目的別教科書作成の手順と問題点

石原千代枝

 

0.はじめに

 本プログラムは、名古屋に派遣されるAssistant English TeacherAET)を対象として行われる短期日本語プログラムである。授業で用いられる教材は基本的に全て実習生が事前に作成・準備し、授業に臨む。本プログラムの参加者は毎年新たに日本にやってくる英語のネイティブスピーカーで、日本にやってくる目的は、日本の中学・高校で英語指導助手として働くことである。そのため、日本語を学ぶ目的はみな同一で、日本で日本語が必要となる場面も、学校で、または日常生活でという風にある程度決まった場面に限られている。本稿では、本年度AETプログラムにおいて作成・使用された「ともだち初級」について、その作成手順と問題点をみていくことにより、学習者の目的に沿った授業を行い、効果的にその学習を促すには、教科書はどのようであるべきか、またその問題点はなにか、またさらに今回のような短期間で特定の対象者に向けて行われるプログラムにおける教科書の役割とはなにかについて考察を行う。

 

1.教科書作成の手順

 一般に教科書作成は、対象となる学習者のレディネス、ニーズを調査し、その上で学習者の目的やレベルに合わせたシラバスを立て、それぞれの課において学習する語彙や文法項目などの学習項目を決定した後、詳細な内容を決めていく。実際本プログラムでは前年度使用された本実習用のオリジナルの教科書を分析し、それを改訂した教科書を授業で使用している。本年度も前年度までと同様、1999年度に作成された「あさがお」を改訂した2000年度の「ひまわり2000年度版」を分析し、ダイアローグや文法項目、語彙などを改善、変更することによって今年度の教科書「ともだち」を作成した。

 

1.1 本プログラムにおける前年度までの教科書作成

 本プログラムにおいては、年々、前年度参加者を対象とした「一年後アンケート」と、プログラム終了後の「事後アンケート」において、本プログラムで使用した教科書の場面について追跡調査を行っている。これは、プログラム全体についてももちろんであるが、授業で取り扱った項目ごと、すなわち、教科書で取り扱われたシラバスについての評価である。昨年度においても同様に以上の調査が行われ、これらの分析を元に前年度までの教科書を改訂し、新たな教科書を作って使用している。2000年度はニーズ分析により、前年度教科書の第3課「アパート探し」を「買い物をする」に変更している。これは、ニーズ分析によって、学習者は本プログラムにおいて学習を始めるときには、もう既にアパートを決め日本での生活を始めており、この時点でアパート探しの場面についての学習は必要ないと判断されたからである。しかし、この新しく加えられた「かいものをする」という場面は、1991年度のニーズ分析で、ニーズの高いシラバスに入っており、一度は教科書に加えられた場面であった。1991年度の調査では、ひとくちに「買い物」と言っても、学習者が必要としているのは、靴や服を買う場面ではなく、電化製品など生活を始めるのに必要なものをそろえる買い物場面や、スーパーで買いたいものの場所を聞く場面といった店員とのやりとりが特に必要である場合に限られることがわかったとされている。そのため、1991年度の教科書作成では、この場面がダイアログに取り上げられている。

 また、実習報告書では実習生は一様に教科書分析及び改訂に思ったより時間がかかったという感想を述べており、1997年度の実習報告書においては、「AET実習は、1989年から継続して行われており、対象が同じであるのだから各年のニーズが大きく異なるとは考えられない。毎年新たにテキストを作成していく必要があるのだろうか。」という疑問も述べられている。しかし、教科書改訂に費やす時間が十分でないことは明らかであるし、毎年その使用教科書の問題点が実習生自身によって指摘されていることからも、毎年のシラバス作成のためのニーズ分析は必要であると考えられる。特に1991年度ではかなり綿密なニーズ分析が行われており、まったく新たに教科書を作成するのではなく、これまで練られてきた教科書の問題点を少しずつ改善していくことにより、1991年に行われたニーズ分析の結果を生かしつつ、学習者の目的をさらに具体的にしていくことを教材や実際の授業に反映していくことができると思われる。

 

1.2 ニーズ分析

 前節でも述べたように、本プログラムは1989年度から継続して行われているプログラムで、人数や国籍こそ年によって若干の違いがあるものの、学習者の母語、職業、日本語を必要とする場面は大きな変更はありえない。1991年度に行われた綿密なニーズ分析において、今年度まで改訂・使用されてきた教科書の基本的な大枠が明らかになり、本年度も、前年度の「ひまわり2000年度版」を検討、分析し、適切な改訂を加えることによって「ともだち初級」を作成した。

 本年度行われたニーズ調査は、前年度の「一年後アンケート」を元に、必要ないと判断される部分は削り、不足している部分は補って、新たに「一年後アンケート」を作成し、前年度の本プログラム参加者を対象に実施した。前年度に比べ本年度の「一年後アンケート」は、特に学習者がどんな場面で日本語が必要であるかを、「レストランで」や「乗り物」といった大まかな分類ではなく、レストランで「注文するとき」なのか、「食べ物について聞くとき」なのか、乗り物では、「電車」なのか「タクシー」なのか「バス」なのか、といったように詳細に選択肢を設定した。これは、教科書作成において、どのような場面をダイアログに取り上げるべきなのか、どのような表現を学習するべきなのかを具体的に明らかにするために留意されたからである。また、前年度までの学習項目から学習者に役に立ったシラバスについて調査したところ、病院場面やお礼を言う場面については評価が低かったことも明らかになり、本年度ではこれらの調査結果を踏まえ、シラバスに変更を加えた。

 このような詳細にわたるニーズ分析によって、学習者のニーズにかなり合致した場面を教科書のダイアログにおいて取り上げることができると思われる。

 

1.3 本年度における教科書作成の手順

 次に本年度における教科書作成の手順をまとめる。

 本年度の教科書作成は、基本的に昨年度実習生によって作成された「ひまわり2000年度版」を検討・改訂することによって行われた。昨年度と決定的に違うのは、教科書をひらがな、カタカナの読めないゼロ初級者用と、ひらがな、カタカナと多少の漢字が読める初級者用に分けた点であるといえるだろう。それまでの実習での教科書の役割は、全面的にその教科書に従って授業を行っていたわけではなく、むしろ実習生が授業の直前に用意する副教材に多くをゆだね、それに従って授業を行っていたようである。それは、これまでの教科書自体が実習生にとって実際の授業で使用するには、使いにくい点が多く、教科書はあくまでガイドラインを示す程度でメインの教材としては扱われてきていなかったようである。しかし、学習者がこのプログラム終了後も自身で日本語の学習を進めていくことを考えると、できるだけ学習者のニーズに合わせた「使える」教科書が学習者の手元に残ることが望ましい。また、そのためには、プログラムにおいて教科書メインの授業を行い、その使用法や内容を短い期間の中でもできる限り示し、後の学習者の日本語学習に役立てられるようにすべきである。

 先にも述べたが、本年度も昨年度と同様に前回参加のAETに一年後アンケートを行いその結果から「ひまわり2000年度版」の問題点を挙げ、シラバスから表記、文法項目にわたって改訂を試みた。改訂の手順としては、1.ニーズ分析、2.シラバスの検討、3.学習項目の検討、4.ダイアログの検討・作成、5.その他の部分の検討、の5段階となる。

 本来、一つの日本語プログラムのコースを立てるには、学習者のレディネス・ニーズ分析から、教授法の決定、シラバスの決定、教材の決定または作成といったようにいくつもの段階を経るものであり、その中でも、二つ以上の教授法を組み合わせて授業の方法を考えたり、教材も教科書だけでなく補助教材や視覚教材などもあわせて検討したりするべきものであるが、本プログラムのように学習者の属性、日本語学習の動機や目的、生活環境やレディネスなどが明らかで、さらに1週間から2週間というきわめて短い学習期間を考えた場合には、年々行われてきたプログラムの反省点を踏まえて改善を加えていくという方法で、ある程度学習者の目的にあったコース内容の条件は満たされていると考えてよいであろう。昨年度までの事後アンケートにおいて、学習内容が役に立ったという肯定的な評価を受けていることからもそのことがわかる。以下では具体的な改訂の内容とその改訂についての問題点を挙げ、目的別教科書作成に当たっての留意点を検討していく。

 

 

2.教科書の内容について

 本年度の教科書も昨年度の「ひまわり」にならって、2つのダイアログとそれぞれのダイアログについてのVOCABURALYUSEFUL PHRASESGRAMMAREXERCISESRELATED WORDS & PHRASESという構成になっている。実習生は、実際に授業を担当するそれぞれのクラスについて教科書の検討・改訂を行った。シラバスは「じこしょうかい」や「買い物をする」といった場面シラバスで構成されており、それらの場面もニーズ分析からAETが日本で遭遇し、日本語を話さなくてはならないような場面を選択している。一課につき、4〜5の文法項目が設定されている。これらの文法項目は基本的に初級における積み上げ式の学習法にのっとったもので、第一課から第8課まで順に難度が高いように作成されている。ダイアログではこれらの文法項目やそれに即した表現を場面に合い、さらに不自然でないような対話場面となっている。一課につき、二つのダイアログを設定し、一つの目的に対して二つの場面における表現が学習できるようになっている。また、全課は前の課で学習した文法項目や表現などを復習しながら新しい項目を学べるよう配慮して改訂が行われている。VOCABURALYではダイアログで現れた新出語彙をとりあげ、USEFUL PHRASE では、文法的な学習項目ではなく、「いらっしゃいませ」や「はじめまして」といった定型句やレストランなどで店員が話す表現や、取り上げられている場面だけでなく、他の場面においても応用が可能であるような表現を取り上げている。GRAMMARでは、その課で学習する文法項目を英語で解説し、EXERCISEはそれを使用した会話の練習、RELATED WORDS & PHRASES では、関連表現や単語が掲載されている。

 

2.1 シラバス作成について

 シラバス作成に当たってはこれまでも述べてきているように「ひまわり」のシラバスを本年度のニーズ分析の結果から検討し、変更を加えた。「ともだち初級」では、「ひまわり」の検討において、学習者が果たして来日したばかりの国で病気になったときにすぐ病院へ行くかどうか、またその表現も特殊で知識としても応用範囲が狭いことから、病気になったことを伝える相手は、学習者が勤めている学校の担当の教師が教頭先生であると判断し、6課の「不調を訴える」では学校へ欠席連絡を入れる場合の言い方を中心にし、病院での表現は削除した。また、「さそいとことわり」という第7課もニーズ分析においてニーズが低かったことと、第8課の「食事に誘われて同僚の家でごちそうになり帰るときにお礼を言う」という場面が第7課と合わせて扱った方が会話の流れがわかりやすいのではないかとの判断から、7課と8課の場面を「昼ごはんを一緒に食べようと誘われる」「同僚から夕飯に誘われ、家に招待される」「夕飯をごちそうになり、帰る」という3場面にした。この変更は、AETが学校で働く際により遭遇しやすいであろうと思われる場面を優先して取り上げ、またそのような場面シラバスの中でどのように文法項目を扱っていくかということも考慮に入れた結果の変更であった。そして、7課と8課を統合し、全体で「またあした」という題をつけ、8課とした。8課では、7課のさそいと断わりの表現、また、8課のお礼の言い方と別れ際のあいさつの仕方を学習項目としてあげることとした。

 第7課にはニーズ分析でニーズが高かった郵便局の場面を取り上げ、自分の国へ手紙と小包を送る場面でダイアログを作成した。

 またこのシラバスの変更に合わせて学習項目の変更も行い、特に新しく加えた郵便の場面では、文法項目とUSEFUL PHRASESをどのように設定すべきか頭を悩ませた。

 以上のように本年度ではニーズ分析と昨年度の教科書「ひまわり」の検討を踏まえシラバス変更を行った。

 

2.2 ダイアログ作成について

 ダイアログ作成に当たっては、場面にあった自然な会話と文法項目とのバランス、また学習者のレベルにあい、他のいろんな場面でも応用の利く表現や語彙を取り入れることに配慮した。特に本年度は、これまで一つだった教科書をレベル別に二つに分けたため、ゼロ初級と初級用のそれぞれで取り扱う文法項目も異なり、それぞれでレベルに合わせたダイアログを作成しなければならなかった。それまでの「ひまわり」などの教科書は、そのレベルがゼロ初級には難しすぎる項目が入っていたり、初級には簡単すぎる項目が含まれていたりするということも、「ひまわり」を検討していく中で明らかになったことの一つであり、このようなことも踏まえて、ゼロ初級にはゼロ初級者用の文法項目とダイアログ、初級者には初級者用の文法項目とダイアログを作成することとなった。このことによって初級者用の教科書作成では、基本文型を元により自然な表現もダイアログに取り入れることが可能となり、場面や人間関係を考慮した実際的なダイアログの作成を心がけた。また、文法的な構造が難しく省略などといった特殊な用法が使用されている表現なども、学習期間が短いことと学習者がすぐに使える日本語を求めていることから、それらが学習者にとって応用範囲の広い使える表現であれば積極的に取り入れることにした。特に初級では、通常敬語を使用した方が自然であると思われる電話の場面などでは、敬語を導入することを試み、理解しやすい場面と敬語を使用することが不自然でない人間関係に配慮したダイアログとなった。

 

2.2.1 自然さとレベルの問題

 以上のような点に留意しながらレベル別のダイアログを作成していくに当たって、特に問題となったのが、「自然」な表現である。本プログラムの性格上、教科書で取り上げられるべき場面は、学習者が日常すぐに使えるサバイバルな日本語であり、それらを短期間で身につけるためにはどうしても場面重視の教科書が使用されることになる。しかし、場面重視の教科書において取り上げられる表現は、「自然な」ことばを身につけようとすればするほど文法的には複雑な構造を持った表現を取り入れざるを得なくなり、そのギャップによって教室活動が困難になり、学習者も文法的な解説のないままただ暗記するのみの学習方法になってしまう恐れがある。ただ表現を暗記しただけでは、教科書で設定された場面でしかその表現を使用することはできず、プログラム終了後の学習者自身の日本語学習にも良い影響を与えないのではないか。このような目的がはっきりしたコースにおいて学習者のニーズに最大限こたえようとするとき、作成される教材はこのような「自然さ」と学習者のレベル、そして、学習項目及び文法項目の点において、問題を生じる可能性がある。今回ダイアログ作成にあたって、事前プレースメントによってある程度学習者のレベルはわかっていたものの、文法項目がどの程度定着しているのか、どの程度会話ができるのかといったことまでは、教科書改訂とプレースメントのe-mailでのやりとりがほぼ同時に行われていたことから、把握できない状態であった。そのため、ダイアログで使用する表現のレベルをどのようにするかという決定を、あいまいなまま行わざるを得ない状態になってしまった。また、文法解説においても期間の短さから取り上げられる項目は一つか二つに限られ、細かい表現についての解説は教科書に載せなかった。しかし、学習者自身が今後この教科書を使って学習を行うのであれば、そのような予備的な情報や解説もできる範囲で加えるべきだったのではないかと思う。

 このように学習者のレベルと学習項目を考慮して、できる限り自然なダイアログを作成していくには、どの程度自然さを重視して文法的な複雑さを解消していくか、また、今回のような特殊な学習状況によって以下に使える表現を身につけさせていくかという点に考慮して、より自然な日本語らしい日本語を学習できるようなダイアログ作成を目指すべきである。

3.実際の授業での取り扱いについての問題点

 以上のように改定を行ってきた教科書を用いて実際に各クラスにおいて授業を行った。担当者らは、適宜様々なレアリアや文法解説のためのプリント、練習問題などを副教材として用意したが、授業の中心となるのは教科書のダイアログで、基本的に授業はダイアログに沿って進められていった。ここでは授業での実際の使用とその問題点について述べる。

 

3.1 目的に応じた場面重視の授業と基本的な文法学習の不均衡

 以前から述べてきているように、本プログラムは特定のニーズを持った学習者を対象とした短期間のプログラムである。そのため、本プログラムに求められていることは、短期間で、日常生活においてすぐに使える日本語を学ぶことであるといえるだろう。すなわち時間のかかる文法項目を一つ一つ学んでいく積み上げ式の教授法ではなく、日常場面において学習者が日本語を使用する場面を想定した表現やストラテジーの学習を主としたコミュニカティブなアプローチがこのプログラムには適していると判断できる。実際このようなことから、教科書のシラバスには学習者が遭遇しやすい場面が取り上げられているし、文法項目も一応は簡単なものから難しいものへと配列されているが、臨機応変に便利な表現として文法的に難しいと思われるものでも、自然さを重視し、ダイアログに取り入れられている場合もある。このような短期間のプログラムでは正確さを重視した文法項目を十分に学習するのは不可能であるし、学習者のニーズにも合っていない。しかし、事後アンケートにおいて学習者から「もっと基礎的な会話や文法をやってほしかった」という声がでたことも反省すべき点の一つである。場面を重視し、すぐに使える便利な表現や自然さを優先したダイアログ作りは、一方で文法的な正確さや基礎となる基本的な文法項目の習得がおろそかになってしまう一面も持っている。しかし、短期間ではどちらのフォローも難しいことも事実であるため、それを補うために教科書において文法項目の解説を詳細に掲載し、自然な表現の使い方などについての解説も添えるなどの工夫が必要である。

 

3.2 文法項目と実際の授業の活動

 日常生活場面ですぐに使える自然な日本語を教えることを目指すといっても、実際の授業ではその課で学習する文型の解説やその代入練習などが中心となる。今回は一つの課で二つのダイアログを作成し、その二つでその課の学習項目を学習、練習することができるようにした。そのため、一時間目には基本的な文型練習を行い、二時間目にはそれを使用したロールプレイなどの実践的な活動を行うことができた。しかし、本プログラムの性格上、日本で生活を始めるに当たってすぐに必要となり使える日本語を学ぶという目的を達成するためには、その課の学習項目を度外視した学習活動を行った場合もあった。それは、電話をする場面でニーズの高かった「ピザの注文」や、「郵便局」での「小包の送り方」などに関してである。これらは、学習者が知っていると便利であろうという実習生の判断のもと、実際のカタログや送達依頼表などを使用してクラス活動を行った例で、確かにこれらの活動は学習者にもうけがよく、役に立つ項目であったというように評価も高かったが、これらの活動の中では文法的な正確さや学習項目である文型の習得は二の次で、定型表現やそのものの名称や方法などが重視された活動となってしまっていた。今回のような特殊な状況においてはそのようなアクティビティー的な活動も必要であったとは言えるだろうが、そのようなテーマを使ってより正確さや基本的な文法項目や文型の応用練習としての意味を持たせるべきであっただろう。

 プログラムにおける目的の特殊さや場面重視のコース作りは、以上のような基本的な学習計画を無視した活動を引き起こしてしまう恐れもあるのだということを担当者は認識し、学習者の状況などを鑑みた適切な教室活動を行っていくべきである。また、そのような教室活動を行うに当たり、文法的な不足を補う上で、教科書の果たす役割は大きいと思われる。特にこのような短期間のプログラムで、後に学習者自らが日本語を学習していく上で参考とする初めの教材として、今回のような目的別に作成された教科書は、有用な助けとなるであろう。

 

4.おわりに

 以上、目的別教科書作成の手順と問題点について述べてきた。今回のような特殊な状況における短期間のプログラムでは、すぐに使える便利な表現と文法項目のバランス、基本的な文型学習の不足といった、場面を重視するあまり発生する様々な問題点が指摘できる。このような問題点に関して、ダイアログ作成や文法項目の決定において、教科書の工夫が一つの解決方法となると思われる。プログラム終了後の学習者自身の学習の助けとなることを考えても、教科書の果たす役割は大きい。実際に今回の実習生が日本語を教える際には、今回のようにコースの企画から教科書作成までを担当するということは少ないであろうが、目的別の教科書の作り方、あり方について学んだことにより、多様化している学習者のニーズにできうる限りこたえる方法を模索する一つの材料となるだろう。

 

<引用文献>

名古屋大学大学院文学研究科日本言語文化専攻(1991)『1991年度日本語教育実習報告―短期日本語学習者のための教科書作成と授業実践』名古屋大学大学院文学研究科

浅野琴音・稲葉圭子(1997)「実習におけるテキストの扱い」『1997年度日本語教育実習報告―計画・実践・反省・発見』p.99-117名古屋大学大学院文学研究科日本言語文化専攻

 

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