東アジア言語文化講座
大学院生・修了生エッセイ集


謝平(平成26年1月博士学位取得)
 「鉄杵を磨く」
 日本に来て十年が経ちました。来日当初は日本語が全く話せず、まずは研究生として名古屋大学に入り日本語を学びました。
その二年後、国際言語文化研究科の博士前期課程に入学しましたが、前期課程は二年間と短く、研究に対して興味を持つように
なったときに修了してしまいました。もっと勉強したいと思い、後期課程に進学することを決意しましたが、博士号取得までの道程は
想像していたよりもずっと難しく、六年かかりました。
 この十年間で自分は納得のいく研究生活を送れただろうか?勉強とは、研究とは何だろうか?十年という節目を迎え、改めて
自問自答する自分がいます。振り返ってみれば、この十年間はあっという間でした。でもせいぜい数十年という人生の中で、
十年という期間はどんな人にとっても短くはないでしょう。
 勉強や研究は終点のない楽しい旅でもあり、苦渋の旅でもあるといえるでしょう。歩き続けないと、美しい景色は見つかりませんが、
ずっと歩いても平凡な景色が続く時もあります。また、求める絶景はしばしば険しい道にあります。
 言うまでもなく博士学位は、「鉄杵を磨いて針にした」という終点ではありません。中国語には“学海无涯”(学問に限りなし)
という言葉があります。この言葉の通り、むしろ博士学位はただの始まりにすぎず、鉄の杵を手にしてこれから磨き始めなければなりません。
学位授与式の後、長年ご指導くださったお二人の指導教官とお話しする中で、一人の先生に「これから何をテーマにして研究したいですか?」
と尋ねられました。もう一人の先生は「おめでとう!でも、めでたい気分は今日までだよ。これからは一人前の研究者として頑張らないと!」
とおっしゃいました。
 これらの言葉を聞いて考えさせられました。先生方の丁寧なご指導のお陰でこれまで歩んできましたが、これからは「乳離れ」して、
自分一人で研究していかなくてはなりません。
 鉄の杵はどのくらいの歳月をかけて磨けば、針になるのでしょうか。
 針になるかどうかを考えずに、ただただ一生懸命磨き続ければいいのかもしれません。




                           


                                                        (2014年3月19日)