2. ゼロ初級(クラス1

 

2.1 学習者

 ゼロ初級クラスは、コース開始日は4名であったが、1名初級クラスに移ることになり3日目以降は3名となった。

 3日目以降の学習者3名の国・性別・学習歴は以下の通りである。

 

学習者A(アメリカ・男)

 7ヶ月前に3ヶ月間(週5回)、大学で日本語の授業を受けている(教科書は“ yookoso”“An invitation to comtemporary Japanese”を使用)。来日経験はない。アンケートでは、ひらがな・かたかな共に読め、また漢字の知識は100字以内、日本語のレベルは挨拶と簡単な会話ができる程度であると答えた。当初、初級クラスに振り分けていたが、本人がコース初日のひらがなの授業を希望したため、しばらくゼロ初級クラスで様子を見ることにした。本人の希望や授業での理解度を見ながら、結局最後までこのクラスで学習することになった。

 

学習者B(カナダ・男)

 日本語学習歴も来日経験もない。日本語学習に意欲を見せていた。

 

学習者C(カナダ・男)

 日本語学習歴も来日経験もない。今回のコースで簡単な会話の始め方など、基本的な会話を身に付けることを希望していた。

 

2.2 担当実習生

 ゼロ初級クラスはf地と谷が担任となった。ゼロ初級者用テキスト『ともだち』の偶数課をf地が、奇数課を谷が担当した。当初、各課2コマ(50分×2)の授業を行うように計画を立てていたが、実際に授業に入ると計画通りには行かず多少変更があった。

 コース初日の最初の授業(他クラス学習者のインタービューテスト実施時間中)で、大曽先生にひらがなの授業をしていただいた。

 

2.3 シラバス

2.3.1 学習目的

 今回のコースは極めて短い期間であり、またはじめて日本語を勉強する学習者を対象としているため、ごく限られた内容しか教えることができない。日本での生活の中で実際に必要と思われる場面や表現を取り上げ、細かい文法の理解よりも1つでも多くの表現を覚えて使えるようになることを目的とした。

 

2.3.2 教科書

 前年度のテキスト『ひまわり』を基に内容の改訂を行い作成した、ゼロ初級者用のテキスト『ともだち』を使用した。改訂の際には、事前アンケートの結果などをふまえ、実際に遭遇する場面、日常生活において必要とされる表現を取り入れようと、大幅に内容の改訂を行った。ダイアログと語彙表はひらがなとローマ字で書き、英訳をつけた。文法説明は英語で行っている。

 

2.4.3 カリキュラム

実施日

時限

場面

学習項目

担当者

8/15

()

2

 

 

ひらがな

大曽先生

3

 

L.1

 

じこしょうかい

Nです、NN、教室用語、

あいさつ、Nですか、はい、

Nです/いいえ、Nじゃありません

 

8/16

()

1

2

 

L.2

 

ちゅうもんする

これ/それ/あれ、Nおねがい

します、Nください、NN

ひとつ…いつつ

f地

 

3

8/17

()

1

 

L.3

 

かいものする

数字、お金(いくらですか)、

イ形容詞、あります/ありませ

 

2

3

L.4

 

みちをきく

ここ/そこ/あそこ/どこ、

〜はどこですか、動詞、

名古屋地下鉄

f

 

8/20

()

1

2

3

L.5

 

でんわする

〜に〜がいます/いません、時

間、何時ですか、何時に〜

 

8/21

()

1

2

L.6

ふちょうを

  うったえる

体の名前、ナ形容詞、〜んです

f地

*台風のため、8/21()3限と、8/22()の授業は休講。

 

2.5 反省

2.5.1 各課の授業について

Lesson1 じこしょうかい(谷)

@学習項目:Nです、NN

 すぐ後のウェルカムパーティーでダイアログの表現を使って実際に自己紹介ができるように、表現を覚えて言えるようにすることを目標にした。しかし、学習歴のない2名が何も見ないで完全に言えるようになるまで繰り返し練習することができなかった。最初から「NNです」の形で導入していた方が後々混乱しなくて良いと思う。

A学習項目:教室用語、あいさつ、Nですか、はい、Nです/いいえ、Nじゃありません

 時間の都合上、教室用語は2時間目に行ったが最初に行った方が良い。また、教師の指示を理解し今後の授業を円滑に行うためにも、確実に理解するまでもっと時間を取るべきだった。キューの出し方が悪く、何をすればいいのか学習者に伝わらなかった。

 

Lesson2 ちゅうもんする(f地)

@学習項目:これ/それ/あれ、Nおねがいします、飲食物の語彙

 こそあどの導入があいまいだった。飲食物の語彙は、テキストに記載されていたが、それをうまく活用できなかった。

A学習項目:Nください、NN、ひとつ…いつつ

 実際のマクドナルドの注文表で練習し、最終的にダイアログの表現を使って、ロールプレイを行った。やはり実際の生活場面でも使うことが多いようで、好評だった。11個の練習に時間をかけすぎた。

 

Lesson3 かいものする(谷)

@学習項目:数字(1〜10000)、お金、いくらですか

 いきなり10000までの数字の読み方を導入するのは無理があり、学習者は混乱しているようだった。言えるようになるまでには、予想以上に時間がかかった。2000円札に興味を持っていた。予定していたイ形容詞の導入ができなかった。

A学習項目:イ形容詞、〜はありますか

 イ形容詞や名詞など買い物に関連するものを選んだが、テキストに載ってないものまで導入してしまい、語彙が多すぎた。イ形容詞は完全に覚えられておらず、L.5の授業の最初で復習した。ダイアログの練習が時間内にできず、次の時間の最初にまわした。語彙の導入などでもっとレアリアを使用すればよかった。

 

Lesson4 みちをきく(f地)

@学習項目:ここ/そこ/あそこ/どこ、〜はどこですか、方向を表す語彙

 右・左を導入したが、地図の作成時には使いにくく、となりの1語でよかったかもしれない。TPRはわりとうまくいった。学習者が練習の意図を理解していないうちに、練習に入ってしまうことがあった。

A学習項目:動詞

 動詞の練習だけで1時間が終わってしまった。動詞を導入しても、ダイアログに反映できなかった。

B学習項目:名古屋地下鉄の利用の仕方

 少し難しいアクティビティだったが、実際の生活に必要な知識と表現であるため、学習者も授業に集中していた。

 

Lesson 5 でんわする(谷)

@学習項目:〜に〜がいます/いません、あります/ありません、時間、何時ですか、何時に〜

 〜に〜がいます/いませんで導入したが、結果導入語彙も多くなり、少し難しかった。ダイアログ(場面)に戻って練習するのなら、文法事項をしぼって、〜はいます/いませんの形で導入した方がよかった。時間の練習のためアナログ時計を板書したが、デジタル時計にした方が時間短縮でき、練習のリズムもよくなったと思う。

A学習項目:ピザの注文、自分の住所・電話番号、注文の表現復習

 電話でピザを注文するダイアログを作り、プリントを配布した。実際の会話は難しすぎるので、簡単な表現に直した。実際の会話よりゆっくりのスピードで録音したダイアログを聞かせ、キーワードを聞き取って適切な答えが言えることを目的とした。楽しい雰囲気で授業ができた。住所など地名の読み方は難しいので事前に調べておくべきだった。

 

Lesson 6 ふちょうをうったえる(f地)

@学習項目:体の名前、ナ形容詞、〜んです

 病状を訴える表現が言えるようになることを目的とした。そのため、ナ形容詞、〜んですは、病状を訴える表現に必要なものを導入し、限定したものになった。体の名前を覚えるため、ラップのリズムにのせて実際に体を動かし練習を行ったが、抵抗を感じた学習者もいたようだ。

 

2.5.2 教科書について

 ダイアログにでてくる語彙と、関連語彙のリストが違うページに載っており、学習者が混乱していた。また、教科書に載っていない語彙が授業で用いられたり、またその逆もあった。できれば教科書作成時に同時に教案も考えながら導入語彙を精選し、導入の順番なども考慮にいれて、語彙表を作成する必要がある。

 

2.5.3 媒介語としての英語の使用について

 教室内では基本的に日本語で指示や説明を行い、必要以上に英語は使わないようにするという方針で授業を進めた。しかし、事後アンケートを見ると、学習者は授業内容の理解以前に教師の指示がわからないことに苛立ちやストレスを感じており、また文法については英語での説明を望んでいることがわかる。だが、これは教室用語を統一し事前に定着させておいたり、テキストの語彙表や文法説明をうまく活用することによって、多少解消されるのではないかと思われる。直接法でもしばらく続ければ教師の指示にも慣れ、何を求められているのかわかってくると思うが、直接法での授業に慣れていない学習者にとって、今回のような実質5日間という短期間のコースでいきなり日本語だけの授業というのはかなり厳しかったのではないかと思う。

 学習者から英語で質問があった場合、なるべく簡単な日本語やジェスチャーを用いて答えるように心掛けたが、内容に応じて英語でも答えていた。授業内では英語を使わないとしても、学習者が何を質問しているのか聞いてわかる程度の英語力は必要であると痛感した。

 授業時間以外は比較的英語を多く使用していた。教師が英語を話せるとわかると、授業内での英語の発話が増えるのであまりよくないが、授業時間外のたわいもない雑談から学習者の気持ちや情報を得るところが多いので、クラスの雰囲気をよくするためにも、ある程度必要である。ゼロ初級で学習した文型や語彙だけで話をするのはかなり厳しい。

 

2.5.4 教師の指示・説明のしかたについて

 教室用語を最初にもっとていねいに教えておく必要があった。定着してないまま授業が進み、教師自身の表現の統一もできていなかった。

 練習の指示のしかたがあいまいで、学習者が何をすればいいのかわかっていないようなことが多々あった。タスクのしかたの指示が難しいようなものはあらかじめ英語で指示を書いたものをプリントして渡すようにした。

 この時間は何について学習するのかということがはっきりとわかるように、授業の最初に学習項目を板書するなどの工夫が必要である。文法説明については、板書をもっと効果的に活用したり、またテキストの英語での説明を読む時間を与えたりすることによって、もっと効率よく学習が行えたのではないかと思う。

 まったく日本語がわからない学習者に対する授業では、授業のリハーサルを行い、教師自身の発話をコントロールしておくことが必要である。

 

2.5.5 ひらがな・ローマ字の使用について

 最初の授業でひらがなの導入もしており、また事前のアンケートでも授業でのひらがなの使用を希望していたため、当初は授業での板書はひらがなとローマ字両方で行うことにしていた。しかし、両方での板書には時間がかかり、また学習者に聞いてみても、ひらがなを見る余裕はなくローマ字だけでいいということだったので、2日目からはローマ字だけで板書することにした。結局授業でひらがなを使用することがないのであれば、わざわざ最初にひらがなの授業をする必要はなく後の方に行ってもよかった。むしろ(テキストで定めた)日本語のローマ字表記の読み方についての授業を最初にする必要があったかもしれない。

 教師間でローマ字表記の統一ができておらず、板書に間違いが多く見られた。事前に板書計画を作り、実際にローマ字で板書する練習をしておく必要がある。

 

 

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