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311調査委員会報告

黒川清さんが率いる国会原発事故調査委員会の報告書が出ました。まだ読んでませんが、それについてのニューヨークタイムズの記事が興味深いので感想を書い てみます。

この記事によると、このような独立調査委員会は日本では前例がなく、アメリカの慣例に倣っているのだそうです。アメリカの例としては、スリーマイル島の原 発事故、スペースシャトルコロンビアとチャレンジャの事故、2001年9月11日の同時多発テロ事件の独立調査委員会を挙げています。厳密に言うと、この 記事を書いたニューヨークタイムズの記者は、アメリカの具体例を直接挙げてはいません。黒川清さんの国会事故調の報告書が言及していると述べるにとどまっ ています(“cited by the panel”)。しかし、「日本に前例がなく、アメリカの慣例に従っている」というのはニューヨークタイムズの記者のことばです。

このような書き方はとても巧妙だと思います。明らかに記者の態度は、うちらアメリカには独立調査委員会の伝統があるけど、日本はアメリカほど民主的じゃな いから、そんなのなかったんだよね〜と上から目線で見ています。しかし、アメリカの具体例を挙げる際には、記者自らの判断で選択せずに、日本の事故調が報 告書で言及していると下駄を預けています。

一体どういうことなんでしょうか。想像するに、911の委員会報告書なんて嘘八百を並べているだけであると気づいている読者が相当数存在することを察している からではないでしょうか。いくら何でも、911の独立調査委員会が中立公平だったなどとニューヨークタイムズが書いてしまっては見識を疑われるので、日本 の事故調が報告書でそう書いていると引用の形で示したのでしょう。このへんの事情は、日本出身のまだ若いHiroko Tabuchi さんという記者の関知するところではなく、編集長が付け加えさせているのかもしれません。それでも911について言及したいのは、その真相を知らない人が まだ多いので、このような書き方をすることによって、日本の独立調査委員会はダメ、アメリカのはちゃんと仕事をしているという印象を読者に植え付けたいの かもしれません。大メディアの情報統制はかなり巧妙です。

もちろん、2004年に出た911の調査報告書はでたらめです。WTC第七ビルの崩壊について言及していないし、William Rodriguezをはじめ、ジェット機の衝突以前に地下で爆発があったと証言している人達は無視しているし、アルカイダの動向について詳細な情報を持っ ていたSibel Edmondsも登場しません。WTCの中心を支える頑丈な支柱がどうして溶けてしまったのかの物理学的な分析もなく、アメリカ国民だけでなく全世界の市 民を愚弄しているとしか言えません。夫をテロで殺されたLaurie Van Auken は次のように語っています。

A thorough and definitive investigation by the Commission would have addressed all of Sibel Edmonds' concerns, and spoken to all of the whistle-blowers. It would have subpoenaed for the information it required and examined the plethora of information that other citizens and groups responsible provided. And finally, without compromising our national security, it would have reported all of its findings, with its redactions blacked out and submitted to the American people. In essence, the Commission could have produced a final product where the resulting conclusions and recommendations could be trusted.  Instead, at the end of the day, what we got were some statements that truly insulted the intelligence of the American people, violated our loved
 ones' memories, and might end up hurting us, one day soon.

このように愚劣な911報告書と比べると、黒川清さんの報告書は随分まともです。福島の真実についてはネットに膨大な情報がすでに出ているので遅きに失し た感はありますが、日本の民主主義はまだ捨てたものではないなと思わせるだけのものは持っています。

私は、このニューヨークタイムズの記事を最初に斜め読みした時、「日本の文化」あるいは「日本の国民性」を強調するのに、またか、と嫌気がさしました。と いうのは、このような決めつけはニューヨークタイムズの常套手段だからです。東京で反原発デモがあったりすると、日本はconformist(体制に従 順)な社会なのでこのような自発的な示威活動を東京で見るのは稀であるなどという枕詞が必ず付きます。アメリカの方がより「民主的」だという上から目線で す。実際のところは、オキュパイの運動をニューヨークタイムズが正しく伝えたことはなかったし、今後もありえないのはかなり確実なので、このような態度に は笑ってしまいます。

とは言え、このような上から目線はニューヨークやアメリカの専売特許ではなく、日本も中国に向けて散々やっています。NHKのような国営メディアが中国の メディアを見下しているのは苦笑するしかありません。「西側」、「東側」などという時代遅れの用語もこのような態度を固定化するのに役だっています。よく 考えれば、猛烈に曖昧で意味不明な言葉が我々の思考の慣性を規定しているのがわかります。

しかし、そのような「日本文化」や「日本の国民性」についての言及は、べつにニューヨークタイムズの記者がでっち上げたのではなくて、事故調の報告書の英 語版に含まれていたというのを後になって知りました。

“Made in Japan”
“ingrained conventions of Japanese culture”

という言葉遣いは、英語版には存在するが、それに対応する日本語は日本語版に見当たらないそうです。そのことに気づかなかったのは迂闊でした。「goo ニュース」の加藤祐子さんの指摘によって知りました。

少々長くなりますが、加藤祐子さんを引用します。

「歴史的文書という自覚はあったのか。ただでさえ陰謀論にまみれている原 発事故の原因調査報告で、陰謀論に餌を投げ与えるような真似をなぜするのかと。大 惨事の調査委員会報告というと9/11最終報告書を連想しますが、ありとあらゆる陰謀論が飛び交う9/11について、調査委の報告書がもし英語とその公式 翻訳版で内容が違っていたりしたら、いったいどれほどの大騒ぎになっていたか、想像するだけでげんなりします。」

「日本語版をそのまま英語にしただけでは世界に対してインパクトが弱すぎると、調査委員会は思ったのでしょうか? あるいは英語版が本音で、けれどもそれ を日本語にしたら日本国内に向けてインパクトが強すぎると、調査委員会は懸念したのでしょうか? まさか日本国民は、国会が設置した事故調に、て、手加減 されたとか?」
 
「繰り返しますが、国会が設置した委員会がまとめた歴史に残るだろう報告書なのですから、世界に向けても国内に向けても、同じことを堂々と言えばいいので す。それとも日本はグローバルな世界の一部ではないと? もし万が一、調査委員会の方々がそんなことを思ったのだとしたら、それこそが実に困った 「insularity」です。」

insularity のくだりは全く同感です。加藤さんによると委員長の黒川さんは国際経験の豊富な人だそうですから、日本語版と英語版の違いについて無自覚であったという事 は考えられないそうです。そうであるなら、何故、made in Japanなどという表現を使ってしまうのか、私も理解に苦しみます。まさか、911の報告書がデタラメであることを知らないのでしょうか。腐敗なんて万 国共通ですよ。アメリカのほうがましなんてことはありえません。

福島原発事故についての独立調査報告と言えば、大前研一さんの報告書もそうです。彼は2011年の11月ごろにまとめて公開しました。報告書だけではな く、2時間にわたっての口頭によるコメントもネットで見ることができます。これは2時間通して全部聞きました。

彼の調査報告は元原子炉エンジニアとしての使命感に燃えて民主党に自ら押しかけて行って志願してまとめたものだそうです。国費は使わず、大前さん自らが自 分の財布で負担しています。このような人がいるのはとても頼もしいと思います。細野原発事故担当大臣と一緒に記者会見を開きました。細野さんは、大前さん のこの報告書をセカンドオピニオンであると形容しています。

去年の暮れには出ていたのですが、気づいたのが遅くて、見たのは最近です。

ところが、見ての感想はというと、ちょっと驚いたというのが偽らざる気持ちです。

津波の分析は詳細でためになります。しかし、地震が配管などに与えた損傷については言及を避けています。IAEAに日本政府が提出した報告書との辻褄をあ わせているのでしょうか。放射能の危険について全く語っていないのは不可解です。それから、3号機の爆発がどう見ても1号機や2号機と違うことについての 言及がありません。4号機は燃料が使用済みであるとは言え剥き出しであるというところが他と違いますが、その点についての言及もありません。どんなことが あっても外部電源を確保しなければならないのにそのような設計思想がなかったのが、最大の事故原因であるというのは、そのとおりだと思いますが、原子炉エ ンジニアのあなたがどうしてそんな基本的なこと今になって言うの?と聞き返したい気持ちです。想像するに、彼は元原子炉設計技術者であり、原発プラントの 専門家ではないからその点に今まで気がつかなかったということなのでしょうか。もしそうであるなら、高度に専門化された原発プラントが内包する根源的な脆 弱性に驚愕せざるを得ません。

さらなる驚きは、事故を起こした責任を誰も取らないことについて彼が激怒していることです。これは2時間のビデオクリップには出て来ません。最近彼が雑誌 に寄稿した文章の中に出てきます。巨大ショッピングモールの食料品売り場で立ち読みしたサピオとかなんとかいう雑誌の記事です。ネットでも読めます。
 
国会事故調の黒川清さんは、事故調には保安院の役人や東電の役員に責任を取らせる権限を与えられていないと述べています。国会より彼らのほうが力が強いの で容易に想像がつきます。いわゆる民主主義国家においては主権は国民にありその代表たる議会が名目上の最高意志決定機関となっていますが、実際はそうでは ありません。洋の東西を言わず、人類の歴史を通じて権力者が好き勝手にしてきたのが実情です。大前さんは誰が彼らに責任を取らせられると考えているので しょうか。

911を策謀した連中は何の責任も取っていません。世界最強の空軍があの日小型セスナもろくに操縦できないド素人に空域を侵犯され、3棟の高層ビルとペン タゴンの一画を破壊され、3000人以上の死者を許したのですから、米空軍の高官は 夜逃げでもしてしまったのかと思いきや、誰も責任を取っていません。 大統領ですら責任を取らせることができません。何故なら、911を引き起こした犯罪集団の力が圧倒的だからです。

無力な平民である我々は、仕方なしに総理官邸を取り囲むデモに参加することぐらいしか出来ません。それを大前さんは怒りが原発に向かっているがそうではな いだろうと揶揄していますが、平民の怒りはそのような単純なものではありません。もっと複合的なものです。反原発であるのは確かですが、原発に代表される 嘘つき主義、差別主義、隠蔽体質、反民主主義に対しての怒りの表明なのです。放射能の影響で身体に苦悩をかかえている人達も参加しています。彼らは、運動 に命を賭けています。将来の予測は難しいですが、東北関東一帯の放射能の降下量が半端ではないので、平民の示威行動の勢いは増していく可能性が高いでしょ う。

大前さんと言えば、MIT卒業、マッキンゼーの社長という経歴を持っており、東大法学部卒財務省勤務というような日本限定のローカルエリートと比べて the best and the brightestという名によりふさわしいと思われるような人です。半匿名性を維持しながら、強権を発揮して日本の将来を設計しようとしているエリート 官僚と比べ、個人の資格でメディアに露出して持論を展開して来た彼はそのことだけで賞賛に値します。金に縛られているので体制に擦り寄ることしか出来ない 御用学者の対極にいます。ただ、彼の発信する意見の中身が残念としかいいようがありません。特に、放射能の影響を軽んじる態度は不可解です。ICRP= IAEA=WHOの公式説しか知らないのでしょうか。スリーマイル島でも水素爆発が起こりました。福島やチェルノブイリほどではないにしても、かなりの量 の放射能が放出されたので、避難した住民と反対に取材のために現場に居続けたメディア関係者は何人も死んでいるし、動物も多数死んでいます。調べる気があ れば嘘でない正しい情報はネットにごろごろ転がっています。

私にとって福島の事故は負の面しかありませんが、たったひとつよかったのは、いろんな人々の本性が露呈するきっかけを作ってくれたところです。福 島に住んでいたらパニックになって思考停止してしまうのは、仕方がないのかもしれませんが、比較的離れたところにいて、現実を正しく理解できない人は救い ようがありません。ネットで正しい情報を取れるのに、「公式説」に騙されている人が多いのは不思議です。911もそうですが、日本 も福島を経験してやっとオーウェルの世界の現実味を肌で感じることが出来るようになりました。

(July 2012)



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