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2006年 広島国際アニメーションフェスティバル

2年ぶりの広島です。駅を出て路面電車へ向う時に受ける印象は変わりません。東京や名古屋のように景気がよくなっているという感じはあまり受けません。去 年ロードバイクに乗り始めたので自転車が気になります。広島はなぜか小径車が多い印象です。ロードバイクに乗っている人は二人見かけました。広島はアー ケードがある場所を除けば自転車は十分使えそうです。自動車は幅の広い幹線道路でも名古屋のように無茶なスピードを出して走っている車はそれほどないよう なので自転車通行も安全でしょう。

今年も前回と同様に朝の9時15分から夜の9時15分までほとんど一日中三つの会場を行ったりきたりして作品鑑賞をしていました。昼も夜もそれぞれ30分 以上食事休憩を取ることはなく時には10分で弁当を流し込むということもありました。そんなことをやっていると必ず無理が来ます。5日のうち2回は朝30 分から1時間以上寝坊で遅刻したり、夜のコンペでも眠り込んでしまい、何にも覚えていない作品もかなりあります。白状するとグランプリを取った Milchという作品は途中で寝てしまい最後の日の再上映でやっとまともに鑑賞しました。初日の前日の晩に十分寝なかったことも影響しているでしょう。次 回からは、鑑賞時間を減らして体調を万全にして作品に向かいたいと思います。とは言え、予期しないときによい作品に出会うことが多いので難しい問題です。 毎晩寝つきが悪いのは作品の見過ぎで脳が異常に興奮してしまうからかもしれません。

広島のフェスティバルにはもう何回も来ているので始めて来た頃のように頻繁に驚きと衝撃を受けるということは全くなくなりました。まあしかし、そんなもの でしょう。映画でもダンスでも同じです。授賞式の後の最後の上映を見ると受賞作品に駄作がないのは明らかですから、また次回も性懲りなくやってくると思い ます。

周知のことですが、3DCGはもはや主流になってしまいました。使いこなしも高度になりちょっと見ただけではそれと分からないのも沢山あります。ただ、そ の新しい技術をうまく使いこなせていない作品では3DCGを使っているということ自体に悪い印象をもってしまうということが私にはあります。中身のない 3DCGを見るくらいなら、波の動きを実写した解像度が高い映像を見ているほうがましです。自然はもともと見ているだけで楽しい細部に満ちていますから。 水しぶきは正真正銘の重力の法則に従います。モニター上のようにシミュレーションではありません。

今回の驚きは、長編作品に感銘を受けたことです。Kompin Kemgumnird の ”Khan Kluay” と Michel Ocelot の ”Azur and Asmar” は全く異なった種類の映画ですが、両方ともすばらしい出来だと思いました。 ”Khan Kluay”はタイの歴史に基づいたディズニーばりの娯楽大作でディズニーのように子供も大人も同様に楽しめるように作られています。主人公カーンクルア イはもともとは野性の象ですが、大きくなって戦闘象となります。物語は最初のうちは象の社会を中心に展開しますが、途中から人間が登場し、話の中心は16 世紀のビルマとの抗争に移ります。結末はディズニーの鉄則どおりめでたしめでたしのハッピーエンドです。娯楽映画が歴史を正しく描くなんてことはありえま せん。現実は映画のような悪玉善玉の安易な峻別を許しません。娯楽大作に正確な歴史を期待しても無駄です。しかし、この作品に描かれているような王の物語 を持てるタイ人はある意味で幸せだなと思いました。日本の王(天皇)とは段違いだからです。私は日本の右翼には共感を感じないのですが、もしタイの王様の ような天皇がいたのなら右翼になっていたかもしれません。

この作品は台本がよく出来ているし、3DCGの技術水準も申し分ありません。カリフォルニア芸術大学を出てディズニーで2作品を手がけた監督が母国のタイ に戻り、人材育成からなにからすべてゼロから立ち上げたのですから尊敬に値します。それもアニメーションに対する社会的な認知が低いタイという国で実写映 画の二倍の予算を使うというのは常識的に考えてリスクが大きすぎるので、かなりの勇気を必要としたはずです。幸いタイでは興行的に成功したし、これだけ質 の高い映画ですから、日本やそれ以外の国でも成功するでしょう。ひょっとしたらアメリカでも当たるかもしれません。しかし、残念ながら、この作品は世界か ら集まった業界人の多くがピクニックに出かけた日に中ホールで上映されました。そのためか観客はそれほど集まりませんでした。実は私も他のホールの上映作 品にそれほど興味を惹かれなかったので足を運んだだけです。でも期待はいいほうに裏切られました。

『カーン・クルアイ』を製作した Kantana Animation 社は現在二作の長編を製作中だそうです。高価なソフトに頼らずインハウスのプログラマーが独自のプログラムを作ることも多いらしく、そのような技術の蓄積 が年月をかけて競争力の強化に繋がっていくのだろうと思います。5年10年後には、ディズニー・ピクサーを脅かす存在になっているかもしれません。

もうひとつの長編、ミシェル・オスローさんの『アズールとアスマール』に関しては、会場に足を運ぶことに躊躇いはありませんでした。彼の作品のファンだか らです。『キリク』はすばらしい作品ですし、オスローさんの短編は映像に上品な繊細さがあってとても好きです。そういう私にとっては、今回の『アズールと アスマール』はオスローさんのいいところがすべて出ている傑作と言いたい作品です。絵の繊細さと美しさはオスローさんならではの味があります。影絵のよう な動きも彼独自のものです。しばらく見ると他の人では絶対作れないだろうと思わせる作家の刻印に気づかされます。このようにカットのひとつひとつがそのま ま静止画として鑑賞に耐える絵になっている長編アニメーション作品はそれほど多くありません。お話の筋を要約するのは割愛しますが、この作品は作者が語っ ているように、西洋とイスラム社会の間の軋轢が深化している現状において、民族間の融和の重要性を訴えています。もちろん現実はおとぎ話ではないので、こ の作品のようにめでたしめでたしで終わることは殆どあり得ませんが、オスローさんをナイーブな理想主義者と見るのは間違っています。歴史の曲面に於いて、 人は二者択一を迫られることがあります。その際、複数の文化を自分の中に持っている者は本当は調停者としての役割を果たすことが出来るはずなのに、裏切り 者の烙印を押されてしまうことが多いのです。重要なのは勇気です。アスマールがアズールにフランス語で危機を知らせる勇気です。この勇気をすべての人が持 てれば世の中は100倍ましになっているでしょう。

『カーン・クルアイ』と『アズールとアスマール』という質の高い二作の長編を見たことによって考えさせられたことがあります。物語の力についてです。両作 品の物語は、悪く言えば、御伽噺であり、現実逃避であり、夢の中での自己実現です。『カーン・クルアイ』のような武装解除は21世紀にはありえないし、 『アズールとアスマール』を今日のイスラエル人とレバノン人に見せれば、いい映画だけど、俺の生活とは関係ないと一蹴されるかもしれません。でも2時間近 く夢に浸れるというのが娯楽作品であり、物語の力なのだと思います。少なくとも、一日に10時間以上短編アニメーションを見続けている私にとっては、2時 間以上御伽噺に目と脳をゆだねるのはこの上ない快感でした。ご存知のように短編アニメーションには暗くて意味の取りにくい謎めいた作品が多く存在します。 そういう作品でもすばらしいものは文句なしにすばらしいのですが、そんな作品でも10時間も見続けるとさすがにうんざりしてしまい、ハリウッドの駄作でも いいからハッピーエンドを望む自分がいるのに気づきます。ハリウッドが世界中で金儲けをしているのは配給網の支配とか色々経済的な要因もあるのでしょう が、一番大きいのは、やはり、単純な「めでたしめでたし」を望む人間の本性にうまくつけこんでいるからでしょう。一世紀に及ぶ業界のノウハウです。

総括としてまだ書き足らないところはあるかもしれませんが、下に気になった作品について個別に書いていきます。作品名と作者名はすべてローマ字で記しま す。

Milch/ Igor Kovalyov: これはグランプリを取りました。私は上に書いたように一回目の上映の時は途中から居眠りしてまともに鑑賞していませんが、最後の日に再上映されたのを見ま した。暗くて難解な作品です。ロシア語やフランス語のせりふがありますが、字幕はありません。意図的なのかそうでないのかわかりません。知り合いに字幕が ないのは問題だと言ったら映像で表現できているのだからいいではないかと反論されました。そうかもしれません。キャラクターのデザインはエストニアの作品 を思い出させます。おばあさん(?)が最後に顔に蛍光塗料を塗るのはどういう意味があるのでしょうか。

Play/ Georges Schwizgebel: これは私が個人的にグランプリをとって欲しかった作品です。見ていてこれほど楽しい作品はありませんでした。映像のダンスです。プロコフィエフのピアノ協 奏曲も映像に合っています。この作家の他の作品がスイス特集の一部として特別上映されたのですが、疲れていたためか、それほど感銘を受けませんでした。 Play以前の作品はそれほど複雑ではありません。Play は今までの作品の集大成であると見做していいでしょう。日本語の題が『技』となっているのは謎ですが、Schwizgebelさんは中国語が出来るので漢 字で題をつけたのだろうと思います。

My Love/ Alexandre Petrov: 観客賞を取った作品です。私は彼の作品のファンではないのですが、数作品見て回を重ねる毎によくなっていると思います。Schwizgebel さんと同じように似たような作風の作品を沢山作ることによって徐々によくなっているという感じです。ルノワールのような絵は私の好みでは全くないのです が、話と演出とアニメーションの技術に圧倒されてRabbit に入れるはずの票をこれに入れてしまいました。ペトロフさんは受賞に際してロシア語で色々喋りましたが、何にも分かりませんでした。

Rabbit/ Run Wrake: 話自体はミダス王とか花咲じじいの話と似ているのですが、アニメーションならではの滑稽味があります。出てくるものすべてに英語の単語がついてきて何だか 英語の勉強支援ソフトのようでもあります。これはアメリカ式資本主義と英語が世界を席巻していることに対しての風刺があるのかもしれません。

Come On Strange/ Gabriela Gruber: 彼女が音楽に使った Glenn Velezは実際に生で聞いたことがあるので親近感を持ちました。色の使い方はフランシス・ベーコンのようだと友達が言ってましたが確かにそうです。こう いう抽象アニメーションは私の好みです。

Mississippi/ Arash T. Raihi: これには感服しました。最後まで見ると何故この作品がMississippi と名づけられているのかが分かります。抽象、具象と簡単に言いますが、脳の認知過程を考えると通常具象と考えられているものは実は高度な脳の抽象の分析過 程の後で出てくるものなのかもしれません。具象と抽象について考えさせる作品です。

The Glass Works/ Aurel Klimt: ガラス工房で作られた人形が踊りだすダンスアニメーション。

Creature Comforts 2 “Monarchy Business” / Richard Goleszowski: 動物がイギリスの王室について語る。王室について批判的なことを言うと牢屋にぶち込まれる国もあるのにイギリスはいい国だとか何とか言ってるのが印象的。

Padayatra (Walking Meditation)/ David Rimmer: 歩くことについての瞑想。抽象と具象が交互に出てくる。音楽がいい。アフリカ人は一生に裸足でどのくらいの距離を歩くのかなど疑問が出てきます。

The City / Peter Bronfin: 都会の喧騒を鮮やかな色彩で描いている。

Captain's Daughter/ Ekaterina Mikhaylova: プーシキンの話の人形アニメーション。すばらしい。

About Ivan the Fool (a film from “Mountain of Gems” cycle) / Mikhail Aldashin, Oleg Uzhinov: イワンの馬鹿。切り絵アニメーション。すばらしい。

A Dark Grey Horse is on Sale / Milana Fedoseeva: ロシアの人形アニメ。ロシアの子供向け人形アニメーションや切り絵アニメーションはすばらしい。ソ連崩壊以後衰退するのかと思われたが、いいものには金が 出るということか。下で紹介するドキュメンタリでもそう言ってました。

Magia Russica / Yonathan & Masha Zur: ロシアのアニメーションの歴史を追った興味深いドキュメンタリ。Fyodor Khitrukが始めてディズニーのアニメーションを見たときの印象を魔術だと思ったと語っているのが興味深い。でも実際ロシアのアニメーションスタジオ を見学して単純な流れ作業だと知って驚いたらしい。その後、動かすコツはやはり魔術であるという認識に辿り着いた!なかなか気のよさそうなおじいさんで す。Garri Bardinがソ連崩壊にもめげず自分について来てくれたスタジオの仲間に感謝しているのが印象的。Norsteinが『話の話』の謎を解き明かす!「永 遠」がテーマだそうです。まあ普通作者が種明かしをすることは余りありませんが、巨匠は何を言っても良い。最後にアニメーションのプロデューサーがソ連崩 壊直後は最悪だったが、最近になってアニメーションにも資金が集まるようになったと言っていました。

Whirr/ Timo Katz: カタログにある作者の解説は何だか難解ですが、私は単に工場生産された家は見事に形が整っているなと感心しました。

Island of Doctor D. / Aija Bley: 一人の女を追う二人の男。看護婦は若い男から採血しそれを中年医師が飲み若返って女を追う。怖い話。色が鮮やかで絵は迫力あるが、動きが少々ぎこちない。

Wolf Daddy/ Hyung-yun Chang: 宮崎駿の影響が絵に出ているが、ユーモアは彼独自なもの。観客賞の投票は次の Apple Pieとで迷って結局これに入れたと思う。

Apple Pie / Isabelle Favez: 二回見ました。せりふなしで複雑な話を表現してます。単純な絵ですが、表情が豊かです。

Can You Go Through? / Ju-Young Ban: 二回見ました。大きな顔(面)が印象的です。

Vaudeville / Chansoo Kim: 1930年代の朝鮮。謎めいています。写真屋に記念撮影されるのは日本(内地と呼ばれていた)からやってきた日本人でしょう。ブランコに乗っている少女は 朝鮮人。彼女が消えるのは日本に行ったからでしょうか。あの頃の日本は学校で朝鮮語の使用を禁止するなど馬鹿なことをやったから嫌われました。内地だって タリバンみたいに歌は軍歌だけしかだめだとかまあ日本人にだって嫌われて当然でした。右翼の人たちは懐かしがっていますが。

Astronauts / Matthew Walker: 暗くて重い作品が続くと、こういうお笑いものは本当に救いです。お笑いと言ってもブラックユーモアですが。

Message for the Neighbours / Priit Tender: エストニアならではの毒の強い風刺。テレビ修理人がテレビ宣教師になる。

Woolly Town - Wooly Head/ Vera Neubauer: 毛糸の編み物アニメーション。

China Town / David Borrull: 単純な絵だがサスペンス溢れたハードボイルド作品になっている。ちょっと感心した。最初の日に見たので脳がまだ軟化していなかった。

The Astronomer/ Kate McCartney: 最初の日の朝早くの上映で、朝早く名古屋から2時間15分で駆けつけても間に合わなかった。幸いなことに本部のビデオ装置で見ることができました。私の趣 味がアマチュア天文なので、オーストラリア人が作ったこの作品は是非とも見たかった。テーマは、光害です。光害というのは、人口光によって星空が見えなく なることです。日本では太陽暦に従って梅雨の最中に星空が見えないのに七夕を祝うという笑えない冗談が毎年繰り返されています。山に登って天の川をみて雲 だと思う人がいるくらいです。自然を知らない人は不幸です。

Bones / Shinsaku Hidaka: 骸骨が肉をつけようと電子レンジに入って悲惨なことになるユーモア溢れた話です。なかなかよく出来ています。何でコンペに入選しなかったんだろう。

Memory / Yuko Ishibashi: 写真フィルムが巻き戻される。画像がコマを超えて流れ交じり合う。記憶についての瞑想でなかなかいいのですが、これもコンペ落ち。残念。

Zero Degree / Omid Khoshnazar: イランというと西側ではあまりいいイメージがありません。欧州が中世の暗黒だった時にイスラム社会は世界最先端を走ってましたが、今は世界に対する貢献は 石油以外あまりありません。でも、こういう作品と出会うと馬鹿にしてはいかんと思います。この作品は戦争の根幹をついています。公開処刑の後銃殺した兵士 は自分が犯したことへの報復を恐れ死に追い詰められます。憎しみと恐怖の連鎖が戦争を長引かせているという点をうまく表現しています。

Desktop / Yoshinao Satoh: マックのデスクトップが踊りだします。音楽はあまり印象はありませんが、画像は新鮮です。

Beyond the Train Tracks / Tayuta Mikage: 絵と音はよく出来ていますが、ちょっと話が謎めいて理解できませんでした。もう一度見たい作品です。




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