名古屋大学言語文化部(http://www.lang.nagoya-u.ac.jp)国際言語文化研究科(http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/bugai/kokugen/index.html)


公開講座:インターネットと英語学習(http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/~takizawa/kokai/)


電子辞書の活用:学習・作文・検索(http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/~tonoike/kokai/index.html)


名古屋大学情報メディア教育センター(http://www.media.nagoya-u.ac.jp/) 外池俊幸(http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/~tonoike/)


最終更新日:1999年6月27日

1. まえがき

 このコースでは、英和辞典・英英辞典・国語辞典など電子化された辞書を英語学習にいかに活用するか/活用できるかという問題を取り上げます。
 最初にお断りしますが、受講生の方々が各自1台のコンピュータを使って実習を行える言語文化サテライトラボは、パソコンではなくワークステーションが並んでいます。OSが、WINDOWS98でも、Mac OSでもなく、UNIX(Solaris)です。そのサテライトラボの端末で、現在可能なことと、受講生の皆さまが、ご自宅、あるいは職場で、プロバイダと契約して使っておられるネットワークにつながったパソコンで実現できる環境とは自ずと違いが出てきます。そこで、私の担当するこの講座では、この公開講座で提供される環境でできることを説明することを目指すのではなく、むしろ受講生の方々それぞれが、インターネットを利用した英語学習のための環境を、ご自分で構築しようとされる場合に役にたつと考えられることの説明を中心にします。
 もう一つお断りしておかなくてはならないことがあります。受講生の方々の中には、英語を学習するために電子化辞書をどう使うかに関して、もう既にかなり詳しい知識をお持ちだという方もおられると思われます。しかし、そういう知識を前提にはしません。ほとんど知らないけれどやってみたいと思っているという方を支援することを考えながら話を進めます。
 英語の学び方に関しては、様々な観点から書かれた多くの本が既に出版されています。「インターネット」の出現で何が変わったのか、変わらないのか、何を目指すのか、その動機は何か、などご自分で考えていただきたいことがたくさんあります。私なりにその手助けをすることが、この講座を担当することで一般的に目指すことです。
 この講座を受講されている方々の中には、中学・高校・大学で英語を教えておられる方がたくさんおられます。また、既に何年も英語を学んできておられる方々が大半です。電子辞書に限定しないで、英語を学びたい人に向けて、私が重要だと思うことをまとめたものをホームページにすでに公開しています。これは、公開講座が開講されている間はいつでもご覧になれるので、時間が取れる時にご覧いただければと思います。そこに挙げてある参考文献も参照して下さい。
英語学習に関するアドバイス(http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/~tonoike/eigob.html)
また、名古屋大学の言語文化部の同僚が書いた英語学習に関するアドバイスもあります。こちらも是非ご覧下さい。
英語教官からのアドバイス(http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/bunai/dep/eigog/students.html)
 英語を使って意思の疎通をはかる、何かを理解するということは、いくつかに分けて考えることができる能力を、それぞれ高めて、それらを統合して利用・参照することだと思います。英語という言語に関する知識だけでなく、問題となっている領域に関する知識(=言語に依存しない知識)も重要です。まえがきの最後に、私の長年の友人、川越いつえ氏が最近出版された本を推薦します。
川越いつえ(1999)『英語の音声を科学する』大修館書店.
英語の聞き取りを考えると、日本語が母語である人にとっては、英語の音の体系との違いが問題になります。その違いが分かりやすく書かれています。聞き取りの力を付ける訓練ももちろん大事だと思いますが、音に関して日本語と英語がどう違うのかを理解することも重要でしょう。その違いを理解するために、一読をすすめます。 

2. 辞書について

2.1 辞書の分類

 「英語が母語ではなく、日本語が母語であり、英語を学習しようとしている人」がこのコースで想定している受講生像です。そういう方々にとって、次に挙げる辞書の区別をはっきり認識することが重要でしょう。まず次のように分けることはどなたもお考えになることでしょう。
(1)   a. 国語辞典
    b. 英和/和英辞典
    c. 英英辞典
しかし、辞書記述が行っていることを考えると、上の三つの区別は以下の二つにまとめ直すことが出来ます。この二つの違いをはっきり認識することが英語学習を考える際には重要です。
(2)  a. 1カ国辞書(1対1)
    b. 対訳辞書(1対2以上)
1カ国語辞書では、ある語の語義を記述すること(語釈を与えること)が、まず求められます。「語義を記述すること」とは、対訳辞書で行われていることと対比して考えると分かりやすいと思いますが、その語がどう使われるか、その条件を記述することだと言えるでしょう。対訳辞書では、ある語がどう使われるか、その条件を記述するのが第一の目的ではなく、対象とされているもう一つの言語で大体同じような使われ方をされる語/表現などとの対応をつけることが目標とされています。英和辞典を 例に考えると、例えばperhapsという語がどう使われるかという条件を記述するのではなく、日本語で言えば、「多分」などに対応することを示すことになります。そこで、例えば、『新明解国語辞典』(初版)で「多分」を調べると
1.副.[推量の言葉を伴って]思うに、十のうち七、八までは。おそらく。
とあります。意図的に難しい例を挙げているのですが、「多分」と言えば、文字通りの語義は、こう記述するのがまずは穏当なところでしょうが、実際に私たちがこの語を使っている実態がどうなっているのかは、他の様々な要因が関係してきますから、それらの要因を考慮した説明が必要になってくるでしょう。例えば、コンピュータに文章を理解させようとすると、言語外の要因、本当はどういうつもりなのかという話者の意図を考慮する必要で出てきます。「おそらく」という日本語の他の似た意味を持つ語を挙げているところが、条件を明確に規定しようとすることだけを行ってはいないと言えます。本来1カ国辞典が行うべきこと、すなわち「その語が使われる条件を記述をする」ことを目指すべきであるのに、別な語での置き換えを行っています。1カ国辞典なのに、対訳辞書のように、似た語での置き換えを行っている。これは、人間が使う辞書だということを考慮して、人間にとって分かりやすいものにしているのだと考えられます。使う側の人間が、これを読んでどういう場合に使えるのかを推測するという人間の能力に依存した記述になっていると考えられます。同様のことが英英辞典でも行われています。例えば、perhapsを、Longman Dictionary of Contemporary English(1998)を見ると、
perhaps 1 possibly; MAYBE
とあります。possibly もmaybeも、条件を記述するのではなく、英語で似た意味を持つ語を示すことで代用してしまっています。  一つの言語の中では、類義語/類義的な表現同士に相互に使い分けがあることが多いので、ある語の使い方を他の類義語との違いを示すことで記述するというのは必要なことでしょうし、学習に役にたつと思いますが、条件を記述するという目標をないがしろにしないという明確な意識は持っていないといけないでしょう。学習者に役にたつ、分かりやすいという観点も重要だと思いますが。

2.2 用例の重要性:言語による違い

 ほとんどの市販の辞書が、人間が使うことを前提に作られていますから、人間がどう使うかを推測してくれることを期待して、条件を明確に記述するという本来の目的からはずれた記述方針を取っています。こう考えるのは、私の個人的な見解ですが、しかし無理のない見方だと考えています。しかし、多くの市販の辞書は、単に「言い替え」の可能性だけを記述しているわけではもちろんありません。用例を載せることで、当該の語がどう使われるかという条件を人間が理解することを手助けしようとしています。英語を学習することを考えると、用例がことさら重要になってきます。
 言語は組み合わせ的な特性を持っています。この特性を考えると、語は単独で使われることよりも、組み合わせて使われる。そして、どう組み合わされるのかを記述する/理解することが重要だということになります。興味深い例を一つ挙げましょう。 (3)  a. a fast typist: one who types quickly
    b. a fast car: one which can move quickly
    c. a fast waltz: one with a fast tempo
この例は、James Pustejovsky (1991) "The Generative Lexicon"Computational Linguistics vol. 17, no. 4, 409-441)から取りました。fastという語の意味が、修飾する名詞に依存して変化すると考えないといけないように考えられます。その変化に対応した語義を一般的に、fastだけに記述することが難しいというわけです。語と語の結び付きの中で、比較的固定しているものを連語(=コロケーション)だと考えると、連語には、母語である言語からの類推がきかないものが多く、どういう結び付きが英語として自然なのかという情報を得るために、各種の英和辞典、英英辞典などを参照しなくてはなりません。一つだけ例を挙げると、
(4) a. a large/small population
b. 人口が多い/少ない
ご存じの方が多いと思いますが、次の本には、英語を母語としない人が、(しばしば自分の母語からの類推で)おかす間違いがtypical mistakeとして記述されています。
Swan, M. (1980, 1995).The Practical English Usage.Oxford University Press.
英語を外国語として学習しようとしている人には、英語が母語ではない英語教師にも、正しい、あるいは自然な連語に関する情報だけではなく、普通そういう結び付きは使わないという否定的な情報も必要になりますが、否定的な情報を大量に電子化しているものは、まだ公開されていないと思いますが、英語を母語としない人たちが書いた作文を集めようとしているプロジェクトのデータから、不自然な連語を探し出すことが考えられます。既にあるプロジェクトとして、投野さん、朝尾さんらが進めておられるものがあります。日本語に関してのものも動きはじめています。大曽科研。 電子化されていないのが残念ですが、一般的な連語辞典としては、やはりBBI連語辞典が役に立つと思います。
Benson, M., E. Benson, & R. Ilson (1986, 1993). The BBI Combinatory Dictionary of English.John Benjamins.
専門用語に関する連語情報が必要な場合には、論文を書く場合などですが、自分で当該分野の論文などを集めて、それをコーパスにして検索する必要が出てくるでしょう。分野によりますが、レジュメなどが電子化されていることも多いので、それを利用することが考えられます。  もちろん語法研究に利用できますが、それに限らず、連語に関しての情報を得る様々なコーパスを参照する必要が出てきます。この点に関しては、滝沢直宏さんが電子化コーパスの利用(http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/~takizawa/kokai/corpus/)で詳しく説明されます。 利用したいという方は以下へ問い合わせて下さい。研究費・校費で支払うことが出来ます。(最新の情報ではないので、確認をお願いします。) 紀伊国屋書店電子情報部 浅木宏司
電話:03-3439-0123
ファックス:03-3439-1093
自分でパソコンに入れて使いたいという方には、
があります。
英語に限りませんが、アメリカとヨーロッパでは、コーパスなどの言語資源の共有を促進・仲介しようという機関が既に設立され活動しています。興味のある方は, 是非どういう資源が手に入れられるか、ホームページを見にいらっしゃることをすすめます。
日本でもようやく同様の機関の設立の準備が始まりました。次に案内があります。 関連する情報を一つ。英語のテキスト検索用のソフトが以下で公開されています。
calgarian(http://hp.vector.co.jp/authors/VA011042/mainp.htm)

2.3 決まり文句の使える条件を記述することの重要性

 英語を非常に多くの人が学んでいることから、英英辞典の中のいくつかは、英語を母語としない学習者が使うことを強く意識して、母語話者ならあまり気付かない決まり文句の使える条件の記述がすぐれているものがあります。特に、Collins COBUILD English Dictionaryの記述が面白いと思います。例えば、That's a good question.の説明(goodの19.4)に、次のようにあります。
People say 'That's a good question' or 'Good question' in reply to a question which they do not know the answer to, or when there are problems involved in the answer.
とあります。これは、句を構成する語の意味を足しても出てこない意味で、英語を母語とする人は、意識していないにしても、違いが分かるのでしょうが、英語の学習者には、普通は予測できないことで、どこかに明示的に書いておいてもらいたいことです。'Excuse me'なども、細かく分けて記述している学習者向け英英辞典が増えているので、決まり文句とその使い方の説明を英英辞典から集めて整理すると役に立つと思います。

3. 自分の英語学習環境を作る

3.1 電子化辞書の利用

 紙に印刷された辞書から電子化された辞書への動きは、様々な意味で非常に大きな変化であると考えられます。どういう意味で、「様々なのか」、どういう意味で、「非常に大きな変化である」のかについては、次に挙げる本を参照して下さい。  私自身は、紙の辞書が持つリアリティ、実用性は今後も残ると考えています。紙の辞書は、線を引いたり、書き込みをしたりすることが可能です。一つの物として存在し、汚れまでもが、我々の理解や学習を助けていると思います。しかし、同時に次のように考えることが可能です。自転車が発明されて、自転車に乗る能力を身に付けた人間の学習能力との連想で考えると、電子化辞書ができて、それを活用し、それ無しではすまない生活を私たちは既にはじめているのだと。
 言語文化部のサテライトラボでは、現在日本語、英語、ドイツ語、フランス語の電子化辞書が利用できます。検索のためのソフト「こととい」を利用して、これらの辞書を検索できるので、多言語学習支援環境が提供されていることになります。
 個人で、パソコン上で、英語学習環境を構築するためにも、何らかの市販されている電子化辞書を購入し、それを検索できるようにするというのが、まず考えられることです。
 辞書は、市販されているものだけでなく、フリーウェア、シェアウェアとして、ネットワーク上に公開されているものがたくさんあります。言語学習支援のための情報もたくさん公開されています。そういう情報を探すためには、次のような関係する情報をまとめているホームページ(「ハブサイト」と呼ばれます)からたどるというのがまず考えられる方法です。
 次に重要なのが、検索エンジンを利用するという方法です。代表的なものとして、次の二つを挙げます。 ある英語の語の意味、使い方を知りたいという場合に、WWW上に公開されている情報にその語が含まれているのではないかと考えて、検索エンジンを使い調べるという方法は、関係しない情報(しばしば「ゴミ」と呼ばれます)を拾ってしまう可能性は高いのですが、公開される情報が日々増えていること、また新しい情報が得られるという意味で、今後もますます重要性を増すだろうと考えられます。

3.2 自分で用例を集め、整理する:電子的単語帳作り

3.2.1 英語基本単語5000語

 言語の組み合わせ的な特性を考えると、英語を学習するためには、自分で用例を集め、整理することが必要でしょう。次に述べることは方法が特に新しいということではないのですが、それぞれに試していただきたいことです。
 まず、単語のリストが必要です。調べたい語が分かっている場合には、その語で検索すればいいわけですが、英語学習者のための基本単語リストのようなものが必要になります。これは私が南山大学におられるLinda Wooさんにお願いして作っていただいた英語基本単語5000語のリストがあり、公開しています。テキストファイルになっていますから、自分のところに取ってきて、カット・アンド・ペーストして、自由に使えます。まず、Linda Wooさんからのメッセージをご覧下さい。
次に単語集の方をご覧下さい。  また、linda5000のもとになっているJACET4000という英語基本単語4000語のリストがあります。そのリストにおおよそ1000語Linda Wooさんが必要だと判断して付け加えて下さったリストもあります。英語学習という観点からは、基本的だと考えられる単語に関してのある程度の知識がある人には、このリストをチェックしてみることは役にたつでしょう。 これらの基本単語リストは、コーパスを使った検索でも、テキスト・ファイルになっていますから、ご自分のところへ取っていって下されば、様々な用途に利用できると思います。

3.2.2 Excelを利用したデータベース作り

 用例を収集・整理するということは、一般的に言えば、データベースを作るということになります。自分の英語学習を進めるために必要だと考えられるデータベースの設計を工夫する必要があります。ここでは、表計算ソフトとして標準的なExcelを利用することを考えます。当該の単語を最初の項目に入れて、その後に続く覧に、自分が必要だと考えられる項目を作り、そこを埋めていくということになります。検索、並べ替えなどはお手のものですから、様々な用途・必要に応じた項目を加えていけばいいと思います。何を問題として取り上げるか、またどういうことに興味があるかで、どういう項目を設定するかが違ってくると思いますが、自分が必要になると考えられるメモをいくつかに分類し項目として加えるのがいいでしょう。

3. 作文支援環境の構築

 最後に、作文支援環境の構築についてです。この点に関しては、すでにまとめたものがあります。英語だけでなく、日本語の作文に関しても取り上げています。電子化辞書は、英語の単語からだけでなく、日本語からも検索ができることが多いので、工夫次第で、利用する可能性が大きく広がると思います。詳しくは公開しているものを参照して下さい。
「テキスト処理環境の整備:作文・外国語学習支援」(1996/4/18)(http://www.lang.nagoya-u.ac.jp/~tonoike/tono95.html)


ご質問、コメントは、tonoike@lang.nagoya-u.ac.jpまでお願いします。

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