日本語授業におけるアクティビティ(応用練習)について

三好 育恵

1.はじめに

 機械的な文型練習や形式だけに着目した単純な練習であるパターンプラクティスは、使用場面を無視した不自然な練習であり、現実のコミュニケーションに即したものではないと批判されることが多い。意味を考えず、形だけを学習する練習を続ける授業は単調でつまらないものになりがちである。しかし、形が定着する前に創造的な応用練習であるタスク練習やロールプレイをすると、形が身に付かず、コミュニケーションも成り立たない。機械的練習と創造的練習の2つのタイプの練習は、どちらもするべきである。両者を、どのようなバランスで行うのが一番効率的なのだろうか。

 筆者は、春季の教育実習で、十分なパターンプラクティスなしに応用練習(ロールプレイやインフォメーションギャップ)へと進んでしまったため、学習者を混乱させてしまったことがあった。そこで、夏季教育実習での授業においては、機械的練習と応用練習の2つのタイプの練習のバランスをうまく取れることを心がけた。

 本稿では、夏季の教育実習において筆者が担当した、初級レベルの授業3回分と、中上級レベルの授業2回分を分析対象とする。その中で、機械的練習と応用練習のバランスについて成功例と失敗例を挙げ、なぜ成功したか、なぜ失敗したか、その原因を考察する。なお、本稿で言う機械的練習とは、新出語彙の導入時の一斉形態の口頭練習や形を覚えるための単純なドリルであり、応用練習とは、シナリオプレイやロールプレイ、タスク、ゲーム、ディスカッション、スピーチ、インフォメーション・ギャップなどの練習とする。

2.授業分析

 

 本稿では、以下の5回の授業を分析する。

2.1 初級の授業 (814日実施 授業内容:自己紹介をする)

2.2 初級の授業 (815日実施 授業内容:買い物する)

2.3 初級の授業 (815日実施 授業内容:注文する)

2.4 中上級の授業(820日実施 授業内容:苦情を言う)

2.5 中上級の授業(821日実施 授業内容:考えを言う)

 これらの計5回の授業において、導入、機械的練習からアクティビティ(応用練習)への展開について、それぞれ成功した例と失敗した例を見ていく。

 初級クラスの学習者は計3名で、アメリカ出身が2名、イギリス出身が1名である。中上級クラスの学習者は計7名で、全員がアメリカ出身である。

使用したテキストは、初級クラスは、『うちわ』(昨年度のAET実習で使用されたテキスト『はなび‐つかえるにほんご‐2002年度版』を編纂したもの),中上級クラスは『ふうりん』(『新日本語の中級』を参考に実習生で作成したもの)である。

2.1 初級の授業 (814日実施 授業内容:自己紹介をする)

 授業の初日であったこの日は、次の時間に予定されているウエルカムパーティーでの自己紹介のため、自己紹介の方法について導入と練習を行った。まず、テキストに添って語彙と会話の練習をし、その後ロールプレイとゲームを行った。

 ここで行った応用練習は、記憶力ゲームである。はじめに人の顔が書かれた紙を一人ずつ配り、その人について他己紹介をし、前の人が行ったことを覚えてそれを繰り返してから自分が発言するという内容である。ここで使った語彙と文型は、「〜さんです。」「〜から来ました。」「〜が好きです。」の3つである。

 語彙や文型が限られた中で、自分だけのことを言うだけではすぐに終わってしまうので、他己紹介の形をとった。日本人のよくある名前を覚えてもらう意図で、このゲームを始める前に日本人のよくある姓を10位まで挙げた用紙を配布したが、十分に説明できず、またローマ字表記されていなかったため、有効に活用できず、実際には英語名が使われた。この点では失敗したが、次の自己紹介の時間には習ったことを言えていたので成功したと言えるだろう。

 初級クラスは、計3名であったが、ひらがなはだいたい読めるがカタカナはあまり読めない学習者がいたり、ひらがなを読むのも時間がかかる学習者もいて、全体的なレベルの把握が難しかった。また、日本語を聞くことに慣れていて、なんとなくではあるが聞いて理解しコミュニケーションが行える学習者と、日本語に全く慣れておらず指示が通りにくい学習者がおり、そのため媒介語を必要に応じて使用した。

2.2 初級の授業 (815日実施 授業内容:買い物する)

 「買い物する」の項目では、形容詞を導入した。授業では、反義語も含め計11組の形容詞を導入した(ながい、みじかい,とおい、ちかい,あたらしい、ふるいなど)。ここで、11組も導入したのは多すぎ、反義語も同時に導入したため、定着したと考えられるのは一部であった。導入後、個別形態での口頭練習と簡単なQAを経て、応用練習としてカルタゲームを行った。「あつい」「やすい」などの状態を表す絵が描かれた紙を机に並べ、教師が発した形容詞と一致する絵を取り合うというゲームである。これは、導入時に形容詞の数が多すぎたため、定着していなかったので、学習者は勘でカードを取り、基礎を踏まえた発展的練習にはならなかった。また、「たかいやま」「ちいさいぼうし」などのように、導入していない被修飾名詞が混在し、不必要な情報を与えすぎてしまった。導入時に扱った単語だけを使うべきだった。

 また、次に、実際に買い物をする場面を想定し、電化製品のチラシのレアリアを用いてロールプレイを行った。ここでは、「〜をさがしているんですけど」「もうすこしやすいのはありますか」という表現が言えることを目標とした。初めにダイアログの音読をしてから、一斉形態での口頭練習なしにいきなり教師との会話練習を始めてしまったため、「さがしているんですけど」という長い文が言えずにつまってしまう場面が見られた。最後にはテキストを見ずに言えるようになったが、「さがしているんですけど」が難しいようだった。筆者のくせとして、一斉形態での口頭練習なしに個別に指名して進めていくということがあり、学習者がとまどっている場面も見られた。

2.3 初級の授業 (815日実施 授業内容:注文する)

この時間は、注文を実際に電話でとるというタスクを行った。あらかじめ注文する店に電話し、どのような会話が行われるかを事前に文字化しておき、それを学習者に配布して、意味の確認と口頭練習を行ってから電話をした。メニューをひとりずつ配り、実習最終日のフェアウエルパーティーで食べるものを決めてもらい、注文することにした。電話は、教師の携帯電話から一人ずつかけた。(会話のスクリプトは、本稿末の注1を参照。)

 ここでの問題点は、電話の相手が文字化したスクリプト通りに話さなかったという点である。日時の確認や、受け渡し場所、合計金額などの確認は筆者が事前に注文したときは成されなかった。学習者は、導入された日本語以外のことを早口で言われて混乱し、携帯電話を教師に手渡してしまう場面があった。注文と、日時の確認はなんとかできたものの、途中教師が介在しなければならず、失敗に終わった。しかし、現実に日本語を使って電話をするという体験が出来たことで、楽しそうな雰囲気だった。

 

2.4  中上級の授業(820日実施 授業内容:苦情を言う)

 この授業では、「相手の気分を害さずに苦情を言う」ことができることを目標とし、テキストに沿って導入を行い、その後ペアワークでのロールプレイ、教師と学習者の1対1での会話へと発展させた。以下はその一部である。

「苦情を言う」会話例 (Tは教師、Sは学習者)

  (アパートで)

S:大家さん、またトイレの水が流れないんですけど。

T:またですか。このあいだ、なおしたんですけど・・・。

  S:こうたびたびだと・・・

  T:うーん・・・。

  S:ちょっと不便だし。

  T:そうですね。じゃあ、修理の人を呼びましょう。

  S:お願いします。

 

 下線部に「窓が開かない」「電気がつかない」などの選択肢を与え、ペアで練習しその後発表という形で進めた。 その後、理由を述べる表現として「〜(だ)し、〜(だ)し」という表現を使って、以下の5つの質問に対し自由に会話してもらった。

(1)東京でうちを買いますか。

(2)テレビのドラマを見ますか。

(3)国の友だちに着物を買いますか。

(4)誕生日にケーキを買いますか。

(5)クリーニング屋に下着の洗濯を頼みますか。

 以上のような質問は、学習者本人の情報を引き出すものであり、自分に関することなので、学習者も「話したい」気持ちになったようで、活発な授業になった。

2.5 中上級の授業(821日実施 授業内容:考えを言う)

 日本社会でのさまざまな「騒音」について、以下(次ページ)のような項目を挙げ、学習者それぞれに対して意見を聞き、ディスカッション形式の授業を行い、「〜と思います」「〜(ん)じゃないでしょうか」という表現を用いて、自分の考えをどのように述べればよいかということについて学習した。

音に関するアンケート

不快

気にならない

快音

1.うどんを食べるときの音

2.トイレで用をたすときの音

3.電車の中で電話をかける声

4.電車内の放送の声

5.選挙などの街頭演説

 これらの身近に起こり得る項目から、文化の差異にまで話が膨らみ、学習者の考えを引き出すことができた。

 3. 考察

 

 アクティビティのうち、特にゲームは、コミュニカティブ・アプローチの考え方が登場してから注目を受け始めた、と今村(1996)で述べられている。ゲームは、「驚き」「意外性」「ユーモア」「知的スリル」などの遊びの要素を持つ。快い、楽しいと感じるときに記憶が促進されることを考えれば、文法中心の訳読法が時に単調な外国語学習になってしまうのに対して、これらの遊びの要素は授業において効果的であると言えるだろう。(今村1996参照。)

 しかし、快い、楽しいと感じるためには、それ以前にゲームを楽しむための最低限の語彙や聴解能力などの基礎的な学力が必要になる。これは、はじめのパターンプラクティスやドリルで行うべきものである。それらの単調さを補う方法としては、当てるスピードを早くしたり、指名の方法を列順や名簿順のような一定の流れでなく、ランダムなものにするということが考えられる。

3.1 成功した応用練習

 筆者が行ったアクティビティで、成功したと考えられる例は、初級クラスでの数字のゲームと自己紹介の記憶力ゲーム、中上級クラスにおけるロールプレイとディスカッションである。数字のゲームは、一人が最大3つまでの数を言うことができ、1から始めて20の数を言った人が負け、というものである。また、一人がひとつずつ数を言い、4の倍数に当たった人が手をたたくというゲームも行った。はじめはゆっくり、慣れてきたらスピードを上げた。このゲームは、数を覚えるいい練習になった。

 自己紹介の記憶力ゲームは、当初の予定であった日本人の名前を使わせるという意図は外れたものの、3つの文型(「〜さんです。」「〜から来ました。」「〜が好きです。」)を学習するのに役立った。

 中上級クラスでの「苦情を言う」ロールプレイは、まずペアワークで練習させたあと、教師との1対1の会話に持っていったので無理なく展開できた。また、ここではレベルの低い学習者には練習どおりの会話をし、レベルの高い学習者にはアドリブを加えて発展的な会話にし、現実のコミュニケーションに近い形で会話することができた。

 以下はその例である。

「苦情を言う」会話例1 (Tは教師、Sは学習者)

  (アパートで)

S:大家さん、また電気がつかないんですけど。

T:またですか。

  S:はい、あのう。こうたびたびだと・・・

  T:うーん・・・。Pさん(学習者の名前)、電気のお金をはらっていますか。

  S:ああ、いつも・・・はらい・・・前にはらいます。

  T:はい、はらいますか。じゃあ、たぶんこわれていますから。

  S:そうですね。何も見えないですし・・・(笑)。

  T:あ、そうですか。はい(笑)。

  S:お願いします(笑)。

「苦情を言う」会話例2(Tは教師、Sは学習者)

  (アパートで)

S:大家さん、またお湯が出ないんですけど。

T:あー、またですか。

  S:はい、あのう。こうたびたびだと・・・

  T:Sさん(学習者の名前)、ちゃんとガスのスイッチをオンにしましたか。

  S:うん、しました。

  T:あ、そうですか。

  S:もうすぐたぶんぼくはくさい(笑)。

  T:はい(笑)。じゃあすぐに修理の人を呼びましょう。

  S:お願いします。

  T:はい。

「考えを言う」授業でのディスカッションでは、前述の「音に関するアンケート」の教材を用いて、日本社会のさまざまな「騒音」について考えを話すことができた。日本では女子トイレで音を消す機械があることや、電車の中で電話をかけることはマナーに反するということを話した。日本とアメリカの文化について、ディスカッション形式で比較することができた。

3.2 失敗した応用練習

 次に、失敗した例は、初級クラスでの形容詞のカルタ取りと電話で注文をするタスクである。カルタ取りの失敗の原因は、2節でも述べたとおり、導入した形容詞の数が多すぎたことと、カルタに余分な情報(被修飾名詞)が含まれており、情報過多になってしまったことである。ここでは、教師による語彙のコントロールが十分になされていなかったため、このような結果になってしまった。

 また、電話で注文するタスクの失敗の原因は、学習者がまだ日本語を聞くことに慣れておらず、学習したこと以外の日本語を早口で言われて混乱してしまったことである。ここでは、教師が学習者のレベルをきちんと把握しておらず、能力以上のことを要求してしまった。実際に電話をかけるという、現実のコミュニケーションに即した活動であったが、レベルの把握を誤ったために学習者を萎縮させ、自信を失わせてしまわないように注意すべきであった。

4.まとめ −経験の浅い教師にとって難しいこと−

 機械的練習を応用練習で生かすためには、それらが関連していることはもちろん、学習者のレベルを把握し、その場で柔軟に対処していかなければならない。授業で起こり得るたくさんの可能性をあらかじめ考えておき、動的に事態を把握していく必要があることを感じた。

授業中に扱う語彙や文型は、教師によってコントロールされるのが当然であるが、筆者のような経験の浅い教師が授業を行う上で困難な点として、語彙のコントロールや授業中に行うドリルに関連性を持たせることが挙げられる。語彙のコントロールに関して、「うち」と「いえ」を同時に導入して両者を両方使ってしまったため、学習者に指示が通らなかったりするという初歩的なミスがあった。

ドリルは、順序として、単純な機械的ドリルから意味を考えるドリル、そして学習者の新しい情報を与えるような、コミュニケーションに即したドリルというように展開していくのが一般的な順序だと考えられるが、突然難易度の高いものをやらせてしまい、わかりにくかったと思われる。前のドリルから次のドリルに移るとき、前のドリルの何かが関連していると、きれいに展開しているように見え、学習者にとっても分かりやすいだろう。

 また、学習項目の難易度の予測は一番難しい問題であった。扱ったことのない項目や、扱ったことのない教材を用いて教える場合、学習者の「わからない」ところがわからず、難易度の高い項目を導入してしまい、教えて初めて学習者のつまづきに気づいたりすることがあった。教案を立てる際、学習者の反応を予測して、学習者がその項目をどのようにインプットし、どのように間違うのかということに注意していかなければならない。今後、今回の経験を生かし、授業を行うにあたって教案の綿密な準備、学習者の反応と項目の難易度の予測を行うことを念頭に置きたい。

注1 「注文する」スクリプト

 店員 :ありがとうございます。XXルームサービス担当Aでございます。ご注文でよろしいでしょうか。

ジョン:はい。

店員 :電話番号を市外局番からお願いします。

ジョン:はい、xxx−xxxxです。

店員 :名古屋大学様、ですね。

ジョン:はい。そうです。

店員 :お届け先のご住所は名古屋市千種区不老町名古屋大学前バス停でよろしいですか。

ジョン:はい。

店員 :それでは、ご注文をお願いします。

ジョン:―――ピザひとつお願いします。

店員 :―――ピザおひとつですね。以上でよろしいでしょうか。

ジョン:はい。

店員 :はい。ご注文確認させていただきます。―――ピザの一点ですね。

ジョン:はい。

店員 :ご注文ありがとうございます。お会計は、税込みで¥○○円です。

ジョン:はい、わかりました。

店員 :お届けのご指定の時間はありますか。

ジョン:8221115分ごろお願いします。

店員 :822日金曜日1115分ごろですね。

ジョン:はい。お願いします。

店員 :ありがとうございました。

.参考文献

今村和宏(1996)『わざ‐光る授業への道案内』アルク


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