シラバス決定とクラス運営の資料としての

授業後アンケート及び授業引継ぎノートについて

 

大和祐子

 

 

1. はじめに

 

通常、日本語教育の現場では、シラバスがあらかじめ用意された状態で、コースが開始する。しかし今回の実習では、初級後半クラスに入ってきた学習者はレベル差があることが事前調査などから予想され、前もってシラバスを立てておくことはできず、後行シラバスを用いることになった。

実習でのレベル差のあるクラス運営については、蓮池(1999)や馬場(2000)などの研究がある。本稿ではシラバスが決定する過程とクラス運営の資料としての授業後アンケートや引継ぎノートについて見ていく。

 

2. 分析方法

 

本稿では、今回初級後半クラスでとった後行シラバスの実践にあたって、筆者が担当した授業のうち、8月16日1限の授業をシラバス作成の前の段階として、作成されたシラバスにのっとって行った授業の例として8月18日1限の授業を分析する。さらにそれぞれの資料はクラス運営の改善のための資料としても用いた。

本稿で主に用いたデータと実践と分析の手順を次に示す。

 

2.1. 分析データ

本稿で分析に用いるデータは以下のとおりである。

 

(1)事前調査データ

今回の実習では、クラス分けを行う目的でクラス分けについては、(1)ニーズ調査とレディネス調査を含めたアンケートによる事前調査、(2)インタビューテストによって文法能力を判断するプレイスメントテスト(以下、PT)の2種類の調査を行った。

 

(2)授業観察データ

筆者が担当した授業のうち、8月16日1限と8月18日1限の授業を同じクラスを担当した教師に観察してもらい、気になる教師の発話や学生の様子をメモしてもらった。さらに、その授業を観察した中で改善した方がいいと思われる点を授業後にコメントしてもらった。他の教師からのフィードバックを得ることにより、自分の授業を教師の側から客観的に見直す目的でこのデータを用いる。

 

(3)授業後アンケート

本稿では、毎授業後に学習者に対して行った授業後アンケートも分析対象とする。このアンケートは、教師へのフィードバックと今後のコースの運営の希望を知るために行った。このアンケートはオリエンテーションやJapanese dayなどを除く8月13日から8月20日までのすべての授業で行った。本稿では、筆者が1回目の授業を行った8月16日1限の授業後アンケートから2回目の授業を行うまでの8月18日1限までを分析対象とする。

今回、初級後半クラスで実施した授業後アンケートの内容の概要は、次のようなものである。

 

・授業に満足できたか。満足度は?(点数で)

・トピックの選択

・学生が話す機会

・授業から得られた知識

・授業の理解度(5段階評価)

・今まで知らなかった知識を得られたか。

・授業の中で有益でない、もしくは不満であると思った活動があったか。

・授業の中で他の学生のまえで、あなたにとって分からないことや難しすぎることを教師に指名され、言わされたことがあったか。

・自分の理解度を教師は気づいていたと思うか。

・教師の話し方は分かりやすかったか。教師の話し方で重要なものとは何か。

・授業の中で不要であると思われる時間があったか。

・教師のフィードバックの量はどうか。的確だったか。

 

(4)授業観察ノート

2回目の授業である18日1限の授業までのうち、16日の2限と3限の授業を観察した。授業の展開やそのときの学習者の様子をノートに記述した。

 

(5)授業引継ぎノート

毎授業後、授業担当者が教師から見た学習者の反応をメモにして残した。これは、次の学習者へ引き継ぐべき学習者の既習語彙、授業中に学習者が話した個人的な情報、パターン練習での学習者の様子などを記述した。本稿では、8月16日から8月18日までの情報を分析・反省に用いた。

 

2.2. 実践の手順

本稿では、後行シラバスを用いるきっかけとなった事前調査の結果から実践・改善を経て反省に至るまで、以下のような手順で行った。

 

(1)コース開始時の指導方針の決定

コースの開始までに分かった学習者情報をもとに、コースデザインを話し合った。後行シラバスを採用する経緯とコースデザインに必ず組み込むものに関して、初級後半クラスの担当者で話し合った。

 

(2)8月16日1限の実施

あらかじめコース開始時までに分かった情報をもとに、授業を行ってみた。ただし、まだこの時点での授業はコースの前半であったため、学習者情報が十分であったとは言いがたく、学習者の既習事項の把握も十分ではなかった。

 

(3)8月16日1限の授業の反省と8月18日1限の授業計画

実際に行った8月16日の授業を学習者の授業後アンケートの結果と初級後半クラスの担当者による授業観察から、授業の反省を行う。また、2回目の授業までの他の授業担当者の授業を観察したり、引継ぎノートに残された情報をもとに本格的にシラバスを作成し、8月18日1限の授業計画を立てた。

 

(4)8月18日1限の実施

1回目の授業の反省を生かした上で、実際に2度目の授業を行ってみる。さらに、この授業に関する授業後の学習者・教師からのフィードバックを受け、作成したシラバスと授業計画について考える。

 

3. コース開始時の指導方針

 

3.1. 初級後半クラスの概要

今回のAET日本語教育実習は、Aクラス(初級クラス)、Bクラス(初級後半クラス)、Cクラス(中級クラス)の3クラスに分けて行われた。

2種類の事前調査によってクラス分けされた5名の学生は、(1)英語母語話者である、(2)すでに日本での生活経験がある、(3)日本語能力はゼロ初級ではない、という3点が共通しているのみで、彼らの日本語学習経験や日本語学習期間はさまざまであった。以下に、アンケートによる事前調査によって分かっていた学習者の情報をまとめる。

 

表1・初級後半クラス学生の概要(事前調査より)

 

以上のような情報を見る限り、日本語の正確さという点では、ほぼ同レベルであると判断された5名の学習者であるが、流暢さなどの点ではかなり差があるのではないか、ということが予想された。

さらに、PTでは同レベルであると判断されはしたものの、このPTはインタビューテストによるものであったため、「偶然その文型を用いなかった」ために、その文型を知らない、と判断された学習者がいただろうということも予想された。またその逆で、「偶然その文型を用いた」ために、実際の能力よりも高い日本語能力を持っていると判断されることもあると考えた。

実際に授業が始まる前に、より正確に学習者の文法能力を知る目的で、Bクラスに入る予定である学習者を対象に、さらに文法能力を測るテストを行った。このテストは、20問の文型が入っている日本語の文を英語に訳してもらうというもので、既習文法を知る目的で行った。その結果、20問中15問程度正解する学習者がいる一方で、ほとんど正解することができなかった学習者がいることが分かった。このようなテストから、Bクラスに入ることになっている学習者間には、かなりの能力差があるということが明らかになったため、Bクラス担当教師で相談した結果、Bクラスの指導方針として、以下の2点を挙げることにした。

 

・学習者の日本語能力が把握できないため、後行シラバスを採用する。

・学習者の日本語能力差が大きいことが予想されるため、語彙力などが少ない学習者も授業についていくことができる工夫を行う。

 

次に、これらの指導方針の詳細を見ていくことにする。

 

3.2. 後行シラバス

本稿では、田中(1988)の後行シラバスの定義を採用する。

Bクラスのように学習者の日本語能力が授業開始時点にはっきりと想定しにくく、また幅広いと思われる学習者のレベルのうち、どの位置にいる学習者に焦点当てて授業を進めていくべきなのか、ということについて検討しかねていたため、13日2限の自己紹介を扱う時間に学習者の既習文法項目などを見極めたうえで、その後の授業の詳細をBクラス担当教師で話し合うことにした。その際、教師の授業をしてみた感触のみならず、学習者に対して行う授業後アンケートや学習者の授業中の振る舞いなどを参考にシラバスを作成した。

 

3.3. 「〜ってなんですか」の導入

今回の実習では、前述のように後行シラバスを採用する方針を採ったため、授業内で導入する文型のほとんどは、コース開始時点では決まっていなかった。しかし、今回の実習で担当するクラスは、事前の文法テストの結果から学習者間の語彙力の差があることが予想された。そこで、語彙力が低い学習者が新出語彙の意味を知るなどの手段として「〜ってなんですか」をコースの最初に導入することにした。この「〜ってなんですか」は、今回の授業のなかで使える表現であるだけではなく、実際のコミュニケーションでも利用しやすいものであると考える。

実際にコースの初日である8月13日の授業で、「〜ってなんですか」を導入し、その後の授業でも折に触れて使用するよう教師が促すことにした。

 

4. 8月16日1限の実施

 

8月16日1限では、事前調査で明らかになったことから、授業を行った。概要は以下のとおりである。

 

<テーマ> 許可を得る言い方を覚える 「〜てもいいですか」

<授業参加者> 全員(LF2は10分ほど遅刻)

<授業の流れ> (授業観察ノートより)

9:30  導入−週末の話

9:34  会話例を読み上げる

9:35  会話の意味の確認

9:40  会話例を配布して、リピートする

9:50  「〜てもいいですか」の説明

9:55  ペアでドリルを行う

10:05  ペアワーク終了・発表

 

5. 8月16日1限の授業の反省と8月18日1限の授業計画

 

 8月16日1限の授業の反省を次のように、@自己評価、A他の教師の授業観察ノートおよびフィードバック、B授業後アンケートの3点から行った。その反省を受けて、次回の授業である8月18日1限の授業で留意すべき点、そして8月18日までに筆者が授業を行うまでに行われた同クラスの授業の引継ぎノートなどの情報をもとに、8月18日の授業の計画を立てた。

 

5.1. 8月16日1限の授業の反省

 

5.1.1. 自己評価

コースが開始してから8月16日までの数時間の授業(自己紹介の練習、可能形など)を観察した印象では、コース開始前にBクラス独自で準備した文法能力を測るテストで出た結果と比較して、学習者間の実力差はあまりないという印象をもった。さらに、学習内容に関して、特に難しそうであるという反応を見せた学習者もいなかったため、もう少し難易度の高いものを提供する必要があると考えた。さらに、シラバスを作成するにあたって、もう少し明確に学習者の実力を明らかにした方がよいと考え、やや難しいかと思われる方法で新しい項目を導入することにした。

そこで、会話例のスクリプトを渡さない状態で教師同士での会話を聞いてもらい、意味が取れるのかということを試してみた。普段から日本語を使う機会が多いLM2は、ある程度の意味は取れていたものの、キーワードの意味を取り違えるなど、LM2にとっても難関であったことが分かった。それ以外の学習者も理解はできていない様子だった。

学習者の会話聞き取りの場面での反応がやや予想外の反応であったため、あわてて会話のスクリプトを配ってしまい、十分にやるべきであった会話の意味確認も軽く流すようにやってしまったのは、今回の最も反省すべき点であると思われる。語彙の確認などの場面では、春の実習で教師である自分が「話しすぎてしまう」という反省に基づいて、わからない語彙に関してはコースの初めに導入した「〜ってなんですか」を用い、出来るだけレベルの高い学習者が答えることにより、学習者間の発話を増やすべきなのではないか、と考えたが、それがなかなか上手くいかなかった。

さらに、最初の会話が聞き取れなかったということがクラスの雰囲気を暗くさせてしまった。特に、事前のアンケートでも語彙力が不足していると申告していたLM3は、語彙を理解できなかったことがかなりストレスになっていることが分かった。

その後ペアで練習をする際には、クラス内にレベル差があることを考慮に入れて馬場(2000)で指摘されているように、ペア練習ではレベルの高い学習者をどのグループにも入れるように考慮した。そのためペア練習の後の発表では、どのペアもある程度話すことができるようであったが、やはり完全に理解していない学習者もいると思われる。

 

5.1.2. 他の教師の授業観察ノート及びフィードバック

 この授業では、教師であるはずの筆者のFollow-up発話の少なさが大きな問題として指摘された。単調なFollow-up発話というだけでなく、学習者が話す内容に関しての教師のリアクションがないことが問題であることが明らかになった。さらに、ペアワークをさせる時間が短すぎるのではないか、との声も聞かれた。

 

5.1.3. 授業後アンケート

 学習者から得た授業後アンケートの結果を次に挙げる。このアンケートは無記名で行われたため、回答した学習者を特定することはできない。ここで学習者名として挙げているAからEは便宜上つけたもので、先に挙げたBクラス学習者とは対応していない。

 

表2・授業後アンケート(8月16日1限)

 

この表からは、学習者のレベル差がより明確に現れているように思われる。特に学習者Dと学習者BとEの実力差はかなりあったものと思われる。授業の進度をどの学習者に合わせるのか、検討する必要がある。

しかし、そのようなレベル差にかかわらず筆者が問題視なければならないのは、教師のフィードバックの量が少なすぎると評価した学習者が多かったということである。筆者自身は、「話しすぎない」ために行ったつもりであった、学習者の質問に教師が必ず答えるということを避ける行動は、学習者にとってはコントロールされていない授業、教師が無責任な振る舞いをしている授業と捉えられかねないということが分かった。

特にこの表の学習者Bは、学習者が自分の理解度に気づいていない、つまり教師は自分の分からないというシグナルを受け止めていない、と考えていることが分かった。また、ペアワークの練習が足りなかったとの指摘も見受けられた。これに対して、学習者AとCにとっては、今回の授業の進度や難度がほぼ適切であったと考えてよいだろう。

 

5.2. 8月18日1限の授業計画

 

5.2.1. 8月16日1限の授業の反省から

5.1.で挙げた8月16日1限の授業の反省から、大きく分けて@教師自身に起因する問題点・留意点、Aクラスの特性に起因する留意点があると思われる。

まず、教師自身に起因する問題点としては、学習者の発話への配慮の問題があるだろう。授業後のアンケートや授業観察を行った教師からのフィードバックにより、教師の役割としてのFollow-up発話が筆者の場合、極端に少ないということが分かった。確かに教師が話しすぎず、学習者の協調関係を重視することは必要なことではあるが、教師がFollow-up発話をあいまいにしていることが、語彙力に自信のない学習者にとっては、さらに自分の発話が正しいのか、不安に感じてしまう、ということも分かった。

クラスの特性に起因する問題としては、学習者間のレベルの差が大きいということにあるだろう。8月16日に行った授業では、授業内容が難しすぎると感じる学習者がいる一方で、すでに知っている内容を扱っていると感じる学生がいたことも分かった。今回の実習では、レベルが高い学習者が、この時点で他のクラスに移るということは難しかったため、現状のクラス構成のままで、レベルの高い学習者が退屈をせず、かつ語彙力や文法力がない学習者がストレスを感じない授業を目指す必要がある。しかし、これを授業に上手く反映させるのは非常に困難である。

 

5.2.2. 8月16日2限〜8月17日1限の授業観察と引継ぎノートから

 今回の実習では、筆者が担当した初級後半クラスを3人の教師が担当し、順に授業を受け持つという方法でコースを進めていった。そのため、1人の教師が続けて授業を担当することは少なかったため、自分が担当しない授業の観察やその授業での学習者の様子は教師が知っておくべき情報であると考える。特に、今回初級後半クラスで採用した後行シラバスの場合、学習者情報がシラバスを決定するひとつの要素であると思われる。

授業観察の記録と引継ぎの記録は、以下のとおりである。

 

8月16日2限/3限

・学習者のレベルをはかること、またどの学習者のレベルに合わせた授業を行うのか、ということについて、試行錯誤が続いた。(授業観察ノート)

2限も3限も学習者によって、難易度が合う学習者がいない状態になっており、学習者の1人にレベルを合わせる必要があるのかもしれない。(学習観察ノート)

LM2は自分の国のことを話すのに、あきあきしている。(引継ぎノート:2限)

LM3の反応が気になる。(引継ぎノート:2限)

LM3にレベルを合わせてやるべきだったのかも。(引継ぎノート:3限)

 

8月17日1限 (すべて引継ぎノートより)

LM2だけタスクでの書き込みと実際のタスクの関連が分かっていない。

LM2は読むのが苦手?

LF1とLF2はオリジナルな「誘い」をした。

LM3は積極的に質問できるようになってきた。

 

この2日間の授業観察ノートと引継ぎノートから、LM3の語彙力に合わせて、やや復習の要素をもつ授業内容を行うことによって、16日の授業で「分からない」ことによるストレスは少なくなっているのではないか、ということがうかがえる。一方で、復習のような内容に不満を持っているのではないか、という学習者の様子も一部見られる。このような状況にどのようにして、対応していけばいいのかは、課題として残っているものと思われる。

 

5.2.3. 8月18日1限の授業計画

コース開始時にある程度決まっていた内容としては、この時間は、「依頼・承諾・断り」を行う予定であった。しかし、時間は1限と2限の前半を用いることにしているものの、前述の3つの機能を詳しく扱うことで、前回のように練習時間が不足することもありうるだろう。

また、「依頼・承諾・断り」は様々な言語形式を用いることができるが、新たな文型を導入することは、授業後アンケートや引継ぎノートから見られる学習者の様子から、ふさわしくないだろうと考えた。そこで、すでにこのコースで学習している「〜てもらえませんか」が依頼を行う際にも用いることができることを示すことにした。今回は、クラスの中でレベルの高い学習者に関しては、ドリルなどで対応することにした。

 

6. 8月18日1限の実施

 

6.1. 8月18日1限の概要

5.で挙げた前回の授業の反省に基づいて、次のように授業を実施した。

 

<テーマ> 依頼ができるようになる。簡単な承諾と断りもできるようになる。

      「〜てもらえませんか」

<授業参加者> 3名(LF1、LM2、LM3)

<授業の流れ> (授業観察ノートより)

9:30  導入−日本に来てどんなことが大変だったか

9:42  「〜てもらえませんか」を提示する

9:50  モデル会話を読む、リピート 

10:00  練習 依頼−承諾/断り

(休憩)

10:30  アクティビティ「パーティーの準備」

 

6.2. 反省

 

6.2.1. 自己評価

この授業では、すでにコースで扱い、学習者全員が既習である項目を扱ったため、「分からない」という反応は見られなかった。ここでは、「〜てもらえませんか」の文型を導入することが目的ではなく、その文型が依頼にも用いることができることを理解してもらうことが目的であった。前回の反省に基づき、練習の時間を多めにとるように配慮した。

今回の授業では、内容がクラス全体のレベルに比べ易しかったことから、新出語彙があった場合でも余裕が生まれてきたのか、コースの最初に導入した「〜ってなんですか」を用いて質問することができるようになってきた。

 

6.2.2. 授業後アンケート

8月18日1限の授業後アンケートでは、以下のような結果が見られた。8月16日のものと同じく無記名で行われたアンケートであるため、前述の5.1.3.での学習者名とは同じではない。

 

表3・授業後アンケート(8月18日1限)

 

この表によると、教師の話し方など教師の技術面にかかわる課題は残っているが、少なくとも理解度という面では前回の授業より上がっていることが分かる。授業に対する満足度も上がっていると思われるが、これは理解度と混同していることも考えられ、一概に「新しい知識が得られた」「十分な練習ができたので、自信を持って実際に使ってみることができる」という意味での評価かどうかは、このアンケートからは不明である。

このアンケート結果は、「学習者にとって既習の限られた文型で話すことが出来るようになる」とのシラバス決定後の目標が、すべての学習者にとってある程度、適切な学習目標であったことを示唆しているのではないだろうか。

 

7. まとめ

 

ここまで、学習者による授業後アンケートなどからシラバスを作成した過程を振り返ってきた。今回の実習の場合のように、レベル差のある学習者が1つのクラスに参加する場合、後行シラバスを用いる意義は大きいと思われる。今回の実習ではクラス運営の改善についてはもちろん、シラバスを作成するにあたり、学習者の授業へのニーズや授業のレベルを決定する上で、授業後アンケートとや引継ぎノートが有益であることが示唆された。

また、実際に後行シラバスを用いる場合、そのメリットとデメリットも明らかになった。後行シラバスによって授業を進めようとするとき、シラバスの大枠のみがコース開始時に決まっているだけで、どうしてもコース開始から間もない期間は、学習者の詳しいニーズや実力を知ることに時間をあてなければならない。そのため、後行シラバスは学習者の要望に応える形で授業が進められるという利点がある一方で、最初の数日間は必ずしも学習者に満足のいく授業が提供できるわけではない、という問題点がある。今回の実習のように、短期間のコースの場合、効率がいいとは言いにくい。

ただし、今回の実習でも学習者の詳しい情報を教師側が認知できるようになった17日以降の授業では、どの授業も学習者からある程度の満足度を得ることができた。今回の実習期間は1週間と限られていたため、後行シラバスの利点を存分に生かすことができたとは言いがたいが、さらに長期間行うような授業では成果が上がる可能性はあると考える。

 

<参考文献>

田中望(1988)『日本語教育の方法−コースデザインの実際』大修館書店

蓮池いずみ(1999)「中級クラス運営上の問題点」『名古屋大学日本語教育実習レポート』

馬場典子(2000)「レベル差のあるクラスへの対処に関する一考察」『名古屋大学日本語教育レポート』

横溝紳一郎(2000)『日本語教師のためのアクションリサーチ』凡人社

 

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