入門クラスでのCALL教材利用の試み−パワーポイントの可能性−

寺島佳子

 

1.はじめに
 近年,CALL(Computer Assisted language Learning)という言葉をよく耳にするように,教育現場にコンピューターを導入することがかなり多くなっている。コンピューターを利用することにより,教師はさらに効果的な指導を考えることができ,学習者は教室外でも納得がいくまで勉強することができるのである。ほかにもさまざまな利用方法が存在するだろう。
本レポートでは2002年度夏季AET教育実習においてパワーポイントを使用したその詳細を述べ,日本語教育におけるCALL利用の可能性について考える。

2.2002年度名古屋大学夏季AET教育実習入門クラスの概要
 この実習は,名古屋に派遣されるAETを対象に短期間で集中的に行われる日本語学習プログラムである。本年度は入門・初級・中級の3クラスを開設し,それぞれ担当者3名・2名・2名でクラスの運営を行った。うち,筆者は日本語学習経験がゼロかそれに近い学習者の入る入門クラスを担当した。入門クラスの学習者の属性は次のとおりであった。

表1 入門クラスの学習者

学習者 国籍 性別 生年 学習歴 来日経験
A 英国 M 1975   なし
B 英国 M 1979   なし
C 英国 M 1978 1996年9月〜97年7月(1,2時間/週) なし
D アメリカ M 1974   なし
E アメリカ F 1979 約2週間 なし
F アメリカ M 1973   あり
G

アメリカ

F 1978   なし
H アメリカ M 1971   なし

 

 これらの学習者を対象に授業を行うにあたり,入門クラスの実習生でミーティングを行い,テキストを改訂しシラバスを立てた。学習者が初めて日本語を学習することや2週間弱の集中クラスということを考え,「日本語を学ぶことを楽しいと感じられるコース,日本や日本語に興味を持ってもらえるコース」という基本的なスタンスを決めた。そのため,媒介語の使用を認めたりローマ字表記にするなど,学習者の負担をなるべく少なくするように心がけた。
 授業は一人が1日3コマの担当とし,ほかの2名はビデオ録画と授業担当実習生のサポートにあたった。学習者の要望にこたえ急遽授業に取り入れたものも含め,実際に行った授業の項目は次のようなものであった。

表2 入門クラス日程表

 

 

    1  

    2

     3

 

 

9:3010:20

 10:3011:20

   11:3012:20

15

オリエンテーション/ひらがな

自己紹介

WELCOME PARTY

16

注文する

注文する

/アクティビティ

19

買い物をする

買い物をする

買い物をする

20

道を聞く

道を聞く

時間/動詞の活用

21

手紙を送る

手紙を送る

/アクティビティ

22

体の不調を訴える

体の不調を訴える

復習/漢字

23

アクティビティ

アクティビティ

FAREWELL PARTY

3.パワーポイントの利用
 パワーポイントとはもともとプレゼンテーション用のソフトであるが,その「相手に効果的に伝える」という機能を利用することで,日本語がわからない学習者によりわかりやすく日本語を提示することができるのではないかと考えた。また,教師が話し続けたり口頭のドリルをするばかりではなく,視覚にうったえ意識を向けることも重要であり,授業にメリハリをつけるためにもこのソフトを利用するのは効果的ではないかと考え,利用することにした。
筆者は初日と4日目を担当したが,両日ともパワーポイントを使用した授業を行った。その詳細を次に記す。

3.1.8月15日2コマ目:教室用語
 この時間の授業では教師が使う教室用語と,学習者が使う教室用語をわけて導入・練習した。パワーポイントは後者の提示と練習に使用した。その部分の流れを以下にまとめ,パワーポイントの作成方法と使用した感想を述べる。

1)導入
・2名の実習生に日本語で教室用語の指示を出し,そのとおりに行動してもらった。学習者には何を勉強するのかを推測させた。
・実習生に指示した教室用語をもう一度言いながら学習者に意味を聞き,確認を行った。

2)提示・口頭練習(1)
・パワーポイントを使用。まず英語を出し,次にひらがな,ローマ字の順に提示。口頭練習を行った。(図1参照)

 

 

 

Slowly, please

 

 

Slowly, please

ゆっくり おねがいします。

 

 

Slowly, please

ゆっくり おねがいします。

 Yukkuri onegaishimasu.

 

 

 

    (1)英語  

 

      (2)ひらがな    

 

    (3)ローマ字

 

 

図1 教室用語パワーポイント画面

・ひとつの画面に英語・ひらがな・ローマ字を書いておき((3)番目の画面)それぞれに「アニメーション」と呼ばれる動きをつけ,順番に画面に移るようにする。クリックするかenterキー,矢印キーなどで次の動作を行うことができる。
・ここでひらがなとローマ字の両方を使用したのは,基本的にはローマ字で読めればかわないが,1コマ目でひらがなをひととおり紹介しており,ひらがなを見る機会を増やすためであった。ローマ字を提示せず,前時に学習したひらがなを読ませてみるということも行った。
・このほかには「すみません」「もういちどおねがいします」「〜ってなんですか」「〜ってにほんごでなんですか」「はい/いいえ」「わかりません」の全部で7種類の用語を練習した。

3)口頭練習(2)
・パワーポイントを使用。英語を1文ずつ見せ,日本語を言ってもらった(図2参照)。全体で練習し,次に一人ずつを指名,再び全体で言うという形をとった。

 

 

 Again, please

 

 

 Slowly, please

 

 

 

 

 Excuse me, but...

 

 

・・・ 続く

 

図2 教室用語口頭練習用パワーポイント画面

・先ほどと同じく,ひとつの画面に7文を書き,1文ずつに次の文が提示されたら消える,というアニメーション機能をつけた。順番を変えた画面をもうひとつ作成した。
・まずは順番に提示し,その後,矢印キーの↑で前の文に戻るなどして練習した。いったん作成した順番はそのままであるため,自由に提出順序を決められないのが難点だが,実際に「フラッシュ」するため,フラッシュカードを使うよりも画面に集中していたように思われる。また,ひとつのキーを押すだけであるため操作は非常に簡単であった。

3.2.8月15日2コマ目:自己紹介
1)導入
・実習生がまず自己紹介をした。そのとき,「〜からきました」の文は地図を見せて指差しながら言うことで,説明がなくても学習者は理解できる。そのため,日本の地図をパワーポイントで画面に出した。本物の日本地図は細かすぎたり,十分に大きくなかったりするが,インターネットで適した画像を探して利用することでよりわかりやすいものになった。

2)練習
・学習者に自己紹介してもらった。今回はアメリカとイギリス出身者のみで,国だけではおもしろくないため,「イギリスのマンチェスターからきました」のように,都市名も練習させることにした。
・都市もわかるような各国の本物の地図を探したり手で描いたりするのは難しいし時間もかかるが,これもインターネットで適切な地図画像を探して貼り付け,パワーポイントで映し出すことでより簡単にわかりやすいものができるようになった(図3参照)。

イギリスの地図
図3 自己紹介用地図

・学習者がリラックスできるように雑談をするときにもこの地図は有効に活用することができた。

3.3.8月20日1コマ目:道を聞く
 この項目では,ダイアローグを推測させるためにイラストや写真をはりつけたパワーポイントを利用した。ダイアローグは次のとおりである。

A:すみません。
B:はい。.
A:ゆうびんきょくは どこですか。
B:ゆうびんきょく ですか? 
A:はい。            
B:ああ,あそこです。
A:え?
B:あそこです。 ぎんこうの となりですよ。       
A:ああ,あそこ ですね。ありがとうございます。
B:いいえ。

 ビデオのように場面がイメージしやすく,ビデオよりも作成に時間がかからないという利点がある。パワーポイントを使用した場面の流れと使用方法をまとめる。

1)導入
・学習者の前で手紙を書き,封筒に入れる。
・どのような会話か推測するように指示した後,実習生2名で会話をした。
・次にパワーポイントで画像を見せながらもう一度実演し,意味の確認をした(図4参照)。

    

 

 

☆銀行の写真

郵便局の看板が見える

 ginkoo

 

 

☆銀行の写真

郵便局の看板が見える

 ginkoo       

(矢印が出る)

 

 

☆郵便局の写真

 

 yuubinkyoku

 

 

・・・続く

                      

 

(1)「銀行の・・・」

 

 (2)「となりですよ」

 

 


図4 道きき会話導入用の画面例(詳細は資料に載せた)

・写真を見せることで単語の導入が要らなくなり,また「となりです」という概念も説明をそれほど必要とせずに理解させることができた。

2)練習
・図4の写真の下部にダイアローグを提示し,リピート練習をした。文字を見せずにリピートさせるだけでもじゅうぶんだったかもしれない。
・ダイアローグのみを画面に提示し,AとBの役に分かれて練習。その後,会話の最初の文字だけを見せて口頭練習を行った(図5参照)。

 

 

 

 

 

 

A:すみません。

  Sumimasen.

B:はい。

  Hai.

A:ゆうびんきょくは どこですか。

  Yuubinkyoku wa   dokodesu ka?

B:ゆうびんきょく ですか?

    Yuubinkyoku     desu ka?

     

       :

 

A:す    

    Su        .

B:はい。

    Hai.

A:      は ど    

                wa  do        ?

B:            ですか?

                desu ka?

               

         

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                     

 

       (1)全文提示            

 

         (2)部分提示

 

 

図5 道きき口頭練習用画面

・ダイアローグをハンドアウトなどにして配ると(2)の練習ができず,さらに学習者は紙を見て話しがちになるが,画面を見せることで前を見ながら練習させることができた。ホワイトボードなどにダイアローグを書いた場合は会話の一部分を消せば(2)の練習をすることは可能だが,元に戻すためには再び書かなければならないため時間がかかってしまう。

3.4.8月20日2コマ目:道聞き−地下鉄に乗る−
1)導入
・学習者が実際に使用すると思われる,市営地下鉄の路線図を見せて新しい文型を 導入した。
・実際の路線図を見せて,学習者の知っている駅を一つ,二つ,と数えることがで きた。
・大きい画面に表示することで見やすくなっていたが,入門クラスの学習者には難 しいぶんけいだったため,路線を少なくすると良かった。
2)口頭練習
・1コマ目に使用したのと同じように,ダイアローグの全文を表示したものと,文頭だけ表示したものを見せて,口頭練習を行った。

4. 学習者の反応
 パワーポイントのみではなく,絵カード,フラッシュカードなども使用したが,大きい画面で提示したほうが分かりやすいようだった。また,授業の中で色々な活動があると集中力が持続するようだった。パワーポイントはインパクトがあるのか,「授業で今まで見たことのないもの」を使用すると興味をひかれるようだった。
 それまで教科書やノートを見ていた学習者も,パワーポイントの画面をスクリーンにうつすと自然と前を向いていた。
 自分の国の地図が詳細に大きく提示されたときは嬉しそうだった。周りの人との話ももりあがっていたようだ。
 イラストや写真を見せるだけではなくそれらを組み合わせて流れを作り,ビデオのように提示することで,新出語彙・文型の理解がしやすかったようだ。一通り見た後,「確認する」形で学習者から質問が出ていた。その数が使用しないときよりも多かった。
 口頭練習では,ダイアローグを全文提示したときは「読んでいる」人もいたが,文頭だけ提示したときには記憶して「言っている」人が多かった。分からないときにはまえに戻ってほしい,という質問が出た。これはすぐ前に戻れるため,言いやすかったのだと思われる。

5. まとめ
 今回実際に授業でパワーポイントを使用してみて,予想以上に使いやすく,応用範囲が広そうであるということがわかった。パワーポイントと,インターネットでダウンロードしたイラストや写真を組み合わせ,さらに画面に書き込むことでその授業や学習者にあったオリジナルの教材を比較的容易に作成することができることが,最大の利点であるといえる。また,紙に書いたものと違って書き直したりすることが容易であり,授業中にもできることも長所である。特に入門の学習者には「面白い」「わかりやすい」教材を使用することで,「推測する」ということをしやすくできるように思われる。
 ただし,不必要な場面にも使用してしまったようにも思っている。逆にわかりにくくなったり,時間の無駄になってしまわないよう,教案をしっかり立て,適切な場面で使用することが重要であるだろう。

参考ホームページ
http://homepage1.nifty.com/netsuma/workshop/comp/
http://202.245.103.49/kenshu/Goi/CALL.html

 

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