実習におけるクラス分けの問題点と

クラス分けの留意点

浅井美恵子


1.はじめに

 AET日本語研修コースの学習者では全く日本語を使えないレベルから日常会話が問題なくできるレベルまで、日本語運用能力にかなりの差が見られる。今回コース・デザインをするにあたり、クラス分けをどのようにするかが大きな問題となった。前もってプレイスメントテストが十分に行えず、準備段階で考えたクラス分けでは学習者のレベルと授業計画のレベルが合わなかったためである。本稿では今回の実習のクラス分けを振り返り、その問題点を明らかにする。そして、今回のように前もって学習者のレベルが把握できないときのクラス分けの留意点について考えてみたい。

2.今回の実習でのクラス分け

2.1.準備段階でのクラス分け

 今回の実習では、次のようなクラス分けの計画を立てた。

1.教師の数と授業場所の問題から、12名の学習者を2クラスに分けて授業を行う。
2.学習者のレベルに開きの見られるところをクラス分けの境界とする。
 ただし、1クラス3人以上となるようにする。

 以上の計画に沿ってクラス分けができるように、コースが始まる前のオリエンテーションとともにアンケートとインタビューを行った。アンケートの内容で、クラス分けに関するものは以下の通りである。

<アンケート>

  • 日本語の学習歴/学習機関
  • 日本語教師がNativeであったか
  • 日本語能力試験の所持級

    アンケートは日本語学習の有無を確認するもののみを含めたが、それだけではクラス分けの資料として不十分であると考え、インタビューを行った。インタビューはクラス分けに関する質問以外のものもすべて、その時点での日本語運用能力を示すものとしてクラス分けの資料とできる。そのため、まず最初に日本語によって質問し、聞き取りができない場合には英語で質問し日本語で答えてもらうという二段構えの方法をとった。質問者は3名で、学習者ごとにインタビュー用紙に記入し、その受け答えの様子をカセットテープに録音した。

    <インタビュー>

  • 「お名前は。」
  • 「いつ日本へ来ましたか。」
  • 「日本で何をしますか。」
  • 「日本へ来る前は何をしていましたか。」
  • 「今まで日本へ来たことはありますか。」
  • 「何年間日本にいますか。」
  • 「どのくらい日本語を勉強しましたか。」
  • 「休みの日は何をしますか。」
  • 「今日はどうやって来ましたか。」
  • 「日本語のクラスで何を勉強したいですか。」

    これらの項目を作成するにあたり、初級教科書に上がっている学習項目をほぼ学習順に含めることを目指した。そうすることで学習段階がわかり、ある程度のレベル設定ができると考えたためである。

    予定されていた日時にアンケートとインタビューができたのは8名で、後の4名は電話で同じインタビューを行い、アンケート結果は授業初日に渡してもらうこととなった。

     アンケートの結果によって、日本語を学んだことがない学習者が8名、何らかの形で日本語を学んだことのある学習者が4名いることがわかった。学習経験のある4名のうち2名は半数以上の項目に日本語で答えることができるのに対し、残りの2名は4項目以下しか答えることができなかった。後者の2名は聞き取りのレベルも全く学習経験のない8名とほとんど変わらない結果だったため、初級(Aクラス)10名、中級(Bクラス)2名というクラス分けを行った。

    2.2.授業開始後のプレイスメントテスト

     授業1日目を終えてみると、学習経験があるがAクラスに入ってもらった2名はAクラスの学習者とはレベル差が大きいことが明らかであった。また、学習者側も「はじめからのやり直し」といった印象を受けて、不満を持ったようであった。中級クラスも2人であるがゆえに個人差が無視できない状況であった。こういった状況を受けて、急遽Aクラスの2名に対し再度のプレイスメントテストを行い、その結果次第でBクラスに編入させることとした。

     プレイスメントテストは授業1日目の授業後に1名ずつ面接形式で行った。実習生2名がこのテストにあたった。

    <テスト項目>

    (1) 平仮名・片仮名の読み

     文字カードに1文字ずつ書かれた平仮名・片仮名を読む。

    (2) 語の読み

     平仮名・片仮名で書かれた語を読む。そこには濁音・長音・促音・撥音を含む。

    (3) 特殊拍の聞き取り

     特殊拍(長音・促音・拗音・撥音)のミニマルペアを用いて、正しく聞き取る。

    (4) 自己紹介

     自分で自由に自己紹介する。簡単な質問に答える。

    (5) まとまった発話の聞き取り

     様々な文法項目が含まれた日本語母語話者の自己紹介文を聞き、内容についての質問(8項目)に答える。(資料参照)

     

    以上の項目は、Bクラスで1日目に行った授業の中から抜粋したものである。Bクラスの学習者は(3)までが問題なくでき、(4)(5)において能力差がでるといったレベルであったので、それに近いレベルであればBクラスに編入することとした。

     2名にプレイスメントテストを行った結果、2名とも(1)(2)(3)においては間違いはやや見られるがほとんどはでき、(4)(5)はできないということがわかった。このことから、やはりAクラスと一緒に学習を続けるより、ややレベルは高いがBクラスで学習していく方がよいと考え、2日目からBクラスに移ってもらうこととなった。

     その後の授業はAクラス、Bクラスともクラス分けが問題となることなく、それぞれ有意義な学習ができたようであった。

    3. 今回のクラス分けの問題点

     今回の問題点としてまず挙げられるのは、1度決定したクラス分けを再度クラス分けし直したことである。今回は実習であり、コースの規模も大きくなかったため、クラス分けを検討し直すことができたが、現実には1度決定したクラスを組み直すことは難しいと思われる。そのような状況下でベストのクラス分けを行うためにはどのようなことに留意しておくべきかということを教師はそれぞれ考えておく必要があるだろう。

     最初のアンケートとインタビューでは前年のコースで用いられたレディネス・ニーズ分析をもとに、必要最低限の情報をあまり時間をかけずに得ることができた。しかし、その問題点は少なくない。

     第1に、学習者12名を全員を同じ条件のもとでアンケート・インタビューできなかったことである。来日して最初の研修として日本語を学ぶことになっているため、全員を集めることが難しい状況にあった。そのため、インタビューを面接形式と電話による形式で行ったのだが、両者の間に聞き取りにくさや言語外情報の有無によって等質なインタビューとならず、結果に影響してしまった。電話によるインタビューを行った人について実際の能力より低くレベル設定を行ってしまい、再度のクラス分けにつながってしまった。環境について注意をあまり払わなかったことによって等質なインタビューによるレベル把握が難しくなったといえ、反省点が多いと思われる。

     第2に、重大な問題とはならなかったが、質問者からの質問の統一が不十分だったため、十分な資料が得られなかったものがあった。インタビューには実習生3名があたったが、まず最初に日本語によって質問し、聞き取りができない場合には英語で質問し日本語で答えてもらうという方式を徹底しておくことができなかった。全ての質問を提示していく方針であったにも関わらず、2〜3の質問で打ち切ったしまったものがあった。「日本語の聞き取りはできなくても語句レベルで日本語を使うことができる。」という学習者もいる。そういった人も取り上げようという意図が徹底していなかったと考えられる。

     第3に、アンケートの項目に関してもう少し検討する必要があったと思われる。時間的制約で必要最低限の項目を選択したのであるが、学習者の自己評価や日本語以外の外国語の学習経験の有無も最初に把握しておくとよかったのではないかと思われる。今回学習者の中に中国語を学んだことのある人がいたが、漢字をもっと学習したかったという感想を持ったようであった。外国語学習経験を教師側が聞いておくことで、学習者それぞれの個性に配慮したきめ細かい授業をすることができるのではないかと思われる。

     後で急遽行ったプレイスメントテストは、テストを受けることを納得した2名の学習者のみが対象であった。ここではこのようにレベルを測ることがよいかどうかという根本的な問題があると思われる。しかし、今回の行ってみて感じられたことに焦点を絞ると、急にテストを行うことにしたため、準備や内容の検討が十分行えなかったことが最も問題であったと考えられる。第1日目の授業内容に学習者のレベルチェックが含まれていたため、その部分を抜粋してテストとしたが、テスト項目の選定が第1日目の担当者まかせとなってしまった。また、カセットテープへの録音も試験担当者の間で共通見解をもっていなかったため、録音できていない部分があった。今回は先に行ったインタビューの不備から「テストを行う必要があるかもしれない」という予想を立てることが可能であったのではないかと思われる。それに対応できるようにテストを行う前に何らかのテストのイメージを共通見解として持っておくことも重要であろう。

     クラス分け全体の問題として、AクラスとBクラスに分ける際の境界の設定があいまいだったのではないかと思われる。結果的に学習歴の有無が境界となったわけであるが、最初のアンケートとインタビューの結果では日本語の発話量と学習歴の長さからAクラスを10名、Bクラスを2名とすることにしていた。その決定にこだわらず、実際の能力にあったクラス分けに変えることは効果的な学習のために重要なことであると思われる。しかし、クラスが変わることで授業内容が変わってしまうため、学習者が混乱することも考えられる。特に、今回のような短期のコースでは学習者が新しいクラスに対応できないうちにコースが終了してしまう可能性もある。このように、クラスの境界設定があいまいだと、学習者を混乱させ、教師の授業計画にも影響がでてくるので、クラス分けをどのように行っているかを明確にしておくことが教師側にも学習者側にも必要なのではないかと思われる。

     プレイスメントテストを行ってBクラスに編入したことで、Bクラスのクラス内のレベル差が広がり、授業のレベル設定が難しくなった。Aクラスではほとんど同じレベルの学習者に統一され

    よかったといえるが、Bクラスではあまり学習段階の進んでいない学習者が半数を占めることになり、2日目以降の授業計画を考え直さなければならなくなった。学習者のレベル差が大きいため、クラスの平均的なレベルで授業を進めるのか、あるいは最もレベルが低い学習者に合わせた授業を行っていくべきかによって授業内容を変える必要があるためである。今回の場合、学習者は4人と少数であり、学習者同士がそれぞれの日本語能力について理解していたため、それぞれのレベルに応じた質問をしたり、学習者をコーディネーターとする活動を行ったりできた。しかし、やはりレベルの高い学習者にはやや物足りないという授業もあったと思われるし、レベルの低い学習者には進度が速く大変な授業もあったようである。クラス分けをどのようにするか、を明確にしておかないと、こうしたクラス内のレベル差に対応できない。なるべく早い段階で適切なクラス分けをすることがベストであるといえよう。

    4.適切なクラス分けのために

     今回の実習のクラス分けにあたって、少人数であることと前もってプレイスメントテストを行う時間があまりないという条件に気を取られ、十分な準備ができなかったことが問題点につながったのだと考えられる。今回のような条件のもとでどのようなクラス分けの方法を取っていくべきかを考えたい。

     クラス分けを行うときにアンケートやテストを実施する人が前もって明らかにしておくべき点として最低限以下の4点が挙げられる。

    (a)その授業は何を目的としているか。

    (b)クラス分けのために、学習者について何を知っておかなければならないか。

    (c)知っておくべきことをどのような質問・テストで引き出すか。

    (d)どのような環境で質問・テストを行うか。それに必要な器具は何か。

     

     効果的な授業を行うためにクラス分けするのであるので、まず、その授業でどんなことを学習者に学んでもらうかを意識しておかなければならない。そして、学習者について何を知っておけば授業に役立つか、適切なクラス分けが可能であるかを次に考える。それらが明らかにされて初めてクラス分けのための具体的な方法を考えるべきである。今回の実習ではこの(a)(b)について明確にしておかなかったため、2度もクラス分けのために時間を割くこととなってしまったのではないだろうか。プレイスメントテストやレディネス分析のアンケートを行う際にはどうしても(c)に目がいきがちであるが、重要なのはクラスを分けることではなく、学習が効果的に進むクラスを作ることである。そのためには(a)(b)をおろそかにすることはできないと思われる。(c)についても、十分に検討する必要がある。今回日本語の学習歴のみをアンケートで訊いたが、田中(1988)ではレディネスを目標言語のレディネス、外国語習得のレディネス、学習条件のレディネスの3つに分けており、他の外国語の学習経験や学習に当てられる時間なども調査しておくべきではないだろうか。また、それに加えて日本語能力に関する学習者の自己評価も授業に役立てることができるかもしれない。きちんとしたプレイスメントテストが行えないような状況では、他に情報が得られないからこそ、アンケート等の項目を十分検討しておく必要がある。(d)についても、今回はあまり検討せずにインタビューもプレイスメントテストも行ってしまった。アンケートやテストの用紙、インタビューの録音などはクラス分けに直接関わってくる。後の比較・検討のためには実施者や質問者がよく話し合い、共通見解をもって臨む必要がある。特に今回のように少人数の場合、インタビューは実際の日本語運用能力を見ることができて有益な方法であると思うが、実施環境や質問の仕方、録音方法をなるべく等質のものにするように細かい部分にまで注意を払っていかなければならない。

     今回の実習では、授業計画やテキストづくりに多くの時間を割き、クラス分けについて考える時間がごく少なかったように思われる。しかし、授業を行っていく上でクラス分けは軽視できないものである。もう少しどのような授業を目指してクラス分けをするのか、ということを意識していく必要があるのではないかと思われる。

    5.まとめ

     日本語の授業を行う際にはクラス分けをする場合がほとんどであろう。その重要性は理解されているが、細かい注意はあまり払われていないのが実情ではないだろうか。今回のクラス分けについても、準備不足や実施内容の検討不足によって不手際が生じていることが多かった。授業準備や教材作成に追われる状況では、クラス分けについて考える時間はあまり取れないと思われるが、やはり質問項目の検討や実施のための準備はきちんと行っておく必要がある。また、レベルの差が大きく、クラス分けの可能性が複数ある場合には、困難なことではあるが、あらゆる可能性を想定して準備しておくことも必要であるだろう。

     クラス分けには予想以上の準備と時間が必要である。しかし、教師側も学習者側もよりよい授業を行うためには、これをおろそかにしてはいけない。今後授業を行うときには前章で挙げた点などに留意してクラス分けをしていくべきであると思われる。

     

    <参考文献>

    田中望(1988)『日本語教育の方法』 pp.3-81

    名古屋大学大学院文学研究科日本言語文化専攻(1997)『1996年度日本語教育実習報告』(1998)『1997年度日本語教育実習報告』

    <資料>

    プレイスメントテスト 項目(5)

     

     私の名前は     です。

    19**年の*月に名古屋で生まれました。

    生まれてからずっと名古屋で育ちました。学校も全部名古屋です。

     家族は父と母と私と弟です。

    子どもの時、男の子とばかり遊んでいたので、父に、女の子らしくしなさいとよくしかられました。

     母は編み物を教えてくれました。私は編み物が大好きでしたが、今は嫌いです。

    時間がかかるからです。

     小さい時私は体が弱かったので、病院に連れていかれて、毎日薬を飲まされました。甘かったですが、苦くて、とてもまずかったです。

     今、体はとても丈夫なので、病院へは行きません。

     

  • 私の誕生日はいつですか。
  • 家族は何人ですか。
  • 子どもの時、父にほめられましたか。
  • 誰に編み物をならいましたか。
  • 子どもの時、元気でしたか。
  • どうして両親は薬を飲ませましたか。
  • 今、体はどうですか。

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    名古屋大学大学院文学研究科 日本言語文化専攻