PT/JSLAにおけるプロファイリング手順による実習プレスメントテストの構築

ジュディ・プレストン

1. はじめに

 Pienemann (1998)によると、第二言語学習者の文法習得には普遍的な発達パターンが見られるという。学習者がある文法項目を自発的な発話で使うかどうかは1)学習者の現在における発達段階と2)目的言語における文法項目の特徴による。学習者の発達段階は階層的関係を示す。つまり、学習者は、上のレベルに属する文法項目を使うことができれば、その下のレベルの文法項目も使えるという意味をする。

 この仮説は学習者側のlearnabilityと教師側のteachability理論とが結びついたものである (Pienemann, 1988; Long, 1983) 。言語処理過程理論によると、学習者の現時点での習得段階が分かれば、その学習者が何が習得できて何が習得できないかを予測できるとしている (Pienemann, 1998) 。学習者は自分のステージと、その下のステージに属する文法項目、および自分より一つ上のステージの文法項目を習うことが可能である。しかし、自分のステージより二つ上のステージの文法項目を習うことはできない (Pienemann, 1988) 。つまり、特定のステージに属する文法項目を習得するために、下のステージの文法項目を習得していなければならない。このように、言語習得の発達段階に見られる文法項目は、その下の発達段階の文法習得を含意するということである。


2. 目的

 プロファイリング手順は、Crystal, Fletcher & Garman(1976)が脳漿のある英語母語話者の言語能力を評価するために作った手順である。本稿のプロファイリング手順の構築の目的は、夏の実習クラスに入る学習者の発達段階を評価することであった。さらに、その結果を夏の実習コースのクラス分けに活用した。クラス分けの決定の際、プロファイリング手順による結果だけでなく、学習者の話し言葉における流暢さや語彙の運用なども判断基準として取り入れた。また、学習者のニーズを事前調査で調べた。

 プロファイリングに使う文法項目を決めるために、横断的な予備調査を行った。第2言語として日本語を勉強している英語母語話者20人を対象にし、ストーリーナレーションおよび絵の描写、インフォーマルなインタビューのエリシテーション方法に基づいて学習者の自発的な発話を引き出した。次に、implicational analysis(「含意尺度」Bailey, 1973)の分析を行った。implicational analysis方法では、一番高いステージにおける文法項目を使った(+)学習者はその下のステージの項目も使った(+)かどうかを確認する。

 予備調査に参加した学習者の文法項目に関しては、implicational analysisにより階層的なパターンが示された。その結果から学習者の発達段階を表す文法項目13項を対象にし、日本語習得における発達段階の階層を作った。ステージ内の項目に関しては、学習者により個人差があった。例えばステージ5の学習者はやり・もらい動詞を使ったということは、ステージ4の2項目のいずれかおよび両方使ったという意味をする。このように、上のステージの項目一つだけが学習者の発話に表れたことは、下のステージの項目の少なくとも一つがあったことを含意する。

 

予備調査で見られた学習者の発達段階構造

Stage

日本語における言語処理

例文

6

従属文には「か」

どこにいくか分かりません

 

S’ + COP

この人は外国人だと思います

5

PASS, CAUS

前の人におされました;学生に漢字を書かせます

 

やり・もらい

お母さんがお弁当をくれました

 

参考を持つ語彙敵同士

お母さんは学生に日本語を教えます

4

動詞を含む連体修飾節

いすに座ったとき、足は踏みました

 

COMP「と」-COP

この人は外国人と思います

3

Vて-V

公演で遊んでいます;お母さんは寝ちゃった

2

NNV

私学校行きます

 

LexNeg (V/A)

でも、財布はありません;北海道は暑くない

 

LexPast (V/A)

仕事に行きました;北海道はよかった

1

語彙

栄に、すき、イギリス人

 

決まり文句

英語の先生です;今何時ですか;駅はどこですか

 

 以上の文法項目13項を取り上げて、夏実習のプロファイリング手順の対象項目(基準)とした。

 

3. 被験者

 夏実習の「AET日本語コース」に入る大人12名の学習者を対象にした。学習者全員が英語母語話者であった。一人はマンダリン語と英語のバイリンガルだった。年齢は22歳〜30歳である。

 夏実習が始まる前、学習者にインタビューをした。インタビューでは、予備調査で使用した文法項目をもっとも頻繁に引き出すエリシテーションタスクを利用した。これは、ストーリーナレーションや絵の描写、週末と自分のアパートについての会話である。一人10分ぐらいのインタビューを目指した。しかし、ほとんど日本語が話せない学生の場合、5分以内でおわる場合もあり、日本語がよく話せる人のインタビューにはもっと時間を使った。インタビューを録音し、そのデータをプロファイリング手順に利用した。

4. 手順

 夏実習の教師に説明会を開き、言語処理理論とteachabilitylearnabilityについてディスカッションをした。そこでは、予備調査で得られたデータの階層的パターンと、それに属する文法項目を一つずつ示した。つぎに、プロファイリング手順を説明した。学習者が対象の項目を使用したときに、評価者は評価紙にその使用を記録する。これは「出現基準」と呼び、予備調査のimplicational analysisに使われた基準と同様である。評価紙には、ステージ6から1までのすべての文法項目を順に並べ、その横に+と-の欄をつくった。対象の項目が出現したときに、「+」の欄にスラッシュ「/」を入れる。義務的文脈である項目の場合や対象項目が違反された場合は、「-」の欄に「/」を入れる。評価会のとき、教師に出現基準に基づき、すべての学習者に対して最終評価をしてもらった。

 次に、予備調査で得られたサンプルをテープで流し、全員で評価の練習を行った。その後、夏実習の学習者から得たサンプルをテープで流し、教師が学生一人一人の発話を出現基準に基づいて評価した。上記で述べたように、プロファイリング手順は一つの評価方法だけである。クラス分けの決定には、プロファイリング手順における判断基準を取り入れたものであるが、学習者の会話の流暢さ、語彙の豊かさ、前調査による書き言葉の学習希望なども配慮した。

 

5. 結果

 著者が学習者の発話に対象項目が出現したかどうかを完全な言語分析で確認した。このとき、その文法項目の使用には言語変異があったかどうかを確認した。言語変異に関しては、学習者は一つの言語(語彙)の文脈だけでなく、二つ以上の異なる語彙が対象項目の使用にあったかどうかを調べた。表2のように、夏実習の学習者のサンプルを分析した結果、階層的なパターンが示された。「+」は、対象の文法項目が学習者(100-111)のサンプルに出現したことをあらわす。「/」は、対象の項目がサンプルに出現しなかったことをあらわす。

Stage

日本語における言語処理

100

101

102

103

 

104

105

106

107

108

109

110

111

6

従属文には「か」

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S’ + COP

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5

PASS, CAUS +NI

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やり・もらい+ NI

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+

+

 

3項を持つ語彙敵同士

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4

COMP「と」-COP

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+

 

動詞を含む連体修飾節

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3

Vて-V

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2

NNV

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LexNeg (V/A)

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LexPast (V/A)

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1

語彙

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決まり文句

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プロファイリングによる分析結果から、学習者を三つのクラスに分けた。

           A: 100, 101, 102, 103, 104

           B: 105, 106, 107, 108

           C: 109, 110

 

6.      考察

 夏実習の学生から得られたサンプルは、予備調査で得られた階層段階と同じパターンを示した。つまり、高いステージに属している文法項目を使った学習者は、その下のステージの文法項目も使っていた。夏実習の学習者は、一人も受身および使役形、6の対象項目を発話しなかった。

 完全な言語分析による結果と実習生の教師による評価とを比較した。また、教師の評価紙のコメントを参考しながら、評価会で多く取り上げられた問題点を反省した。特に、言語分析における結果と教師の評価結果が異なった場合、教師のコメントを参考にした。コメントは以下のようなものがあった。

        学生102: 「NNです」という形の文だけがでたので、それは決まり文句かNNですとして評価するか(答え:決まり文句かどうかとは関係なく、動詞には言語変異がなかったので、ステージ1のNNVの項目を添えない)

        学生105: 「Vて‐V」では、「住んでいる」だけが出現したので、本当に「て形」の使用を知っているかどうかは判断しにくい。(答え:言語変異がないから、ステージ3と判断できない)

        学生109:「私にわらっていました」は受身の違反としても考えられないのか。(答え:受身形は出現しなかったので、受身形の利用に関する証明がない。)

        学生110: 「やり・もらい+に」では、あげるを正しく使えたが、くれるの場合「に」が間違ってたので、ステージ4ではないか。(答え:「やり・もらい動詞」については、語彙的変異がないので「に格」を生産的に使えるかどうは分からない。従って、「やり・もらい」の使用だけに基づいてステージ4の判定ができない。)

 

7. 結論

 プロファイリング手順は夏実習の学生のプレイスメントにとって、一つの便利なツールだと思われた。実習が始まった後、学生105のレベルがクラスBのほかのメンバーよりより低いと思われた。しかし、105は個人的な都合でクラスAに入りたくないという希望を事前にアンケートで伝えたので、Bクラスで続けさせた。

 さらに、教師はlearnability仮説により、プロファイリング手順で対象にした項目を授業で学習者に紹介した。今後は、実習の時に以上のようなプロファイリング手順を利用し、実習が終わった後にもう一度学生からサンプルを得てプロファイリングの手順を行うことが必要だと思われる。一度だけでなく何回もプロファイリングの手順を行うことはlearnabilityをより深く研究することにつながると考えられる。


参考文献:

Bailey, C.J.N. (1973.) Variation and Linguistic Theory. Washington, D.C.: Center for Applied Linguistics

Crystal, D., P. Fletcher, and M. Garman (1976).  The grammatical analsysis of language disability:  A procedure for assessment and remediation. Studies in language disability and

remediation, 1. Billing and Sons, Ltd.: London.

Long, M. (1983).  does second language instruction make a difference?  A review of research. TESOL Quarterly, 17, 358-382.

Pienemann, M. (1998). Language Processing and Second Language Development: Processability Theory. Studies in Bilingualism 15, Amsterdam, John Benjamins.

Pienemann, M., M. Johnston & G. Brindley. (1988). Constructing an Acquisition-based   Procedure for Second Language Assessment. Studies in Second Language Acquisition,

 10, 217-243.

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