レベル差があるクラスの運営および管理について
-初級クラスにおいて-

佐藤有希子

1. はじめに
 今年度の夏期AET教育実習では、レベル別に学習者17人を4つのクラスに分けた。その中でクラス2では、クラスにおける学習者のレベル差が大きかった。本稿では、まず夏期AET教育実習におけるクラス分けについて記述する。続いて、最も学習者間にレベル差が見られたクラス2を対象に、実習生による授業記録と連絡事項、学習者からのフィードバックをもとに、クラス運営について考える。また、実際の授業を録画したビデオも資料として用い、教室において教師がレベル差があるクラスにどのように対応しているかについても見ていく。
 

2. クラス分けについての概要
 今年度の夏期AET教育実習では、レベル別に学習者17人を4つのクラスに分けた。クラス1は日本語学習歴ゼロあるいはそれに準ずるゼロ初級のクラス、クラス2は日本語を学んだことがある初級レベルに属すると思われるクラス、クラス3は日本に長期滞在した経験がある者も多く中級レベルに属すると思われるクラス、クラス4は日本語の口頭能力には問題ないが読む・書くについては漢字などはあまりできないというレベルである。

2-1 学習者
 本稿の考察の対象であるクラス2には、初め4人(A.B,C,D)の学習者が振り分けられた。しかし、クラス初日の授業後、Dは学習者本人の希望から、また日本語能力も実習側が判断したよりも高かったため、クラス3に移動した。したがって、クラス2は最終的には学習者3人から構成されている。A、B、C、Dの4人の学習者については以下の通りである。

学習者

国籍

性別

学習歴

日本滞在経験

A

オーストラリア

2年

1度あり

B

カナダ

3年

10日間

C

オーストラリア

3年

なし

D

アメリカ

3年

3度あり

(一度は小さい時、後の2回は2週間ずつ)

2-2 実習生
 授業は1日2コマである。実習生は基本的に1日ずつ交代で授業を担当した。したがって、教師は1日ずつ異なっている。

2-3 シラバス
 クラス2は、事前の調査では学習者の日本語レベルが初級であると判断したクラスであるので、ゼロ初級のクラスで用いるテキストをアレンジしながら用いることにした。学習項目は「自己紹介」「注文をする」「買い物をする」「道を聞く」「電話をする」「不調を訴える」「誘いとことわり」「お礼を言う」である。この他に、コース前半の最後の日には、日本文化の紹介として「手紙の書き方/暑中見舞いを書く」を授業に取り入れた。

3. レベル差が見られたクラス2(初級クラス)の運営およびその問題点
 以下に、授業を担当した実習生による8日間の授業記録と学習者からの評価を事後アンケートを基に示す。そして、実際の授業場面も含め、クラス2における問題点について考えていく。
 授業記録については、分かりやすくするために筆者が一部、修正・加筆を行った。学習者の事後アンケートはAからEの5段階で行われたものを、点数化(A4点、B3点、C2点、D1点、E0点)し、学習者全員の点数を足したものを示す。質問は「役立ちそうか」「理解できたか」の2つであり、各項目において満点は12点である。第1日目は学習者が4人のため16点満点であるが、そのうち1人は2日目からクラス3に移動したのでクラス2のアンケートとして収集することができなかったので、クラス2に終始いた3人の学習者のアンケート結果を資料として用いた。評価が高い方が点数が高い。

3-1 第1日目
<1時間目>

内容:

・自己紹介「はじめまして。名前です。英語の教師です。〜と呼んでください。どうぞよろしくお願いします。」
・「先生」と「教師」の違いについて。
・ティーチングアシスタント(以下TA)に入った人に、学習者に質問をしてもらった。


出席者:A、B、C、D


担当者からのコメント:

・想像以上に日本語ができる。
・2コマ分の教案を1コマでやってしまった。
・ Cさん、Dさんはよくできる。
・ Aさんはカタカナは読めないところもあるが、Cさんが通訳してくれる。
・ Bさんはとてももの静か。
・ Bさんは、「『映画を見ること』です」は少し恥ずかしそうに言っている。

<2時間目>
内容:

・ゲストにTA2人に入ってもらい、学習者1人ずつゲストの前で自己紹介の練習を行う。
・お互いに自己紹介し合う。「こちらこそ」「お国はどちらですか」「オーストラリアのどこですか」
・free talk


出席者:A、B、C、D


担当者からのコメント:

・TAに入ってもらっていろいろ話した。名古屋の気候、食べものなど。
・ Dは本当によくわかっている。おじぎの仕方も上手で日本的な感じがする。
・ 教案を既習用にもっと高くセットすればよかった。インタビューのときよりかなりC さんもAさんもできる。
・ (実習生へ)かなりできます。ゼロ初級向けのテキストのダイアログを、待遇度などを変えるなど、既習用にしたものである。そのダイアログをそのまま入れても大丈夫。


○学習者の評価:「役立ちそうか」12点 「理解できたか」12点

3-2 第2日目
<1時間目>

内容:

・これ/それ/あれ/どれ
・どれが好きですか。わたしはNownがすきです。
・ひとつ、ふたつ、みっつ・・・/いっぽん、にほん・・・
・Nown お願いします/ Nownください
・いくらですか。
・〜になります。
・Nownを3つとNownを4つ
・お金の数え方、計算


出席者: A、B、C (この日からDはクラス3へ)


担当者からのコメント:

・このクラスはC−B−Aの順でできる。
・ 既習ダイアログを入れても割りとはやく終わってしまうので、どうやって内容をふくらませるかを考えた方がいい。

<第2時間目>
内容:

・1時間目の復習
・買い物場面の店員の部分をやってみる
・注文をとる
・メニューを読む


出席者:A、B、C


担当者のコメント:

・Cはひらがな、カタカナはすらすら読める。
・難しいものとかはCを初めに当てるといいと思う。
・Aは甘いものが好き。
・A、B、Cとも自分から積極的に発話する性分ではないので、うまく刺激を与えてください。


○学習者の評価:「役立ちそうか」11点、「理解できたか」7点

3-3 第3日目
<1時間目>

内容:

・イ形容詞の確認
・授業の最初に、コソアと助数詞「本」の復習
・イ形容詞の否定
・否定を使った口頭練習


出席者:A、B、C


担当者のコメント:

・パターンプラクティスはつまらなそう。
・特にCさんはイ形容詞はけっこう分かっていそうだが、他の2人は
「あーあーあー」という感じだった。

<2時間目>
内容:

・Lesson3「かいものする」のダイアログを読む。
・応用として、商品の写真を見ながらダイアログに当てはめる。


出席者:A、B、C


担当者のコメント:

・ひらがながダイアログに入ると、読めなくなる。
・既習用のダイアログ「ゆうびんきょくで」はできなかった。


○学習者の評価:「役立ちそうか」12点、「理解できたか」11点

3-4 第4日目
<1時間目>

内容:

・テキスト第4課「みちをきく」

−ここ/そこ/あそこ/どこ
−右/左/まっすぐ/まがって
−〜て
−〜と
−どこですか
−この近くに〜はありますか

・相手が言うことが分からないときのストラテジー:「え?」「〜ってなんですか」
「もう少しゆっくり〜」


出席者:B、C

<2時間目>
内容:

・地図を見ながら説明する練習
右に曲がって、〜くらい行くと、手前/先/向かいに 〜があります
・1時間目にやったことの練習


出席者: B、C


担当者のコメント:

・Aさんがお休みでBさんとCさんの2人だけだったので、非常にスムーズに進んだ。
・導入した部分は2人ともかなりきちんとこなしていた。
・日本語能力試験3級程度の文字・語彙を渡した。
・Aさんには10日のプリントを渡す。


○学習者の評価:「役立ちそうか」11点、「理解できたか」11点

3-5 第5日目
<1時間目>

内容:

・電話の会話 テキストp,20とp.21のダイアログ1と2
・人・動物・魚(生きているもの)+います/いません 
・モノ・花(生きているものの例外)+あります/ありません
・ダイアログ1「木村先生、いらっしゃいますか」で練習。
・ダイアログ1およびダイアログ2を行った。
・2時に、15日に/明日(×に)、あさって(×に)


出席者:A、B、C


担当者のコメント:

・Aさんが日本語の質問をときどき理解していないようだ。しかし、察しがすごくいいので、となりのCさんにちょっと言ってもらうとすぐに分かる。
・Aさんは自分でも「こう言えばいいのか」と聞いてくる。メモなどもよく取っている。
・Cさんは問題なし。漢字も読むことができる。
・Bさんは「少々」「お伝えください」が言いにくい。

<2時間目>
内容:

・既習用のクラスのダイアログを使用したので、少し長いダイアログとなったが、会話をテープで2度聞かせ、あとで聞き取りチェックをしたら、Aさんがきちんと聞き取っていた!
・Bさん、Cさんは聞き流してしまい、きちんと聞いていなかった。
・電話番号の言い方も問題なくできる。しかし、Aさん、Bさんはダイアログ1や2を見ながら話し、口だけですらすら言えるまでにはならなかった。
・留守電は、実際に録音してみてみんなに聞かせた。
・Cさんは問題なし。


出席者:A、B、C


担当者のコメント:

・やはり、長いダイアログになるとすらすら言えない。Aさん、Bさんは文字に頼ってしまう。
・Cさんは事前インタビューの際に、「漢字が読めて、書けるようになりたい」と言っていたので、「BASIC KANJI BOOK(凡人社)」のLL7~9をコピーして渡した。


○ 学習者の評価:「役立ちそうか」10点、「理解できたか」11点

3-6 第6日目
<1時間目>

教材:

テキスト「ひまわり」のL4p.17の動詞、付録の-「、・の日にちの言い方、L6の「〜たい」
内容:

・復習「日にち」の言い方1〜10日、14、20、24日

・ 復習「動詞」(起きる、寝る、食べる、飲む、行く、来る、帰る、見る、書く、読む、聞く、買う、話す)+新項目:格助詞(時間に、ものを、場所へ/に)
・ を〜ます⇒が たい(です)


出席者:A、B、C


担当者のコメント:

・個人情報に関する質問にしておくと、発話量が増える。
・Aさんは動詞でできていないのは、「おきる/来る/帰る/見る/読む/書く/買う」である。
・余裕があれば日にちの1〜10日をちょっとだけやっていても効果的かもしれない。

<2時間目>
教材:テキスト「ひまわり」のL6、付録の-X、-ィ、プリント「〜んです(が)」


内容:

・ナ形容詞
・〜たいんですが…
・(薬の飲み方/示し方)「1日に〜回」「一回に〜錠」「ごはんの後」「寝る前に」
・「お大事に/お元気で」の使い分け


出席者:A、B、C


担当者のコメント:

・「ナ形容詞+じゃありません」は少ししかしていない。
・頻度を表す「〜日(に)〜回、〜回〜錠」はまだできていない。
・「〜んです」のドリルはやっていない。


○学習者の評価:「役立ちそうか」12点、「理解できたか」11点

3-7 第7日目
<1時間目>

教材:動詞復習シート、広告やチケット


内容:

・動詞の復習
・時間の表現
・「〜たい」の復習
・「〜ませんか」の練習
・「〜から〜ませんか」の練習


出席者:A、B、C


担当者のコメント:

・よく練習できていた。
・「〜から〜ませんか」「〜ましょう」を次の授業で復習するといいかもしれない。

<2時間目>
教材:聞き取りシート、ロールプレイシート
内容:

・ダイアログの聞き取り
・ 予定を決める練習
・ ロールプレイ(待ち合わせ日時・場所を決める)


出席者:A、B、C


担当者のコメント:・動詞はかなり覚えたようだった。


○学習者の評価:「役立ちそうか」12点、「理解できたか」11点

3-8 第8日目
<1時間目>

教材:テキスト「ひまわり」のL8(p.33)のダイアログ


内容:

・形容詞の過去形
・自分が日本にきてどうだったか、昨日の飲み会はどうだったかなど、形容詞の過去形を用いて答える練習


出席者:A、B、C

<2時間目>
教材:テキスト「ひまわり」のp.32、付録の-「〜・
内容:

・あいさつ表現
・形容詞と動詞の過去形


出席者:A、B、C


担当者のコメント:

・あいさつ表現は「おはようございます」「こんにちは」など代表的なものは知っている。その他に、「失礼します」や「お先に」など、実際に学習者が職場で使いそうな表現を練習した。
・学習者に「どうして〜」といった質問をすると、答えの部分の発話量は増えるのだが、学習者が日本語だけで言いたいことが言えず、母語である英語を用いている場合が少なからず見られた。


○ 学習者の評価:「役立ちそうか」12点、「理解できたか」12点

4. クラス2の運営に関するまとめおよび問題点
4-1 クラス2全体について

 コース終了後に学習者に行った事後アンケートの結果は、概ね良好であった。この理由として学習項目として挙げた内容が学習者にとってすぐに役立ちそうな内容であったことと、学習項目が学習者のレベルとかけ離れたものではなかったのだろうということが考えられる。

 しかし、実際の授業場面では、細かい点を見て行くと、いくつか問題点が挙げられる。以下、クラス2において問題となったことを挙げ、クラスをどのように管理し、運営していくべきかについて考えていく。

4-2-1 使用語彙についての問題
 筆者が担当した授業において、学習者に日本語で少し長めに話さなければいけないような質問をした場合、英語で返ってくる場合があった。これは、例えば学習した文法項目を用いて、学習者自身のことについて質問したような場合である。ドリル練習といった機械的な練習ではなく、内容のやりとりもあり、きちんと自分が言いたいことを伝達できれば学習者には、達成感は大きいと思われる。
しかし、筆者が行った質問には「どうして〜」といった、学習者が答えるためには多く発話しなければいけないものがあり、日本語でうまく伝達できない場合に、学習者は自分の母語である英語を使っていた。この場合、英語使用では伝達事項は伝わるが日本語の練習にはならないので、質問をもっと学習者が答えやすいものに、学習者が日本語で答えられるような質問にするべきである。また、学習者が日本語ではなく母語で言おうとしたときに、無理にでも「日本語で」とするか、学習者間での相互協力を求めるかして、日本語を使わせるようにするべきである。その際には、学習者の情意面の考慮も必要である。

4-2-2 学習者間のレベル差および性格について
 クラス2は先にも述べたように、学習者間のレベル差が大きく見られたクラスである。学習者Cはクラス2における学習項目はほとんど問題なく、学習者Dと一緒に上のレベルのクラス3に移動するかと思ったが学習者Cは特に希望したなかったのでクラス2で授業を受けた。
 今回の実習では学習者間にレベル差があることや学習者個々の性格や個人情報については、連絡ノートが主に活用された。また、次の日に実習を行う人は前日の授業のTAに入った。こうすることで、前日に学習したことを実習生は知ることができたので、少しでも前の授業とのつながりをつけることができたと思われる。しかし、これは実習だから出来たことであり、実際のクラス運営においてはいつもこういったことを行うのは難しいだろう。
 クラス2では、学習者Bが特にもの静かでおとなしい性格であった。学習者Aはおとなしいというわけではないが失敗すると焦ってしまったりすることがよくあった。また学習者Aは3人の中で日本語レベルは最も低かった。学習者Cは最も日本語レベルが高く、性格も明るかった。このような学習者の性格を把握することは、クラスを管理していく上で役立つと思われる。例えば、質問をするにしても難しいものをいきなり物静かなBに当てたり、日本語レベルが高くない学習者Aに当てるよりも、学習者Cにまず当てた方がスムーズに進むだろう。
 しかし、教師側が意図的にしているように学習者が感じてプライドを傷つけないように留意しなければならない。
 

4-2-3 クラス運営について
 今回は1日ずつ実習生が交代して授業を行った。これは、実習生側としては他のレベルのクラスも持つことができるという点でよかった。また、学習者側にとっては実習生全てと面識を持つことができ、交流を深めることができた。
 しかし、一方で実習生が日によって変るため、学習者のレベルや性格などを把握するという点では、決まった人がそのクラスを担当した方がいいだろう。

5. まとめ
 本稿では、今年度の夏期AET教育実習における初級レベルのクラス2について、クラス運営と管理について生じた問題について考えた。実習ではクラス運営上、レベル差がある学習者が同じクラスに属することになった。クラスの中にレベル差のある学習者が含まれることは実際のクラス分けにおいても生じうることだと思われる。その中で学習者それぞれを満足させるためには、第1にはクラスでの学習活動・学習項目が学習者のニーズと合っているということが挙げられる。これは事前調査においてある程度明らかにすることができるだろう。
 また、授業においては学習者のレベル差や個人の性格を把握することがクラスを管理する上で重要であるということを述べた。
 さらに、教育現場では今回の実習のように複数の教師が1つのクラスを教えることもしばしばあるだろう。その際、学習者について分かったことや個人情報などを連絡していく必要がある。クラスについての知識を共有できるように、本実習のように連絡ノートなどを活用するのも1つの方法である。できれば、1つのクラスを何人もで教えるということは、上記のような学習者についての把握の点では効率が悪く、流れが途切れやすいので望ましくないかもしれない。
 クラス管理は結局は教師の力量に関わってくる部分が大きいかもしれないが、経験の少ない教師にとって本稿の4に挙げたようなことは、クラス管理に役立つことではないかと考える。今後、AET実習における質の向上および学習者の満足度を高めるために、まずクラス分けについて、そしてクラス運営、管理について考え、改善していく必要があるだろう。


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名古屋大学大学院国際言語文化研究科
日本言語文化専攻