身近な事柄に関するスピーチ

-豊富なインターアクションを生む授業-

半谷優子

0. はじめに

 このレポートでは、実際に行った「スピーチ」の授業について報告する。学習者同士、教師と学習者の豊富なインターアクションを提供できる「身近な事柄に関するスピーチ」の方法、利点、改善点、反省点などを検討することで、このような授業を効果的に行うための1つの方法を提案したい。

 なお、この報告にある「身近な事柄に関するスピーチ」の授業は、名古屋大学留学生センターの新川以智子先生が担当の日本語の授業の際に行ったスピーチの授業を元に、この実習のコースに合うようにアレンジしたものである(注)。 

1. コミュニカティブ・アプローチとインターアクション

 外国語教授法において、コミュニケーションがスムーズにできるようになることを主な目的としたコミュニカティブ・アプローチの有用性はさまざまなところで言われており、日本語教育においても、それは同じである。「スピーチ」は、このコミュニカティブ・アプローチの考えに基づいた学習活動であり、その主な目的は、1.口頭発表の仕方にさまざまな種類があることを学ぶ、2.人前で話すことの難しさを克服する、3.心理的な要因を取り除くの3つである(東海大学留学生教育センター1995)。今回の授業では、形式にこだわらず、一人一人がなるべく多く話す機会を持つことを主な目的としたので、上記のスピーチ活動の3つの目的のうち、2番目と3番目の目的を達成できると考えた。

 インターアクションとは、人と人がなんらかの目的を達成するために行う、社会的、相互的なやりとりのことである。コミュニカティブ・アプローチにおいては、クラス内での「本当のコミュニケーション活動」、つまり「インターアクション」を重視している。第二言語習得研究では、このインターアクションが習得を促進する、という説があり(Long 1983)、その重要性が説かれている。インターアクションを確保するための代表的な活動としては「インフォメーション・ギャップタスク」などがある。インフォメーション・ギャップとは、会話をしている人たちの間で一方が知っていて他方が知らないというような「情報の差」があることである(高見澤他199732)。「スピーチ」は、聞き手が知らない内容を話し手が話す、という「インフォメーション・ギャップ」がそこにある。また、「スピーチ」というと独話というイメージがあるが、一通り話したあと質問を受けそれに答える、など、やり方によっては豊富なインターアクションを確保することができる。

2. 実習を行った授業の概要

2.1 学習者について

AET実習コース:中級クラス(上級1名を含む)

◆人数:6人(アメリカ4人、オーストラリア1人、ニュージーランド1人)

◆学習者の背景:日本の大学に1年近く留学経験がある人、大学で日本語を専攻していた人、日系の人など日本語学習歴、日本語力ともにばらつきがあるクラス。

◆日本語力:初級後半から中級くらいのレベル

2.2 授業の背景

◆前日は「雑誌を読む」という活動で、読む活動中心

◆当日の1時限目は文法項目の復習

◆コースが始まって5日目で前半最終日であり、学習者は少々疲れ気味

2.3 授業の概要

授業は501コマの授業である。授業には、他の実習生1名と日本語研究の専攻の大学院生1名にクラスゲストとして入ってもらった。実習の見学に実習担当教官もおり、同じようにクラスゲストとして参加していただいた。クラスゲストの利点として以下の2点を考え、活用した。1点目として、あまり質問が活発に出ない場合に備えて、そのような場合に質問を出してもらい、クラスを活気付けるということである。2点目としては、日本語母語話者とのインターアクションの機会を多く持てる点である。

 クラスゲストには、あらかじめ授業の概要を簡単に説明し、学習者からなかなか質問がでない場合は特に質問をするようにしてほしいとお願いした。

 次に、具体的な授業の進め方を説明する。

 @ まず、最初に以下のように授業の概要を説明した。

名前:          

1.(      )さん  「 (タイトル)  」

自分のした質問:                                          

質問の答え:                                            

  このような指示を与えた理由としては、そのように指示することによって、たとえ 話に興味があまりなくても、必ず耳を傾けるようにするためである。

 A 次に、準備の時間が必要かどうか聞く。

 B 具体的に授業に入る。「誰か話してくれる人!」とスピーチをうながしても、なかなか立候補が出ないので、まず見本として実習生(筆者)が最初にスピーチした。質問も学習者のスピーチと同じように、必ず一人1つ出すように指示した。具体的には、次のように話した。

「私は楽器を演奏することが好きです。ピアノを弾くことと、バイオリンを弾くことが好きです。ピアノは3歳からずっと習っています。バイオリンは8歳から習っています。何か質問はありせんか?」

 そして、それぞれに質問をしてもらい、それに答える、という形でスピーチを進めた。質問の回数は自由である。学習者には、特に順番は指定せず、話したい人から話してもらった。

3. 教師の役割

 このように、学習者が前もって準備することなくスピーチをし、授業参加者間のやりとりを中心とした授業において、教師は何をすればいいのか。スピーチを単なるおしゃべりに終わらせないために、何をすべきか。その1つに学習者の誤りの訂正がある。ここでは、その訂正の仕方について考えていきたい。

3.1 訂正の仕方

 誤用を訂正するのに、どの程度の誤用を訂正するべきかの判断は難しい。重要と思われる誤用だけを訂正し、細かい誤用は訂正しなかった。田中(1988167)は、ディスカッションなどで見受けられた誤用を訂正し、練習したり、新しい語彙の練習をする活動をフィードバックと呼び、「フィードバックも、あまり細かいことまで指摘すると、学習者が萎縮してしまって、つぎのディスカッションのときにあまりしゃべらなくなってしまう。そうならないように、フィードバックは必要最低限にとどめなければならない」と述べている。このような配慮から、訂正や新しい語彙の提示は必要最低限になるように心がけた。それらを板書し、学習者自身が必要と感じたらメモが取れるようにした。  

 岡崎他(1992160)では、コミュニケーション活動での学習者の誤りの訂正は控えめにすることが望ましいとし、次の3点のような誤りの場合に訂正するのが望ましいとした。第1点はコミュニケーションに支障を来すような誤り、第2点は学習者の発話や書いたものに頻繁に起こる誤り、第3点は目標言語の話し手の間に差別感情などの悪感情を引き起こすような誤りなどである。

 今回のスピーチで見受けられた誤りのうち、主に学習者がわからない、知らない語彙を訂正した。文法面はあまり訂正していないが、前の時間の授業で扱った文法項目(やりもらい)の誤りは訂正をうながした。具体的には、以下の誤りを訂正した。

◆学習者「ゴルフ場ーどう、やりましたか?」→「どんな仕事をしましたか?」

◆学習者「competition?」助けを求める→大会(書く)

◆学習者「directorになりたい」→かんとく(書く)

◆学習者「お母さんはカメラをもらいました」

→実習生(筆者)「お母さんは」(「相手からもらう」というジェスチャーをつけて、学習者の自己訂正をうながす *前の時間に扱った文法項目

→学習者「くれました」

◆学習者「カメラをこらした」→カメラをこわした

◆学習者「studio」→「スタジオ」(何回か出てくるがなかなか言えないので書く)

◆学習者「(映画監督になるための勉強がしたかったが、)国際政治はsafer、安心」→国際政治の方が安定している

◆ある学習者「給料すっごい安い」→他の学習者「何が安い?」→給料(書く)

◆学習者「プロのmusician」→音楽家

◆学習者「instrument」→楽器

4. 反省

4.1 良かった点

この授業をやってみて良かった点を以下に挙げる。

まず、学習者の個人情報が多く引き出せたことである。実習生にとって今後授業を行ったり、学習者との関係を築く上で有益なだけでなく、学習者同士も会って間もないこともあり、クラス全体として「インターアクション」の機会が多くもてた。

2点目としては、学習者の準備のいらないテーマを設定したことである。通常、スピーチをする場合は、前もってテーマを与え、何をどのような順番で話すかなど準備するものだが、身近な話題、特に自分が好きなことという自己紹介的な話題を選び、質問されてそれに答える、という形でスピーチを進めるのなら、今回のような中級レベルの学習者の場合、準備に多くの時間を割く必要はないし、話もしやすい。クラスにおいて、普段の授業では話さない人でも、スピーチという設定と、自分の好きなことを話すということで、たくさん話せたように思う。

3点目としては、クラスゲストを呼び、スピーチの聴衆となってもらったことにより、スピーチの聞き手が増え、よりバラエティに富んだインターアクションの機会が持てた。

4点目としては、クラスの雰囲気をリフレッシュすることができたことである。この授業時間の背景として、コース開始後5日目であり、前日は読む活動が中心の授業で、1時限目は文法項目の復習の授業だったので、学習者は少し飽きてきているように見受けられたことがある。このような雰囲気を変えるために、学習者も、そして教師自身も楽しく学べるような授業を行うことは大切である。

4.2 悪かった点・改善すべき点

 時間配分があまりうまくいかず、最後の方の学習者はスピーチの時間が短くなってしまった。その理由としては、質問が一通り出たのにもかかわらず、「他にはありませんか?」と質問がでることを待ちすぎたことにあるのではないか、と実習担当教官に指摘された。また、実習生(筆者)の模範のスピーチをもう少し短くすればよかったのではないか、という指摘もあった。

筆者自身の反省としては、学習者が話に夢中になって、時間のことをあまり気にせずにどんどん話してしまっていた時に、筆者はそれをコントロールできずにいたので、最後の方で時間が足りなくなってしまった、と考えた。そのような場合、どのように学習者をコントロールし、気分を害することなくうまく話を切り上げてもらえるのか、今後の課題として考えていきたい。

このスピーチは、最初自分の好きなことについてあまり詳しく話さず、詳しいことは聴衆とのやりとりの中で話していく、という形をとっているので、質問が出ないとスピーチ自体が進まなくなってしまう。今回の授業では、そのようなことはなかったが、質問が出るまでに時間がかかることは多くあった。クラスゲストには、基本的には学習者同士のインターアクションを優先してもらうように頼んであるので、最初からクラスゲストが質問を続けるということはない。クラスゲストがいない場合や、あまりに質問が出ない場合は、教師が質問し学習者に質問を考える時間を与えたり、質問するきっかけを与えることができる。

5. まとめ

 このレポートでは、実際に実習で行った「身近な事柄のスピーチ」の授業の方法を記述し、授業の留意点、利点、欠点について考察した。今回の授業では、初級後半から中級レベルの学習者対象であったが、この授業は他のレベルの学習者にも応用できると考えられる。上級の学習者なら、スピーチスタイルを指定することなどが考えられる。また、今回は扱わなかったが、「スピーチ」という活動においては、「良い聞き手」になることも非常に重要である。話し手が話しやすいような質問の仕方、あいづちの仕方など「聞き方」についても授業で扱うことができたら、学習者にとってより意義のある授業になるであろう。今後は、反省点を踏まえ、良い点をさらに生かし、学習者に応じた適切な、そして楽しい「スピーチ」の授業を行っていきたい。さらに、日本語教育における「スピーチ」の授業の1つのモデルとしてこの授業を生かしていただけたら、幸いである。

【注】

筆者は新川先生のティーチング・アシスタントを担当したことがあり、そのときに行われた授業を参考にさせていただいた。ここでお礼を申し上げたい。

引用文献

岡崎敏雄,岡崎眸.1990.『日本語教育におけるコミュニカティブ・アプローチ』東京:凡人社.

岡崎敏雄,川口義一,才田いずみ,畠弘巳編.1992.『ケーススタディ日本語教育』東京:おうふう.

高見澤孟,伊藤博文,ハント蔭山裕子,池田悠子,西川寿美.1997.『はじめての日本語教育 [基本用語事典] 』東京:アスク講談社.

田中望. 1988. 『日本語教育の方法_コース・デザインの実際_』東京:大修館書店.

東海大学留学生教育センター 口頭発表教材研究会.1995.『日本語 口頭発表と討論の技術_コミュニケーション・スピーチ・ディベートのために_』東京:東海大学出版会.

Long, M. 1983. Linguistic and Conversational Adjustments to Non-Native Speakers. Studies in Second Language Acquisition 5/2: 177-193.


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名古屋大学大学院国際言語文化研究科
日本言語文化専攻