4.2 初級

4.2.1 学習者

 今年度の初級クラスの学習者は以下の通りである。

学習者

国籍

性別

学習歴

来日経験

備考

US

2000年9月〜12月(5時間/週)

3週間

東アジア研究

US

1999年〜2000年(3時間/週)+7週間

7週間

名外大で2ヶ月間研修

AU

2000年2月〜11月(5時間/週)

15ヶ月

日本人の妻あり

 Eメールによる事前アンケート(6月末)と、来日後、教育館で行ったインタビュー(8月8日)によって、上記の3名に決定した。事前アンケートの段階では、学習者Cは、15ヶ月の日本滞在経験から中級クラスが適切ではないかと考えていたが、インタビューの結果、初級クラスが妥当であると最終的に判断した。また、今年は実習の前にインタビューをすることができたので、ある程度学習者の日本語能力とニーズを把握することができた。初級クラスは、入門と中級の中間であるため、クラス分けの際、学習者のレベルの判断を慎重に行った。事前アンケートの段階で初級クラスの予定だった学習者が、インタビュー実施後の判断により、入門または中級に移動したケースもあった。その結果、実習期間中に学習者のクラス移動もなく、最終日まで行うことができた。
 学習者Aは、特に日本文化や日本の歴史に興味があり、文法はやや弱いが、わからなくなるとすぐに質問し、何とか解決しようとしていた。日本語の知識はあっても、会話でなかなか生かせないタイプのようだった。学習者Bは、文法の復習や漢字の勉強をしたいというニーズがあり、授業中も漢字を使ってほしいという要望を言っていた。アクティビティーの書道にも強い興味を示していた。学習者Cは、語彙が豊富で、日本語で会話することにも慣れているようだったが、文法でときどき引っかかることがあった。

4.2.2 実習者及びシラバス

 初級は川上尚恵と萩原由貴子の2名で担当した。授業は、奇数課を川上が、偶数課を萩原がそれぞれ担当した。短期間のコースであるため、日常生活や仕事の場面で使える会話を中心に授業で扱った。また、ビデオ、インターネット、レアリアなど、使える教材は大いに利用するよう心がけた。
  初級クラスのシラバスは以下の通り。

 

 

1(9:30〜10:20)

2(10:30〜11:20)

3(11:30〜12:20)

15

 

Thu

オリエンテーション

(萩原・川上)

L1自己紹介(1)

(川上)

ウェルカムパーティー

(全体)

16

Fri

L1自己紹介(2)

(川上) 

L2注文する(1)

(萩原)

L2注文する(2)

(萩原)

19

Mon

L3買い物する(1)

(川上)

L3買い物する(2)

(川上) 

L4道を聞く(1)

(萩原) 

20

Tue

L4道を聞く(2)

(萩原)

L5電話する(1)

(川上)

L5電話する(2)

(川上)

21

Wed

L6不調を訴える(1)

(萩原)

L6不調を訴える(2)

(萩原)

L7手紙を書く(1)

(川上)

22

Thu

L7手紙を書く(2)

(川上)

L8またあした(1)

(萩原)

L8またあした(2)

(萩原)

23

Fri

アクティビティー

(全体)

アクティビティー

(全体)

フェアウェルパーティー

(全体)

4.2.3 授業内容・担当実習生の反省

第1日目(8月15日)
1時間目:オリエンテーション、教室用語、L1自己紹介
内容:カタカナ「NのNです」「〜からきました」「〜にきょうみがあります」
反省点:思ったより学習者のレベルが高くて、次の時間に予定していた項目までやった。自己紹介はなれているようだった。ひらがなはできるようだったので、プリントでカタカナの練習をしたが、英語と違った発音の表記は難しそうだった。

2時間目:L1自己紹介の続き、他己紹介
内容:「〜と申します」「お国は」「好きです/好きじゃありません」
反省点:自己紹介はほとんどできたので、次の時間のウェルカムパーティで実際に行う自己紹介の練習と、他己紹介を練習した。ほとんど前の時間の項目と同じだったので、簡単すぎて飽きていたようだった。

第2日目(8月16日)
1時間目:L1自己紹介
内容:「好きです/好きじゃありません」「〜たことがありますか」
反省点: Lesson1の自己紹介は簡単なので、初対面の人との会話でよくでてくる「〜たことがありますか」の練習を行ってみた。動詞の辞書形、過去形はできるようだった。「〜たことがありますか」のダイアログが簡単すぎた。レベルの把握が難しい。

2時間目:L2注文する
内容:これ、それ、あれ、オーダーの練習(Nをお願いします、Nをください)
反省点:こ・そ・あはわかっている様子だった。ダイアログも簡単だったよう。 ただ、聞いてわかっても、実際使えないことが多いので、もっと会話練習させるべきだった。

3時間目:L2注文する
内容:ひとつ、ふたつ・・・、この、その、あの、お箸でゲーム
反省点:前の時間にこ・そ・あをやって、わかるようだったので、急遽、この・その・あを導入してみたが、うまく導入できず、結局学習者を混乱させてしまった。
2限目に紹介したものを使って、話を広げようとしたが、自分からは言葉が出てこない様子だった。わかっているのか、わかっていないのかわからなかった。
お箸の使い方は、全員OK。ゲームは盛り上がった。

第3日目(8月19日)
1時間目:L3買い物
内容:Question words、い−adjective(辞書形と過去形)
反省点:前回までの授業の様子で、Question wordsができないようだったので、復習した。学習者が一人休みで二人だけだったが、旅行のはなしでもりあがった。レベル的にはちょうどよかった。

2時間目:L3買い物
内容:い−adjective(色)、着脱の動詞(はく、着る、かぶる、かける)「V−みてもいいですか」
反省点:学習者の一人が色盲だったことを知らずにタスクでぬりえを行ってしまったが、他の学習者が助けてくれて、スムーズに行えた。テキストのダイアログは簡単なようだった。

3時間目:L4道を聞く
内容:Nはどこですか、Nのとなりです、
まっすぐ行ってください、右・左に曲がってください
反省点:地図を見せ「Nはどこですか」の答えで「右・左・前・後ろ」が出てしまい、それも授業で扱ったので、1時間の量としては多くなってしまった。語彙があっても、使いきれていない感じがするので、もっと会話練習を増やしたい。

第4日目(8月20日)
1時間目:L4道を聞く(2)(萩原)
内容:地下鉄の路線の尋ね方、インターネットで名古屋の名所や有名なお店を調べる
反省点:地下鉄のことは、普段利用しているので路線図の見方はわかっているようだった。
インターネットを利用して、営業時間や休業日を調べたが、日本語入力は初めてだったようで、戸惑っている様子だった。

2時間目:L5電話する
内容:「います」、電話での表現、104に電話する
反省点:電話での場面を提示するためにビデオを使ったが、電話の表現以外の所に学習者の目がいってしまい、うまく展開していかなかった。実際に104に電話して、電話番号をきくタスクは、とても楽しんでやっていた。しかし、逆に嫌がっていた人もいて、学習者の特徴を考えて、順番を最後にしたり、表現を細かく教えたりすればよかった。

3時間目:L5電話する
内容:「いらっしゃる」「お〜なる」「お〜する」期間の表現(〜日間、〜時間)
反省点:学習者の一人は、敬語で苦労していたが、学習したことはあるようだった。あとの二人は大体できていた。3時間目ということもあって、学習者の疲れがめだった。聞く練習が多かったので、話す練習をもっと取り入れて、学習者に実際に発話させて、授業を活発にすればよかった。

第5日目(8月21日)
1時間目:L6不調を訴える
内容:どうしたんですか、〜んです、〜たほうがいいですよ
反省点:文法はOK。「風邪をひく」「ねつがある」「気分が悪い」等の表現は初めて知った、という様子だった(Aさん、Bさん)。プリントBの問題は難しいので、扱わないほうがよかった。

2時間目:L6不調を訴える
内容:〜ないほうがいいですよ、すみません(excuse me、Tam sorry、thank you)
反省点:「すみません」の意味は大体わかっているようだったが、「ありがとう」の意味での使い方を新しく覚えた。

3時間目:L7手紙を送る
内容:「〜たい/〜たくない」「もし〜たら」、手紙を書く
反省点:時間配分が悪かった。「〜たい」が意外にわからなかったので時間をとってしまい、手紙を最後まで書くことができなかった。「もし宝くじが当たったらなにがしたいですか」という話題では、説明が足りず、発展していかなかった。

第6日目(8月22日)
1時間目:L7手紙を送る
内容:手紙を書く、パーティの出し物について相談、日本の校則
反省点:昨日の続きで手紙を書いたが、昨日休んでいた学習者は途中から参加する形になったので、ほとんど書くことができなかった。その人に対するケアが必要だった。日本の校則についても、教材を作ってあったのに時間が足りなかったので使うことができず、ただ校則について話しただけだった。

2時間目:L8またあした
内容:Vませんか、S1のでS2(プリント)
反省点:「Vませんか」はOK。「S1のでS2」は、はじめCさんがわかっていなかったが、練習しているうちにわかった様子。
idカフェやシューターズはよく知っているらしく、その話題で盛り上がった。

3時間目:L8またあした
内容:疑問詞の復習、インタビューゲーム(カード)、形容詞(い・な)を使った文の練習
反省点:すべて話すタスクだったので、よくしゃべった(学習者も教師も)。
会話だけで盛り上がったのはよかった。
教師の指示の出し方がもっとよければ、もっとスムーズだったかもしれない。

4.2.4 授業後アンケートの結果

<8月15日2時間目:自己紹介(1)/8月16日1時間目:自己紹介(2)>
・役に立った:A, B, B・・・2.3
・理解できた:A,A,A・・・3
・楽しかった:A,B,B・・・2.3
・コメント:カタカナの練習はよかった。会話は簡単だったが、復習にちょうどよかった。


<8月16日2時間目:注文する(1)/8月16日3時間目:注文する(2)>
・役に立った:A, B,A・・・2.6
・理解できた:A, A, B・・・2.6
・楽しかった:A, B,B・・・2.3
・ コメント:よい先生ですが、ポイントごとに繰り返しが多い。もっとスピードをあげて。ゲームは楽しかった。もっと漢字をやりたい。


<8月19日1時間目:買い物(1)/8月19日2時間目:買い物(2)>
・役に立った:A, A, B・・・2.6
・理解できた:A, A, B・・・2.6
・楽しかった:A, B, B・・・2.3
・コメント: とても役に立つ。漢字をたくさん教えてくれてありがとう。課が簡単。


<8月19日3時間目:道を聞く(1)/8月20日1時間目:道を聞く(2)>
・役に立った:B, B, A,・・・2.3
・理解できた:B, B, A,・・・2.3
・楽しかった:B, B, A,・・・2.3
・コメント: とても役に立つ。敬語の動詞のリストが欲しい。実際に電話をかける練習は、役に立つ。


<8月20日2時間目:電話する(1)/8月20日3時間目:電話する(2)>
・役に立った:B, C,・・・1.5
・理解できた:B, C,・・・1.5
・楽しかった:B, C,・・・1.5
・コメント:とても役に立つ。


<8月21日1時間目:不調をうったえる(1)/8月21日2時間目:不調をうったえる(2)>
・役に立った:A, A, ・・・3
・理解できた:A, A, ・・・3
・楽しかった:A, A, ・・・3
・コメント: 体調をうったえる練習がよかった。新しい語彙がよかった。


<8月21日3時間目:手紙を送る(1)/8月22日1時間目:手紙をおくる(2)>
・役に立った:A, A, C,・・・2.3
・理解できた:A, A, C,・・・2.3
・楽しかった:A, A, C,・・・2.3
・コメント: 手紙を書く練習は、とても役に立つ。


<8月22日2時間目:またあした(1)/8月22日3時間目:またあした(2)>
・役に立った:A, A, A,・・・3
・理解できた:A, A, A,・・・3
・楽しかった:A, A, A,・・・3
・コメント: とてもよいゲームとアクティビティだった。

4.2.5 全体を通しての反省

 実習が始まる前段階において、初級用テキストのシラバスをもとに、授業の計画を立てた。初級クラスでは、学習者のレベルの差があることを予め想定していたので、授業を進めていきながら進度や内容を調節し、初日から最終日にかけて、徐々に難しい文法項目や語彙、長い会話文、複雑なタスクを学習者に提示していく方針をとった。実習中は、自分が担当しない授業にも毎回アシスタントとして参加し、常に学習者と接して、レベルを把握するよう心がけ、授業後には反省会を開き、次の授業の課題を話し合った。しかし、学習者が理解できる語彙や文法の量は一人一人異なり、しかもテキストの提示順になっているわけではないので、何がわかって何がわからならないのかを把握することが大変であると改めて実感した。例えば、よく使う疑問詞が定着していないにもかかわらず、「Vたことがある」「Nが〜んです」「Vたほうがいいです」など、やや難しいと思われる文型が案外定着していたりすることもある。今回のような短期間の日本語コースにおいて、必要最低限の場面における日本語の会話を身につけてもらうためには、学習者のレベルと性格を早い段階でつかみ、数回しかない授業に生かしていく必要がある。実際には、予定していたシラバス通りに授業が進まない場合が多々あり、最終的にはシラバスに従うより、普段よく使う便利な文型、当初予定していなかったがすぐに理解できそうな文型を、随時取り入れていった。
 実習を通して、日本語のレベル差のあるクラスを運営していく事の難しさを知り、同時にいくつかの解決策も学ぶことができた。また、授業の前に入念に計画を立てたにもかかわらず、うまくいかないことが実に多い。初級レベルはこの程度であろう、と一方的な思い込みをしていては、実際の授業で対応できない場面が出てきてしまう。今後は、この経験を生かし、学習者のレベル差及び教師の指示の出し方について、より柔軟な対応ができるよう心がけたいと思う。

 

 目次

 4.実施

 4.1 入門

 4.3 中級