春季教育実習(春期日本語集中講座)


1. 目的と概要
1.1 目的
 春季教育実習は、名古屋大学留学生センター春季集中日本語講座において行われた。その目的は、実際に教室活動を体験すると同時に、日本語教育の現場を客観的に観察すること、さらに、教授法だけでなく事前準備や教室でのティーチャートークなど、日本語教育に関わる様々な項目を学び、教室で生じる問題点を発見し、自分なりの考え方を形成することである。

1.2 春季集中日本語講座の概略
名称:     名古屋大学留学生センター99年度春季集中日本語講座
開講期間:   2000年2月15日(火)〜2000年3月10日(金)
実習クラス:  初級
対象:     名古屋大学に在籍する外国人留学生、客員研究員、外国人教師など
学習者の出身国:ヴェトナム、ラオス、エチオピア、メキシコ
        インドネシア、バングラデシュ、エジプト、韓国など
登録学習者数: 14人
使用教科書:  A Course in Modern Japanese Vol.2
       (名古屋大学総合言語センター日本語学科編名古屋大学出版会1983)

1.3 授業見学
 実習に先立って名古屋大学の留学生センターの授業を見学した。授業見学は1999年11月10日-11月24日の期間に行われた。実習生が見学した授業は留学生センターの「日本語研修コース(6ヶ月コース)」と「短期留学生日本語講座」、及び「全学向け日本語講座中級」である。
 見学において、実習生はレベルに合わせた媒介語の使用、文型の導入、練習の仕方、発話スピードのコントロール、学生の質問に対する教師の答え方などを観察した。

2. 実習の実施
 実習期間は2月15日から3月10日までであった。90分の授業を前半と後半に分け、実習生が2人一組でそれぞれ45分ずつ担当し、1人2〜3回行った。
 実習生の担当及び授業の項目は以下の通りである。

担 当 課

学 習 項 目
 大津友美

2/21
L16練習1,2 「AのほうがBとり_」・「BはAほど_ありません」・「AとBでどちらが_か」

2/22
L16練習3,4

「_と_と_のなかで{どれ/だれ}が一番_か」・「_ほうがいいです」
 船津明生

2/21
L15コミュニケーション活動 「子供の頃何になりたかったですか」

2/22

L16オーラル(C)

ディベート練習

「寮はどちらがいいか」

2/23
L17練習7,8,9 「まで」・「ばかり」・「から」

佐藤有希子

2/28

読む練習

L17オーラル(A)

 

2/29
L18練習2,5 自動詞と他動詞・「_てある」
 山田薫

2/28

漢字の練習

L17オーラル(B)

 

2/29
L18 練習2 「_ている」
 半谷優子

3/2

L21練習7

L21 Aural AB

「_(よ)う」・「_(よ)うと思います」

3/3

L21 練習89    

L21 会話

「_ても」・「_のに」

「私の生まれた町」

 深川美帆

3/2

オーラル(D)

L20練習1,2,3,6

「_てくれる」・「_てくださいませんか」・「_ちゃう(てしまう)」

3/3
L21練習1,2,6,10 伝聞の「そう」(復習)・「らしい」・「_よう」・「_みたい」
 中河和子

3/8

L23練習5

コミュニケーション活動

「_やすい/にくい」

3/9

L23練習6,7

コミュニケーション活動

「やりもらい」復習
 李欣怡

3/8

L23練習3

コミュニケーション活動

「_てもらう・させてもらう」・「_てもいいですか」・「_させてください(ませんか)」

3/9

L23練習8

コミュニケーション活動

「_てもらう・させてもらう」・「_てもいいですか」・「_させてください(ませんか)」・頻度を表す「_に_(回/度)」

3. 授業の反省
実習終了後、実習生は「日本語教授法及び実習」の授業で、4月から5月にかけて実習の様子を撮影したビデオを見ながら、反省会を行った。各々、担当した授業を振り返り、クラスで討議することで問題点を明らかにし、夏期実習に備えようというのがその目的である。実習生の授業の進め方や反省点は個々に異なっているが、反省会で報告・指摘された点をまとめると以下のようになる。
3.1 事前準備について
1)授業見学
コースの開始から終了まで、実習生とTA及び実習授業担当教官で担当した。そのため、授業の見学が自由にできた。TAや実習授業担当教官の授業を見学することで、実習生が実際に授業を組み立てる際に参考になったことが多かった。経験のある教師の授業を見学できる機会はそう多くはないので貴重な機会であった。また、見学することでクラスの雰囲気や学習者の日本語レベルを事前に知ることができたので大変役に立った。さらに見学することで得た学習者の個人情報を授業に取り入れることで、授業の雰囲気を盛り上げることもできた。
2)テキスト
学習者がすでに使ったテキストでの既習項目を大まかにはつかんでいたが、既習文型や既習語彙の把握が不十分なため、教室活動に影響が出た。具体的には以下の反省点が挙げられた。

・ 学習者が知っている語を使って話すことができなかった。説明するとき言い換えるための簡単な語をなるべくたくさん考えておくべきであった。
・ 教科書の中の聴解問題を実習の授業で扱うと、学習者が既に何度も聞いたことがあって内容を暗記していたりして、いまいち練習にならなかったという場合がよくあった。

これらの問題は学習者がすでに使ったテキストを見て、既習文型・語彙などを把握しておくことで解決できるであろう。
3)教案作成
実習後の反省会では、事前の準備不足が主な原因と思われる反省項目が多く挙げられた。これらはみな、事前の教案作成の段階で検討を重ねることにより、未然に防ぐことができると思われるものである。
・ 学習者からどのような質問が出されるのかを予想しておかなかったため、きちんと説明することができなかったり、不自然な例文を提示したりしてしまった。
・ 学習者の発話を引き出すための質問項目をたくさん作っておかなかったため、活発な発話のやりとりができなかった。
・ 教案の内容をしっかり頭に入れておかなかったため、授業中教案をじっと見てしまい、授業の流れが悪くなった。
・ 聴解練習に使うテープを前もってよく聞いておらず、テープの内容には関係ない質問をしてしまい、学習者を混乱させた。
・ 時間配分がうまくいかず、授業時間が余ったり足りなくなったりした。そのような場合に備えて、あらかじめ時間が余った場合に何をするのか、時間が足りなくなった場合には何を切り捨てるのかを考えておくべきであった。
・ ティーム・ティーチングであったにも関わらず、ペアの実習生との打ち合わせが十分にできていなかった。そのため1人の実習生が予定していたよりも多くの時間を使ってしまう場合があった。あらかじめペアの実習生の間でそのような場合の対処方法を考えておくべきであった。

3.2 実際の授業について
一方、実際行った授業についての反省点は、以下の様に「教師の態度」と「授業の進め方」の二つに大別できる。
1)教師の態度について
・ 適切な話し方ができなかった。学習者の知らない語を使ったり、早口になったりした。また、実習生が英語を使いすぎたため,学習者もそれにつられて英語で話しだしてしまうような場面もあった。
・ 学習者が英語交じりの日本語を話したときに、実習生がそれを理解してしまっていた。そうすることで学習者が正しい日本語の文を作る機会をなくしてしまっている。
・ 予想外の質問が出たときに実習生がうろたえてしまっていてきちんと説明できていないことがあった。
・ クラス全体に目を配ることができず、学習者が本当に理解しているのかどうかを見極めることができなかった。
・ 教案どおり授業を行うことばかりに気を取られていた。そのため学習者がそれぞれ自分自身のことを話してくれているときにも単純な反応しかできなかった。もっと話してくれた内容についていろいろとコメントをしていたら雰囲気を盛り上げることができた。
・ 学習者が楽しく学習できる授業作りができなかった。
・ 復習すべきだと思う項目については、実習生側から理解確認するべきだった。学習者から質問が出ることを予想して待っていたのでは、質問が出なかったときに結局復習できないことになる。
2)授業の進め方について
・ 予定どおりに授業を進められなかった。教えようと思っていた項目をすべて消化することができなかった。時間の感覚をなくしてしまってペアの実習生に迷惑をかけることもあった。
・ 反復練習が多すぎた。そのため理解していない学習者がいても気付くことができなかった。学習者に質問してみて、本当に理解しているのかどうかをチェックすべきだった。
・ 学習者の発話をコントロールしすぎた。もっと学習者が自由に発話できるような練習を考えるべきであった。
・ 教える項目が多すぎたため学習者が練習する時間が少なくなってしまった。
・ 学習活動の指示が分かりにくかった。学習者が個々に練習する前に全員でやってみるといった工夫をすればよかった。
・ 絵カードやフラッシュカードなどの教具を適切に使っていなかった。
・ 有効な板書ができなかった。分かりやすく書くことができず、タイミングも悪かった。ペアワークの最中に板書を始めてしまい、学習者に目を配ることを忘れてしまった。
・ 分かりやすく新しい文型を導入することができなかった。まずは誰でもどんな文化的背景においても想像しやすい場面を考え、その中でいい例文をたくさん示して、そこから学習者が理解できるようにすればよかった。

4. まとめ
 多くの実習生にとって今回の春季実習は日本語を教えるために教壇に立つ初めての機会であった。しかし今回の実習も昨年度と同様、2人1組の実習生にTAが1人担当し、実習生に教案作成の指導や授業後のアドバイスを行ったため、実習生は安心して授業を行うことができた。実習生は各自さまざまな工夫を凝らし、オリジナリティにあふれる授業を行うことができた。クラスを盛り上げるために学習者にとって親しみやすいトピックを用意したり、絵や写真をたくさん用意したりした。新たな教材を作成した実習生もいた。また実習後には数多くの反省点が挙げられ、教えることの難しさを痛感したが、夏季実習に向けて自分の授業で改善すべき点がいろいろと分かったのは収穫であった。

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名古屋大学大学院国際言語文化研究科
日本言語文化専攻