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2002年広島国際アニメーションフェスティバル

    (注:書きおわってから気づいたのですが、この文章には公式カタログに書かれている情報を前提にして書いている部分がありその予備知識がない場合、意味不 明になってしまうのでパラグラフごとに注をつけることにしました。)

今回の大会の最大の特徴は以前に増して出展作品の多いことです。学生部門というのが新たに設けられて質の高い作品が増え、体が二つあったとしても見たい作 品をすべてみることは不可能です。名の知れた作家の作品より学生の卒業制作作品の方に刺激を受けることもしばしばです。聞くところによるとアヌシーのフェ スティバルの規模は広島よりずっと大きいそうですが、広島大会も巨大化していくのかもしれません。

今回は前回にも増してデジタル化が進んでいます。デジタル動画の技術が急激に進歩していて若いアニメーターが積極的に使いこなしています。最初に広島に来 た96年頃には稀ではなかった解像力の低いビデオ作品を見せられることも少なくなりました。デジタル動画で作品を作る場合、たいていテレビ放映を主眼にお いて作っているはずですが、フィルムに焼き直し大画面に映写する場合でも解像力の低さを感じさせないような工夫がなされている作品が多いです(勿論、金を かけて劇場用にも遜色がない解像力を達成しているのもあります。)私は技術的なことには詳しくないので、個別の作家におけるデジタル動画編集技術の習熟度 について細かい分析は出来ませんが、皆上手いと感心します。

日本人の作家で優秀な人達が出てきているのは嬉しいことです。別に作家の国籍なんてどうでもいいのですが、ワールドカップになるとつい日本の選手に目が行 くのと同じです。出展している日本人のアニメーターは皆才能豊かだと感じます。ただ、作品の作り方がスピード感、動きの奇抜さ、ギャグの面白さなど一見受 けを狙っているのが殆どで、深い味わいに欠けます。悔いが残るのは、山村浩二さんの作品を見そこねたことです。後で大会プログラムを見たら落語の「頭山」 を題材にして作品を制作中であると知りそれを見た友人が高く評価しているので残念です。ただ、ビデオとして発売されるそうなのでそれに期待しています。

特に印象に残った作品を順不同で書き出してみます。それほど印象に残らなかった作品の中にも素晴らしいものがあるはずです。なにしろ一日中作品を見続ける ので上映中にうたた寝をすることもありますから。

Runi Langum "Expedition" 抽象アニメ 体
Gabor Ulrich "Foreign Body" 体 落下 抽象3Dデジタル
Bill Plympton "Parking" Joni Mitchel の有名な歌?
Stepan Biryukov "Sosedi" or "The Neighbours" すばらしい ロシアとシャガールがむんむんしている
Saku Sakamoto "Fisherman" スピード感 開放感 秋刀魚がよい 
Suzie Templeton "Dog" 悲しくてこわい話
Priit Tender "Fox Woman""Monc Blanc" エストニア万歳
Virgil Widrich "Copy Shop" 奇抜な発想
Mikhail Aldashin "Bookashkis" 思わず笑ってしまう話
Merwan Chabane "Biotope" 雰囲気の演出が上手い
Vincent Pater "Panic in the Village "The Cake"" 抱腹絶倒 グランプリ候補
Florence Miailhe "The 1st Sunday of August" 絵の力 祭りの雰囲気
Angela Jedek "Where is Frank?" テンポが良い かっこいい
Juan Pablo Zaramella "The Glove" 拷問というテーマをこんな風に扱えるからアニメーションはすばらしい ふとマイクロソフトを思い出す
Slava Ushakov "Orange" 世界の金は実はこういう風に回っている するどい寓意
Ruairi Robinson "Fifty Percent Grey" Congratulations. You're dead. というせりふがよい
Xavier de L'Hermuziere "The Process" 完成度が高い
Riichiro Mashima "The Ski Jumping Pairs" 発想がおもしろ過ぎ
Kaspar Jancis "Weitzenberg Street" エストニア万歳
Elodie Bouedec "To there from there" 女の子の心理 絵の力
Dan Blank "Shadowplay" 広島原爆投下がテーマ 完成度が高い
Kyung Jin Kook "49" 韓国の伝統音楽が素晴らしい
Kirsten Winter "Escape" 実写イメージを抽象化 リズム感がよい
Francine Chassagnac "Red-Light Christmas" 話がよい
Yoshihisa Nakanishi "Lady...Go!!" スピード感
Corky Quankenbush "Castaway: A Woody Allen Film" Woody Allen 自身がこの感じで自作自演をすれば面白いだろうなとふと思わせる。が、その可能性はない。だから、アニメが存在する。
Paul Grimault "The Little Soldier" 古典必見 ディズニーのアニメで見たような記憶が...どちらがパクったのか? たぶんディズニーだろう
John Hubley "The Hole" 古典必見 死ぬ前に一度見た方がよい

Ub Iwerks のドキュメンタリとJohn&Faith Hubley のドキュメンタリは両方見るとアメリカのアニメーションの歴史が概観出来てとても勉強になりました。ディズニーの保守主義、John Hubley との対立は知っていましたが、マッカーシーの赤狩りが関係していたとは知りませんでした。深く調べてみたい誘惑に駆られます。ウォルト・ディズニーの保守 主義はアメリカ政治思想の伝統の中では典型的であると言えます。全財産を賭けるリスクを何度も負って新しい市場を開拓した起業家が自分が頂点に辿り着くと 今度はその地位を未来永劫にわたって維持するために抑圧的な行為に出るという、見慣れた光景。Ub Iwerks は結局はそのシステムの中でエンジニア(問題解決者)としての自分の位置を得て安住することを選んだのだと思います。ディズニーと同じゲームで競争して負 けたのでディズニーに戻ったのです。そしてそれが結局彼の才能を最大限に発揮することが出来る最高の場所でした。やはり巨大資本でしか制作できない芸術作 品、解決できない技術的問題は否応なく存在します。Ub Iwerksはその枠組みの中で何度か自分を作り直した希有な才能です。彼と対照的に、同様にディズニーを出たけれども、同じゲームで競争するのではな く、芸術家としての個人を守るため零細資本を選んだのが John Hubley でした。Ub Iwerks と反対に彼はディズニーに帰ることはありませんでした。

    (注:Ub Iwerks−アブ・アイワークスーはディズニーとカンザスシティーで出会い最初のビジネスパートナーになった。ミッキーマウスを作り出したことで有名。 絵を描く才能は飛び抜けており、コンパスを使わずに真円を描けると言われた。その後製作上の意見の衝突があり、ディズニーと別れて独立する。しかし、10 年後の1940年に特殊撮影効果ディレクターとしてディズーに招かれ、幾多の発明を行う。)

John Hubley の "The Hole"は文句なしに私にとって今回の大会の最大の収穫です。語り、絵、テンポ、動きのすばらしさが完璧にかみ合っているアニメ史上に残る大傑作です。 こういうのに時々出会えるから人生生きる意味があると大げさに言ってしまいたくなるくらいの傑作です。Dizzy Gillespie がこんなことやっていたのかと今になって知るのも人生の不思議。こういう作品が存在するからアニメーション作家にはことばを軽視してもらいたくないので す。山村さんの落語を素材にした新作に強い関心を持つのもそのためです。

    (注:ハブリー夫妻はディズニーの下で仕事をしたが、1950年初頭独立した。自主製作アニメーターの草分けとして知られる。設立以来、一年に一本のペー スで作品を作り続けた。)

Paul Glabicki の作品に真面目につきあうと脳がつぶれます。しかし、ぼーっとみているだけだと何にも面白くないので精神の集中を強めたり弱めたりして適当につきあうのが 脳を守る方法だと気づきました。バーチャルカメラの背後に存在する物体の影がバーチャル空間の物体に影を落としているというのだから凝ってます。注意散漫 に見ていたときは音楽の余りにも単純なことに苛立ちましたが、作家自身の説明を聞いてからは視覚情報の過剰さに脳がついていくのが精一杯だと気づきまし た。Glabickiさんの話は沢山興味深い情報が詰まってました。1996年に十分速いコンピュータを手に入れる前はペンで書くほうが速かったのでペン で書いたというのは驚きでした。90年代の初めに美術館からインスタレーションを作ってくれという誘いがあって初めて観客を意識し初めたというのも彼なら ではです。それまでとにかく可能な限り複雑な作品を作ることに集中し鑑賞者は殆ど眼中になかったそうです。鑑賞者のことを考えて動きを緩めるようになった のは歳をとったからかななどと苦笑いしていました。しかし、それでもコンピュータを使うようになってまた新たな複雑性の探究が始まったようです。「アニ メーションと瞑想」というテーマは木下小夜子さんが提案したということです。あの作品を劇場の硬い椅子に座って1時間鑑賞するのは不可能です。でも畳に寝 転んでならできます。お茶との組み合わせも小夜子さんの発案だろうと思いますが大成功だったと思います。ペンで描くのとコンピュータを使うのとでは空間の 作り方に違いがあるのかなど色々質問したいことがまだあるのですが時間切れとなりました。

    (注:Paul Glabicki はアメリカ人。ピッツバーグ大学で美術を教える。抽象アニメーション作家として有名。1990年代半ばからコンピューターを使い三次元アニメーションを作 り始めるが7,80年代はペンで描いていた。今回、「アニメーションと瞑想」というテーマに沿って畳部屋で出入り自由、寝転がるのもOKというやり方で作 品を上映した。隣の部屋では抹茶も無料で飲ませてもらえた。)

今大会では、広島の原爆を扱った作品を2作見ました。コンペに参加しているAlain Escalle の "The Tale of the Floating World" とDan Blank "Shadowplay"です。率直に言うと私は、前者は嫌いで後者の方が圧倒的に優れていると考えているので、パーティで私と全く反対の意見の人と出会 い口論になりました。他人の好き嫌いを議論で変えさせようとしても無理なのによくやったと今思い返すと呆れます。その後仲直りしましたが。Escalle のは平安朝の女房の琴演奏あり、戦国時代のいくさあり、舞踏ありで、CGをこれでもかと多用しているどちらかと言うと実写に近い作品です。広島の原爆投下 に代表される無差別殺戮(最近のピンポイント爆撃が登場する以前の現代戦争)と戦国時代のいくさは同列に語れるものなのか?平安の琴と原爆は一体何の関係 があるのか?すぐれた舞踏はそんなものではないぞ!謡曲の台本(?)の文字を蟻に変容させる場面があるがあれは意味のある文字なんですよ、安易な異国趣味 は止めてください!とか色々否定的な感想が浮かんできて上映中は苛々させられ通しでした。一方、Blank の方は戦死した少年の物語を上手に構成していて作品としてとても説得力を感じました。Escalleのと較べるとずっと低予算の作品ですが優れた作品だと 感じました。ナレーションが英語なので、日本語に訳して日本で公開してほしいと願う作品です。

エストニア作家の作品は独特な雰囲気を持っていて大好きなので今回 Pritt Tender さんと色々話しできたのは大きな収穫でした。残念ながらKaspar Jancisさんとは話しできませんでした。超現実的な状況設定、金、権力、性への関心、何とも言えず懐かしい音楽、静かな動き。エストニアアニメを特徴 づけるのは一体何だろうという問いには Pritt Tender さんも答えを持っていませんでした。当然かも知れません。芸術家は皆一人一人自分の世界を作ろうとしていますから。

"Father and Daughter"がグランプリを取ったのは全く意外でした。最終日に再度見るといい作品だと思いますが、最初の上映の時には眠たかったのか余り大きな印 象を残しませんでした。会場で出会った地元出身の女性がその作品に涙ぐんだと感想を教えてくれたので、特別な感想を持たなかった自分をいぶかしく感じたく らいです(彼女は第一回大会から欠かさず見に来ているファンだそうです。)確かに、あの作品は「観客賞」も受賞したし、観客の中には涙ぐんでいる人も散見 できたので、感動的を与える名作なのかもしれません。「愛と平和」がテーマであるこのフェスティバルがそれをグランプリに選ぶのは妥当なのでしょう。エス トニアの作家の作品など広島で賞を取るのはちょっと無理かもしれません。私の好みではありますが。

小夜子さんと秋葉市長が今年はきな臭い年だった、「愛と平和」のメッセージを発信し続けていく、と述べたのは印象的でした。ブッシュ政権はピンポイント攻 撃の威力を過信する軍部に煽られているのかイラク攻撃を真剣に考えています。最近、共和党の大物長老達が「止めときなさい。アメリカがイラクを攻撃すると イラクはイスラエルを攻撃するだろう。そうなるとイスラエルは核を使うだろうから中東はめちゃくちゃになる。」と進言したそうなのでどうなるかは分かりま せんが、可能性はあります。アメリカの大統領は議会や国連の承認を得ずしてそんな戦争を始める力をアメリカ憲法から与えられています。大統領が決断して米 国だけが無謀な戦争を始める可能性はないとは言えません。

    (注:秋葉広島市長は日本の政治家としては珍しく英語に堪能で世界のメディア機関に直接英語で意思を伝えることが出来ます。彼は、アメリカ主導の国際秩序 に対して異議を唱えています。冷静の終結、イラクという危険な独裁国家の登場、軍事技術の向上などの要因によってアメリカの軍隊はそれまでの抑止論を捨て 先制攻撃をも辞さない方針に転換しました。秋葉さんはその方向に異議を唱えています。上の文章を書いてから状況が変わり、ブッシュ大統領は議会と国連の承 認を取付けようとしています。噂は様々な臆測を呼びますが、戦争回避はかなり難しくなった模様です。やるのなら早く終結するのを祈るしかありません。)

相変わらず驚くのはこの大会の存在を知らない広島市民が数多くいることです(上に書いた地元の人もそう言ってました。)今回は疲れていたのでホテルまでタ クシーに乗ったのですが、タクシーの運転手が知らないのはちょっと驚きでした。色々考えてみてアニメーションの認知度が低いということもありますが、もう 一つ大きな要因があると気づきました。それはタウンペーパーの不在です。中国新聞をみても中日新聞とどこが違うのかと思います。日本は全国津々浦々東京経 由の情報に汚染されています。欧米だと町ごとにタウンペーパーがあって、ローカルなニュースに多くの紙面を割いています。広島市内を走る車を眺めると広島 市民がマツダを見捨てているのは明らかです。マツダは落ち目だけどアニメーションフェスティバルは世界一だ!盛り上げよう!というノリが欧米だったらタウ ンペーパーから出てくるはずですが広島にはというか日本にはそれがありません。マスメディアにおける話題性の大きさが市場の規模のみを反映するならちょっ と悲しいものがあります。

あるデンマーク人が面白い話をしてくれました。ノルウェー人はアニメーションについてこう言っている:アニメーターはお尻に入れ墨を入れる人のようだ。痛 い思いをしながら美しい絵をお尻に入れても、誰も見てくれない!日本で体全体に入れ墨を入れている人は社会の偏見(やくざとの連想)があって美しい入れ墨 を殆ど他人に見せることなく過ごしているようです。社会的認知度の低さはアニメーションも似たようなものです。





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