説明に偏らない、実践練習重視の授業

片桐恵理子

1 はじめに

今回の教育実習を行うにあたって、私が授業実践の課題としたのは、表題にある通り「説明に偏らない、実践練習重視の授業」ということである。春の実習において、授業時間の大半を文法の説明に当ててしまい、実用的な練習をほとんど行わなかった反省を踏まえて、夏の実習では、できるだけ無駄な説明を避け、実践練習を重ねて表現の定着を図るということを自分自身のテーマとした。

今回の実習で私が実質的に担当した授業(アクティビティ等は除く)は、ゼロ初級クラス4時間、初級クラス2時間の計6時間である。内訳は、ゼロ初級が「L2 ちゅうもんする」2時間(8月15日,2、3限)、「L4 みちをきく」2時間(8月19日,1、2限)、初級が「L6 ふちょうをうったえる」2時間(8月20日,1、2限)というものである。本レポートでは、まず、これらの授業で扱った内容及び練習方法を簡単に述べる。次に、これらの授業について、「説明に偏らない、実践練習重視の授業」が本当に実践できたかどうかという視点から全体を観察し、その問題点を洗い出す。さらに、このテーマ以外の部分で目に付いた反省点についても、箇条書きにして挙げる。最後に、実習のビデオを見終わった感想と今後の対応について考えられることを述べて、本レポートを締めくくる。

2 授業内容

◎「L2 ちゅうもんする」(ゼロ初級)の1時間目

〈教授内容〉

 ・数字(1〜100,ひとつ、ふたつ〜とお)

 ・これはなんですか?

 ・これ/それ/あれ/どれ

〈練習方法〉

  学生に日本語で何と言うか知りたいものについて、該当の物を指差させながら、「これ(それ/あれ)って(は)にほんごでなんですか?」と質問させる。教師がその質問に答え、これによって表現の定着を図るとともに、日本語のモノの名前を学生に紹介する。

◎「L2 ちゅうもんする」(ゼロ初級)の2時間目

〈教授内容〉

 ・〜と〜

 ・〜ください

 ・カタカナ語(チーズバーガー、ポテト、コーラ etc )の発音

〈練習方法〉

  Johnと店員とのやりとりを記したプリントを配布し、2人ずつのペアを作って、それぞれにJohnと店員の役を割り振る。そしてマクドナルドのメニューを使って、ロールプレイをさせる。役割は交互に交替させる。なお配布したプリントはJohnのパートの一部が空欄になっていて、そこに各自の好きなものが入れられるようになっている。

◎「L4 みちをきく」(ゼロ初級)の1時間目

〈教授内容〉

 ・〜はどこですか?

 ・〜のとなり(まえ/うしろ/みぎ/ひだり/うえ/した)です

 ・ここ/そこ/あそこ

・動詞の導入

〈練習方法〉

  地図を2種類用意し、2人ずつのペアを作って、それぞれに地図を渡す。一方の地図はところどころ場所の名前が空白になっており、もう一方はすべての場所に名前が入っている。空白の地図を持った者は、もう一方の者(すべての場所に名前が入っている地図を持っている者)に「〜はどこですか?」と質問する。「〜」にあたる建物名は、地図の下に語群として与えてある。質問された者は、「〜のとなり(まえ/うしろ/みぎ/ひだり/うえ/した)です」などと答えて、場所を知らせる。一通り終わったら、今度はまた別のプリントを配布して、役割を交替し、同様のことを行わせる。

  動詞の導入については、絵カードを使用し、質問に答えさせることによって記憶させるようにする。

◎「L4 みちをきく」(ゼロ初級)の2時間目

〈教授内容〉

 ・「〜はどこですか?」、「〜のとなり(まえ/うしろ/みぎ/ひだり/うえ/した)です」の復習

 ・〜へいきたいんですが

・〜せんの―ゆきにのってください

 ・〜つめでおりてください

 ・〜で―ゆきにのりかえてください

〈練習方法〉

  地下鉄を各線分離して、それぞれ1本ずつにした路線図を配布し、まず教師がJohnに扮して行きたい場所を指定する。個々の学生は駅員となって、教師の質問に答える。その後、2人ずつのペアを作って学生同士でロールプレイをさせる。

  また「〜はどこですか?」、「〜のとなり(まえ/うしろ/みぎ/ひだり/うえ/した)です」の復習については、日本地図の東日本の部分を用いて、「L4 みちをきく」の1時間目の場所当て練習と同様の要領で、県名を知らせあう練習を行う。

◎「L6 ふちょうをうったえる」(初級)の1時間目

〈教授内容〉

 ・体の各部の名称紹介

・どうしたんですか?

 ・〜がいたいんです

〈練習方法〉

  体の各部の名称については、まず教師が自分の体を指差して質問し、学生に答えさせる。さらに、体の各部の名称が入れられるようになっている絵付きのプリントを配布し、これを埋めさせることによって、記憶をより確実にさせる。次にJohnと田中のやりとりを記したプリントを配布し、学生がJohn、教師が田中に扮して、学生に「〜がいたいんです」という表現を言わせる。その際、「〜」にあたる部分は、教師が自分の体を指差して指定する。その後、2人ずつのペアを作って学生同士でロールプレイをさせる。

◎「L6 ふちょうをうったえる」(初級)の2時間目

〈教授内容〉

 ・体の各部の名称の復習

・症状を描写する表現(ねつがあります/せきがでます/さむけがします/はながつまります/ひふがかゆいです etc )の紹介

〈練習方法〉

  症状を描写する表現については、まず教師がジェスチャーをして質問し、学生に答えさせる。さらに絵カードを用いて、これに答えさせることによって、記憶をより確実にさせる。次にJohnと田中のやりとりを記したプリント(「L6 ふちょうをうったえる」の1時間目に配布したものとは別のプリント)を配布し、学生がJohn、教師が田中に扮して、学生に症状を描写する表現を言わせる。その際、その症状は、教師が絵カードで指定する。その後、2人ずつのペアを作って学生同士でロールプレイをさせる。

3 テーマの達成度

 前節で述べた授業をビデオで見返してみて気づくのは、「実践練習重視」ということを勘違いしてとらえている、ということである。つまり、学生同士でペアワークを多くさせれば、それで「実践練習」を重視しているとはき違えていると思われるのである。そして「説明に偏らない」ということについても、「説明をしない」と同義にとらえている節がある。たとえば、「L2 ちゅうもんする」の2時間目で、「チーズバーガーふたつとポテトのSひとつとコーラのMひとつください」というような表現を覚えさせるにあたって、教科書の訳を読ませただけで意味は分かったものとして、すぐにロールプレイに入ってしまっているが、これは乱暴以外の何物でもない。ここはまず、「チーズバーガー」の後に「ふたつ」がきて、その逆(「ふたつ」の後に「チーズバーガー」がくる)はないということを、きちんと押さえておくべきであった。「説明に偏らない」ということは、決して「説明をしない」ということではなく、ポイントとなる点はしっかり説明し、後は練習によって定着を図るということであったのに、ビデオを見ていると、肝心の点を全く説明しないままペアワークの方に入ってしまっている。

 そしてこの場合、何よりも大事なことは、「― 〜つと― 〜つと― 〜つください」という表現を暗記するぐらいに徹底的に練習させるということであったのに、授業ではこれを全く行っていない。この表現をこそ繰り返し練習して、教科書を見なくても言えるぐらいにさせるということが、本当の意味での「実践練習重視の授業」といえるのに、実際はこの表現を教師の方で言ってしまって学生には全く言わせておらず、そのまますぐにロールプレイをやらせるという、無謀極まりないことをしている。このため学生は、プリントの文字を追うのに必死で、ただ言葉を変えて読んでいるだけ、という状態に陥ってしまっている。

 この授業に限らず、こうした傾向はすべての授業において見られ、たとえば「L4 みちをきく」の2時間目の授業においても、Key expressionを紹介した後すぐさまロールプレイに入っているが、ここはやはり「〜へいきたいんですが」という表現を、まず何はともあれ徹底して練習すべきであった。教師が「本山へ行きたいんですが」、「栄へ行きたいんですが」、「名古屋へ行きたいんですが」と次々と例を挙げて言うよりも、場所を与えて学生に「〜へいきたいんですが」と言わせる方が、よっぽど実践的な練習ができたはずだったのである。この後に行ったロールプレイでは、学生はやはりプリントと首っ引きになってたどたどしい発音で自分のパートを読んでおり、表現が全く定着していない様子がうかがえた。

総じて今回の実習における私の授業の特徴は、基礎練習を全くしないままに応用練習に入ってしまっている、ということになると思う。実践練習=ペアワークという誤った認識が固定観念として頭にこびりついていたため、ペアワークをさせることだけに情熱を注いでおり、その前提となる基礎表現の反復練習という最も大事な部分が、すっぽりと抜け落ちた授業となってしまった。基礎が定着しないままに応用練習をしても全く意味はなく、今から思うとロールプレイをさせるために用意した様々なプリントも「無用の長物」ともいうべきもので、努力が空回りしているとしか言いようがないように思われる。以上のことから考えると、今回の教育実習において、私がテーマとして掲げた「説明に偏らない、実践練習重視の授業」という目標は、残念ながらほとんど達成できなかったという判断を下さざるを得ない。

4 その他の反省点

 ここでは前節で挙げた点以外の問題点について、箇条書きにして述べる。

・やっていることを途中で切って、別のことをやり始める。たとえば、「読みます。聞いてください。」と言って読み始めて、途中で思いついたように説明を始める、などという場面が多々見られたが、こういう場合は最後まで読みきって、その後改めて場所を指摘して説明する、というように改善すべきであると思われる。

・まだ定着していないのに、質問が多すぎる。前の時間に導入したばかりのことについて、次の時間にどんどん質問したりしているが、これは学生にとって酷であった。前の時間に学習したことを質問する時は、まず既習事項を教師が一つ一つ意味を確認しながら一度口に出し、その上で質問をするという手順を踏むのが妥当であると考えられる。

・その場で習ったことをその場で覚えさせて、教科書を見ないで答えさせるという無謀なマネをしている。ここはやはり教科書を見させて、学生に安心感を与えるべきであった。

・練習する意図がよく分からない練習がある。たとえば、「L2 ちゅうもんする」の2時間目で、カタカナ語だけを取り上げて、教師の後についてそれらの語を学生に言わせるという練習を行っているが、最初ビデオを見た時、何のためにこの練習をしたのか自分でもよく分からなかった。よくよく考えてみて、外来語が日本語独自の発音になるということを体感させる意図であったことに思い至ったが、おそらく学生たちは、今自分たちが行っている練習にどういう意味があるのか、わからなかっただろうと思う。練習をさせる時は、その練習をする意図がきちんと学生に伝わらないと、教師に対する不信感が生まれることも考えられるので、気をつけなければならないと思う。

・前節で肝心な点を全く説明していないことを述べたが、一方で、余計な説明に時間を費やしていることがある。たとえば、やはり「L2 ちゅうもんする」の2時間目のことだが、「チーズバーガー」と「ふたつ」の位置関係を説明していないのに、「ポテトのS」とか「コーラのM」といった時の「S」や「M」を、板書までして丁寧に説明したりしている。ここは「S」や「M」よりも、「ポテトの〜」という位置関係の方を説明すべきであった。

・指名する時に手だけで相手を示しているが、きちんと名前を呼ばなければならない。

・時々、指示する内容を言い忘れている。教師が勝手に発音練習を始めてしまって、その後、パラパラと学生たちが後について発音し始める、という場面が結構あった。学生たちが、最初のうちどうしていいか分からず、戸惑っている様子がビデオでよくうかがえた。「Repeat after me」という一言を言うことの重要性を、改めて認識させられた。

・教師の心づもりとしては単なる紹介にすぎないと思った表現でも、導入した以上はきちんと練習する必要がある。「いらっしゃいませ」、「こちらでおめしあがりですか?」、「ごちゅうもんはおきまりですか?」、「〜で―ゆきにのりかえてください」などの表現は、発音練習だけでも繰り返し行うべきであった。

・ひらがなについては、息抜きを兼ねて書く練習をさせたのだが、「実践練習重視」ということを考えると、読む練習をこそさせるべきであった。

・ペアワークをさせると、一方のペアが終わっても、片方のペアがまだ終わらないということがままある。こういう時、終わってしまった方のペアは所在なさそうにしているが、授業では彼らに対するフォローが全くできていなかった。こういう場面まで想定して、授業の準備をすることの必要性を改めて痛感した。

・全体を通じて言えることだが、私には困った時とか戸惑っている時などに笑いを見せる癖がある。また、意味のない笑いをしている時も多い。これは見方によっては、相手を馬鹿にしている笑いと受け取られる危険性がある。誤解を招くこのような行為は、できるだけ慎むよう気をつけなければならない。

・ある意味では、今の私にとっては致し方のないことと言えるが、英語力が不足しているため、指示内容がよく分からないことが多い。何をさせようとしているのか、何を質問しているのかが分からないため、学生たちも戸惑っていることが多々ある。既習事項とジェスチャーで相手に意味の伝達ができるような技術を、早々に身につける必要がある。

・1時間で教える内容が多すぎる。もっと精選すべきであった。

5 まとめ

 今回ほぼ半年ぶりに授業をビデオで振り返ってみて、自分がいかに未熟であったか、改めて愕然とさせられた。途中からだんだんビデオを見るのが辛くなってきて、最後まで見ることが嫌になってしまったぐらいである。こんな授業を受けさせられる羽目になった学生たちはさぞかし不満だっただろうと、今さらながらに学生たちに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。ただ、ほんのごくわずかではあるが、回を重ねるごとに内容が改善されていったように思われるのが、唯一の救いであった(単なる気のせいにすぎないのかもしれないが)。

 ビデオを見返してみて痛感したのは、自分の授業をビデオで撮ることの重要性である。自分の授業を客観的に見るには、第3者から意見を聞くことももちろん重要であるが、ビデオにとってこれを観察することが最も効果的であると感じた。自分の欠点を、有無を言わさず眼前に突きつけるビデオの効能は、今回私が改めて再確認したことの一つである。

 また、ビデオを見るにはある程度時間を置いた方が、より客観的に自分の授業の分析ができるように思った。本レポートにおいては、私自身が抱える様々な問題点の一部を一つ一つ列挙してみたが、実習直後にこれを見ても、あるいは気がつかなかったかもしれないものも多いと考える。半年たって当時の興奮がすっかり冷めて、冷静な心境になった時にビデオを見たことによって、自分自身の欠点をより明確に把握することができたように思われる。その意味で、今後現場復帰した時には折々に自分の授業をビデオにとって、学期が終わるごとに見返して授業改善に役立てることを決意させてくれた今回の報告書は、(辛いことではあったが)やはり私にとっては、大変大きな意味があった。


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