課外アクティヴィティについて

猪飼佳子

0.はじめに

 2003年度814日から22日まで行った夏期の実習では、中上級と初級のクラスを担当した。初級のクラスでは、あらかじめ用意したテキストに基づき、一定の場面で使える日本語を導入していった。具体的には、<自己紹介>、<注文する>、<買い物する>、<道をきく>、<電話する>、<不調を訴える>、<手紙を送る>のテーマ順に、その場面で使う日本語を導入し、会話練習を中心に語彙の定着を図った。このうち、<注文する、買い物する、道をきく、電話する、手紙を送る>で習った日本語を実際に使ってみようと試みたのが、実習の最後に行った課外アクティヴィティである。以下では、課外アクティヴィティをどのように行い、その結果どのような利点・問題点が生じたのかを述べていく。

1.初級の授業内容

 初級では、テキストに基づき以下のような内容で授業を行なった。

1日目→カタカナの確認。Lesson1<自己紹介>(Nです。Nですか。はい、Nです。いいえ、Nじゃありません。〜が好きです。あまり好きじゃありません等)。

2日目→「こそあど」の導入(これ、それ、あれは何ですか。これ、それ、あれは〜です。)。助数詞。数の数え方(110)。Lesson2<注文する>(〜を〜つお願いします)。

3日目→形容詞(Adjです。Adj+N)。Lesson3<買い物する>(Xがあります/ありません。いくらですか。もう少し〜のはありますか等)。Lesson4<道をきく>(〜はどこですか。〜は〜の隣/前です等)。

4日目→〜にあります、〜にいますの練習。疑問詞の復習(何・何時・どこ・誰等)。時間の言い方(〜時〜分です)。Lesson5<電話する>(もしもし。〜ですが。〜(を)お願いします等)。

5日目→Lesson6<不調を訴える>(体の部分。症状を描写する表現。〜が痛いんです。どうしたんですか?大丈夫ですか?等)。

6日目→Lesson7<手紙を送る>(これ、お願いします。〜までいくらですか。〜まで何日かかりますか等)。課外アクティヴィティに必要な日本語の復習。あらかじめ撮影した見本のビデオを見る。課外アクティヴィティに出発。

7日目→課外アクティヴィティのフィードバック。ビデオを見ながら学習者の日本語をチェック。復習ゲーム。

2.見本のビデオ撮影

 課外アクティヴィティを行う際、学習者に見本としてビデオを見せた。これは、実習が始まる前に、実習生があらかじめ課外アクティヴィティで訪れる予定の場所に行き、ビデオ撮影の許可を得てから、もう一度ビデオを回しながら店に入り、実習生とのやり取りをビデオに収めたものである。撮影した場所は、(厳倭躪膣曖嘘の受付け、⇒絞惷鼻↓コンビニ、であった。文系総合館1階の受付では、郵便局への行き方を説明してもらった。この際、郵便局への行き方の説明をしてもらいたいと事前にお願いしておいたが、具体的に使ってほしい日本語については指示をせず、受付の人に任せた。郵便局、コンビニでも、局員(店員)の人が普段使っている日本語のままで対応してもらった。以下に、ビデオの中で代表の実習生が使った日本語、受付の人、局員、店員が使った日本語を文字化したものを記述する。(   )内は、聞き手の発した言葉であり、<   >内は行動を示す。

道をきく(文系総合館1階の受付けで)

 実習生:すみません。(はい)郵便局はどこですか。

 受付け:郵便局ですか・・・。(はい)郵便局は・・・、えっと・・・、そこの前の道に出てください。(はい)その道を右にまわって下さい。(はい)で、まっすぐ行くと、信号がありますから、(はい)えー、そこをわたってください。(はい)で、わたって、左にまがってください。(はい)で、しばらく行くと、郵便局が右側にあります。

 実習生:はい、分かりました。ありがとうございました。

 受付け:いいえ、どういたしまして。

手紙を送る(郵便局で)

 実習生:すみません。

 店員 :いらっしゃいませ。

 実習生:これ、おねがいします。

 店員 :はい。アメリカで・・・。(はい)70円になります。(はい)<実習生がお金をわたす>少々お待ちください。<店員が切手を持ちながら>お貼りしといていいですか。(はい)じゃ、お出ししておきます。

 実習生:はい。おねがいします。

 店員 :ありがとうございました。

買い物する(コンビニで)

 実習生:すみません。(はい)紙皿とテープはありますか。

 店員 :あ、ございますよ。ご案内します。<紙皿のある棚まで実習生を連れて行く>

     こういう紙皿で・・・よろしいですか。

 実習生:はい。カセットテープ・・・ありますか。

 店員 :はい。こちらの方に種類ありますので・・・。(はい)時間的にありますので・・・。(はい)お願いします。

 実習生:はい、ありがとうございました。

 以上のように、場面においてのやりとりを文字化してみると、実習生は、テキストにある日本語しか使用していないが、受付の人、郵便局員、店員はかなり学習者には理解できない日本語を使用していることが分かる。テキストの<道をきく>の場面で、場所の質問に対する答えは、「〜の(となり・前・後ろ・右・左)です。」しか導入しないため、学習者にとって、受付の人の日本語はほぼ理解できないと思われる。郵便局員も謙譲語などを使っているため学習者には理解できない。さらに、店員の日本語は日本人の私たちが聞いても少しおかしな日本語であると感じられる。このように多くの問題のあるビデオを見本として見せることがよかったのかどうかは疑問である。

3.課外アクティヴィティに行く前に

 課外アクティヴィティに出発する前の授業では、<注文する>、<買い物する>、<道をきく>、<電話する>、<手紙を送る>で習った言い方をまとめたプリントを使い、最後の復習を行った。プリントで確認した日本語は以下の通りであった。

注文する

1)Nをお願いします。

2)Nをください。

3)N1N2

4)N(を)ひとつ/ふたつ…

買い物する

1)いくらですか。

2)〜はありますか。

3)もう少し〜のはありますか。

道をきく

 1)〜はどこですか。

 2)〜の(となり・前・後ろ・右・左)です。

 3)〜に行きたいんですが。

電話する

1)もしもし、AETの〜ですが。

2)〜をお願いします。

3)また電話します。

4)あ、すみません。間違えました。

5)失礼します。

手紙を送る

 1)〜までいくらですか。

 2)〜まで、どのくらい(何日)かかりますか。

 以上のように、プリントを見ながらそれぞれの場面での言い方を復習した。この時、初級のクラスでは、誰がどの場面を担当するのかを話し合った。その結果、道をきくのはスティーブンさん、買い物するのはメウィッシュさん、電話するのはサンドラさんに決まった。郵便局で送る手紙は、前の授業で3人全員に書いてもらっていたので、郵便局では3人ともアクティヴィティを行ってもらうことにした。自分の担当する場面が決まってからは、各自自分の使う日本語を一生懸命に暗記していた。

この後、少し時間を割き、ゼロ初級の学習者と合同で、実習生があらかじめ撮影した見本のビデオを見てもらった。見本のビデオでは、実習生の使った日本語のみを確認し、受付の人、郵便局員、コンビニの店員の使った日本語については、質問が出れば答えるという形をとった。しかし、学習者から質問はあまり出なかった。

4.課外アクティヴィティでの様子

 課外アクティヴィティは、撮影できるビデオが1つしかなかったことからも、ゼロ初級と初級の学習者に合同で行ってもらった。以下では、場面によって、初級の学習者3名がどのように会話していたか、ビデオでのやりとりを文字化したものを示す。

道をきく(受付で)

スティーブン:すみません。郵便局はどこですか…。

受付の人  :えっと…。郵便局は…。<地図を出し、現在地を指で指しながら>ここに、いるんですけれども…、ここを出たら、あの…、道路が見えるんですが…、(はい)道路を…、南に…、南…、えっと…、正門まで行ったら…、あの…、大道路、あるんですけども…、その道路をわたって、そして、本山…、本山って言ってもわからないかな…。

スティーブン:あ、分かります。

受付の人  :えっと、<地図をたどりながら>こうやって行って、あの道路があって…、このあたりに、あの、バス停ありますよね…。信号わたって行ったら、バス停行って、ここを通って、ずっと前へ行ったら、この辺に郵便局が見えてくると思います。

スティーブン:はい、ありがとうございます。

受付の人  :はい。

手紙を送る(郵便局で)

メウィッシュ:これ、お願いします。

局員    :はい、70円お願いしますね。(はい?)70円、全部で…。<メウィッシュさんが1000円を渡す>はい、1000円お預かりします。

メウィッシュ:アメリカまで、かりますか。

局員    :うんとねぇ…。1週間ぐらい。1週間ぐらいです。(はい)はい、ありがとうございました。

サンドラ:これ…、あ…。

局員  :70円ですね。70円。

サンドラ:1時間ぐらい、かかりましたか…。

局員  :あ、1週間ぐらい。うん。

サンドラ:お願いします。

局員  :はい、ありがとうございました。

スティーブン:はい、これ、お願いします。

局員    :はい、70円ですね。

スティーブン:70円。(はい)何日かかりますか。

局員    :1週間ぐらい。

スティーブン:1週間…。ありがとうございました。

局員    :はい、ありがとうございました。

買い物する(コンビニで)

メウィッシュ:ペットボトルと、uh…、紙皿はありますか。

店員    :あ、ありますよ。はい。<紙皿の棚まで案内する。紙皿を手に取って>紙皿と…、よろしいですか…。はい…。

メウィッシュ:uh…、ペットボトル?(え?)ペット…、ボトル…は?

店員    :ペットボトル!!えっと、ごめんなさい!!ああ、ドリンクで?(はい)

       <ペットボトルのコーナーまで案内する>こちら、ペットボトルになります。(はい)こちら、ジュース、あと…、スポーツドリンク、ミネラルウォーター…。

メウィッシュ:はい、ありがとうございます。

店員    :はい。

電話する(本山駅で)

サンドラ:もしもし。AETのサンドラですが…。はい…、uh…、大曾先生ですか。はい…。uh…、お…わり…しました。はい。あ…、失礼します。

道をきく場面では、スティーブンさんが受付の人に質問しているが、受付の人の説明はかなり複雑だったため、聞いても分からないようであった。しかし、地図を見ながらの説明であったため、場所は理解できたようであった。郵便局では、学習者の日本語が正しく発話されていないが、局員の人が何を言っているか予想して答えているという感じであった。コンビニでは、メウィッシュさんの発音が英語的であるため、店員が理解できない場面もあったが、メウィッシュさんが何度も言いなおしていたのでとてもよかったのではないかと思われる。サンドラさんは、電話をかけるために一生懸命発話練習をしていたので、スムーズに言うことができていたのではないだろうか。

5.利点について

() 実習が始まる前に見本のビデオをあらかじめ撮影したことの利点

  見本のビデオ撮影に行ったので、あらかじめ課外アクティヴィティで行く場所の下見をすることができ、当日のビデオ撮影の許可もいただくことができた。もし、アクティヴィティ当日、急にビデオを持ってお店などに押しかけていたら、ビデオ撮影を許可してもらえなかったかもしれないため、事前に撮影して正解だったと思われる。

 見本のビデオ撮影に行く前は、課外アクティヴィティのコースを、<受付→郵便局→モスバーガー→コンビニ→本山駅>にしようと計画していた。しかし、実際、ビデオ撮影を始めると、ビデオ撮影が許されない場所が出てきた。モスバーガーでは、店長の許可が下りるまで撮影を許可することができないと言われた。その後、2、3度電話で交渉したが、やはり許可が下りなかった。このように、ビデオ撮影の許可が得られない店などを把握することができたのもよかった。

() 課外アクティヴィティに行く前に、ビデオを見せたことの利点

  直前にビデオを見せることによって、学習者にこれから行く場所の予習をさせることができた。学習者も、今から自分達が行く場所に興味を示し、アクティヴィティに対するモチベーションが高まったようだった。さらに、自分達の先生がビデオに出てくるので、かなり楽しそうにビデオを見ていた。

  ビデオの中には、郵便局の前にある郵便ポストやコンビニの前にあるジュース・たばこの自動販売機など、周囲にある物も撮影してあったため、ビデオを見ながら学習者に用途などを説明することができた。視覚的に見えるので、学習者も分かりやすいようだった。

() 課外アクティヴィティを行ったことの利点

  授業で習った日本語を実際使わせてみることによって、学習者には達成感を与えることができた。最終日に近づくにつれ、クラスの授業では、学習者に少し疲労が見受けられていたが、いつもの授業とは違った課外アクティヴィティでは、学習者全員が生き生きと楽しそうに日本語を覚えようとしていた。途中から、ビデオ撮影も学習者に任せたが、実習生の知らないうちに、習った日本語を使って先生にメッセージを伝える場面なども撮影してあり、楽しみながら学習するという点では、このアクティヴィティを行ってよかったのではないかと思う。

6.問題点

() 見本のビデオの問題点

  見本のビデオでは、課外アクティヴィティ当日も同じ方が対応してくださるとは限らないため、あらかじめ使ってもらいたい日本語を決めておくことができなかった。

  よって、撮影終了後に学習者の理解できない日本語がほとんどで、日本語としておかしな表現もあるビデオになってしまったが、もう一度撮りなおすことはできなかった。

() 課外アクティヴィティに行く前に、見本ビデオを見せた際の問題点

  受付の人や郵便局員、コンビニの店員の話す日本語のほとんどが、まだ未習であったため、実習生の使った日本語の確認のみにとどまってしまった。よって、相手に対する質問の意味は理解できたが、それに対する答えが理解できない状態になってしまった。それに対し学習者から質問は出なかったが、多くが理解できない日本語だったため、質問したくてもできなかったのではないかと思われる。

() 課外アクティヴィティを行なった際の問題点

  当日の受付の方が韓国からの留学生であったため、道の説明の際の日本語が少し長く、難しすぎたようだった。地図を見ていなければ学習者は全く理解できなかったと思われる。郵便局では、学習者全員が同じ質問をしたので、学習者が質問を正しく言い終える前に、局員の方が答えてしまっていた。習った日本語を実際使ってみるために行なったアクティヴィティだが、学習者の発話がかなり少なくなってしまった。

() フィードバックの問題点

  課外アクティヴィティの翌日に、当日のビデオを見ながら学習者の日本語を確認したが、ビデオの騒音がひどく、学習者の音声がかなり聞き取りにくかった。よって、学習者自身もビデオから自分が何と言っているのかを聞き取ることができなかったため、アクティヴィティへ行った時の感想を述べるにとどまってしまった。ビデオを撮影したにもかかわらず、ビデオを生かすことができなかった。

7.まとめ

   ゼロ初級と初級のクラスでは、授業で習ったことを実際に使ってみようと課外アクティヴィティを行なった。学習者が楽しみながら日本語を覚えようとする点では、有効であったと思われる。しかし、実際の日本語の場では、ゼロ初級と初級の学習者にとっては難しすぎる日本語が多く、学習者の自信を失わせてしまう危険性もあることがよく分かった。さらに、ビデオの騒音により、フィードバックがほとんどできなかったため、アクティヴィティを通して、学習者に新しい疑問や問題点に気付いてもらうまでには至らなかった。今後、課外アクティヴィティを行なう際には、以上の点を参考とし、アクティヴィティ後のフィードバックもきちんと行えるように対応しなくてはならないことが分かった。


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