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またまたツールがやって来ます

今年もツール・ド・フランスの時期がやって来ました。今週末から始まります。今年初めてEUROサッカーも何試合か見てすごいなと感心している(特にイタ リア対スペイン)のですが、真夜中なので生で見るのは辛いものがあります。ツールドフランスはゴールが12時頃なので寝る前に面白いところをちらっと観戦 できます。日本の経度はヨーロッパの自転車レースを生で観戦するのにうってつけです。

出場すれば勝つ実力のあるスペインのアルバート・コンタドール(Albert Contador) はドーピングで出場停止です。同じく優勝候補のアンディ・シュレック (Andy Schleck) も怪我で出場しません。アメリカの反ドーピング機関である USADA (U.S. Anti-Doping Agency) がランス・アームストロングを告発しました。ランスは、いつもの通り、俺は無実だを繰り返しています。

去年、フロイド・ランディス(Floyd Landis) のインタビューがABCのNightlineに取り上げられたと紹介しましたが、今回 USADA の摘発があり、色々調べたら、タイラー・ハミルトン (Tyler Hamilton) のインタビューを見つけました。60Mins (60分) という有名なテレビドキュメンタリ番組です。これも2010年の夏に放映されたのですが、私はうっかりしていて見落としていました。その存在は知っていま したが、なにしろ、私がツールを生で見始めた2006年には自転車レース界を去っていた人なので、親しみを感じずうっちゃって置いてしまいました。

しかし、ハミルトンの証言は、ランディスを上回ります。例を挙げると、スペインにチームメートとともにプライベートジェットで飛んで自己輸血したこと、秘 密の携帯電話を持たされていたこと、2001年のツールドスイスでランスがドーピングテストで陽性が出たのに、チームの監督であるヨハン・ブリュニール (Johan Bruyneel) がUCIと話し合ってもみ消したことなどを語っています。もうここまで来ると、ランスも万事窮すか、と誰もが思います。

USADAの告発の背景には、ハミルトンやランディスの証言の他、テレビには取り上げられていませんが、ジョージ・ヒンカピ (George Hincapie) やフランキー・アンドレユ (Frankie Andreu)らの証言があります。もちろん、司法取引で彼らは免責されます。個人的にはヒンカピはいかにもニューヨーカーの雰囲気を漂わせているし、根 性のあるアシストなのでファンです。数年前のツールの最終日はスプリンターのカヴェンディシュ(Mark Cavendish)を手の骨にひびが入っているのに痛さをこらえてアシストしました。その彼までがランスの敵に回っています。もうランスは UCI (Union Cycliste Internationale) を道連れにして戦う道しか残されていません。ヨハンは自分のチームを率いてツールを戦うはずでしたが、今回の告発があり、その対応に追われて出場する余裕 がないようです。

驚きは、クリス・ホーナー(Chris Horner) の反応です。彼はランスとヨハンが作ったRadio Shack-Nissan チームのレーサーですが、その前はベルギーを本拠地とする小さなチームでアシストをやっていました。2011年のツールで総合優勝したエヴァンズ (Cadel Evans)はその弱小チームのリーダーで、去年別のチームに移り優勝を果たしました。

ホーナーは口を開けばその訛りですぐアメリカ人だとわかってしまいます。独特な語り口とユーモアのセンスでファンも多く、ある自転車レースのサイト (www.velonews.com) は彼のツール戦記をビデオで掲載したことがあります。私はそれを見て彼のファンになりました。レースの分析は鋭く、レースに参加しているから見えてくるものを色々教 えてくれたので、勉強になりました。

そのホーナーは未だ頑なにランスの無実を信じています。自分も無実、ランスも無実だ、だから、反ドーピング機関は魔女狩りを止めてくれ、と主張しています (www.cyclingnews.com)。 これにはちょっと驚きました。真実は確かめようがありませんが、私の直感では、ホーナーはドーピングに関しては白だと思います。ドーピングしなくてもツー ルのペルトン(peloton:フランス語、レーサーの集団を指す)の中で仕事が出来るレーサーは存在します。彼はその一人だと思います。そのようなエリート レーサーでありかつ、レースについての深い洞察力を持つ彼が、同僚のサイクリストの間で起こった、あるいは起っているドーピングについて正しい認識を持てない というのは、ドーピングという問題の底深さを垣間見させてくれます。

このことは、911などのようなもっと大規模の陰謀について考えるときのヒントを与えてくれます。ドーピングする選手は、チームの練習にぎりぎりつ いて来れない人です。彼らは、自らそれを望めば、監督からドーピングという方法もあるよと誘いを受け仲間に入れてもらいます。ホーナーのいたチームは多分その勧誘がな かったのでしょう。エバンス(Cadel Evans)がそのチームで何回も上位20位に入ることができても優勝できなかったのは、多分彼自身もドーピングをやっていなかったからだと思います(ただし、この辺も複雑でEPOやステロイドはやっていても自己輸血はしなかったとか、などの可能性は否定できません。)その程度の実力のホーナーが、ヨハン のチームに移籍した時には、ペルトン全体がかなりドーピングを締め出した後だったので、周りにドーピングをしている選手に遭遇しなかったのだと考えられま す。もし仮にまだドーピングが行われていたとしても、彼自身がチームの監督に接近し仲間に入れてもらって秘密の携帯電話をもらわないとチームメートの自己輸血を目撃する こともありません。911についても周りにその陰謀に参加している人がいても気づかなかった人が大半だったと思われます。参加している人全員のリストを持っているのは陰謀の頂点に立つ人だけです。このような状況は、日本語で何と表現するのか知りませんが、英語ではcompartmentalization といいます(「囲い込み」あるいは「分断」と訳せばいいかもしれません。組織内に多数の部門を設け各個人が別の部門の活動について全く知らされない状態を仕組むことです。)軍 隊、諜報機関だけでなく、企業や大学のような大きな組織にもそのようなcompartmentalizationは存在します。犯罪組織はそのような仕組みがないと、足がつきやすくなります。暴力団は当然そのような組織形態を取ります。

このことは軍隊や暴力団のトップには自明ですが、普通の人は組織の中で自分の仕事をしてお金をもらい生活しているだけですから、その組織の実情について深く考える機会がありません。ホーナーのような自転車レースについては深い洞察力を持っている人も、組織の中で隠されている部分については無知であっても不思議ではありません。
(June 2012)



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