する光が、フィルム表面で化学反応を起こし外界の色を固定します。それを ルーペで見るプロセスもアナログです。光の信号をサンプリングしてデジタル化しているわけではありません。出来上がったスライドはモノとして存在し、コ ピーを作ろうとすれば劣化したものしか作れません。デジタルデータをコピーすれば劣化しませんが、ポジフィルムはたった一つしか存在しないオリジナルで す。

何でもかんでもデジタルの世界に住んでいると、スライドをルーペで覗くというアナログの時間がとても貴重に思えます。ベルビアの色が誇張され過ぎであると 感じる人も多いようですが、私はそう思いません。雲間から太陽が顔を出す瞬間、外界は鮮やかさを増します。ボロボロのトタン屋根に鮮やかな色が潜んでいま す。ベルビアは何気ない日常の中にある色の美しさに気づかせてくれます。

私のこの作文を読んで、リーバサルフィルムに挑戦したいと考える方には、中判カメラをお勧めしたいと思います。645以上です。645判は35ミリ判の二 倍近くの面積があり、迫力が違います。大きければ大きいほどよいので、66や67以上を試すのもいいでしょう。私は、Mamiya 645が安くて一眼レフなので使いやすく気に入っています。似たような機動性をもっていてさらに大きいPentax 67はまだ高いです。バルブ露光すると電池を食うので加工しなければならないという問題もあるようです。レンジファインダのカメラは軽くていいのですが、 一眼レフが何かと便利です。

ベルビアで感激してから、コダックのE100VSも使って見ました。在庫が終われば終了のフィルムです。これは粒子がベルビアより荒いけれど、色はベルビ アより柔らかです。これも気に入りました。コダックがリバーサルフィルム部門を畳んだのは、ベルビアに代表される富士フィルムに駆逐されたと解釈すること も可能ですが、どっちにしろ、富士フィルムにしてもリバーサルフィルムで大儲けすることは出来無いので、細々と絶やさないように製造続けてくれることを祈 るしかありません。

(March, 2012)



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