1.実習コースの概要と事前準備

1.0 はじめに

夏期日本語教育実習は、1989年から名古屋市教育委員会の協力により、名古屋市に新しく赴任するAETAssistant English Teacher)を学習者として、毎年行っているプログラムである。実習生は日本語教授法を受講する大学院生であり、本年度は8名が実習を行った。ここでは、実習コースの概要と実習開始前に行った準備を記す。

1.1 実習コースのスケジュールについて

 今年度のAET夏期日本語教育実習は87日(月)_818日(金)(ただし812日から15日は休み)の日程で行われた。会場は言語文化部棟・大学院人間情報研究科を使用した。夏休み中の工事などの関係で期間途中で教室を変更することとなった。学習者は総勢17(アメリカ6名:イギリス3名:カナダ1名:オーストラリア3名:ニュージーランド4名)。クラスはゼロ初級(8名)、初級(3名)、中級(5名)、上級(1名)の4クラス編成となった。それぞれのクラス担当、教室については以下の表に示す。

 

8月7日

8月8日

8月9日

8月10日

8月11日

8月16日

8月17日

8月18日

ゼロ初級

深川

船津

佐藤

大津

深川

半谷

山田

 

A3

A3

A3

B2

B2

B2

B2

B2

初級

馬場

山田

半谷

船津

馬場

大津

佐藤

 

A1

A1

A1

B3

B3

B3

B3

B3

中級

船津

佐藤

大津

馬場

半谷

山田

深川

 

A2

A2

A2

B2

B2

B2

B2

B2

上級

大津

船津

(馬場)

(半谷)

(山田)

山田

(深川)

 

(船津)

半谷

馬場

(馬場)

佐藤

(山田)

深川

(深川)

 

TR

TR

TR

TR

TR

TR

TR

TR

1.2 事前準備

 ● スケジュール

     

    ● 係の内容

 ここでは、事前準備に関する係の仕事内容について述べる。今年度は以下のような係を設定し、全員で分担することにした。各係の責任者は上の表に書いた通りである。特に責任者になっていなくてもサポートに回るなど、全員で仕事をこなした。

● 渉外(外部) 

AET実習における渉外係は、AETに関する業務を担当している名古屋市の教育委員会との連絡をすることが主な仕事である。AETのスケジュールなど、AETに関する情報を得るための窓口となるので、非常に重要な仕事である。

 渉外の仕事についての詳細は、代々受け継がれている「渉外の仕事について」というプリントに書いてあるのでそちらを参照されたい。ここでは、今回行った渉外の仕事内容について、簡単にまとめる。

 まず、5月中旬ぐらいに名古屋市の教育委員会のAET担当の先生に実習のお願いと挨拶をする。今回は、電話でのみそれを済ませた。担当の先生の方から「もう毎年のことなので挨拶は結構です」と言われたので、そのようにした。もし担当の方が変わったなど、例年と違うようなことがあれば、電話で連絡をとったあとに、挨拶に行くべきかもしれない。

 前年度のAETにアンケートをとるときや、AETの最終的人数、来日予定を確認するのにも、必ず教育委員会に問い合わせる。その際、最初に連絡をとった先生ではなく、雑務を担当している方々と連絡をとることもある。AETの最終的人数、来日予定は頻繁に連絡をして、早めに確認するが、実際にわかるのは、実習が始まる直前であることが多いようである。

実習初日、先生方がAETを学校まで引率するので、その際挨拶をする。また、今回はこの日本語コースについてのオリエンテーションを担当した。

実習終了後、実習を担当させていただいたお礼、実習の評判を聞きに行く。今回はこれを電話で済ませた。

 以上のようなこと以外に細かいことでも、窓口となって教育委員会の先生方と連絡を取り合う係りである。

 

● 渉外(内部) 

学内の渉外。具体的には、教室確保を行う。通常は言語文化部棟にある教室を使用する。言語文化部所有の教室には、言語文化部の事務に、留学生センター所有の教室には、留学生センターの事務に使用許可を求める。今回は、言語文化部棟の工事の都合で、他の部の校舎を使用せざるを得なかった。人間情報学研究科の校舎を使用させていただいたが、事務との交渉がスムースにいかず、問題が多かった。本実習で使用するのは初めてであることと、所属の研究科ではないことが原因と思われる。授業で使う機器、例えばテレビやビデオなどが教室にあるかどうか、ない場合は借りることができるのか、持ち込まなければならないのか、教室使用届とは別に機器使用届を提出しなければいけないのか、などを事前に調べる必要がある。なじみのない部の教室を使用する場合は、特に気をつけるべきである。

 今回、渉外係はウェルカムパーティーの準備の責任者にもあたった。予算は1000円×学習者人数分で、テキストその他代として学習者から集めるお金をあてた。足りなかった場合は実習生が負担することにした。飲み物、お菓子のほか、サンドウィッチ、ドーナツ、おにぎり、オードブルを用意した。オードブルは、名古屋市地下鉄本山駅近くにあるスーパーの惣菜屋で、前日注文した。

 場所は日本言語文化専攻院生研究室で行った。

 

● 会計・備品

 実習に必要な備品をそろえる。具体的には、ファイル、サインペン、フロッピー、MD、ビデオテープ、日本語能力試験の過去問、画用紙などである。今回は、必要なものをまとめてリストアップし、助手にそろえてもらえるように頼んだ。

 会計の仕事としては、テキストその他代として、学習者から11000円ずつ集めた。このお金は、実習初日に行ったウェルカムパーティー費とアクティビティーで急遽必要になった備品費にあてた。

● 書記

 ミーティングを行う際に書記を行う他、ミーティングに参加できなかった人のためと、話し合った内容を確認するために、話し合いの内容をまとめて実習生全員にメールを送った。また今回の実習では全員がそれぞれシラバスなどを確認できるようにホームページを作るなど、メディアを活用した。

 

● 実習報告書編集

 実習終了後、ホームページ上の報告書を作成する際の責任者。

 

1.3 事前アンケートについて

 6月には前年度の夏期実習に参加したAETに対してアンケートを行った。このアンケートの目的はニーズ分析である。AET1年間日本で生活した上での日本語使用に関する問題点などを調査しその結果を授業の中で活かすために行った。また同時に昨年度の授業に対する質問も併記した。

 主な質問項目は以下のようである。

これらの質問に対し、特に多かった下記のような解答については何らかの形で対応することにした。

 

1.4 プレイスメントの方法について

 プレイスメントは、アンケートとインタビューを行い、そこで得られた情報を元に行った。アンケートとインタビューは2000731日に行った。インタビュアーは4名、他にアンケートとインタビューをスムースに行えるようAETを誘導する係を1名用意した。

 アンケート(記入式)は英語を用いた。アンケートでは、以下のようなことをきいた。

 アンケート後、1対1のインタビューを行った。インタビューは、すべてMDに録音した。まず日本語で話すが、全くわからない人には英語を用いた。そのような場合以外は、できるだけ日本語のみで行うように心がけた。インタビューの時間は、一人約10分程度である。

 インタビューの内容は大きく分けて2種類で、初対面会話で一般的にされる質問と日本語学習に関する質問である。初対面会話で一般的にされる質問では、無理な話題転換を避け、極力自然な会話の流れを作るよう心がけた。また、AETの日本語レベルを測ることを主な目的にしているものなので、英語で答えてくるAETに対しては一応質問するが、項目のひとつひとつにあまり時間をかけないようにした。日本語学習に関する質問は、シラバス作りに欠かせない情報を得るためのものなので、英語しか話せないAETに対しても十分な情報を得るようにした。

 インタビューを行うのにあたって、ゼロ初級、初級下、初級上、中級、それ以上という評価基準を、印象、理解、発話の自発性、流暢さ、文構成、語彙、文法項目の6項目から設定し、インタビュアーはインタビュー中、もしくはインタビュー後にそれらを判断した。これらの評価に加え、インタビュー中気付いたことなどもメモにとるようにした。

 インタビュー終了後、続けて文字チェックを行った。これは、ひらがな、カタカナ、漢字、漢字かなまじり単語をどの程度読めるかチェックするものである。

 アンケート、インタビューで得られた情報を検討し、学習者をゼロ初級、初級、中級、上級の4クラスに分けた。

 

1.5 テキスト改訂について

 ゼロ初級・初級クラスで使用するテキストは、前年度のテキスト「あさがお」を基に内容・表記の改訂を行った。教科書見直し・改訂には予想以上に時間がかかり、6月初めからほぼ2ヶ月かけて全体の見直しを行った。改訂時に問題になったのは主に内容と表記に関するものであった。以下では今回どのような改訂を行ったかについて記述する。

1.5.1 表記に関して

●ローマ字表記について 

 ヘボン式で統一。長音についてはバーをつけ、形容詞の語幹のみ分割(ookiiなど)

○ハイフンについて(ローマ字表記)
・中点→ハイフンに(SumisusenseSumisu-sense)(sense後ろのe+長音の横バー)

・ハイフン→なし(Sumisu-desuSumisu desu

・ローマ字「ん+(半)母音」の記述

n'+母音」で統一。 例:ten'in(店員) hon'ya(本屋)

・接頭辞「お」のローマ字記述

 「お」をとって成立するものはハイフンをいれる。成立しないものはそのままつなげて書く

(例:「おやすみですね」 → 「-やすみですね」でも成立するので、o-yasumidesune とする

   「おつたえください」 → 「-*つたえください」は言えないので、otsutaekudasai とする。)

○ローマ字/英語表記の大文字・小文字・ピリオドについて
 ・useful phrases→小文字はじまり、ピリオドなし。
 ・Dialogue→大文字はじまり、ピリオドあり。
 ・Dialogueのタイトル→文頭大文字(例:Are wa nan desu ka?

●英語について
 ・Dialogueのタイトル→語頭大文字。例:What Is That?

●内容に関して

・第3課「アパート探し」を「買い物をする」に変更(アンケート返答の反映)

・教科書タイトルを「ひまわり」に変更

・テキスト登場人物の統一

 こうした改訂はまず基となった「あさがお」の表記統一のばらつきの調査から始められた。その上で、その問題をひとつひとつ話し合いで統一し、実習生が一人一課を担当して手作業で校正した。また1人の目だけでは見落としがあることを予測して、最終段階では21組での作業となった。さらに付録・目次部分も同様の改訂がなされた。

6.アシスタントについて(次年度への提案)

 実習では研究レポートや記録のためにすべての授業を録音・録画した。そのため授業担当者以外に、アシスタントとしてビデオ・机の配置の準備などが必要であった。今回は特にアシスタントを設定しなかったため、見学の実習生が手伝うこととなった。そのため見学の実習生がいない授業では授業担当者がそうした準備に追われることとなってしまった。授業をスムースに行うためにも、アシスタントについてはもう少し考慮すべきであった。

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名古屋大学大学院国際言語文化研究科
日本言語文化専攻