■ピンター『帰郷』The Homecomingについて

■テキスト

ここでは、ハロルド・ピンター『帰郷』小田島雄志訳、『ハロルド・ピンター全集 2』(新潮社、1977)所収。参考:Harold Pinter, Complete Works 3 (New York: Grove Press, 1978)に所収を使用。

 

■登場人物

マックス、レニー、サム、ジョーイ、テディ、ルース

 

■質問(2014年度後期授業にて使用)

1 この劇では言葉はそれが話される状況と切り離せない。状況の中でそれぞれの言葉が、舞台上のほかの人々に対し、なんらかの効果をねらう意図をもって発話される。その結果、言葉は情報を伝える道具ではなく、他者に働きかけようとする道具となる。テキストの背後に潜むサブテキストが感じられる。例えば、劇冒頭のマックスとレニーとのやり取りにおいて、そのサブテキストを明らかにしてみよう。

 

2 女性の分担は家事労働で、男性の分担は社会で働き収入をもたらすことであるとする伝統的な観念が一部の社会(日本を含め)にはある。劇の初めでは、マックスの料理や子育てが繰り返し言及され(同時にそのような役割に対する反発として、彼は男性性を誇示する)、劇の最後では、ルースを利用した家族ビジネスの計画と共に、彼女に家事労働をすべて負担させる話(料理、ベッド作り、床みがき、話し相手)が始まる。この点から二つの質問が考えられる。1)この劇は家族におけるステレオタイプ的な性別役割をその素材としているのだろうか。(また、その他にもステレオタイプの利用が発見できるだろうか。)2)資本主義的搾取の考え方(「最初の経費は資本投資と考えなちゃ」)は、家族関係も取り込んでゆくのだろうか。

 

3 読者はこの劇を読み進めるにつれて、男性の登場人物すべてに嫌悪感をもつようになるだろう。そして、なぜルースが彼らから逃げ出さないのか、それどころか、彼らがルースを支配しようとするアプローチを「女性の武器」を使って、はぐらかし、逆に、ルースにコントロールされているという不安を彼らにもたせる。登場人物たちのやりとりは、それらが家族関係のなかでのやりとりであるために、読者にとっては予想外の連続である。劇作家はなにを狙っているのだろうか。

 

4 登場人物はそれぞれに差異化されているが、物語の展開のなかでは、レニーが比較的大きな役割を果たしているように思える。そして、彼の個性(特徴)は、演劇的に構成されている面がある。例えば、彼だけ一階に寝ている、そのセリフに特別な要素がある(「コチコチ」「キリスト教的一神論の〜」など)、最初にルースに性的にアプローチする、劇後半で彼の稼業が明らかになる、など。このように、レニーが劇によって特別扱いされている理由を考えよう。

 

5 劇最後のサムのセリフは、それが、男たちとルースの契約話の直後に述べられるので、また彼はそのセリフを言って崩れるので、啓示的な響きを感じる。「(一息に)マックグレゴーアはおれが運転していたときおれの車のバック・シートでジェシーをものにしやがった。」これは劇の展開の中で、どのように捉えればよいのか。

 

 

 


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