教師の質問と指示についての一考察
-初級クラスにおける質問のタイプに注目して-
深川美帆

1. はじめに
 教師の質問は教室場面での学習者の活動に大きく関わっている。学習活動の多くは教師によって少なからずコントロールされているおり、教師の行動が授業が本来の目標を達成できるかどうかを左右するといってよい。限られた授業時間の中で、効率よく学習を進めるためにも、できる限り学習目的に合った学習活動を行えるような指示や質問によって学習活動を行いたいものである。
 春期の実習で、筆者は「コーラス」などのリピート練習が多いという指摘を受けた。そこで、夏の実習では、1)リピート練習に偏らない学習活動にすること、2)なるべく学習者自身が学んだことを使って、自分で考えて答えられる質問を取り入れた授業を行おうと心がけた。
 また、これまでに自分の授業を振り返ったり、他の実習生の授業を観察していて感じたことの一つに、教師側は授業中はたくさん発話し動いて慌しく過ぎていくが、もしかしてそのことによって教師側が「練習した」つもりになっているだけであって、学習者にとってはそんなに充実した時間になっていないのではないかという疑念があった。
 そこで、このリサーチでは、自分が授業で学習者に対してどのような質問や指示をしているかを見直し、自分の質問はどのような特徴を持っているか、そしてそれが学習者の活動とどのように関わっているかを観察したいと考えた。

2.質問についての先行研究
 教室場面で教師が行う質問は、以下のように分類することができる(小池1994)。
提示質問(display question) 学習者の理解を試すための質問
指示質問(referential question) 質問者が答えを知らない質問
 さらに、提示質問は、常に答えの決まっている質問(closed question)であるが、指示質問には、常に答えの決まっている質問と、答えの決まっていない質問(open question)がある。
 教室内では、一般に、提示質問が圧倒的に多く使われることが指摘されている。これは、授業で扱ったことを学習者が理解しているかどうかを確認する必要があるためと考えられる。また、2つの型の質問が学習者の反応に及ぼす影響を調べた研究によると、提示質問より指示質問の方が学習者から統語的に複雑な答えを引き出したという研究結果がある。この理由としては、答えの決まっていない質問では期待される答えの内容は自由なので、答えを考えるときに複雑な認知的過程を経るという点が考えられる。そして、これらの質問は学習者の発話の質を高め、量を増加させることが多いので、学習者がこれらの質問タイプに答えることが学習者に「より大きな努力と処理の深さを促して、習得への刺激なる」と言われている(小池1994 :182)。
 また、中村(1998)は、準中級クラス(学習者数は13人〜19人)の日本語の読解授業において教師が行う質問を分類し、「提示質問」と「指示質問」に対して、学習者がどのような反応をしているかを分析し、学習者の発話を促すための効果的な質問の仕方を分析した。中村は予備調査の結果を踏まえて、次の授業では提示質問だけでなく、指示質問も意識的に取り入れた結果、学生が学生自身について話すのをきく機会が増えたこと、文法に関する提示質問に対して、学生は積極的に返答し、また自発的に答えようとする態度がみられたが、発言内容はそれ以外に広がらなかったことを報告している。今回、分析対象とする授業はゼロ初級における文法項目の導入が中心となる授業であることから、当然提示質問が多いことが考えられるが、初級でも場合によっては指示質問を入れることによって学習活動に変化をつけ、授業が活性化するのではないかと考えられる。

3.目的と方法
 次の2点に注目して授業を分析する。
1)教師と学習者の発話について
目的:自分が授業で学習者に対してどのような質問や指示をしているか。また、それにより、授業全体の構成はどのようになっているか。
方法:Moskowitz(1971)のFLint1)を参考にして、授業における教師と学習者の行動を分類し、当該授業の学習活動が偏っていないかどうかを調べる。
2)質問の種類について
目的:自分の質問はどのような特徴を持っているか。
方法:1)で分類した教師の行動のうち、教師が学習者に対して発する質問を抜き出し、指示か提示かに分類する。また、それに対する学習者の反応はどうであるかについても考察する。

4.分析対象とする授業の概要
 AET実習コースでのゼロ初級で筆者が担当した授業のうち、以下を分析対象とする。

授業日時:2000年8月16日
教授項目:ゼロ初級クラス(class1)、第6課(L.6)のうちの1コマ目(50分)
動詞の導入、動詞+たいです、
学習者 :日本語学習歴のない英語を母語とする学習者8名
(男性5名、女性3名、全員が20代。)
 学習者の特性としては、全員が英語教師助手として今後、日本の中等教育機関
に配属されるということから、授業に協力的であり、授業に真剣に取り組む雰囲
気が感じられた。

4. 考察
4.1 学習活動の特徴

 50分の授業で教師の行動と学習者の行動の内訳は以下の通りである。

表1 教師と学習者の行動の分類(D.Allwright:205-206より。日本語は筆者)

カテゴリ 回数
teacher talk Indirect
Influence
1 deals with feelings 気分をたずねる 2
2 praises or encourages ほめる、はげます 17
2a jokes 冗談など 1
3 uses ideas of students 学生の発話の言い換え、要約 14
3a repeats student response verbatim 学生の発話をそのままくりかえす 28
4 asks questions 質問する 31
direct
Influence
5
give information
説明、教師の意見など 105
5a corrects without rejection 否定せずに訂正する 8
6 gives direction 指示(指名を含む) 33
6a directs pattern drill パターンドリルの指示 39
7
criticizes student behavior
学習者の行動を注意する 0
7a criticizes student response 学習者の答えについて注意する 2
student talk 8 student response, specific 自由度の低い答え 45
8a student response, choral 個人または全員のコーラス 60
9 student response, open ended or student-initiated 自由度の高い答え 62

図1 教師と学習者の行動の分類

 学習者と教師の発話数を比べてみると、教師の発話の方がやや多かった。質問の流れのほとんどが教師から学習者であったので、ぺアワークなどにして学習者間で質問する活動を加えればよかったのかもしれない。
 学習者の発話の内訳をみると、今回の授業においては、教師側が意識していたこともあり、自由度の高い答えが実際に組み込まれていたことがわかる。しかしながら、コーラスや自由度の低い質問の割合は多いが、これは、授業が初級のはじめであることや、新規の動詞語彙導入が多かったこととも関係があると思われる。

4.2 質問の種類の特徴

表2 教師の質問の内訳

提示質問 35
指示質問 28

 教師自身が行った質問の割合は提示質問も指示質問も大差はなかった。しかし、提示質問の多くは全員での返答やコーラスが多いのに対し、指示質問は一人ずつ答えている。したがって、学習者一人当たりについて考えると、提示質問に答える場合のほうが多かったといえる。また、指示質問は、学生が一部の語句だけを入れかえるだけの答えの形式の自由度が低い質問が多かった。

4.3 指示質問をいれたことによる教室活動への効果

 指示質問を入れたことにより以下のような教室活動への効果が観察された(例文中のTは教師を、Sは学習者を表わす)。

1)指示質問を入れたことによって、本当の意味でのインターアクションが加わった。


 例1 (「〜たい」を導入した後、日本地図を広げて)
 T :みなさん、どこにいきたいですか。
 S1:北海道にいきたいです
 S2:京都にいきたいです
 S3:沖縄にいきたいです
 S4:me too、私もです

 教師がこの質問を投げかけると、学習者は即座に自分の行きたいところを口々に言いはじめた。

2)指示質問を入れたことによって、学習者が知りたい表現を増やすことが出来た。

 例2(行った先で何をしたいかをきいている場面)
 T :S5さん(指名)
 S5:北海道にいきたいです。あー、くも
 T :くも?え?
 S5:mountain.
 T :ああ、やま。
 S5:やまにみたいです。
 T :あ、やまが 。
 S5:やまがみたいです。
 T :はい、やまがみたいです。(「やま」の絵を書いて)これはやま、やま、やま。

 これ以外にも、自分が言いたい語彙や表現の質問や確認が学習者の方から自発的に出た。

4.4 他の実習生の授業から
 同じゼロ初級を担当した実習生の授業で、形容詞を導入後、学習者にそれぞれの持ち物について質問したり(L.3)、「います/あります」の導入後、学習者それぞれの部屋に何があるかを質問している例(L.5)もみられた。なお、自分の授業でも、他の実習生の授業でも共通する問題点として以下のようなことが挙げられる。

1)今回のようなゼロ初級の場合、極めて短い期間であることから、つい多くの語彙・表現を導入しようとしがちである。そのため、授業時間が語彙導入で終わってしまうという場合もあった。 


2)教師が答えを知らない質問をしたにもかかわらず、follow-upがおざなりなため、真のコミュニケーションには成り得なかった。せっかく学習者自身のことについてたずねていても、すべて儀礼的な「そうですか」とか「はい」で終結してしまっている場合も見られた(本稿の例2のTの5番目の発話を参照)全てのターンについて話題を広げる必要はないが、時にはそれに関連する質問を加えるなどの工夫があると、現実のコミュニケーションにより近くなると思われる。


3)指示質問を取り入れてはいたが、あまりうまくいかない場合もあった。これには、質問や活動内容が学習者のレベルに合っていなかったことが考えられる。質問内容によっては、まだ未習の表現があるため、英語で答えが返ってくる場合もあった。

5. 考察・指示質問を初級でとりいれる試み

 以上のように、指示質問を練習にとりいれることで、実際のコミュニケーションに近いいやりとりを教室内で行うことができ、また、学習者自身から知りたい語彙や表現について自発的な質問も出ることが確かめられた。
 そこで、今後の授業のために、どのようにしたら指示質問をとりいれることができるかについていくつか考えてみる。

1)学習者自身のことについて質問する
 今回の実習生の例にもあるように、学習者自身の事柄やその学習者しか知らないことについてたずねることは、教師や他の学習者も答えを予測できないので、本当の意味でのコミュニケーションに近いやりとりが可能になる。この他に、見学した授業(注2)の中では、以下のような質問が練習に組み込まれていた。

 例3「ている」の導入のあと、それぞれの持ち物や服装について質問する。

 T :S1さん、今、ポケットの中に何が入っていますか。
 S1:鍵とお金がはいっています。

 

 例4 可能形の導入のあと、それぞれの国でできることについて質問する。

 T :皆さんの国でどんなことができますか。
   例えば、皆さんの国では日本の料理が食べられますか。
 S2:お金があれば、食べられます。
 T :国で日本の料理の材料は売っていますか。
 S2:大きいスーパーにいけば買えます。

 このように、一つの質問をきっかけに関連することについてさらに質問ができたり、また、話題によっては他の学習者も自発的に自分が知りたいことを質問したりする場面もみられ、活発なやりとりが行われていた。

留意点:
 学習者自身のことについてたずねることは、いろいろな場面で使えそうだが、話題や学習者によっては不快感を与えたりする場合も考えられるので、注意が必要である。

2)学習者自身が考えたり、想像したりして答える質問をする
 学習者自身の事柄をたずねる以外にも、タスク等によってインフォメーション・ギャップを利用して、指示質問をとりいれた練習を行うことが可能である。今回の実習生の授業でも、少しずつ違った配置の2つの部屋の絵についてペアで質問しあいながら相違点を探すというタスク等が取り入れられていた(L5)。その他、筆者が受けた外国語の授業では、次のような練習もあった。

 例5 過去形を導入した後の練習
  まず、例として有名人の伝記を書いたもの(短い文章)を見せる。それから、学習者自身が自分についての伝記を想像して書く。そのあと、 学習者同士で、その人について質問する。


 S1:私は1972年に日本で生まれました。作家でした。
 S2:あなたの書いた本の題名は何ですか。
 S3:外国にも行きましたか?(S1:はい)どこの国に行きましたか。
 (以下、S1に対して、いろいろな質問をする)

留意点:タスクなどの練習を行う場合は、学習者が何をすればいいのかがわかるように手順をわかりやすく説明する必要がある。

6. まとめ
 教師は自分が学習者に与える指示や質問が実際には学習者に何を提供していることになるかを意識して授業を計画、実施する必要がある。今回の試みでは、学習活動が偏らないようにするために、教師の質問の仕方を工夫したが、少しでも意識することで、学習活動に変化をつけることが可能であることを実感した。また、ゼロ初級でも本当のコミュニケーションに近い活動をとりいれることは工夫次第で十分可能であることもわかった。今回は、自分の担当した授業についての分析だったが、他の経験ある教師の授業との比較や、読解や聴解などのほかの活動における教師の質問についても考えてみたいと思う。
 自分の授業を客観的に振り返ってみることは、これまで意識していなかった自分の癖や練習のパターンを発見することができる。このような授業観察を通して、日頃の授業の改善に役立てることは必要であろう。

【注】
(1)MoskowitzはFlandersの相互作用分析のための枠組みを元に、Foreign language interaction analysis (FLint) systemとよばれる、授業分析用の枠組みを作った。これによって、よい教師は授業においてどのような相互作用を行っているかを検証したり、教育実習生の授業改善に利用することを目的としている。(D.Allwright:11)
 この他にも分析の枠組みは調査目的によって多数あるが、FLintは今回の調査目的である教師と学習者の発話行動を中心に調べるという点で扱いやすかったためこれを利用した。また、FLintには沈黙(silence)やざわつき(confusion)、英語の使用、笑いなどのカテゴリもあったが、今回はこれらは利用しなかった。

(2)いずれも初級後半レベルのクラスにおける練習から(2000年3月15日春期日本語集中コースの見学において)

参考文献
安斉真生「指示の出し方について―初級レベルの場合―」1998年度名古屋大学日本語教育実習報告書
中村透子(1998)「教師の質問の種類による学習者の反応の違いに関するアクションリサーチ」(横溝紳一郎著『日本語教育学会平成10年度第1回研究集会会員研修資料アクションリサーチ』に掲載)
小池生夫監修、SLA研究会編(1994)『第二言語習得研究に基づく最近の英語教育』大修館書店
山根しのぶ「教師が行う<質問>に関する一考察」1999年度名古屋大学日本語教育実習報告書
Allwright,D. Richard Bailey,K.M.(1991) Focus on the Language Classroom, Cambridge U.P.


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名古屋大学大学院国際言語文化研究科
日本言語文化専攻