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様々な陰謀説

巷には様々な陰謀説があふれています。去年の3月15日に関西に避難したことは書きましたが、避難中に犬を散歩していたときに出くわして立ち話をした近所 のおじさんは人工地震であると信じているようでした。私が今学期教えたある学生も、塾の先生に311が人工地震だと教えられたそうで、お前はどう思うかと 訊いてきました。フリーメイソンについてどう思うかと聞いてきた学生もいたし、私が911やHIV/AIDSについて話した在米の知人は、1ドル紙幣にピ ラミッドの上に目が描いてあるのはイルミナティだとか何とか語ってくれました。彼らのひとりひとりが、そのような様々な諸説についてどの程度知っていてど の程度確信しているのかは、詳しくは知りません。ただ、我々が知りえないところで世界を支配する強大な権力が存在し、背後で糸を操っているのではないかと ぼんやり考えている人が多いのは明らかでしょう。本屋には、「陰謀論」というカテゴリがあって大きな販売店では「ユダヤ資本」とか「ロスチャイルドの世界 支配」などという類の本が沢山売られています。一般的には胡散臭いとみなす人が多くて、意図的に避けている人が多いと思いますが、私は何冊か文庫本を買っ たことがあります。

陰謀というのは複数の人間が共同で悪巧みを実行に移すことですから、大掛かりな犯罪はすべて陰謀です。2004年に米国政府が出した911についての報告 書も、オサマ・ビンラディンの指揮の下、19人のアラブテロリストが4機の旅客機をハイジャックしたということなので陰謀説です。デンマーク大学の化学者 であるNiels Harritらが提出したナノテルミット説は背後に米軍の関与を示唆していますが、それも陰謀説です。という訳で、すべての大掛かりな事件が陰謀であるの は自明の理です。重要なのはどの陰謀説がより説得力があるかということです。

しかし、「陰謀説」とか「陰謀論」ということばは、そのような中立的な意味ではなく、パラノイアファンタジーで頭がいかれた連中の妄想であるというような 否定的なニュアンスを帯びて使われることが多いようです。いつそのような意味が付与されたのかは定かではありませんし、その点を究明するだけでも大部な論 文が書けるでしょうが、それはこの文章の意図するところではありません。ただ、中身を真面目に吟味しないで、「陰謀論」だと否定的に決め付ける人が多く て、うんざりするのは確かです。明らかにアホではない人が、まともに議論せず、一方的に決め付けるのは何か背後に隠れた事情があるのではないかと勘ぐって しまいたくなるほどです。個人名を上げてひとりひとり論じてもいいですが、雑魚を相手にしても意味がないので、オバマ大統領の側近であると言われている、 キャス・サンスティン(Cass Sunstain) という人について少し書きます。

サンスティン がもう一人の人と共著で書いた "Conspiracy Theories" (2008) という論文がネットにころがっているので読んでみてください。私は、一応読み始めたのですが、911の公式説に疑問を呈する人々を十把一絡げに「陰謀論 者」と決めつけ、米国政府はこのような頭のいかれた連中の洗脳を解くため彼らの組織に工作員を送り込む必要があるなどと論じているのを知って唖然とし、読 むのを止めました。ハーバードの先生だけあって英語はうまいのですが、関西弁で言うと、「この人アホちゃうん?」という感想しか出てきません。911に関 しては、Niels Harritさんの決定的な論文があるのを知らないのでしょうか。まあ、Harritの論文は2009年に出たので仕方がありませんが、Steven Jonesさんの論文は2007年に出ていましたし、グリフィン (David Ray Griffin) の最初の本("The New Pearl Harbor" は2004年に出ています。粉塵の中から検出された未点火のナノテク爆薬について知らなくても、米空軍の戦闘機にスクランブルされずに4機もハイジャック できるなんてことがありえないのは、航空管制に関わっている民間人や、軍の高官達には自明のことなので、2001年9月11日の当日に疑問を感じた人は世 界中で百万の単位ではないとしても、万単位ではすまなかったと思われます。残念ながら当初私は完璧に騙されしまいその少数の賢い人々の内に数えられません でしたが、今は疑問の余地がないと考えています。ハーバードの法学者が2008年の時点で911について本格的な論文を書くなら、もうちょっと真面目に調 べて書けよと言いたくなります。

もう一人挙げると、ノウム・チョムスキー (Noam Chomsky)です。彼は、著名な言語学者であり、反体制的な政治関係の著作でも広く知られています。私は未読ですが、911直後に小冊子を出版してい ます。彼が911についての「陰謀説」を否定しているビデオクリップがネットにころがっているので聞いてみてください。彼によると、アメリカ政府の関与は 限りなくゼロに近い、何故なら、政府は無能であるし、陰謀に関わった人が必ず情報を漏らすので、もし政府の陰謀があったなら広く知れ渡っているはずだ、と いうことだそうです。そう考える理由は何も述べず、ただ断定するだけです。チョムスキーのこの議論は政府無能説、あるいは政府無政府説と言い換えてもいい のですが、結構人気があります。政府や官僚を叩けば一般の民間人は喝采しますし、保守派の人達はもともと政府の規模を小さくしたいので、このような議論は 大歓迎です。諜報関係の政府高官として長年勤め、後にABCのコンサルタントになったリチャード・クラーク(Richard Clarke)もテレビに出てきて似たような議論で政府を批判していました。彼の議論は2004年に出た政府の公式報告書に反映されています。かいつまん で言えば次のようになります。政府は無能で突然のテロ攻撃に全く対応できなかった。複数の政府機関はお互い情報を共有せず、協力体制を取ることが出来な かった。ただただ混乱のみが支配した。政府が有能ならば、あのテロ事件は未然に防げたはずだ。

この議論には多くの事実誤認と欠陥があります。詳しくはRichard Gageに代表される911真理究明運動の議論を参照してください。政府は無能といいますが、アメリカにおいて連邦政府の長官になるのは民間企業でトップ の座を経験した人が多いですし、アメリカでは日本で言う天下りというより、政府と巨大企業の一体化の傾向が最近どんどんその勢いを強めている印象がありま す。また、組織は秘密を守れない、と主張する人は本当に組織の中で働いたことがあるのかどうか訝しく思えます。Niels Harrit説によればアメリカ軍の関与が濃厚ですが、もしそれが事実であれば、秘密を漏らせば死を意味する箝口令が組織の掟として機能しているはずで す。地方の弱小ヤクザですら親分なら墓場に持っていく秘密を沢山持っているはずです。米軍と地方ヤクザの殺傷能力の差は言うまでもありません。私には、 チョムスキーらの政府無能説は全く説得力がありません。多くの人が彼のような議論に説得力を感じるのは、言語学の権威だからと無批判に信じてしまうからの でしょうか。権威や知名度を無視して、自分の頭で考える習慣をつけてもらいたいものです。

このように、私は個々の「陰謀説」を一方的に否定せず、できるだけ議論に付き合うという態度を取ります。何故かというと、この文章でチョムスキーやサンスティンを批判している私ですら、2000年代の半ば頃までは彼らと似たような意見を持っていたからです。たしか、2005年か2006年だったと思います が、911に関する「陰謀論」サイトを見つけて斜め読みしたことがあります。でもその頃はNYタイムズやPBSやNPRやBBCに対して一定の信頼を寄せ ていたので政府の公式説を疑わず、あまり深入りしませんでした。ホームページの作りもアマチュアぽくって何か胡散臭いなという印象を持ちました。今から考 えれば赤面ものです。政府の公式説が嘘であると確信を持ったのは2009年の後半です。それ以降大学の英語の授業で取り上げていますが、Richard Gageの講演は圧倒的な説得力があって殆どの学生が説得されるようです。ですから、サンスティンは無理としても、チョムスキーなどは今でも半帝国主義・反 体制を貫いているわけですから、自分は間違っていたと、公式に表明してもらいたいと思います。出来無いのであれば何故なのか興味津々です。

911などの世界の嘘について授業をしていると学生に、311人工地震説についてはどう思うとかとか、フリーメイソンはどうだとか、イルミナティはどうだ とか、などの質問を受けます。俺はこう思うがお前はどう思うかという問ではなく、一方的にお前はどう思うかという問いなので、私の答えに信頼を寄せている と考えていいのでしょうか。もう少し、人を頼らず自分で考える癖をつけてもらいたいと思います。

フリーメーソンだとかイルミナティだとかを口にする人の多くはそれらの実態についてあまり深く考えたことがなく具体的な情報を持っていないのが普通です。 しかし、本当のことを知りたければ、具体的な知識が必要です。秘密結社がホームページでその内実を公開するなんてことはありえません。誰が主要なメンバー なのかすら分からないのであれば、そのような組織についてしたり顔で語っても何の意味もありません。フリーメイソンやイルミナティなど古い歴史を持ってい るので、人々の歴史ロマンをかきたてるのでしょうが、過去を語っても意味はありません。我々が知りたいのは、2012年の今起っていることの真相なのです から。

311人工地震説についても同じことが言えます。その可能性を無碍に否定するつもりはありませんが、地震発生の物理的メカニズムについて詳細を語ってもら わないと説得力がありません。ネットビデオでフィンランドの人が色々説明しているビデオを見つけて見始めましたが、今ひとつ具体性にかけていたので最後ま で付き合えませんでした。フィンランド語がわからないので英語の字幕がどの程度正確なのか確かめようがありません。

英語に悪魔は詳細に宿るという表現があります。The devil is in the details です。それをもじって真理は詳細に宿るといい方も可能でしょう。具体性を欠く証明はありえません。しかし、世の中には、意味不明の曖昧な言説が呆れるほど 流通していて、多くの人達がぼんやり信じています。私にはよく理解できない事態です。

(March. 2012)



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