模擬授業について

藤森秀美


 1. はじめに

 1998年度夏季実習では、AB2クラスに分かれることが決まり、7人の実習生がどちらのクラスを担当するか決定した時点で、各クラス毎に方針をたてたため、いくつか方針の違いが生じることになった。

 その一つに授業をする前に、模擬授業を行うか否かということがあった。結果としてAクラスは実施せず、Bクラスは実施することとなった。

 本稿では、Bクラスの行った模擬授業を振り返り、模擬授業を行う際に生じる問題点を指摘し、模擬授業の必要性を考察することにより、教育実習における模擬授業のありかたを考察する。

 

2. 模擬授業の日程

 1998年度夏期実習は8月10日から8月21まで盆の期間をはさんで行われた。

そのため、模擬授業は実習開始前に全て行うのではなく、実習開始前と盆の休み中に分けて行われた。1回目の1課から8課までと2回目の1課から3課までは実習前に、4課から8課までは盆の期間に実施した。

 以下模擬授業にかかわる日程を記す。

 

 8/5 (水) 教案検討(1課・3課・5課・7課)

 8/6 (木) 教案検討(2課・4課・6課・8課)

 8/7 (金) 模擬授業(1課から8課まで) 1課につき15分 

 8/8 (土) 模擬授業 (1課・2課・3課) 1課につき30分

(授業・反省会 8/10 1課  8/11 2課 8/12 3課)

 8/14(金) 模擬授業 (4課・5課) 1課につき30分

 8/16(日) 模擬授業 (6課・7課・8課) 1課につき30分

(授業・反省会 8/17 4課  8/18 5課 8/19 6課)

(授業・反省会 8/20 7課  8/21 8課)

 

3. 模擬授業の手順

 8月5日に1課・3課・5課・7課、8月6日に2課・4課・6課・8課の各自が担当する課の教案を持ち寄り、ミーティングにて検討後、教案を修正し、計2回の模擬授業を行った。

3.1 模擬授業 1回目

 1回目の模擬授業は8月7日に行われた。1課から8課まで、1課につき15分で模擬授業を行い、ビデオで撮影した。

 できるだけ実際の授業に近づけるために、2人の実習生が学生役となり、残る1人がビデオ撮影を担当した。1時間の授業を15分にしなければならないため、全体をざっと流すように行われた。目的は授業全体の流れをつかむためである。

 模擬授業後、Bクラス担当の実習生全員でビデオを見ながら、良かったところや悪かったところについて自由に意見を出し合った。

 この段階では教師自身も模擬授業で具体的にどんなことをしたらいいのかがあまり明確ではなかったため、コメント自体も感想程度にとどまっていたように思われる。 

3.2 模擬授業 2回目

 2回目の模擬授業は実習開始前の8月8日と、開始後の8月14日と8月16日に行われた。

 8月8日は1課・2課・3課、8月14日は4課・5課、8月16日は6課・7課・8課の模擬授業を行った。1課につき30分実施した。

 2回目は担当する課の中で、検討したい部分を取り出し、実際の授業で行うリハーサルのような形で行った。1回目同様、2人の実習生が学生役となり、残る1人がビデオ撮影を担当した。

 授業後、ビデオを見ながら、Bクラス担当実習生の4人で検討した。30分見てから検討するのではなく、問題となる箇所を随時止めながら話し合った。

 

4. 今回の模擬授業の問題点とその限界

 模擬授業を実施する際にいくつかの問題が生じた。模擬授業のとらえ方、学習者のレベル設定の難しさ、実習に要する時間と労力などである。

4.1 模擬授業の進め方

 Bクラスは模擬授業の必要性を認め、その実施を決定したものの、模擬授業で一体何をなすべきか明確ではなかったため、模擬授業自体を試行錯誤しながら行うことになった。そのために模擬授業に予定していた時間を大幅に上回ることもあった。

 Bクラスの行なった模擬授業はマイクロティーチングに近いものであったが、学生役を実習生が担当したこと、授業を評価するシートの作成・記入をしなかったことが異なっている。

 今回実習のために授業内容の決定・教科書作りなどが予定より遅れたため、実際に教えるための準備に割く時間が大幅に少なくなってしまった。

 実習する日が近づく中、限られた時間内で模擬授業をするのが精一杯であった。

 効果的な模擬授業を効率よく行うために事前に少し考えるべきであった。

4.2 学習者のレベル設定

 授業を始める前には学生の日本語能力の把握は不可欠である。模擬授業も同様に学習者の日本語能力が把握できなければ効果は半減してしまう。

 今回の実習ではガイダンスを開き、学習者に事前に直接会ってインタビューをした。ガイダンスに参加できない学習者に関しては電話でインタビューをした。インタビューテープを聞き、実習生全員で検討し、クラス分けを行った。しかし、

短いインタビューだけでは学生の実力を把握することは難しく、実際に授業を始めてみなければわからない状況であった。

 授業開始前の模擬授業については学生の実力がつかめないまま行なったので実習生の中に学習者のレベルを高めに設定して準備する者、また低めに準備する者が出てきた。

 学生役の学習者に対するレベル設定にも差があり、授業の進行に支障がでることもあった。例えば、導入の仕方や導入にかかる時間が予定と大幅に違ってくること等である。

 当初Bクラスはあるレベルを想定し、模擬授業を行う方針をとって進めてきたのだが、授業の直前に実習の授業担当の教官と話し合った結果、学生のレベルが低くても高くても対応できるようにした方がよいとのアドバイスを受け、実際の授業の1日めは学生のレベル把握に重点を置くこととなり、第1課は1課の内容を学習しながら学生のレベルを測ることになった。そのため教案を全面的に見直すことになり、第1課に関しては模擬授業ばかりか教案も全く役に立たなかった。

 実際には難しいことだが、模擬授業の前にはできるだけ正確な学習者の日本語レベルの把握が必要である。

4.3 授業開始後の学生の増加

 授業開始後、1日めはクラス分け通りに授業が行われたが、2日目に2人の学生がBクラスに編入し、大きい変動があった。

 1日めの授業で学生2人の間のレベル差がかなり大きいことがわかり、授業の難しさを痛感していたところ、授業初日終了後、学生から編入の希望が出た。そこで、簡単なレベルチェックを行い、Bクラス担当実習生の合意の上でクラスの変更が行われることになった。そのため比較的スムースであった。

 2日めの授業開始直前にまた1人編入の希望者が出たが、レベルチェックをする時間的余裕がなかったため、学生の希望通り編入を認めた。しかし授業が始まってみると、その学習者はひらがなが読める程度で、もともと大きいレベル差がますます開く結果となった。

 2日めはもともと2人の学習者を想定し、作成した教案であったが、2人増えて4人になり、教室作業が大変やりにくくなった。

 クラス変更の可能性をも考慮するなど、柔軟性をもった教案をたてるのが望ましいが、現実にはかなり難しいことである。もちろん模擬授業もそこまで考慮して行うのが望ましい。

4.4 模擬授業に要する時間と労力

 Bクラスとしては模擬授業を実施したのであるが、そのためにかなりの時間をかけることになった。

 1回めの模擬授業に関してはそれ自体15分であったのだが、ビデオを再生し、見る時間・検討する時間などを含めると1課あたり45分以上かかり、それを8課分行ったため6時間以上かかってしまった。

 2回めの模擬授業は3日に分けて行われた。1課あたり30分にしたため、合計12時間以上かかったと思う。

 その結果、各自担当する課の準備に十分時間がとれなかったり、模擬授業の反省を踏まえて、授業の案を練り直す余裕がなくなったりした。

 夏期実習の準備にとりかかってからは、実習生全員で連日ミーティングを行い、担当クラス決定後はすぐ各クラス毎にミーティング・教案検討・模擬授業を2回行い、実習期間に入るとその日の授業の反省会を行った。かなりハードなスケジュールであった。

 Bクラスは1課・2課を藤森、3課・4課を安斉、5課・6課を浅井、7課・8課を吉金がそれぞれ担当した。反省会の時間が長くなれば、翌日の授業準備に影響が出る。授業準備の時間が少なくなったり、またその確保のため睡眠時間を削ることになった。

 模擬授業をすればそれなりに時間や労力がかかるのはやむを得ない。それを理解した上で無理のないスケジュールを組んで行えばかなりの効果を期待できる。

4.5 模擬授業の限界

  今回は模擬授業の限界を感じることもあった。

 今回は全体的に時間不足であったため、模擬授業のアイディアがかたまっていないまま行なわれたのであまり有意義とは言えなかった。

 また学習者の反応に関しては正確に予測することが難しい。

 今回は学生役を実習生が担当するなど模擬授業と実際の授業との差異が大きかったため役に立たなかったという意見もあった。

 模擬授業をできるだけ実際に近づける努力をするべきである。

 

5. 実習の有用性

 授業をする準備というととかく教授内容に注意が注がれがちである。勿論それが重要なのはいうまでもないが、仮に教案が完璧に作成されたとしてもそれを用いて授業を進めることができなければ何にもならない。

 実習では教授スキルを身につけることも大変重要だと思われる。それを学ぶためにはやはり模擬授業が効果的であろうと思われる。

 今回の実習行って得られたことを以下に記す。

5.1 教授スキル

 実習生は担当する課でこなさなければならないことに気をとられ、指示の出し方・板書の仕方等に注意をする余裕がない場合が多い。

 しかし、模擬授業を行い、それを実習生同士で検討することにより、教師側で自覚できない指示のわかりにくさや、教師の立ち位置によって黒板が見づらくなったり見えなくなってしまうことなど、学生役の実習生の意見を聞くことにより、

教師側が初めて自覚できることが多かった。

 この類のことは一度指摘されれば意識して改めることができる。しかし、自分だけで考えていては気付くことは難しい。

 今回の実習では、クラスを担当する4人で反省会を持ったので、さまざまな視点から検討することができ、有益であった。日本語教育を専門とする者に授業を見てもらい、指摘してもらう機会は現場で教える時にもそれほど多くはない。日々の授業に追われ、自分の授業を振り返ることもなかなか出来ないのが現状であろう。円滑な授業運営を行なうために模擬授業は欠かせないものと思われる。

5.2 教師の心理面

 実際の授業の前に一度リハーサルをすることになるので、安心できる。また、導入の仕方などわかりにくいのではないかと心配していたところを模擬授業で行い、実習生の意見や感想を聞くことにより、授業では自である信をもって授業に臨める。

 実習生の心理面からも模擬授業は有用であると思われる。

5.3 授業の反省会

 Bクラスでは授業後Bクラス担当の4人で反省会を行った。

 その場では授業に対する率直な感想や問題点が出された。その中には教師が自覚しているものもあったが、自覚していないものも多くあった。

 ビデオで撮影されていたものについては、再生し、見ることにより問題点がよりよく把握できた。必要であれば何度も再生できる点もたいへんよい所である。

 さまざまな意見を聞くことが利点である反面、その意見がマイナスに作用する場合もあった。コメントの仕方によっては教師である実習生の自信を失わせ、授業への意欲をかき消してしまうことである。

 悪いところを指摘する場合でもまずよかったところを述べてからにするなどコメントする際にも工夫や配慮が必要である。

 模擬授業のあとに反省会を行うことは大切であったし、有益でもあった。しかしそれは次の授業に生かせるものでなければ意味がない。

 反省会も目的・やり方を検討した上で行うのが望ましいと思われる。

5.4 教室の熟知

 教室を事前に知ることができるのも良い点であった。

 部屋の大きさ、黒板の位置、教師の使えるスペースなど、予め知ることにより授業の進め方がいっそうスムースになると考えられる。

 電源の位置や数の制限により機材の位置や使用可能な器具の数が限られたりすることもしばしば起こるが、それを事前に確認しておくことは大切である。

 どの教室にもそれぞれ制約があり、教室活動をスムースにするためには、それを把握しておかなければならない。しかし実際にはそこまで配慮できないことも多い。

 今回の模擬授業では実習に使用する教室を使用できたので教室をよりよく知ることができた。

5.5 機材の操作

 機材の扱いに慣れることができるのもよいことであった。

 模擬授業であれば、録画されていないことに気付いたときは、もう一度録画できる。

 今回の模擬授業ではビデオを固定したまま撮影することが多かったが、教師が教室を動き回ることにより、画面から出てしまい、何が行われているのかわからないということもあった。

 授業の時はその反省をもとに撮影することができた。

 

6 終わりに

 模擬授業から学べることは大変多い。しかし、ただ漫然と模擬授業をしたのでは、その効果は半減してしまう。

 模擬授業をどう捉え、模擬授業で一体何をしたいのかを明確にし、どんな手順で実施するのかを考えた上で行うならば、模擬授業から得られることは計り知れないものになるであろう。

 

参考文献

石田敏子(1981)「日本語教師養成のためのマイクロティーチング」『日本語教育』44号

斎藤令子・田中京子・今尾ゆき子・出口香・稲葉みどり(1992)「日本語教育実習の提言−実習経験を踏まえて−」『日本語教育』76号


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名古屋大学大学院文学研究科 日本言語文化専攻