東アジア言語文化講座
大学院生・修了生エッセイ集


寺澤知美(D1)
 「中国語で修士論文を書く」

  私は、この春、博士後期課程に進学しました。2005年4月に入学してからの2年間、東アジア言語文化講座で現代中国語の方位詞について研究してきました。講座の同期は、私を除いて全て中国大陸、台湾からの留学生という中国語を研究対象とする私にとって大変恵まれた環境でのスタートでした。しかし、私には、中国語で修士論文を書かなければならないという大きな試練が待ち受けていました。中国語を勉強しているのだから、中国語で論文を書くくらい当たり前と思われるかもしれませんが、今まで中国語でまともな文章を書いたことなど一度もなかった私にとっては、それこそ一大事でした。しかし、それ以前に、研究テーマすら明確に決まっていなかった私は、毎日の授業やテーマ探しといった当面の課題をクリアするだけで精一杯でした。
 そんな私でしたが、指導教員の先生方や同級生のみなさんのおかげで、テーマの決定、構想発表、中間発表と、私の修士論文はそれなりに楽しく、順調に進んでいきました。しかし、中国語で仕上げなくてはいけないという事実は、依然として私に重くのしかかっていました。締め切りが近づくにつれ、さすがにこれ以上現実逃避を続けるわけにいかなくなり、提出まで残り1ヶ月と少しとなった時点で、ようやく重い腰を上げ、真剣に翻訳と向き合うことになりました。その時点で、日本語での原稿は全体の7割〜8割くらいしか出来ていなかったのですが、とりあえずは出来ている部分から順番に中国語に訳していくという作業を開始しました。しかし、何の準備もしていなかった私に、そんな簡単に翻訳ができるわけもなく、1ページ訳すだけでも大変な時間がかかり、このままでは間に合わないのではないかと心配になりました。幸い、私はとても優秀な方に論文のネイティブチェックをお願いすることができたため、必死で仕上げた中国語訳を少しずつ彼女にチェックしてもらううちに、比較的短期間で翻訳のペースが上がるようになり、なんとか期限までに仕上げることができました。以前、同じように中国語で修士論文を書いた先輩から、最初は大変だけど、そのうち慣れてだんだん翻訳が楽しくなってくる、とてもいい経験になったという体験談を聞かされていたのですが、私はそんなことは絶対にありえないと全く信じていませんでした。まさか、自分も同じように感じるようになるとは。正直、私は、浅はかながら、中国語で書く労力を内容の方にまわした方がいいのではなどと考えていたのですが、一度日本語で書いた文章を中国語に翻訳するためにじっくり読み返してみると、内容的に矛盾している部分を発見したり、別の解釈の方が適切なのではと気がついたりすることが多々ありました。もちろん、問題点はまだまだたくさん残っていますが、日本語で書いていたらそのままになっていたと思われるたくさんの問題点を中国語に翻訳することにより修正することができたのは、予想外の収穫でした。
 この経験をいい思い出として終わらせず、博士後期課程においても更に精進していきたいと思います。
 (2007年4月12日)