日本語をふくめた様々な言語と私たちの関わり

名古屋大学言語文化部 外池俊幸


 この文章では、日本語を含めた様々な言語と文化に関する情報(読書案内とWWW 上に公開されているホームページの案内)の紹介と学生時代を名古屋大学で過ごす人 たちにやって欲しいと私が思うことを書きます。簡単に言うと、本を読んで欲しいと いうことと、コンサートに行くとか演劇の公演を見に行くとかを含めた生の経験を大 事にして欲しいということです。工芸作品(陶器でも漆器でも、何でもいいですが)を見る機会を増やすことも考えて下さい。段々、自分なりに分かってくるので、そのプロセスを楽しめますし、こういう経験は後の人生を考えると大きな財産になります。名古屋大学の教官にもやっていただだければと思う ことも書きます。かなり盛りだくさんな内容になりました。お役にたてば幸いです。
 この原稿は、当初言語文化部に専任教官がおられる学科ごとに、それぞれの言語と 文化に関連する情報を集めていただき、それをまとめようと考えたのですが、うまく 連絡が取れなかったので、私が個人的に知っているものをまとめることになりました 。できれば、近い将来、各言語ごとにコメント付きのリンク集をまとめていただけれ ばと思います。この原稿は、私のホームページに載せて、
URL:http://lang.nagoya-u.ac.jp/~tonoike/genbun33.html
言及しているホームページとリンクを張り、直接参照できるようにします。役にたちそうなところが他にもたくさんあるでしょうから、できれば簡単な説明を加えて、 tonoike@lang.nagoya-u.ac.jpまでメイルでお知らせ下さい。リンクを張ります。

1.まず日本語
 私は自分のことを一応言語学者だと思っていますから、日本語を含めた言語に興味 がありますし、学生の人たちには、必要に応じて日本語できちんとした文章を書ける ようになるための訓練が必要だということを考えてもらいたいと思います。大学で開 講される授業の中に日本語の作文の授業がほとんどないのは困りものだと思います。 課題を課して、それを教官が面倒でも添削する授業が必要だと思います。大学を出て から実際の現場で必要があって学べばいいというのも一つの考え方ではありますが。 英語での作文、論文執筆も、本質的に手直ししていく過程を伴うものです。自分の母 語である日本語だからと言って、言いたいことを的確に表現するためには手直しが必 要です。漠然と考えていることも、文章にしてみて、客観化できるものです。それで も自分では気がつかないことがあるもので、できれば誰かに見てもらってコメントを もらいさらに手直しすることが大切です。また、そういう経験を通して、問題の整理 の仕方を学ぶことができます。
 問題の捉え方を学ぶためには
、  佐伯胖『認知科学の方法』認知科学選書10.東京大学出版会
の第1章は是非読むことをすすめます。問題を整理する方法を論じています。その後 、たちまち難しい問題に入って行きますが、戸田正直氏の補稿まで読むと、面白い本 を読む過程を楽しめます。
 日本語でしっかりした文章を書くにはどうすればいいかを考えるには、
木下是雄(1981)「理科系の作文技術』(中公新書)
をまず読むことを勧めます。

ICUから昨年の春、早稲田の商学部に移られた益子真由美さんは、
「木下さん関係ですと、主宰なさっている言語技術の会編の「実践・言語技術入門」 (朝日選書・¥1200)は日本語についてだけですが、読みやすい文体ですし、練 習問題もついていますし、「話す」についても参考になることが数多く取りあげてあ りますから、いいかも知れません。」「私がこの手の本を参考にと紹介する際に、『 理科系の作文技術』を取り上げると、文系にも役立つと言っても、自分は文系だから ...と嫌な(?)顔をする学生がいます。どうしても文系の例が良いのなら、同じ木 下是雄さんの『レポートの組み立て方』(1994.ちくま学芸文庫・¥780)が あります。(ちくまライブラリーとして先に出ていますが、学芸文庫版の方が安いの ではと思います。)こちらは所謂library researchに基づく論文の書き方についてで す。個人的には『理科系』の方が、と思いますが、好みもあるでしょうし...」
 「澤田昭夫著(1977)『論文の書き方』講談社学術文庫.(700円)
もどちらかと言えば文系対象ですが、資料探しから始まって、丁寧に解説してありま す。澤田さんの「はしがき」によると、アメリカ留学中に論文の書き方をほぼ独学で マスターしたとありますので、英文論文の書き方が下敷きになっていると考えてよい と思われます。」
「小河原誠著(1966)『読み書きの技法』ちくま新書.(680円)
というのもあります。これは、書き方というよりは、上手く書くために上手く読むこ とから始めるというのが著者の意図するところでもあるようです。パラグラフの構成 法が中心ですので、そのあたりに自信がない人にはよい本だと思います。」

 古典的ではありますが、
梅棹忠夫『知的生産の技術』(岩波新書)
も読んでみて下さい。

高知大学教育学部の久野眞氏から以下のようなことをうかがいました。
 「高知大学では今年から1年生全員にパソコンを買わせることをしました。「情 報処理」という科目を取らせるためです。同時に「大学学」「日本語技法」とい う、全員必修の科目を開講しました。
 教官も初めてのことで、ずいぶんとまどい(実際には反対)もあるようです が、とにかくレポートを書いたり、文章を書いたり、討論をしたりということは 練習が必要だという認識で始まりました。
 地学の先生で「日本語技法」についての文章を『言語』に書いたこともある人 が、「日本語技法の広場」というホームページを作りました。
http://sc1.cc.kochi-u.ac.jp/~yoshikur/gihou.html
をご覧下さい。」

このページの下の方には関連サイトとして、日本の大学等で公開されている日本語での作文に関するページにリンクが張られていて参考に役にたちそうです。
参考図書のリストもあります。
日本語技法参考図書

「日本語技法」のとりまとめを担当しておられる高知大学の吉倉紳一氏から次のような情報を提供していただきました。
「ご存じかも知れませんが、冨山大学人文学部の筒井先生が、日本語表現教 育に関する全国的な連携を模索しておられます。11月29日に開催された大学教育 学会において、全国的な組織設置の提言をされました。また、日本語表現に関するデ ータ蓄積を、次のサイトで行っておられます。
http://hyogen.edu.toyama-u.ac.jp/hyogen/index.html
(こちらでしょうか?http://hyogen.edu.toyama-u.ac.jp/hyogen/tantou.html

名古屋大学の同僚の杉浦正利氏から、「私だったら、本多勝一『日本語の作文技術』 (朝日文庫)を真っ先にあげます。もし外池さんお持ちでなかったら、一冊差し上げます。」というコメントをもらいました。随分前に読んだ記憶がある程度で、現在手元にありませんでした。余っているのがあるというので杉浦さんから一冊もらいました。読んでみて、これなら大学でこの本をテキストに日本語の作文の授業をやるのは面白いだろうと思いました。

東北大学の後藤斉氏からは次のようなコメント付きの情報を提供していただきました。 「なお,
http://www.fed.hirosaki-u.ac.jp/~ogura/links/links.htm
語学・国語科教育関連リンク集もよろしいのではないかと存じます.」

さらに、石塚倫子さんからいただいたすすめる本とコメントは、
加藤典洋『言語表現法講義』(岩波書店、1996年)
「加藤典洋の本は明治学院大学の作文の授業内容をまとめたもの。実例を挙げ、 作者(同大国際学部教授、文芸評論家)のコメント、評価を付けて解説して いる。これがなかなかいい。学生がどうして文章を書くのが苦手なのか、ど うしたら良い文章が書けるようになるかを基本に、文章を書くということの 意味を考えさせてくれる。」
安西徹雄先『英文翻訳術』(ちくま学芸文庫)
「安西徹雄『英文翻訳術』(筑摩学芸文庫だったか)は、やはり実例を挙げ緻 密に翻訳の仕方を説いている。英文のニュアンスを失わずに、日本語として 自然でしかも説得力のある文章に直すこと――これは高校教育では一切、教 えていないし、特に受験英語では直訳に近いものが正解となりがちだが―― の重要性を教えている。英語のみならず、日本語に対するセンスを磨く意味 で面白い本。」

 WWW上に公開されている情報としては、方言についてのホームページのリンク集 があります。面白いので見に行って下さい。
ふるさとの方言
方言研究は長い伝統があり、新しい方言も生まれつつあると言われています。そうい う点に関しては
、 『現代日本方言大事典』(明治書院)
を参照して下さい。これは日本各地で長年にわたって進められた地道な調査の集大成です。
名古屋大学にいますから名古屋近辺の方言についての情報も付け加えましょう。
私の身近では、名古屋大学文学研究科日本言語文化専攻の院生が作ったものを知っています(私の研究室がある建物に、院生室があります。逆かな?)。音声が聞けます。名古屋君が秀逸です。
ノンネイティブの名古屋弁講座
「ふるさとの方言」の方言の中部地方版は、中部地方(北陸地方、新潟を除く)の方言
名古屋大学の学生のことを考えると三重県も入れないわけにはいきません。三重県

沖縄にも興味のある私は、次のリンク集も時々楽しく見ています。
沖縄関連WWW一覧
日本語の電子化された資源については、私自身も長い間関係した辞書が公開されてい ます。
IPAL
最近知っている人から面白いと紹介されたのが、富山商船高専の金川欣二氏のページ です。言語学に関係した内容の読ませる文章がたくさんあります。
言語学のお散歩

2.言語を学ぶ、使う
 まずいくつか外国語の学び方について書かれた本を紹介します。
 松本 亨「新しい英語の学び方」講談社新書.
 外国語の学習というのは、どの時代でも同じようなことをやらないといけないとい う意味で(人間が自分の能力でやらないといけないが、その能力が時代と共に進歩し ているわけではないだろうが、人間が持っている大変な能力によるわけで、それを忘 れるわけにはいかない。この本は、書かれてもう随分たつが、英語の勉強をまた新た にやろうと考えている人に、どうすればいいかの示唆を与えてくれると思う。
千野栄一 「外国語上達法」 岩波新書.
 外国語を学ぶ場合にしなくてはならないことが新書1冊に要領よくまとめられてい るという感じがした。当り前のことしか書かれていない感じがするが、やはりそれを 新書1冊にまとめられるのはさすがという気がする。
カトー・ロンブ 「私の外国語学習法」 創樹社.
 私が外国語の勉強に疲れた時に、公立の図書館でみつけた本です。著者はハンガリ ーの女の人で、実際的な自分の経験をもとに外国語の学び方が書かれていて、読んで よかったという感じがしました。
東大サバイバル英語実行委員会「理系のためのサバイバル英語入門」講談社ブルーバ ックス
 というのが出ました。実際に自分にとって必要なことは何なのかを考えて、それを やっていく人には当り前とも言えることが書いてある気もします。例えば、専門の領 域によって異なる専門用語を整理しないといけないし、それがどういうことなのかと いう内容を理解する必要があるが、これは大学での一般英語でもやらないことですか ら、学部の教員が授業をやるか、自分でやっていくしかないでしょう。しかし、大学 院を目指す人、理系の人は読んでみるといいと思います。
 最近は日本でも外国語に関する情報を公開したホームページがどんどん増えていま す。国内の言語学・外国語関係のリンク集としては東北大学の後藤斉氏が運営されて いるページが、充実していて、しかもよく整理されいて役に立ちます。
国内言語学関連研究機関 WWWページリスト
現在は、ページが言語編ごとに分けられてもいますから、それも列挙すると:


 英語に関しての情報が欲しい人もいるでしょう。 世界中で使われている多くの言語に関しての情報が知りたければ、Ethnologue: Languages of the World というページがあります。 6,700を越える言語に関しての情報が提供されています。
Ethnologue: Languages of the World

A Web of On -line Dictionaries も役にたちます。400以上の辞書、130以上の言語の辞書を参照できます。 英語が支配的だと言われることが多いインターネットの世界ですが、様々な言語を表 示できるようにしようという地道な努力が続けられて来て、現在ではかなりの数の言 語(=文字)を表示できるようになっています。約80の言語それぞれをWWW上で見られるようにする方法とツールに関しては、次の本が役にたちます。
三上吉彦・関根謙司・小原信利(1997)『マルチリンガルWEBガイド』オライリージ ャパン.この本のサポート・ホームページは、
http://www.threeweb.ad.jp/logos/mlweb/
にあります。
 また、世界中の文字を集めて、それを混在処理できるようにしようという壮大なプ ロジェクトが早稲田大学の理工学部で片岡裕氏を中心に進められています。これは重 要で、しかも残る仕事だと思います。
Internationalized & Multilingual Text Processing Project

日本語も含めた様々な言語の利用できる資源に関しては
言語データのまとめ

この点に関しても、東北大学の後藤斉氏から次のような情報を提供していただきました。
「文系の学生にとっては
http://kuzan.f-edu.fukui-u.ac.jp/bungaku.htm
日本文学等テキストファイルもおもしろく,かつ,実用性も高いのではないかと思います.」

個別領域の専門用語の収集に関しては、
ライフサイエンス用語データベース
のホームページを参照して下さい。
言語工学研究所のホームページも見に行って下さい。
言語工学研究所
日本語のシソーラスの
製品情報
もあります。
電子的な言語学習環境の構築については、私が書いた
「テキスト処理環境の整備:作文・外国語学習支援」
を参照して下さい。

3.生の芸術・文化を楽しむ
 言語文化部の同僚の涌井隆氏が、名古屋というかなり大きな都市で大学生活を送る 利点は、生の芸術・文化に触れられることだと論じています。私もその通りだと思い ます。彼の力の入った文章を読んで下さい。


毎年の初めに日本全国を回る書道展があります。現代書道20人展というのですが、名古屋は松坂屋美術館で開かれていて、今年は1月29日(木)から2月8日まで です。高・大生当日500円、前売り300円です。ただみたいなもんですね。まとまって作品が見られますから、興味のある人は行って下さい。

涌井さんが代表者をつとめて、言語文化部のドメインlang上で動き始めた
名古屋近辺の芸術娯楽情報を交換するためのメイリングリスト
が動き始めました。若い学生時代を名古屋で過ごす人たちには役にたつと思います。登録方法は上のホームページを参照して下さい。

私が以前書いた文章
「ネットワーク環境の整備と共有」
でも、名古屋大学での芸術関係の授業の充実が必要だと書きました。
名古屋に関しての情報は、
Nagoya Yellow Page
などがありますね。
離れたところからご覧になる方のために、徳川美術館にもリンクを張りましょう。
明治村
と、 名古屋市科学館
にも。
他にも、
大須演芸場でのロック歌舞伎で有名なスーパー一座のページもあります。
愛知芸術センター
愛知県女性総合センター(ウィルあいち)のホームページ
私が個人的に知っている情報をまとめますから、名古屋近辺の芸術に関する情報も参照して下さい。
 ここで強調しようとしていることは、前の「言語文化部便り」(No. 37)に私が書 いた
「電子的ネットワーク環境のもとでの外国語学習・教育・生活」
でも述べた、「具体的な経験が大事だ。」(本を読むことも私たち人間にとっては具体的な経験だと思います。)、ということの繰り返しです。
 最後に、前の号では紹介できませんでしたが、
三宅なおみ「インターネットの子どもたち」(岩波書店)
はおすすめです。
コメントは、tonoike@lang.nagoya-u.ac.jpまでメイルでお願いします。
外池俊幸 (応用言語科学研究系)


この原稿の下書きに情報、コメント、激励を下さった方々に感謝致します。

最終更新日:1998年1月16日